【新型コロナウイルス】福島に突如、浮上した〝アベノマスク疑惑〟 布マスクとは無縁、誰もいない一軒家…。高まる「なぜ?」と怒りの声
- 2020/04/29
- 07:23
震災・原発事故から10年目の福島が揺れている。舞台はプレハブ小屋のような小さな会社と温泉街のはずれにポツンと建つ一軒家。その存在すらほとんど知られていなかった社名に県議は首をかしげ、国会議員の秘書は法務局に走った─。突如降ってわいた〝アベノマスク疑惑〟。布マスクとは無縁のはずの「ユースビオ社」と「シマトレーディング社」が請け負った5億円を超える事業。両社の存在を知る人は地元でも少ない。全く畑違いの両社をつなぐ「オリゴ糖」と「ユーグレナ」。そして公明党の存在。新たな疑惑に地元では怒りの声が高まっている。

【シマ社はもぬけの殻】
誰もいなかった。それどころか、室内は〝もぬけの殻〟で、人の住んでいる気配すら無かった。郵便受けにはチラシなどが無造作に突っ込まれたままだった。
福島県福島市飯坂町。飯坂線「飯坂温泉駅」から車で5分ほどの場所。「パルセいいざか」と市立大鳥中学校に挟まれる一軒家は、世間の喧騒をよそに静かだった。歩いているのは、筆者や地元メディアの記者ばかり。車の往来もほとんど無い。近所の女性は「シマトレーディング?さあ、聞いた事もありません」と話した。
近所の住人ですら耳にした事の無い会社が一躍、世間の注目の的となったのは28日午後の衆議院予算委員会。大串博志代議士(立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム)の質問に、加藤勝信厚生労働大臣がこう答弁したのだ。
「輸出入をするもう一つの会社がある」、「(布マスクの)輸出入はその会社が担っている」
それが「シマトレーディング社」だった。「ユースビオ社」に続き、またまた無名の会社が浮上した。
「ユースビオは布マスクにおける布の調達、あるいは納品時期などの調整。シマトレーディングは生産・輸出入の担当をされていた」
加藤大臣の答弁によれば、シマトレーディング社はユースビオ社と「グループ」だという。しかし、シマトレーディング社の法人登記簿には島正行代表取締役以下、島家の役員の名前が記載されているばかり。しかも本業は、千葉県富里市を拠点とした「生花および生花器具類の販売」だ。千葉の切り花輸入販売業者が飯坂の一角に民家を借り、そこを拠点とした「株式会社シマトレーディング」が「ユースビオ社」と一緒に請け負った布マスク配布事業。両者の法人登記簿を眺めると、1つの共通点があった。
「オリゴ糖」と「ユーグレナ」
布マスク配布の向こう側に透けて見えるバイオマス燃料や再生可能エネルギー。震災・原発事故から10年目の福島が揺れている。



(上)布マスクの生産・輸出入を担っているとされる「シマトレーディング社」はもぬけの殻だった
(中)「シマトレーディング社」はパルセいいざかの近くにある一軒家を〝本社〟としているが、その存在はほとんど知られていなかった=福島市飯坂町
(下)「シマトレーディング社」の法人登記簿。本業は生花の販売だ
【契約後に「目的」変更】
「ユースビオ?何の会社?」
〝アベノマスク〟と揶揄される布マスク配布を巡る業務委託。これまで伊藤忠商事、興和、マツオカコーポレーションの3社が受注していた事は公表されていたが、27日になって菅義偉官房長官が突然、記者会見で4社目が福島県福島市のユースビオ社である事を明かした。この一報に福島県議会の野党系控え室は騒然となり、議員らは情報収集に追われた。
ユースビオ社について、加藤大臣は28日午後の予算委員会で次のように答弁している。
「福島県福島市に本社を持って、木質ペレットの輸出入業務を行っている企業であるというふうに承知をしております」
「この会社と輸入の関係でいっしょくたになっている会社もあるようですが、5・2億円という事であります」
「3月16日に令和元年度の予備費で契約をした緊急随契(随意契約)という事であります」
しかし、法人登記簿によると、同社の目的に「再生可能エネルギー生産システムの研究開発及び販売」や「バイオガス発酵システムの研究開発及び販売」など6項目が記載されているものの、「木質ペレット」や「輸出入」の文字は無い。それが今年4月1日付で9項目に変更され、「貿易及び輸出入代行業並びにそれらの仲介及びコンサルティング」が追加された。この変更は10日付で登記されている。つまり、3月16日に契約を交わした時点では、同社はマスクの製造や輸出入行を行っていなかった事になる。その点を質された加藤大臣が答えたのが、冒頭の答弁だった。



