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【井戸川裁判 第4回口頭弁論】「私の自宅も放射能に不法占拠されている」。新弁護団で再開。当時の双葉町長が決してやめない「けじめをつける闘い」

原発事故当時、福島県双葉町長だった井戸川克隆さんが国や東電を相手取って起こしている民事訴訟の第4回口頭弁論が7日午前、東京地裁で開かれた。当初は4月に開かれる予定だったが、井戸川さんが当時の弁護団を全員解任したため延期されていた。古川元晴弁護士ら7人の弁護団の下、改めて国や東電の事故予見責任や賠償責任を問う。原発事故の最前線にいた首長として、国や東電に「けじめをつけさせる」闘いはやめない。次回期日は2017年1月18日午前10時。


【「想定外だった、では終わらせぬ」】
 本来、第4回口頭弁論は4月20日に開かれる予定だった。しかし、井戸川さんが「自分の思う方向と違っている」との理由で宇都宮健児弁護士ら当時の弁護団を解任。改めて古川元晴弁護士ら7人で弁護団が結成された経緯がある。
 そのため、この日は井戸川さんの今後の主張についてまとめた上申書を提出。基本的には従来からの主張を変えず、これまで国や東電が行った主張に反論していくことを示した。古川弁護士は代理人を引き受けた後、何度も埼玉県内に井戸川さんを訪ね、想いを聴いたという。「国や東電は責任を全面否定している。住民の権利や義務という観点からどこがどうおかしいのか、今後、1年近くかけて膨大な量の準備書面を提出することになるだろう」と古川弁護士は見通しを語る。
 原告・井戸川さんの主張は①原発事故を未然に防げなかった国や東電の責任と、事故対応上の両者の責任②損害賠償義務─が軸。国も東電も「事故は予見できなかった。想定外だった」、「事故後の対応に落ち度は無かった」との主張を繰り返し、注意義務を否定しているが、古川弁護士は「注意義務には①確実危険説②合理的危険説がある」と解説する。「確実危険説」は、過去に同様の事故が起きていて、確実に予測できる危険だけについて予見・回避義務を認める考え方。一方、「合理的危険説」は、過去に同じような事故が起きていなくても、起きる可能性が否定できない合理的・科学的根拠がある場合には予見・回避義務が生じるという考え方だ。
 「(事故が起きると)はっきり分かっていないから良いんだ、ではどうしようもないです。先手先手で対策を講じるのが危機管理の常識です」と古川弁護士。今後は②の「合理的危険説」(高度な注意義務)の考え方に立って国や東電に反論。賠償責任も問う方針だ。


原発事故当時の双葉町長として、国や東電と対峙し続ける井戸川さん。「私の自宅も放射能に不法占拠されている」と怒りを口にした。

【個人の尊厳奪った原発事故】
 井戸川さんを含めた双葉町民が被曝を強いられた点も争点となる。「被曝から避難する権利を明確に打ち出していきたい」と古川弁護士。国は事故後「100mSv以下での被曝線量での発癌リスクは、喫煙や肥満、飲酒など他のリスクに隠れてしまうほど小さい」と繰り返し、年20mSvを基準として避難指示を解除している。既に南相馬市で解除されたほか、来春には飯舘村、浪江町で帰還困難区域以外の避難指示が解除される。これに対しても、古川弁護士は「一般公衆には年1mSv以上の被曝から逃げる権利がある。一方的に20倍に引き上げることなど出来るわけがない」と反論する。今後の期日で「被曝させられない権利」、「被曝から避難する権利」を主張していく。
 井戸川さんは、福島第一原発の事故で「個人の尊厳が奪われた」と語る。「『双葉町民は国民として平等に扱われていますか?』と当時の野田佳彦総理に尋ねました。彼は『大事な国民です』とだけ答えた」。別の席では、霞が関の官僚に「あなたがまず、双葉町に住め」と詰め寄った。官僚は「家族と相談しないと分かりません」と答えるのが精一杯だった。
 そもそも、地元など初めから除外されていた。従来から、原発事故が起きた際の「原子力災害合同対策協議会」には、福島県と並んで双葉町も当然、加わる事になっていた。それが、蓋を開けたら旧原子力安全・保安院の保安官は現場からいなくなり、町役場や町民も外されたまま避難指示区域や賠償基準が決められた。「全て官邸で決められてしまった。私は双葉町の責任者なのに、情報を寄越さなかった」。
 旧原子力安全・保安院は、口を開けば「日頃から備えています。事故は起こしません」と言っていた。「町民に放射能をかぶらせるなよ」と念を押す井戸川さんに「町長、そんな事を心配する必要はありません」とまで言っていた。しかし事故は起きた。故郷に戻れる見通しは全く立っていない。家族も地域も壊された。「合理的・合法的などという言葉は私には通用しませんよ。言い訳など出来るはずがありません」。井戸川さんは当時、原発事故の最前線にいた首長として、絶対にけじめをつけさせる覚悟でいる。


弁護を引き受けた古川元晴弁護士。「国や東電には原発事故を防ぐ『高度な注意義務』があった」と主張する=衆議院会館

【「避難させなかったのは県庁」】
 衆議院会館で開かれた報告会で「古川先生に替わってもらって本当に良かった。私の気持ちが十分に考慮されている」と喜びを口にした井戸川さん。ようやく仕切り直しの一歩を踏み出せた。しかし、闘いは緒についたばかり。それだけ、双葉町民は人格権を侵害されてきた。町民だけではない。原発事故で人生を生活を破壊され続けている人は福島県内にとどまらない。政府の避難指示の無い〝自主避難者〟は来春、住まいを奪われる。
 裁判では、自身が町議会から不信任されたという「不名誉」(井戸川さん)も含めて、これまでの経緯を全て明らかにする。「めちゃくちゃな行政が今も続いている。福島県民を避難させず、早々に足止めさせたのは福島県庁です」。当時の佐藤雄平知事は、井戸川さんに「俺は県民を外に出したくないんだよ。分かっぺ」と告げた。そして今、内堀雅雄知事(当時の副知事)は帰還を強要する。「帰還困難区域の除染なんて出来るわけがありません。戦時中と同じですよ。勝てもしないのに勝てると言った。今は出来もしないのに出来ると言うしかないのでしょう。自分たちを守るために」。
 報告会では、雑草で玄関が見えなくなった自宅の写真も披露した。「経産省前のテント広場は『不法占拠』ということで排除された。だったら、私の家はどうなるのでしょうか。私だって放射能に不法占拠されているじゃないですか。みなさんはだまされないでください」と呼びかけた。
 「福島は、明日の自分かもしれませんよ」と井戸川さん。「被害に気付いた双葉町民が提訴するきっかけにしたい。私は露払い。新しい判例が出来る事を期待しています」とも。体重は落ち、決して体調はすぐれないが、首長の責任を果たしていく。次回期日は来年1月18日。



(了)
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鈴木博喜

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