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【自主避難者から住まいを奪うな】高圧的な戸別訪問、のしかかる費用負担、浸透しない新施策~都営住宅抽選会で見えた住宅無償提供打ち切りの問題点

福島第一原発事故による〝自主避難者〟への住宅無償提供が2017年3月末で打ち切られることを受けて、東京都内の避難者を対象にした都営住宅の抽選会が7日午前、東京都渋谷区の東京都住宅供給公社(JKK東京)で行われた。すぐに物件が決まらない複雑な抽選方式に戸惑う一方、入居が決まった後も重い費用負担が待ち構えていて避難者の気持ちは晴れない。高圧的な戸別訪問や転校を強いられる子どもたち。誤解が多い新施策…。抽選会場では、福島県が強引に進めてきた避難者切り捨て策のひずみが浮き彫りになっていた。これが原発事故の現実。民は守られない。行政は寄り添わない。


【「当選者」決まらぬ「抽選会」】
 「全く分からない。結局、私はどうなるの?」
 抽選会場の大会議室で、女性はJKK東京の職員に尋ねた。多くの避難者が、この日の抽選で自分の入居する都営住宅がはっきりすると思っていた。ある男性は「抽選器から出てきた数字が当選なんだろ?違うの?そんなことないだろうよ」と怒ったような表情で話した。それほど分かりにくい「抽選会」だった。
 JKK東京によると、東京都が用意した「福島県自主避難者向あっせん予定戸数」200戸に対し、7月20日から8月3日までに実際に応募があったのは175件。抽選会では、1番から175番までの番号が書かれた玉が用意され、会場に訪れた避難者の中から選ばれた「立会人」が確認した後、商店街の福引きで使うような抽選器に入れる。JKK東京の女性職員が抽選器を回し、「チン」という音と共に出てきた玉の数字を読み上げる。しかし、実は当選番号ではなく「割り当て順位」を決めているだけ。女性職員が抽選器を回し、出てきた玉の数字を立会人の男性が確認する。それを別の女性職員がマイクで読み上げる。これを1時間ほど繰り返し、割り当て順位1位から175位までが決まった。
 避難者は応募の段階で第5希望まで選べるようになっており今後、JKK東京が割り当て順位に従って第1希望の物件から「入居審査を受ける権利を与える避難者」を決める。避難者には今月15日頃、ハガキで通知される予定だ。避難者はハガキが届いて初めて、来春からの住まいを知ることが出来るのだ。
 今回、自主避難者のために東京都が用意した都営住宅は200戸。しかし、実際には約600世帯が都内に自主避難している。「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」(SAFLAN)は7月1日付で「現在UR住宅や雇用促進住宅、区市町村営住宅等に入居している世帯や、自力で民間賃貸住宅に居住している世帯、実家などに避難している世帯など、すべての自主避難者を等しく優先枠の対象とすること」、「学齢期の子どもがいる世帯については、子どもが現在通っている小中学校から学区が変わらない範囲の住宅に優先的に入居できるよう配慮すること」など7項目にわたる「自主避難者への都営住宅優先枠の改善に関する要請書」を、東京都都市整備局長宛てに提出している。


希望する都営住宅に入居出来るかどうかは、結果を知らせるハガキが届かないと分からない。入居が決まっても前家賃など転居費用が重くのしかかる。「なぜ今の住宅に住み続けてはいけないのか」。避難者の疑問はもっともだ

【待ち構える重い費用負担】
 募集戸数を満たしていないため「避難者が場所などの条件を選ばなければ、どこかの都営住宅には入居できる」とJKK東京の職員は話すが、子育て世帯にとっては場所や間取りは重要な条件。「仕事があって抽選会には参加できなかった」という母親は、働きながら小学生の子どもを育てている。子どもの学区には募集物件が無く、やむなく選んだ物件に入居出来たとしても、子どもには転校を強いることになってしまう。
 しかも、この先には費用負担が待っている。自主避難者に用意されたのは入居枠だけ。「他の条件は全て、一般的な都営住宅の入居者と同じです」(JKK東京)。そのため、先の母親は「2カ月分の前家賃に、引っ越し費用などでお金がかかります」と気が重い。福島県は「新たな支援策」の中で転居費用10万円の補助を打ち出しているが、これはあくまで民間賃貸住宅への転居に限られている。現在、都営住宅に入居している場合には、退去時に修繕費用を請求される可能性もある。
 そもそも、都側の設定した「地区番号」でしか申し込めない。例えば「申込地区番号7」(江東区)には4つの住宅が含まれている。避難者が「潮見一丁目住宅」を希望していても、実際に入居出来るのは、同じグループの「東雲一丁目住宅」かもしれないのだ。それも、結果を知らせるハガキが届くまで避難者は分からない。抽選会に参加した避難者の中には手を合わせ、祈るような姿勢で抽選を見守った女性もいたが、完全に肩透かしを食らった格好だった。
 JKK東京の職員から改めて説明を受けた女性は、それでもまだ納得できない表情で会場を後にした。「そもそもなぜ、今の都営住宅を出なければいけないの?家賃を払うからそのまま住み続けさせてくれれば、こんな面倒な抽選も必要無いし、引っ越し費用もかからないのにねえ」。もっともな疑問だった。
 東京都都市整備局都営住宅経営部によると、二次募集を行うか否かも含め、今後の方針は何も決まっていないという。


抽選会が行われた東京都住宅供給公社。東京都都市整備局は「前例が無い」との理由で会場内での撮影を拒んだ=東京都渋谷区神宮前

【避難者追い詰める「戸別訪問」】
 内堀雅雄知事をはじめ、福島県の職員は決まって「避難者に寄り添う」、「ていねいに説明する」と口にする。しかしどうだろう。抽選会場で、私に「2年間は家賃補助が出るんだよね?」と尋ねてきた避難者がいた。「都営住宅に入居出来るのは2年間だけ?」という質問もあった。実際には家賃補助は民間賃貸住宅への入居者に限られるし、都営住宅への入居期間に制限は無い。これが「戸別訪問でていねいに説明」してきた結果なのだ。打ち切りを半年後に控え、福島県の新たな施策が浸透していると言えるだろうか。
 福島県が受け入れ自治体と共に進めている戸別訪問も、避難者から「高圧的」などの声があがっている。ある都内避難者は「なぜ都営住宅に申し込まなかった?」と電話で怒られたという。別の避難者は、戸別訪問のプレッシャーでじんましんが出てしまった。入院を余儀なくされた避難者もいる。表向きは「寄り添う」、「ていねい」という美辞麗句が並ぶが、実際には来春の打ち切りに向けて強引なやり取りが少なくないのだ。「避難の権利」を尊重し、避難先で充実した生活を送ってもらおうという思いやりなど感じられない。これが原発事故の現実だ。民は守られない。
 福島県は、住宅無償提供打ち切りの理由として、いつも「除染の効果で空間線量が下がり、生活環境が改善した。多くの人が避難せず暮らしている」ことを挙げる。しかし、田村市滝根(福島第一原発から約33km)から都内に避難中の70代男性は「学校などは除染されたけど住宅はまだ。とても帰れる状態に無い」と憤る。広野町から避難している男性も「自宅は福島第一原発から22km。もう安全?冗談じゃないよ」と話した。郡山市から避難した母親も「自宅周辺にはまだホットスポットがある。除染土壌も置かれている。とても帰れません」と避難継続の理由を語った。
 避難者の心情を理解せず、公共事業型の復興に邁進する内堀知事にこそ、この日の抽選会を見ていただきたかった。しかし、内堀知事は依然として自主避難者との面会を拒み続けている。


(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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