【今は昔の〝復興五輪〟】福島県内7駅でカウントダウン再開 新たに県庁でも「365」点灯 五輪ムード盛り上げに必死だが…
- 2020/07/24
- 07:33
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて1年延期された東京五輪。改めて設定された開会式(2021年7月23日)に向けたカウントダウンが23日、福島県内でも再開された。福島駅や郡山駅、いわき駅など7駅に加えて福島県庁内でも「365」の数字が灯されたが、果たして開会式を迎える事など出来るのか。野球・ソフトボールは福島市で開催出来るのか。震災、原発事故、台風水害、新型感染症と課題山積の中、五輪に向けたムードなど高まらない。「全体像が見えない」という県職員の言葉が、それを如実に表している。

【「気持ち新たに準備」】
「本来であれば昨日(22日)、野球・ソフトボールが福島(県営あづま球場)で開幕するという事だったんですけれども、1年延期になりまして、どういった気運醸成をしていこうか考えた時に今日、改めてカウントダウンボードの点灯が出来たという事で、また気持ちを新たにして準備して行こうと思っています」
午前10時すぎ、記者クラブメディアに囲まれた福島県オリンピック・パラリンピック推進室の担当者は、そう語った。大地震や大津波、原発事故から立ち直った姿を国内外に発信する〝復興五輪〟の延期が正式に決まってから4カ月。改めて盛り上げようと企画されたが、内堀雅雄知事も県民の姿も無し。県職員が電源を入れただけ。県民不在の「気運醸成」。ここに、迷走を続ける〝復興五輪〟の現状が凝縮されているようだった。
だから、囲み取材で質問されても具体的な事は答えられない。
「コロナ対策もありますので、なかなか皆さんで集まってイベントをやるというのは難しいかと思いますが、関係団体と連携をとりながらやっていきたい」
「感染症対策や大会組織委員会による運営の検討などの状況をふまえながら、市町村や関係団体と連携しながら取り組んでいきたい」
福島県の担当者は、記者からの質問にそう繰り返すばかり。そもそも1年後、本当に五輪が始まっているのだろうか。なぜ福島県内で五輪の野球・ソフトボールを開催する事が〝復興〟なのか、という疑問に対する明快な答えを誰も示せない。待つ身のつらさで、「とにかく準備だけは進めるんだ」という精神論で突き進むしかなくなっている福島県。津波や原発事故、水害など全てが現在進行形。カウントダウン再開で気持ちが新たになる県民はどれだけいるのか疑問が増す。

福島県庁正面に改めて掲げられた横断幕。開会式に先立って野球・ソフトボールの試合が福島で始まる予定だが、本当に実施出来るかどうか、誰にも見通せていないのが実情だ
【「全体像見えない」】
〝復興五輪〟の主役であるはずなのに、決めるのは全て組織委員会。3月の聖火リレー中止も突然で、ある福島県職員は「あまりに急だったので警備会社などに費用を支払わないわけにいかなかったのです。今後、大会の運営に変化がある時には早めに知らせて欲しいのですが…」と話す。そして、こう漏らした。
「3月に走るはずだった聖火ランナーは、そのままランナーとしての権利は持ったままになります。ただ、いつ、どのような形で御本人に意思確認をするのかなど、組織委員会からは何の知らせもありません。聖火リレーの形すら定まっていない?そこなんですよね。前回選ばれた聖火ランナーを尊重すると言いますけど、そもそもの全体像が見えないですからね。簡素化とかいろいろな事が言われていますけど、全体像が見えてこないと動きもとれないですね。開催出来るのか?それは分かりません。分からないけれど、準備を進めない訳にもいかないですから」
加えて、〝復興五輪〟などという原発事故被害者の多くが首を傾げる別名がついた東京五輪だったが、いまや〝コロナ克服五輪〟にすっかり性格を変えてしまった。しかし、その新たなテーマも1年で本当に克服出来るか全く見通せない。
産経新聞は22日、「首相、五輪来年開催に不退転の決意」との見出しで記事を配信したが、翌23日には都内の新型コロナウイルス陽性者数が過去最多の366人に達した。福島県内でも今月に入り、4人の感染が確認されている。
「とにかくやるしかない」という精神論だけが先走り、五里霧中の〝復興五輪〟。身動きのとれない4連休だけが残った。

