【新型コロナウイルス】届かなかった「休校延長」の署名。高校生がメールで福島県教委に送るも眠ったまま。担当者は「メール殺到し確認取れない」と釈明
- 2020/04/09
- 05:02
新型コロナウイルスの感染者が29人に達した福島県で、いわき市の高校生が始めた休校延長を求めるネット署名を福島県教委にメールで提出したものの、他のメールに紛れて眠ったままになっている事が8日、県教委教育総務課への取材で分かった。担当者は「コロナ関連のメールが300件ほど寄せられており、そのようなメールが届いているか確認が出来ていない」と釈明するが、署名運動を始めた高校生は送信後に電話をかけて休校延長を求めている。提出後も賛同者は増え2200人を超えたが、切実な声は無視された格好だ。

【伊東さん「早急に対応を」】
東日本国際大学附属昌平高校2年生の伊東拓哉さん(16)が署名簿を福島県教育委員会宛てにメールで送信したのは7日13時すぎ。件名には「休校延長署名です」と記入し、「休校延長要望の署名です。県は状況を受け止めて休校処置に出てください」との文面を添えた。その上で、17時すぎには県教委教育総務課に電話をかけ、自身が高校生である事やインターネット上で休校延長を求める署名を集めている事などを伝えたところ、女性職員が「署名簿は届いた」、「休校については何とも言えない」などと答えたという。
しかし、予定通りに県立高校の入学式が行われた8日、筆者が県教委教育総務課に署名簿の扱いについて確認したところ、職員が集まって数分話し合った後に、管理職が「今回の新型コロナウイルスへ対応についての県内外からのメールが300件以上、寄せられておりまして、(署名簿を添付した)メールが県教委に届いているかどうかも含めて確認出来ない状態なんです」として、署名簿の存在が課内で共有されておらず、もちろん管理職は認識していない事を明かした。
署名は現在も増え続けていて2200人を超えたが、感染拡大防止のため休校にして欲しいという伊東さんや賛同した人々の切実な想いは、県教委には全く届いていなかった。いや、そもそも存在が共有されていないのだから、無視されているとも言って良い。伊東さんは取材に対し、言葉少なに「県には早急に対応して欲しいです。実際、毎日のように感染者が出ていますから」とだけ答えた。

8日午後に行われた福島県立高校の入学式。体育館の入り口にはアルコール消毒液が置かれていたが、新入生席や保護者席は〝密集〟だった=福島市内
【専門家「まだ20名ぐらい」】
福島県内では8日も新たな感染者が公表され、計29人に達した。福島市や須賀川市などで一律学校の休校措置が取られたものの、県立高校に関しては出席人数の制限などの感染拡大予防措置が講じられた上での入学式が行われ、授業も始まる。1日からは、日々の検温など留意事項が生徒に示されているものの、既に部活動も再開されている。福島市内の県立高校の中には、保護者の判断で生徒を休ませても「欠席」扱いにしない措置を当面、続ける学校もある。
「必要が生じた場合には、高校教育課と協議の上、学校長の判断で短縮授業と部活動の中止について検討出来るという趣旨の通知は出したが、これも要請では無い。福島県は広いし地域によって状況が異なるので、県立高校を一斉休校にしようという動きは無い」と県教委高校教育課の担当者。この担当者はまた、ネット上での署名運動の存在について「個人的には知らない」とも話した。
また、福島県感染症対策アドバイザーを務める福島県立医科大学の金光敬二教授(感染制御学)は7日の記者会見で福島放送記者から「この状況で県立高校の入学式が行われるのは予防的見地からいかがなのか」と問われ、次のような表現で休校措置には否定的な見方を示した。
「確かに陽性者が増えてきているという事なんですけれども、こんな言い方をしたらこれもお叱りを受けるかもしれませんけど、約20名ぐらいなんですよね。そうすると、おおよそ10万人に1人ぐらいなんです。疑い出したらきりがないという事もありますので、いろんな判断があると思いますが、学校などで感染が伝播する可能性が相当程度ある場合に休校とするという事になろうかと思いますし、地域差ももちろんありますよね。会津と福島は違うとか、そういう事を総合的に勘案しなきゃいけないという事で、一概に福島県全体が学校をもう出来ないというような状況には無いのかなと思います」

