【中通りに生きる会・損害賠償請求訴訟】東電の控訴で舞台は仙台高裁へ 第1回口頭弁論は9月15日、即日結審望む原告。東電は改めて権利侵害否定
- 2020/07/14
- 07:34
「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)の男女52人(福島県福島市や郡山市などに在住)が、原発事故で精神的損害を被ったとして東電に計約1億円の賠償を求めた損害賠償請求訴訟。原告1人あたり平均24万円の支払いを命じた福島地裁判決(2月20日、遠藤東路裁判長)を不服として東電が控訴したため、訴訟の舞台は仙台高裁へ。第1回口頭弁論が9月15日午後に開かれる事が決まった。そもそも和解による決着を望んでいた原告側は「附帯控訴」にも消極的で、即日結審させたい意向。一方の東電は原告たちの権利侵害を全否定。全面的に争う構えだ。

【一審は30万円から引き算】
今月11、12の両日、福島市内で原告代理人の野村吉太郎弁護士による説明会が開かれた。
野村弁護士によると、控訴審の第1回口頭弁論期日は9月15日13時半から、仙台高裁1号法廷(小林久起裁判長)で開かれる。原告側は一審で主張を出し尽くしており、野村弁護士は「当日は5分ほどで終わるのではないか」との見通しを示した。当日は複数の原告が参加する予定だが、仙台まで行かれない原告のために、同日夜に福島市内で報告会を開く予定でいる。
福島地裁判決(遠藤東路裁判長)は今年2月20日、「自主的避難等対象区域に居住していた者の慰謝料額の目安は、避難の相当性が認められる平成23年12月31日までの期間に対応する慰謝料額として、30万円と認めるのが相当である」とした上で、原告ごとの個別事情を考慮して認容額を計算。原告52人のうち50人に関して、東電に対し2万2000円から28万6000円(合計1203万4000円、平均24万円)の支払いを命じた。残り2人は請求を棄却された。東電の既払い金は原則8万円と認定した。
野村弁護士は「地裁判決は平穏生活圏だけでなく、それに付随する利益の侵害も認めた。そこは皆さんの主張の成果」と評価。一方で「慰謝料の目安を30万円と設定し、そこから個別事情を考慮して引き算していくやり方は、期待したものではなかった。個別の損害を積み上げるような形で認定して欲しかった」と語る。仙台高裁が年内に判決を言い渡すようであれば〝勝訴〟と言える内容になるとの見通しも示した。

福島市内で3回に分けて開かれた控訴審に向けた原告説明会。野村吉太郎弁護士が地裁判決を改めて解説。今後の方向性を確認した
【東電は被曝への不安を一蹴】
被告・東電は今年3月3日、一審判決の取り消しを求める控訴状を仙台高裁に提出。6月25日付で出された控訴理由書では、「一審判決の認定のうち、慰謝料額の目安を30万円と認定したこと、ADRでの和解をした原告について弁済の抗弁に係る弁済額を4万円と認定したこと、及び、個別の慰謝料額の認定について不服がある」などと主張している。
また、一審判決が自主的避難等対象区域で暮らす人々の避難の相当性を「2011年(平成23年)12月31日まで」認めた事についても「自主的避難等対象区域における本件事故後の環境放射線量やその報道状況等からすれば、遅くとも平成23年4月22日頃までには、『一旦生じた恐怖や不安を解消するのに相応しい社会的情勢の変化と時間の経過』があったというべき」と反論。
「もし仮に、平成23年4月22日頃以降においても原告に何らかの不安感や危惧感が生じたとしても、侵害行為の中心となり得る放射線の作用は健康に被害を及ぼす程度ではないことが周知され、平穏な日常生活を送ることに支障のない状況であったことから、原告らが生じたと主張する精神的苦痛が受忍限度を超えて法律上保護される利益が侵害されたとは認められない」、「将来発生するかもしれない想像上の放射線の作用から生じる不安であって、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)で賠償対象とされる『原子力損害』には該当せず、また、法律上保護される利益とはいえない漠然とした不安感にすぎない」としている。
2011年4月には「ふくしま!地産地消運動」が始まり、「小中学校の入学式」が行われ、福島市の花見山公園に1万人近い観光客が訪れた事などは、「自主的避難等対象区域に居住する者の被ばくに対する恐怖や不安を解消するのに相応しい、明確な『社会的情勢の変化』である」などとして、原告の主張する「被曝リスクへの不安」を改めて一蹴。2011年3月15日時点で福島市では人口の1・1%、郡山市でも1・5%しか自主避難せず、追加賠償を求めて提訴した人も人口の約0・5%にとどまっている事も列挙した。
過去の判例を挙げながら、原告たちの主張する精神的苦痛は「漠然としたもの」であって「法律上保護される利益に該当しない」と繰り返し主張している。