インスタグラムで拡散してもらおうと撮影用のボードも県庁内に設置されたが、福島県内には「五輪どころじゃない」状況が今なお続いている
【】
東日本大震災から来春で丸10年。
原発事故に伴って溜まり続ける汚染水の処理を巡って、海洋放出したい国と地上保管を続けて欲しい県民との間で意見が分かれている。避難指示区域の中で最も汚染の度合いが高かったとされる帰還困難区域についても、除染をした上で避難指示を解除するのか、そもそも除染で人が住める程度にまで汚染を減らす事が出来るのか。方向性が定まっていない。避難指示が出されなかった区域からの〝区域外避難者〟による集団訴訟は係争中。浜通りを走るJR常磐線を五輪開催に合わせるように3月14日に全線開通させたが、住民の帰還も進まず乗降客数はまばら。逆に家屋解体が進み、さら地が増えている。
そもそも、仮に当初の計画通りに五輪を開催していたとしても、それが果たして「復興」を国内外にアピールする事につながるのか、疑問の声は多い。聖火リレーコース周辺の土壌汚染は深刻な状態が続いている場所もある。区域外避難者だけでなく避難指示区域からの避難者に対する支援や減免措置の打ち切りが始まっている。加えて、昨秋の台風19号に伴う「10・12水害」の被害も回復出来ていない。「五輪どころじゃない」のだ。
「夏が終われば再び台風シーズンを迎えるというのに、浸水した住宅の解体工事はようやく始まったばかり。九州の豪雨災害は他人事じゃないよ。テレビで流れる映像を観るとつらくてね。近所の人とも『昨秋を思い出してつらくなるから観たくない』って話しているんだ。今年も大雨が降るのか、来年なのか、再来年なのか…。本当にオリンピックどころじゃないんだよね」
福島県本宮市の男性はそう話した。震災、原発事故、そして水害、新型感染症。何一つ克服出来ていないまま、1年後に向けた準備が改めて始まった。
「オリンピックに向けた機運の醸成につきましては、今般の新型コロナウイルス感染症や組織委員会による大会運営の見直し状況を注視しながら取り組んでいく必要があると考えています。引き続き、感染症の状況等を注視しながら市町村や関係団体と連携し、機運の醸成に取り組んでまいります」
福島県の内堀知事は20日の定例会見でそう述べた。全く中身の無い発言だった。数字だけが今日も、虚しく減っていく。
(了)

【「気持ち新たに準備」】
「本来であれば昨日(22日)、野球・ソフトボールが福島(県営あづま球場)で開幕するという事だったんですけれども、1年延期になりまして、どういった気運醸成をしていこうか考えた時に今日、改めてカウントダウンボードの点灯が出来たという事で、また気持ちを新たにして準備して行こうと思っています」
午前10時すぎ、記者クラブメディアに囲まれた福島県オリンピック・パラリンピック推進室の担当者は、そう語った。大地震や大津波、原発事故から立ち直った姿を国内外に発信する〝復興五輪〟の延期が正式に決まってから4カ月。改めて盛り上げようと企画されたが、内堀雅雄知事も県民の姿も無し。県職員が電源を入れただけ。県民不在の「気運醸成」。ここに、迷走を続ける〝復興五輪〟の現状が凝縮されているようだった。
だから、囲み取材で質問されても具体的な事は答えられない。
「コロナ対策もありますので、なかなか皆さんで集まってイベントをやるというのは難しいかと思いますが、関係団体と連携をとりながらやっていきたい」
「感染症対策や大会組織委員会による運営の検討などの状況をふまえながら、市町村や関係団体と連携しながら取り組んでいきたい」
福島県の担当者は、記者からの質問にそう繰り返すばかり。そもそも1年後、本当に五輪が始まっているのだろうか。なぜ福島県内で五輪の野球・ソフトボールを開催する事が〝復興〟なのか、という疑問に対する明快な答えを誰も示せない。待つ身のつらさで、「とにかく準備だけは進めるんだ」という精神論で突き進むしかなくなっている福島県。津波や原発事故、水害など全てが現在進行形。カウントダウン再開で気持ちが新たになる県民はどれだけいるのか疑問が増す。

