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【復興五輪と聖火リレー】1年延期でもなお双葉郡にくすぶる「五輪など要らぬ」の声。帳尻合わせの〝復興PR〟に高まる不信感

東京五輪の聖火リレーが行われるはずだった26日。スタート地点の「Jヴィレッジ」や常磐線沿線を巡った。そこには〝復興五輪〟では伝わらない原発事故後の「影」が広がっていた。聖火リレーが華々しく行われるはずだった街の現実を目の当たりにして改めて考えたい。そもそも、五輪開催と原発事故からの〝復興〟を結び付ける事に無理があったのではないか。〝復興五輪〟という壮大なゴールに向けた帳尻合わせで本当に良いのか。「オリンピックなんか要らない!」という叫び声をどう受け止めるかという課題を、一人一人が直視しよう。
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【「きれいな場所だけ…北朝鮮と同じ」】
 確かに、五輪延期の直接の理由は「新型コロナウイルスの感染拡大」だ。だが、そもそも、五輪開催と「原発事故から立ち直った福島の姿を国内外に発信する」を結び付けて〝復興五輪〟などと称する事自体に無理があったのではないか。そう思わせる光景が眼前に次々と広がった。
 本来なら華々しく聖火リレーが行われるはずだった街に実在するもう一つの現実。それらを覆い隠して〝きれいな場所〟だけ聖火リレーして国内外の人に見せるのが〝復興五輪〟なのか。聖火リレーのグランドスタート地点だったJヴィレッジ(双葉郡楢葉町、広野町)で、ステージの撤去作業を見守っていた浪江町の女性(南相馬市内に避難中)は、こんな表現で疑問を投げかけていた。
 「もし今日、予定通りに聖火リレーが行われていたら、浪江は水素工場を走るはずでした。私、水素工場を実際に見に行ってみたんです。あれー何か違うなって感じました。せめてね、せめて聖火リレーをやるんであれば町役場周辺を走るべきですよね。でも、さら地だらけの町なかを映したく無かったのかな…。それじゃ北朝鮮が良い場面だけを放送するのと同じですよね。それが国の方針だから仕方ないのでしょう。それで良いのかって?良くないですよ」
 JR常磐線・大野駅(双葉郡大熊町)近くのバリケードでは、ガードマンの男性が「聖火リレーで〝復興〟をアピールすつもりだったんだろうけど、自由に行き来出来るのはほんのわずかですからね」と苦笑した。
 「もう9年も経っているし、家屋も相当傷んでいます。いくら政府が『復興復興』、『戻れ戻れ』と言ったって、こんな状態では戻らないですよ。常磐線だって全線再開した土曜日だけでしたね。あの日はカメラを手にした人が多かった。空間線量だって高いですよ、はっきり言って。これが現実です。コンビニ?あるわけないじゃないですか。昼飯持参ですよ」
 駅周辺を歩いていたのは私1人だった。

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①JR常磐線・大野駅周辺もバリケードだらけ。コンビニや自販機など無い
②大野駅構内の空間線量は0・3μSv/hを上回っていた。これのどこが〝安全〟なのだろう?
③Jヴィレッジに掲示されていた高校生の想い。〝復興五輪〟の陰にこういう想いがある事を為政者は理解しているのだろうか
④JR常磐線・夜ノ森駅近くの「夜の森の桜並木」はバリケードの向こう側
⑤⑥富岡町でも家屋解体が進んでいる。町内に事務所を構えていたいわき市の男性は「来るたびに景色が変わる」と嘆いた