2月20日、地裁判決後に福島市内で開かれた記者会見。原告側は判決を受け入れたが被告・東電が不服として控訴。訴訟の舞台は仙台高裁に移される事になった
【「早く終わりにしたい」】
東電の控訴理由書を受けて、野村弁護士は「地裁判決はつかみどころがなく漠然としていて、東電にとっては攻めにくい判決だろう。東電は30万円という目安の金額を争うのでは無くてそもそも権利が無いとか保護されるべき利益が無いとかそういう主張をせざるを得ない。それは一審で東電が主張してきた事の繰り返しにすぎない」、「原告側が控訴しなかったのは、原発事故後の集団訴訟では初めてだと思う。攻める相手が判決しか無い事も、東電にとっては非常にやりにくいだろう」と語った。
控訴答弁書では、東電の主張が一審の焼き直しにすぎないと述べながら、東電が原告たちの権利侵害を否定する一方で12万円の賠償金を支払った事について一審で東電の説明が尽くされていない事などを主張する予定。控訴棄却を求める。
原告たちは提訴前に陳述書づくりに着手したため、裁判闘争は6年に及んでいる。そして、裁判が始まれば意見陳述や本人尋問で法廷に立たされ、疲弊を口にする原告も少なくない。そのため和解での決着を希望。2019年5月には福島県庁で記者会見を開いたが、東電が福島地裁の和解勧告を拒否した経緯がある。判決は2人の請求を棄却するなど原告たちを十分に納得させるものでは無かったが、それでも「ここで終わらせて新たな一歩を踏み出したい」と受諾。東電が控訴しないよう願っていたが、叶わなかった。
説明会では、原告の1人が改めて早期決着への想いを話した。
「慰謝料額はともかく、私たちの苦しみは裁判所に認めてもらえたと思っています。これで終わりにしたい。新しい道を歩き出したい。東電が勝手に控訴したことだし、彼らの主張を聴くと胸が痛む。これ以上、ずるずる争いたくない」
「被害を受けられた方々に早期に生活再建の第一歩を踏み出していただくため」に「3つの誓い」をたてた東電。しかし、実際には24万円の支払いすら拒む。「早く終わりにしたい」という住民たちの願いも蹴飛ばす。それが、原発事故から9年後の東電の姿だった。
(了)

【一審は30万円から引き算】
今月11、12の両日、福島市内で原告代理人の野村吉太郎弁護士による説明会が開かれた。
野村弁護士によると、控訴審の第1回口頭弁論期日は9月15日13時半から、仙台高裁1号法廷(小林久起裁判長)で開かれる。原告側は一審で主張を出し尽くしており、野村弁護士は「当日は5分ほどで終わるのではないか」との見通しを示した。当日は複数の原告が参加する予定だが、仙台まで行かれない原告のために、同日夜に福島市内で報告会を開く予定でいる。
福島地裁判決(遠藤東路裁判長)は今年2月20日、「自主的避難等対象区域に居住していた者の慰謝料額の目安は、避難の相当性が認められる平成23年12月31日までの期間に対応する慰謝料額として、30万円と認めるのが相当である」とした上で、原告ごとの個別事情を考慮して認容額を計算。原告52人のうち50人に関して、東電に対し2万2000円から28万6000円(合計1203万4000円、平均24万円)の支払いを命じた。残り2人は請求を棄却された。東電の既払い金は原則8万円と認定した。
野村弁護士は「地裁判決は平穏生活圏だけでなく、それに付随する利益の侵害も認めた。そこは皆さんの主張の成果」と評価。一方で「慰謝料の目安を30万円と設定し、そこから個別事情を考慮して引き算していくやり方は、期待したものではなかった。個別の損害を積み上げるような形で認定して欲しかった」と語る。仙台高裁が年内に判決を言い渡すようであれば〝勝訴〟と言える内容になるとの見通しも示した。