(上)(中)「ユースビオ社」に社員の姿は無く、灯りも消えていた。室内には公明党県議や市議のポスターが貼られていた=福島市西中央
(下)「ユースビオ社」の法人登記簿。契約締結後に「目的」が変更されていた事が分かる
【伊藤県議の「知人」】
福島市内の法務局では、登記簿の束を手にした地元選出国会議員秘書の姿もあった。「皆でコロナ禍を乗り越えなければいけない時に何をしているんだ」、「布マスクまで利権なのか」と怒りの声も聞かれる。
資本金1000万円の無名会社2社を巡る〝布マスク疑惑〟。ユースビオ社は取材陣から逃れるように社員の姿は無く、灯りも消えていた。同じ〝長屋〟に拠点を置く別会社の社員は「普段から居ない事が多いよ」と苦笑した。窓には公明党・山口那津男代表のポスターが貼られ、室内には公明党県議や市議のポスターが掲示されていた。
その1人、伊藤達也県議はユースビオ社の樋山茂代表取締役と自宅が近い。樋山社長について伊藤県議に電話取材を試みたが、留守番電話サービスにつながるばかりだった。なお、伊藤県議は今月27日、自身のツイッターで「私の知人のご厚意で、福島県に2万5000枚の医療用マスクを寄贈して頂き、県庁に搬入しました。心から感謝です」と写真とともに書き込んでいる。この「知人」が樋山社長とみられる。樋山社長の自宅も訪ねてみたが応答は無かった。
なお、ユースビオ社と同じ住所には、やはり樋山茂氏が代表取締役を務める「株式会社樋山ユースポット」(旧社名・株式会社ミユキコーポレーション)がある。また、樋山社長は「有限責任事業組合沖サポート&サービス社」や「技研通信工業株式会社」(旧社名・株式会社技研設備工業)の清算人にもなっている。
「技研通信工業社」の代表取締役は、現「有限会社アマック」(ユースビオ社に隣接)の代表取締役を務める大内和英氏。大内氏はユースビオ社のある土地の所有者でもある。
(了)

【シマ社はもぬけの殻】
誰もいなかった。それどころか、室内は〝もぬけの殻〟で、人の住んでいる気配すら無かった。郵便受けにはチラシなどが無造作に突っ込まれたままだった。
福島県福島市飯坂町。飯坂線「飯坂温泉駅」から車で5分ほどの場所。「パルセいいざか」と市立大鳥中学校に挟まれる一軒家は、世間の喧騒をよそに静かだった。歩いているのは、筆者や地元メディアの記者ばかり。車の往来もほとんど無い。近所の女性は「シマトレーディング?さあ、聞いた事もありません」と話した。
近所の住人ですら耳にした事の無い会社が一躍、世間の注目の的となったのは28日午後の衆議院予算委員会。大串博志代議士(立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム)の質問に、加藤勝信厚生労働大臣がこう答弁したのだ。
「輸出入をするもう一つの会社がある」、「(布マスクの)輸出入はその会社が担っている」
それが「シマトレーディング社」だった。「ユースビオ社」に続き、またまた無名の会社が浮上した。
「ユースビオは布マスクにおける布の調達、あるいは納品時期などの調整。シマトレーディングは生産・輸出入の担当をされていた」
加藤大臣の答弁によれば、シマトレーディング社はユースビオ社と「グループ」だという。しかし、シマトレーディング社の法人登記簿には島正行代表取締役以下、島家の役員の名前が記載されているばかり。しかも本業は、千葉県富里市を拠点とした「生花および生花器具類の販売」だ。千葉の切り花輸入販売業者が飯坂の一角に民家を借り、そこを拠点とした「株式会社シマトレーディング」が「ユースビオ社」と一緒に請け負った布マスク配布事業。両者の法人登記簿を眺めると、1つの共通点があった。
「オリゴ糖」と「ユーグレナ」
布マスク配布の向こう側に透けて見えるバイオマス燃料や再生可能エネルギー。震災・原発事故から10年目の福島が揺れている。