「MAXふくしま」のフードパークでは通常、夕方には高校生で満席状態になるが、客の姿は無かった。「緊急事態宣言が出されてさらに減りました」と飲食店の店員は苦笑した。自粛ムードが広がる中、県立高校だけは授業が続く=福島市曽根田町
【高まる電車通学への不安】
高校生たちの想いも複雑だ。
始業式を終えたばかりの女子高校生2人は、福島駅前で「福島市は小中学校が休みになっているのに、電車通学などでもっと行動範囲が広い私たちが休校にならないのはおかしいと思う。多くの人が行き交う駅で感染するリスクもあるわけですから」と声を揃えた。
また、ある県立高校ソフトボール部の部員たちは「自分たちの『部活をやりたい』という想いだけでは済まされない状況になっているなと思います。安全面を考えると高校生が一番リスクが高いので、休校にした方が良いのかなと思います。不安の方が大きいかな。いつ終息するか分からないので嫌ですね」とグラウンドの一角で話した。同じ高校の3年生男子も「勉強の場としてはあって欲しいけれど、感染拡大という意味では怖いなと思います。ここに来て一気に感染者数が増えているので、休校も決して大げさではないと思います」と語った。
一方、「受験生なので正直、困ります。休校になった分、授業時間数が減ってしまいますからね。勉強面では困ります」と話した3年生女子もいた。一方で「勉強勉強と言っても命には代えられないですよね。福島市外から電車通学して来ている人もたくさんいますし…。勉強と命のバランスをとるのは難しいですね。親はかなり心配しているので、家ではこういう話が多いです」とも。だからこそ、大人の決断が迫られているのではないか。
入学式に出席した保護者の1人は「この学年は震災・原発事故の影響で卒園式や入学式が出来ない子どももいたので、高校の入学式が予定通りに出来て良かったです」と喜んだ。その上で「あの時、逃げる逃げないなど様々な選択を迫られました。そして今、また学校に通わせるか通わせないかの選択を迫られているのです」と表情を曇らせた。
高校生の想いも署名も無視されたまま、授業が始まる。年20mSv(3・8μSv/h)までなら問題無いとの文科省通知(「校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方」)に従った9年前の県教委とダブって映る。
(了)

【伊東さん「早急に対応を」】
東日本国際大学附属昌平高校2年生の伊東拓哉さん(16)が署名簿を福島県教育委員会宛てにメールで送信したのは7日13時すぎ。件名には「休校延長署名です」と記入し、「休校延長要望の署名です。県は状況を受け止めて休校処置に出てください」との文面を添えた。その上で、17時すぎには県教委教育総務課に電話をかけ、自身が高校生である事やインターネット上で休校延長を求める署名を集めている事などを伝えたところ、女性職員が「署名簿は届いた」、「休校については何とも言えない」などと答えたという。
しかし、予定通りに県立高校の入学式が行われた8日、筆者が県教委教育総務課に署名簿の扱いについて確認したところ、職員が集まって数分話し合った後に、管理職が「今回の新型コロナウイルスへ対応についての県内外からのメールが300件以上、寄せられておりまして、(署名簿を添付した)メールが県教委に届いているかどうかも含めて確認出来ない状態なんです」として、署名簿の存在が課内で共有されておらず、もちろん管理職は認識していない事を明かした。
署名は現在も増え続けていて2200人を超えたが、感染拡大防止のため休校にして欲しいという伊東さんや賛同した人々の切実な想いは、県教委には全く届いていなかった。いや、そもそも存在が共有されていないのだから、無視されているとも言って良い。伊東さんは取材に対し、言葉少なに「県には早急に対応して欲しいです。実際、毎日のように感染者が出ていますから」とだけ答えた。