福島市内で3回に分けて開かれた控訴審に向けた原告説明会。野村吉太郎弁護士が地裁判決を改めて解説。今後の方向性を確認した
【東電は被曝への不安を一蹴】
被告・東電は今年3月3日、一審判決の取り消しを求める控訴状を仙台高裁に提出。6月25日付で出された控訴理由書では、「一審判決の認定のうち、慰謝料額の目安を30万円と認定したこと、ADRでの和解をした原告について弁済の抗弁に係る弁済額を4万円と認定したこと、及び、個別の慰謝料額の認定について不服がある」などと主張している。
また、一審判決が自主的避難等対象区域で暮らす人々の避難の相当性を「2011年(平成23年)12月31日まで」認めた事についても「自主的避難等対象区域における本件事故後の環境放射線量やその報道状況等からすれば、遅くとも平成23年4月22日頃までには、『一旦生じた恐怖や不安を解消するのに相応しい社会的情勢の変化と時間の経過』があったというべき」と反論。
「もし仮に、平成23年4月22日頃以降においても原告に何らかの不安感や危惧感が生じたとしても、侵害行為の中心となり得る放射線の作用は健康に被害を及ぼす程度ではないことが周知され、平穏な日常生活を送ることに支障のない状況であったことから、原告らが生じたと主張する精神的苦痛が受忍限度を超えて法律上保護される利益が侵害されたとは認められない」、「将来発生するかもしれない想像上の放射線の作用から生じる不安であって、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)で賠償対象とされる『原子力損害』には該当せず、また、法律上保護される利益とはいえない漠然とした不安感にすぎない」としている。
2011年4月には「ふくしま!地産地消運動」が始まり、「小中学校の入学式」が行われ、福島市の花見山公園に1万人近い観光客が訪れた事などは、「自主的避難等対象区域に居住する者の被ばくに対する恐怖や不安を解消するのに相応しい、明確な『社会的情勢の変化』である」などとして、原告の主張する「被曝リスクへの不安」を改めて一蹴。2011年3月15日時点で福島市では人口の1・1%、郡山市でも1・5%しか自主避難せず、追加賠償を求めて提訴した人も人口の約0・5%にとどまっている事も列挙した。
過去の判例を挙げながら、原告たちの主張する精神的苦痛は「漠然としたもの」であって「法律上保護される利益に該当しない」と繰り返し主張している。

2月20日、地裁判決後に福島市内で開かれた記者会見。原告側は判決を受け入れたが被告・東電が不服として控訴。訴訟の舞台は仙台高裁に移される事になった
【「早く終わりにしたい」】
東電の控訴理由書を受けて、野村弁護士は「地裁判決はつかみどころがなく漠然としていて、東電にとっては攻めにくい判決だろう。東電は30万円という目安の金額を争うのでは無くてそもそも権利が無いとか保護されるべき利益が無いとかそういう主張をせざるを得ない。それは一審で東電が主張してきた事の繰り返しにすぎない」、「原告側が控訴しなかったのは、原発事故後の集団訴訟では初めてだと思う。攻める相手が判決しか無い事も、東電にとっては非常にやりにくいだろう」と語った。
控訴答弁書では、東電の主張が一審の焼き直しにすぎないと述べながら、東電が原告たちの権利侵害を否定する一方で12万円の賠償金を支払った事について一審で東電の説明が尽くされていない事などを主張する予定。控訴棄却を求める。
原告たちは提訴前に陳述書づくりに着手したため、裁判闘争は6年に及んでいる。そして、裁判が始まれば意見陳述や本人尋問で法廷に立たされ、疲弊を口にする原告も少なくない。そのため和解での決着を希望。2019年5月には福島県庁で記者会見を開いたが、東電が福島地裁の和解勧告を拒否した経緯がある。判決は2人の請求を棄却するなど原告たちを十分に納得させるものでは無かったが、それでも「ここで終わらせて新たな一歩を踏み出したい」と受諾。東電が控訴しないよう願っていたが、叶わなかった。
説明会では、原告の1人が改めて早期決着への想いを話した。
「慰謝料額はともかく、私たちの苦しみは裁判所に認めてもらえたと思っています。これで終わりにしたい。新しい道を歩き出したい。東電が勝手に控訴したことだし、彼らの主張を聴くと胸が痛む。これ以上、ずるずる争いたくない」
「被害を受けられた方々に早期に生活再建の第一歩を踏み出していただくため」に「3つの誓い」をたてた東電。しかし、実際には24万円の支払いすら拒む。「早く終わりにしたい」という住民たちの願いも蹴飛ばす。それが、原発事故から9年後の東電の姿だった。
(了)
スポンサーサイト