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【111カ月目の帰還困難区域はいま】「とにかく除染するんだ」「地元と十分に議論」から4年。住民の想い無視されたまま避難指示の〝未除染解除〟が浮上

原発事故後、9年間にわたって避難指示が解除されないままの「帰還困難区域」。朝日新聞が3日付の1面で「政府は除染をしていない地域でも避難指示を解除できるようにする方向で最終調整に入った」と報じ、福島の地元紙2紙も翌日、「未除染でも解除検討」、「除染なく解除 検討」と続いた。住民は長年、除染による被曝リスクの低減を求めて来た。復興大臣もかつては「とにかく除染をやる」を啖呵を切っていたが、〝未除染避難指示解除〟に大きく方針転換した格好。これまでもこれからも、住民の想いは無視され、形ばかりの〝復興〟が進められる。
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【わずかな範囲の「拠点」】
 「出来る出来ないじゃないんです。とにかくやるんだ、ということです」
 帰還困難区域の除染については、そもそも復興大臣自身がこう語っていた。
 2016年9月1日。今村雅弘復興大臣(当時)は、政府の「帰還困難区域の取扱いに関する考え方」が同年8月31日付で公表された事を受けて福島県の内堀雅雄知事を訪ねていた。福島市の復興庁福島復興局で行われた〝ぶら下がり会見〟で、筆者は「これだけ放射能汚染が酷い帰還困難区域を除染して人が住めるようにする事なんて、本当に出来るのでしょうか」と質問した。それに対する復興大臣の答えが冒頭の言葉。そこにあったのは精神論ばかりだった。
 帰還困難区域は、「事故後6年間を経過してもなお、空間線量率から推定された年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある地域(2012年3月時点での推定年間積算線量が50mSv超の地域)」と定義されている。
 「帰還困難区域の取扱いに関する考え方」で、政府は「5年を目途に、線量の低下状況も踏まえて避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す『復興拠点』を、各市町村の実情に応じて適切な範囲で設定し、整備する」、「『復興拠点外地区』の中長期的な復興に向け、市町村が、帰還困難区域の今後の整備方針等の方向性を定めた全体構想を策定した場合には、国はこれを踏まえ、中長期的な浜通りの復興のための施策につなげるものとする」などとして、特定復興再生拠点の整備が始まった。
 しかし、その範囲は非常に狭い。浪江町津島地区の場合、特定復興再生拠点の整備エリアに認定されたのは、町役場津島支所や「つしま活性化センター」を中心とした153ヘクタール。津島地区全体のわずか1・6%にすぎない。大部分は除染されない。それで年20mSvを下回ったと言われても、「戻って生活するのは難しい」と住民が考えるのも無理は無い。

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2016年9月、帰還困難区域の除染について「出来る出来ないじゃないんです。とにかくやるんだ、ということです」と述べた今村雅弘復興大臣(左端、当時)=福島県福島市の復興庁福島復興局

【〝火付け役〟は飯舘村】
 菅義偉官房長官は3日午後の記者会見で、NHK記者から避難指示の〝未除染解除〟について「報道は事実か」と問われ、次のように答えた。
 「除染が済んでない特定復興再生拠点区域外については、昨年12月に閣議決定をした基本方針において『地域の実情や土地活用の意向や動向、地方公共団体の要望などをふまえ、避難指示の解除に向けた今後の政策の方向性について検討を進める』という事にしている。また、地元・飯舘村からの要望をふまえ、本年5月28日には与党から政府に対して『地元の強い要望がある場合には、住民の安全確保を前提として現状の制度・枠組みにとらわれず、新たな避難指示解除の仕組みを早急に構築するよう』申し入れがされたところである。現時点では、ご指摘のようなどのような方向性で見直すのか決定していないが、政府の基本方針や先般の与党からの申し入れをふまえ、地元のご意見ご要望をていねいに伺いながら、避難指示解除要件の見直しも含め、しっかり検討していきたい」
 飯舘村は今年2月26日、国に「ふるさと『長泥』とのつながりの象徴となる復興公園を拠点区域外に整備すること」、「(公園の)整備後は、拠点区域外の住民がふるさとを折にふれて訪れることができるよう、避難指示を解除すること」を求める要望書を提出。これを受けて、自民党・公明党の東日本大震災復興加速化本部は5月28日、「飯舘村要望書に係る政府への申し入れ」を復興庁、経産省、環境省に提出した。横山信一復興副大臣(公明党参院議員)は自身のブログで「今後は地域から拠点区域外の土地活用の提案があれば避難指示解除に向けた検討がなされることになる。ただし、『住民の安全確保』が大前提であり、住民の居住を想定したものではない」と綴っている。
 菅官房長官は「地元のご意見ご要望をていねいに伺いながら」と述べた。しかし原発事故後、住民たちの声は「ていねいに」拾われただろうか。むしろ無視されて来たではないか。

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飯舘村は3日「特定復興再生拠点区域外の今後に係る説明会」を開催。村のホームページでは「質疑応答では、住民から前進に期待する声が多く」あったと報告されている

【避難指示解除ありき】
 浪江町では2017年3月31日、「ふるさとでの生活を再開いただける環境は整っており、避難指示を解除して復興を新たなステージへ進めるべき」などとして帰還困難区域以外の避難指示が解除された。しかし、解除は時期尚早とする声も多かった。
 2016年12月の町議会では「除染も終わっていないし、課題を挙げればキリがない。まだまだ時間が必要だ。それでも、国の言われるままに来年3月に避難指示解除を受け入れるのか」との反対意見が出された。
 福島県内外で開かれた住民説明会でも「何を基準に『生活環境は概ね整った』などと言っているのか」、「確かに帰りたい。しかし、医療や治安を見ても戻れるような状況になっていない」、「子どもを連れて30年、浪江町に住んでください。それで安全性を確かめてから帰れと言ってください」などと反対意見が噴出した。「馬場町長のつらい立場も分かります。でもね、被曝リスクのあるところには帰れません」という声もあった。
 これに対し、官僚たちは当時、「一般公衆の追加被曝線量を年1mSvにしなければならないという法律は無い」、「生命、身体に危険を及ぼすような危機は去った」、「帰れる方には、町の復興の先駆者として帰っていただきたい」、「戻りたい方々を押しとどめるほど危険で無いのであれば避難指示を解除するのも政府の役割」、「個々の事情に100%寄り添う事は難しい。帰りたい方の意思も尊重して避難指示を解除しないといけない」と一斉に〝反論〟していた。だから、説明会に出席した女性は当然、こう言った。
 「町民の意見を聴いて避難指示解除を半年でも1年でも延ばすものだと思って来たけれど、これでは単なる〝ガス抜き〟だわ。結論が出ているんだもの。参加するだけ無駄だった」
 意見などていねいに拾われない事は、住民が一番良く分かっている。
 政府の「考え方」は、こんな言葉で締めくくられている。
 「政府一丸となって、帰還困難区域の一日も早い復興を目指して取り組んでいく」
 だが現実に行われて来たのは、ごくわずかな範囲での除染と、放置による〝時間稼ぎ〟だった。そして、あれから4年近くが経ち、復興大臣が「とにかくやる」と啖呵を切った除染が行われずに帰還困難区域の避難指示が解除されようとしている。



(了)
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鈴木博喜

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