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生産者も小売業者も被害者。「福島産を買わない消費者」への理解と不満~相双地方物産展で語られた「原発事故から5年半」の現実

10、11の二日間、福島県福島市の「コラッセふくしま」で開かれた相双地方物産展「サムライフード祭」で、出店者らに「風評被害」への本音を聴いた。内部被曝のリスクを考慮して「福島産」を買わない消費者への理解もあった。「これだけ測っているのだから、むしろ他県産よりも安全だ」と不満も耳にした。そこには「風評」という二文字だけでは語れない、原発事故被害の現実があった。止まらぬ汚染水と漁業の試験操業。救済されぬ小売業者。暦の上では区切りが来ても、原発事故被害の区切りは遠い。

【「風評を逆手に取って買い叩く」】
 「もちろん買ってもらえないのは残念です。でも仕方ないと思う。生き方の問題ですからね。ずっと平行線だと思いますよ」
 福島県相馬市の海苔店は、相馬沖のシラスや他県産の海苔など加工品を出品した。夫婦と娘の3人で工場を切り盛りする。「幼い子どもがいれば、健康被害を心配する気持ちは分かります」と口を揃える。催事で試食すらしてもらえなかったこともある。
 原発事故後、加工するための海産物が入荷できなくなった。東電と何度も交渉したが、経営への補償は得られなかった。「私たちだって被害者ですよ。直接か間接かの違いだけです。でも、生産者には補償するが個人の小売店には補償しないんだ。だから、もうやめました」。ADR(裁判外紛争解決手続)を申し立てることもしなかったという。
 理不尽な事をどれだけ見聞きしてきただろう。「首都圏のバイヤーは、風評被害を逆利用して福島産を買い叩くんだ。それを外食産業に流す。彼らは買うからね」。道路一本隔てるだけで生じる避難指示の有無。当時の佐藤雄平知事が〝安全宣言〟を発した途端に米から検出された放射性セシウム。〝安全〟を説いて廻った「専門家」たち。それでも親子は、相馬で暮らしていく事を決めた。30代の娘はこう、言った。
 「それぞれの生き方を認めて欲しいですよね。避難しろとも、避難するなとも言われたくない。『福島に住んでいると被曝するぞ』なんて言われると傷付くんですよ」
 原発事故さえなければ、この親子が傷付くことは無かった。




(上)今年6月に再開された相馬沖でのホッキ貝漁。800円のホッキ飯には長蛇の列が出来、あっという間に売り切れた
(下)川内村の川魚・イワナの燻製などを出品した業者の男性は「日本一安全だ」と力をこめた

【「福島産は日本一安全だ」】
 福島市産のナシを出品した男性は「以前は酷かった」と打ち明けた。福島県外で開かれた催事。試食した女性は福島産だと聞いて口から出したという。「『どこから来たの?』と尋ねられて『福島ですよ』と答えたら、ぺっとね…」。
 「〝買って応援〟だから買ったけど、帰る途中、高速道路のパーキングエリアで捨てた」という話も耳にした。「今は、だいぶ落ち着いてきたけどね。でも、これだけ測っているんだから、日本一安全なんだよ。それを避けられるのはやっぱり風評被害だよね」と語る。イチジクの加工品をPRした新地町観光協会の女性も「放射性セシウムが検出されていないものが流通しているのに、買ってもらえないのは残念ですね。『福島に来るだけで病気になる』と言う人も中にはいるようですし…」と話した。
 「遠慮せずに、もっと『風評被害をぶっ飛ばせ』くらい言っても良いと思う」と力をこめたのは、川内村の男性。イワナの燻製などを並べたが「もう2年も放射性セシウムが検出されていないんだよ。日本一安全だ。それなのに、福島というだけで買ってもらえないのは風評被害だね」と語気を強めた。
 相馬沖の小女子(コウナゴ)を販売した相馬双葉漁業協同組合の幹部は、比較的冷静にこう語った。
 「風評被害が続いていると思います。でも、私たちは消費者を責めるために『風評』という言葉を使っているのではありません。原発事故が無ければ、こういう状況も無かったわけですから。そういう意味での『風評』です」




「Jヴィレッジ」にJR常磐線。浜通りの〝復興〟がPRされるが、被曝リスクが本当に軽減したと言えるだろうか=福島市・コラッセふくしま

【JR常磐線の部分再開もPR】
 「相双地方物産展 サムライフード祭」は、福島県の「相双地方観光DC推進委員会」の主催。販売のほか、12月10日にJR常磐線のうち相馬駅(相馬市)から浜吉田駅(宮城県亘理町)までが再開される事、サッカー・ナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」(楢葉町、一般財団法人福島県電源地域振興財団が管理・運営)が2018年夏に一部再開されることもPRされた。
 「原発から離れた地域だし、関係ないのではないでしょうか。JR常磐線の再開で被曝リスクを言われてしまうのは風評被害だと思いますね」と福島県職員。再開すれば小高駅(南相馬市)から仙台駅までがつながるが、南相馬市内の「特定避難勧奨地点」が年20mSvを基準に指定解除されたのは違法だとして提訴している原告らは、いまだに深刻な土壌汚染が続いていると訴え続けている。
 福島県の内堀雅雄知事は、盛んに「震災から2000日」と口にする。テレビや新聞も「震災から5年半」と報じた。原発事故以降。どれだけ「風評」という言葉が飛び交っただろう。ホッキ貝の漁は6月に再開された。ヒラメ漁の試験操業も始まった。しかし、一方で福島第一原発から連日、汚染水が海に漏れているのも事実。生活がかかっている生産者も、被曝リスクを避けようとする消費者も、どちらも被害者だ。「風評」の二文字で対立構図を作ってしまっては、原発事故の本質を覆い隠してしまう。


(了)
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鈴木博喜

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