福島県庁正面に改めて掲げられた横断幕。開会式に先立って野球・ソフトボールの試合が福島で始まる予定だが、本当に実施出来るかどうか、誰にも見通せていないのが実情だ
【「全体像見えない」】
〝復興五輪〟の主役であるはずなのに、決めるのは全て組織委員会。3月の聖火リレー中止も突然で、ある福島県職員は「あまりに急だったので警備会社などに費用を支払わないわけにいかなかったのです。今後、大会の運営に変化がある時には早めに知らせて欲しいのですが…」と話す。そして、こう漏らした。
「3月に走るはずだった聖火ランナーは、そのままランナーとしての権利は持ったままになります。ただ、いつ、どのような形で御本人に意思確認をするのかなど、組織委員会からは何の知らせもありません。聖火リレーの形すら定まっていない?そこなんですよね。前回選ばれた聖火ランナーを尊重すると言いますけど、そもそもの全体像が見えないですからね。簡素化とかいろいろな事が言われていますけど、全体像が見えてこないと動きもとれないですね。開催出来るのか?それは分かりません。分からないけれど、準備を進めない訳にもいかないですから」
加えて、〝復興五輪〟などという原発事故被害者の多くが首を傾げる別名がついた東京五輪だったが、いまや〝コロナ克服五輪〟にすっかり性格を変えてしまった。しかし、その新たなテーマも1年で本当に克服出来るか全く見通せない。
産経新聞は22日、「首相、五輪来年開催に不退転の決意」との見出しで記事を配信したが、翌23日には都内の新型コロナウイルス陽性者数が過去最多の366人に達した。福島県内でも今月に入り、4人の感染が確認されている。
「とにかくやるしかない」という精神論だけが先走り、五里霧中の〝復興五輪〟。身動きのとれない4連休だけが残った。

インスタグラムで拡散してもらおうと撮影用のボードも県庁内に設置されたが、福島県内には「五輪どころじゃない」状況が今なお続いている
【】
東日本大震災から来春で丸10年。
原発事故に伴って溜まり続ける汚染水の処理を巡って、海洋放出したい国と地上保管を続けて欲しい県民との間で意見が分かれている。避難指示区域の中で最も汚染の度合いが高かったとされる帰還困難区域についても、除染をした上で避難指示を解除するのか、そもそも除染で人が住める程度にまで汚染を減らす事が出来るのか。方向性が定まっていない。避難指示が出されなかった区域からの〝区域外避難者〟による集団訴訟は係争中。浜通りを走るJR常磐線を五輪開催に合わせるように3月14日に全線開通させたが、住民の帰還も進まず乗降客数はまばら。逆に家屋解体が進み、さら地が増えている。
そもそも、仮に当初の計画通りに五輪を開催していたとしても、それが果たして「復興」を国内外にアピールする事につながるのか、疑問の声は多い。聖火リレーコース周辺の土壌汚染は深刻な状態が続いている場所もある。区域外避難者だけでなく避難指示区域からの避難者に対する支援や減免措置の打ち切りが始まっている。加えて、昨秋の台風19号に伴う「10・12水害」の被害も回復出来ていない。「五輪どころじゃない」のだ。
「夏が終われば再び台風シーズンを迎えるというのに、浸水した住宅の解体工事はようやく始まったばかり。九州の豪雨災害は他人事じゃないよ。テレビで流れる映像を観るとつらくてね。近所の人とも『昨秋を思い出してつらくなるから観たくない』って話しているんだ。今年も大雨が降るのか、来年なのか、再来年なのか…。本当にオリンピックどころじゃないんだよね」
福島県本宮市の男性はそう話した。震災、原発事故、そして水害、新型感染症。何一つ克服出来ていないまま、1年後に向けた準備が改めて始まった。
「オリンピックに向けた機運の醸成につきましては、今般の新型コロナウイルス感染症や組織委員会による大会運営の見直し状況を注視しながら取り組んでいく必要があると考えています。引き続き、感染症の状況等を注視しながら市町村や関係団体と連携し、機運の醸成に取り組んでまいります」
福島県の内堀知事は20日の定例会見でそう述べた。全く中身の無い発言だった。数字だけが今日も、虚しく減っていく。
(了)
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