【「五輪費用を東北に使って」】
 急転直下の五輪延期と聖火リレー中止。24日午後には「復興の火」と称した聖火が福島駅東口で展示され、雪が降る中、約3000人が列を作った。その朝には、組織委員会から福島県に「聖火を灯したランタンを車で運ぶ方式」への変更が打診され、県は受け入れたばかりだった。夜になって来夏までの開催延期と聖火リレー中止が決まり、県職員は未明まで対応に追われた。担当者が県庁を後にしたのは午前2時を過ぎていた。翌日は宿などのキャンセルや聖火ランナーへの〝お詫び電話〟で多忙を極めた。〝復興五輪〟などと銘打っている割には被災地の事情などお構いなし。当事者不在、全てを決めるのは中央。それが現実だった。
 JR常磐線・夜ノ森駅前。浪江町請戸に長く住み、大津波でわが家を失った女性(70)がスマホで桜を撮影していた。福島第一原発敷地内で10年近く「緑化部門」の仕事に従事、花を植えたり展望台や法面の草刈りをしたりしていた。2011年3月11日は午前中に5号機周辺で草刈りをしていた。展望台で「経っていられないほどの揺れ」。作業着姿のまま逃げた。そのまま浪江町津島、二本松市を経て会津若松市の東山温泉に身を寄せた。そこでスクリーニングを受け、作業着を処分。ようやく着替える事が出来た。発災から1カ月以上が経過していた。現在はいわき市内で暮らしている。
 「オリンピックに注ぎ込むお金を東北のために使うのなら〝復興〟って言っても良いけど、スポーツイベントにお金をじゃんじゃん使ってるべした。それで『復興だ』って言われてもなあ。常磐線だって誰が乗るのさ。映画「Fukushima50」だって良いように描いているけれど、実際はあんなもんじゃねえって」
 夜ノ森駅から歩いてすぐの場所に、有名な桜並木がある。しかし、桜はバリケードの中。満開になってもバリケード越しに眺めるしか無い。木々の根元は除染の一環で土を入れ替えたので色が違う。ガードマンの男性は「満開になれば撮影しにくる人が多くなりそうですが…。この状態で〝復興〟と言われてもピンとこないですよね」と苦笑した。
 ひと気の無い街に、富岡町の放送が流れた。
 「聖火リレーに伴う全てのイベントは中止になりました」
 放送が終わると、再び静まり返った街に戻った。

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①大勢の取材者が見守る中、Jヴィレッジでは聖火リレー・グランドスタートのステージなどが片付けられた
②Jヴィレッジや国道6号線で声をあげた「希望の牧場・ふくしま」(双葉郡浪江町)の吉沢正巳さん。「オリンピックなんか要らない」と抗議した
③④五輪延期と聖火リレー中止を受け、主要駅構内のカウントダウンは電源が抜かれた。福島県職員は聖火ランナーへの〝お詫び電話〟に追われた
⑤⑥福島市医師会は「福島のきれいな空気」とポスターを作ったが、コロナ禍以前に本当に「きれい」なのか。五輪や聖火リレーで示される〝福島〟は本当に復興しているのか。改めて問い直す必要がある

【「除染しても放射能残ってる」】
 撤去作業が始まったJヴィレッジの人工芝ピッチに、映画「ゴジラ」のテーマ音楽と怒鳴り声が響いた。作業員が何ごとかと集まり、スマホで撮影を始めた。「希望の牧場・ふくしま」の吉沢正巳さんが街宣車で抗議行動を展開したのだった。
 「皆さん、忘れてはいけない。『3・11』は終わっていないんだ。〝復興五輪〟は、安倍のための〝ごまかしオリンピック〟。ふざけるな。オリンピック反対!俺はオリンピックは絶対反対だ!私たち浪江町も未来を奪われてしまいました。オリンピックなんてふざけるな!オリンピックなんてやめてしまえ!」
 〝復興五輪〟に疑問を抱き、モヤモヤしている人たちの声を代弁するように、吉沢さんの抗議行動は続いた。国道6号線を走りながらマイクを握って怒鳴った。役場やゼネコンの前では特に声を大きくした。
 「除染をしても放射能は残っている。避難指示を解除しても皆は戻って来ない。私たちのふるさとは崩れようとしております。オリンピック反対。オリンピックなんかやめてしまえ。オリンピックなんか反対だ。私たちのふるさとは東電の放射能によって、もはや帰る場所ではありません。さよなら、ふるさと。オリンピックなんかやめろ。Jヴィレッジから始まるはずだった聖火リレーが中止になりました。全く当然であります。オリンピックなんか歓迎しないぞ。私たちのふるさとは放射能まみれです。オリンピックなんか要らない」
 今月末には、帰還困難区域からの避難者に対する住宅提供が打ち切られる(原発の立地する双葉町・大熊町は除外)。原発避難者らが「福島はオリンピックどころじゃない」と声をあげた。深刻な土壌汚染に関する調査もあった。それでも〝復興五輪〟という壮大なゴールに向けた帳尻合わせが強行されようとした。それが本当に被災者のためになっているのか。新型コロナウイルスの感染拡大という不幸なきっかけではあるが、この際、頭を冷やして見つめ直すべきだ。
 「都合の良い時だけ『被災地』が利用されるんだ」
 福島の男性の言葉は重い。そして、他人事では無い。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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