(上)布マスクの生産・輸出入を担っているとされる「シマトレーディング社」はもぬけの殻だった
(中)「シマトレーディング社」はパルセいいざかの近くにある一軒家を〝本社〟としているが、その存在はほとんど知られていなかった=福島市飯坂町
(下)「シマトレーディング社」の法人登記簿。本業は生花の販売だ
【契約後に「目的」変更】
「ユースビオ?何の会社?」
〝アベノマスク〟と揶揄される布マスク配布を巡る業務委託。これまで伊藤忠商事、興和、マツオカコーポレーションの3社が受注していた事は公表されていたが、27日になって菅義偉官房長官が突然、記者会見で4社目が福島県福島市のユースビオ社である事を明かした。この一報に福島県議会の野党系控え室は騒然となり、議員らは情報収集に追われた。
ユースビオ社について、加藤大臣は28日午後の予算委員会で次のように答弁している。
「福島県福島市に本社を持って、木質ペレットの輸出入業務を行っている企業であるというふうに承知をしております」
「この会社と輸入の関係でいっしょくたになっている会社もあるようですが、5・2億円という事であります」
「3月16日に令和元年度の予備費で契約をした緊急随契(随意契約)という事であります」
しかし、法人登記簿によると、同社の目的に「再生可能エネルギー生産システムの研究開発及び販売」や「バイオガス発酵システムの研究開発及び販売」など6項目が記載されているものの、「木質ペレット」や「輸出入」の文字は無い。それが今年4月1日付で9項目に変更され、「貿易及び輸出入代行業並びにそれらの仲介及びコンサルティング」が追加された。この変更は10日付で登記されている。つまり、3月16日に契約を交わした時点では、同社はマスクの製造や輸出入行を行っていなかった事になる。その点を質された加藤大臣が答えたのが、冒頭の答弁だった。



(上)(中)「ユースビオ社」に社員の姿は無く、灯りも消えていた。室内には公明党県議や市議のポスターが貼られていた=福島市西中央
(下)「ユースビオ社」の法人登記簿。契約締結後に「目的」が変更されていた事が分かる
【伊藤県議の「知人」】
福島市内の法務局では、登記簿の束を手にした地元選出国会議員秘書の姿もあった。「皆でコロナ禍を乗り越えなければいけない時に何をしているんだ」、「布マスクまで利権なのか」と怒りの声も聞かれる。
資本金1000万円の無名会社2社を巡る〝布マスク疑惑〟。ユースビオ社は取材陣から逃れるように社員の姿は無く、灯りも消えていた。同じ〝長屋〟に拠点を置く別会社の社員は「普段から居ない事が多いよ」と苦笑した。窓には公明党・山口那津男代表のポスターが貼られ、室内には公明党県議や市議のポスターが掲示されていた。
その1人、伊藤達也県議はユースビオ社の樋山茂代表取締役と自宅が近い。樋山社長について伊藤県議に電話取材を試みたが、留守番電話サービスにつながるばかりだった。なお、伊藤県議は今月27日、自身のツイッターで「私の知人のご厚意で、福島県に2万5000枚の医療用マスクを寄贈して頂き、県庁に搬入しました。心から感謝です」と写真とともに書き込んでいる。この「知人」が樋山社長とみられる。樋山社長の自宅も訪ねてみたが応答は無かった。
なお、ユースビオ社と同じ住所には、やはり樋山茂氏が代表取締役を務める「株式会社樋山ユースポット」(旧社名・株式会社ミユキコーポレーション)がある。また、樋山社長は「有限責任事業組合沖サポート&サービス社」や「技研通信工業株式会社」(旧社名・株式会社技研設備工業)の清算人にもなっている。
「技研通信工業社」の代表取締役は、現「有限会社アマック」(ユースビオ社に隣接)の代表取締役を務める大内和英氏。大内氏はユースビオ社のある土地の所有者でもある。
(了)
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