8日午後に行われた福島県立高校の入学式。体育館の入り口にはアルコール消毒液が置かれていたが、新入生席や保護者席は〝密集〟だった=福島市内
【専門家「まだ20名ぐらい」】
福島県内では8日も新たな感染者が公表され、計29人に達した。福島市や須賀川市などで一律学校の休校措置が取られたものの、県立高校に関しては出席人数の制限などの感染拡大予防措置が講じられた上での入学式が行われ、授業も始まる。1日からは、日々の検温など留意事項が生徒に示されているものの、既に部活動も再開されている。福島市内の県立高校の中には、保護者の判断で生徒を休ませても「欠席」扱いにしない措置を当面、続ける学校もある。
「必要が生じた場合には、高校教育課と協議の上、学校長の判断で短縮授業と部活動の中止について検討出来るという趣旨の通知は出したが、これも要請では無い。福島県は広いし地域によって状況が異なるので、県立高校を一斉休校にしようという動きは無い」と県教委高校教育課の担当者。この担当者はまた、ネット上での署名運動の存在について「個人的には知らない」とも話した。
また、福島県感染症対策アドバイザーを務める福島県立医科大学の金光敬二教授(感染制御学)は7日の記者会見で福島放送記者から「この状況で県立高校の入学式が行われるのは予防的見地からいかがなのか」と問われ、次のような表現で休校措置には否定的な見方を示した。
「確かに陽性者が増えてきているという事なんですけれども、こんな言い方をしたらこれもお叱りを受けるかもしれませんけど、約20名ぐらいなんですよね。そうすると、おおよそ10万人に1人ぐらいなんです。疑い出したらきりがないという事もありますので、いろんな判断があると思いますが、学校などで感染が伝播する可能性が相当程度ある場合に休校とするという事になろうかと思いますし、地域差ももちろんありますよね。会津と福島は違うとか、そういう事を総合的に勘案しなきゃいけないという事で、一概に福島県全体が学校をもう出来ないというような状況には無いのかなと思います」

「MAXふくしま」のフードパークでは通常、夕方には高校生で満席状態になるが、客の姿は無かった。「緊急事態宣言が出されてさらに減りました」と飲食店の店員は苦笑した。自粛ムードが広がる中、県立高校だけは授業が続く=福島市曽根田町
【高まる電車通学への不安】
高校生たちの想いも複雑だ。
始業式を終えたばかりの女子高校生2人は、福島駅前で「福島市は小中学校が休みになっているのに、電車通学などでもっと行動範囲が広い私たちが休校にならないのはおかしいと思う。多くの人が行き交う駅で感染するリスクもあるわけですから」と声を揃えた。
また、ある県立高校ソフトボール部の部員たちは「自分たちの『部活をやりたい』という想いだけでは済まされない状況になっているなと思います。安全面を考えると高校生が一番リスクが高いので、休校にした方が良いのかなと思います。不安の方が大きいかな。いつ終息するか分からないので嫌ですね」とグラウンドの一角で話した。同じ高校の3年生男子も「勉強の場としてはあって欲しいけれど、感染拡大という意味では怖いなと思います。ここに来て一気に感染者数が増えているので、休校も決して大げさではないと思います」と語った。
一方、「受験生なので正直、困ります。休校になった分、授業時間数が減ってしまいますからね。勉強面では困ります」と話した3年生女子もいた。一方で「勉強勉強と言っても命には代えられないですよね。福島市外から電車通学して来ている人もたくさんいますし…。勉強と命のバランスをとるのは難しいですね。親はかなり心配しているので、家ではこういう話が多いです」とも。だからこそ、大人の決断が迫られているのではないか。
入学式に出席した保護者の1人は「この学年は震災・原発事故の影響で卒園式や入学式が出来ない子どももいたので、高校の入学式が予定通りに出来て良かったです」と喜んだ。その上で「あの時、逃げる逃げないなど様々な選択を迫られました。そして今、また学校に通わせるか通わせないかの選択を迫られているのです」と表情を曇らせた。
高校生の想いも署名も無視されたまま、授業が始まる。年20mSv(3・8μSv/h)までなら問題無いとの文科省通知(「校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方」)に従った9年前の県教委とダブって映る。
(了)
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