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【原発事故とSNS】「アカ」「非国民」…ネット上で続けられる原発避難者への人格否定。被曝リスク全否定だけでなく事実無根の書き込みも

テレビ番組の出演者が自死した事でインターネット上の誹謗中傷が注目されているが、原発事故被害者たちも同じようにネット上での心無い書き込みに頭を悩ませ続けている。特に避難指示区域外からの〝自主避難者〟は避難の権利を否定され、非国民だと罵られた人もいる。避難指示区域からの避難者も事実無根の書き込みをされたり、面と向かって嫌味や皮肉を言われたりし続けている。本来、原発事故の被害者は区別せず等しく救済されるべきだが、実際には複雑に分断されている。国や福島県の姿勢が原発避難者への〝攻撃〟を助長しているとも言える。
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【ブログでの中傷記事も】
 「原発事故が起きたばかりの頃、放射線防護の必要性はあるかどうか、避難をするかしないかについて、福島県内でも意見が割れていたと思います。その中で、『政府の避難指示が出されなかった中通りでも避難するべきだ』という趣旨のことを私も夫もSNSで発信していたので、『不安をあおるな』、『国の言う事が聞けない非国民だ』というような非難コメントが寄せられるようになりました。特に、顔や名前を隠さずに新聞やテレビなどの取材に応じるようになると、人格を否定するようなコメントが増え、内容も激しくなったと思います」
 福島県中通りから県外に避難した女性はインターネット上での〝攻撃〟について、そう振り返った。『勝手に逃げたくせに』、『どこかの団体から金をもらっているんだろ』、『あいつらはアカだ。活動家だ』というような書き込みはしょっちゅうでした。私たち夫婦をターゲットにして、ブログで中傷記事を書いている人もいました」。数々の誹謗中傷の中でも、あるツイッターでの書き込みは「一番ぞっとした」という。
 「福島に残してきた自宅のり面が崩れたのを、父が修繕してくれた時の事です。『あいつら帰って来るつもりなのか?』と書き込まれました。それまでは、自分が避難した家を売却する事には抵抗があったのですが、万が一、放火されたりしてご近所に迷惑をかけてはいけないと、この書き込みを機に自宅を手放すことにしました」
 〝攻撃〟はSNS上にとどまらず、メールや電話まで使う。
 「夫は福島で暮らしていた時のことについて、事件ねつ造の電話やメールが今でも職場に入ることがあります。もちろん事実無根の事ですが職場に迷惑がかかる心配もあり、今度そういうことがあれば法的措置をとることになると思います」

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原発事故以降、インターネット上には避難者や放射線防護に取り組む人々を攻撃する書き込みが後を絶たない

【自己責任にされた避難】
 女性は「もちろん、私たちが避難をしたり原発事故の危険を語ったりすることで嫌な想いをした人たちもいたと思います。避難できない人にとっては本当に苦しいことだったとも思うのです」と慮った。だが、放射線防護に取り組んだり、実際に避難したりする人が責められる背景には、原発事故後の国や福島県の偏った対応がある。
 事故で福島第一原発から放出された放射性物質は当然、市町村の境でとどまるはずもなく、また、汚染の度合いも原発からの距離できれいに同心円状に広まったはずもなく、東北新幹線が縦断する「中通り」にも降り注いだ。もっと言えば、県境を軽々を超えて飛散した。
 しかし、国も福島県も県内市町村も避難指示の範囲を拡大させる事には消極的で、中通りには伊達市の一部に「特定避難勧奨地点」の指定があったものの、避難指示は出されなかった。そのため、放射線防護の取り組みや避難するか否かは全て個々人や個々の過程の判断に委ねられた。
 それが〝自主避難者〟という呼び名や「勝手に逃げた人々」というイメージを作り上げてしまった。避難指示区域から避難した子どもが学校で〝いじめ〟に遭うと「差別や偏見はいけない」との発信が盛んになされたが、残念ながら国も福島県も「避難指示区域外からの避難者にも避難の権利があります」という発信は一切しなかった。自己責任論におとしめた復興大臣もいた。本来は、国や福島県が避難を希望する住民全員を支援するべきだった。
 実際には、賠償金も支援策もごくわずか。一部の区域外避難者が住宅の無償提供を受けられたものの、2017年3月末で打ち切り。2年間の家賃補助制度も終了し、ついには国家公務員住宅に入居する〝自主避難者〟に対して福島県が追い出し訴訟を提起するに至っている。福島県の内堀雅雄知事は避難者当事者との話し合いの場には一度も顔を出さず、県職員は何度も「除染で空間線量は下がった。避難せず中通りで暮らしている人の方がはるかに多い」との言葉を避難者に浴びせた。これでは、世間の人々が区域外避難者に対して好意的な目を向けないのも無理はない。

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裁判取材ではネット上などでの誹謗中傷から自身を守るため、個人が特定できるような撮影をしないよう求められる事もすくなくない。「本当は顔も名前も伏せずに訴えたい」と話す原発事故被害者もいるが、顔や名前を出せば叩かれるというジレンマを抱えている 

【書き込み「永遠に残る」】
 避難指示区域外からの避難者だけでは無い。同じ福島県民からの厳しい眼差しも避難者を苦しめる。帰還困難区域から中通りに避難した男性は、職探しをするたびに「多額の賠償金を得たんだから働く必要なんかないだろ」という趣旨の言葉を浴びた。「暴れたくなるほど悔しいです」。
 避難指示区域から福島県内の別の市町村に避難した子どもが運動会で走っていたら、保護者席から「賠償金が走ってるぞ」との言葉が飛んだ事もあった。町内会への入会を拒まれたり、自宅の新築について露骨に嫌味を言われたりした事例もある。旅行先での手土産を持参したら、避難先の住民に「賠償金のおかげで旅行出来て良いわねえ」と言われた人もいる。原発避難者叩きの構図は複雑だ。
 「アンチが一方的に私を標的にして書かれた事もありました。会った事も無い相手に呼び捨てにされるのです。友人や同級生にネットでの書き込みを読んだと言われました。実名や勤務先がバレない事を良い事に、面と向かって言えない事を書いてきます。サイト側に削除を依頼しても中々削除してくれません。書き込んだ人物に直接、削除を依頼したら相手は余計むきになり、エスカレートしてツイッター上にさらに書き込まれた事もありました」
 原発PR標語「原子力 明るい未来のエネルギー」の考案者で、標語看板を原発事故の〝負の遺産〟として現場保存するよう望んでいた大沼勇治さん(44)=双葉町から茨城県古河市に避難中=はそう語る。
 大沼さんは実名や顔を出してメディアの取材に応じている事もあり、ネット上で〝標的〟にされやすい。ツイッターに「東電からの賠償金を使い込んでスッカラカンになった」、「小馬鹿にされていて中学校の同窓会にも出られない」などと事実無根の書き込みをされた事もあった。
 「ネット上で批判された時、どうすれば良いのでしょうか?そのまましておくと、永遠にその内容が残り、多くの人に読まれます。社会的信用を失う事もあります。見なければ良いかも知れませんが、ネット上にある以上、気になります」と大沼さん。前述の書き込みは結果として削除されたが広く拡散されてしまっている。大沼さんは「削除されたとしても、怒りは収まりません。相手はほとんど何のお咎めもないからです」と話している。



(了)
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鈴木博喜

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