【113カ月目の浪江町はいま】「道の駅なみえ」がオープン 請戸漁港水揚げの魚使った定食も 「汚染水を海に流されたら台無し」と町民 吉田町長は海洋放出反対明言せず
- 2020/08/02
- 07:05
原発事故による帰還困難区域を抱える福島県双葉郡浪江町で1日、「道の駅なみえ」がオープン。フードコートでは、請戸漁港で水揚げされた魚介類を使った料理の提供が始まった。シラスやヒラメなどの販売も始まったが、浜通りの漁業関係者にとって喫緊の課題は汚染水の海洋放出問題。国が強行すれば道の駅にとっても大打撃となるが、復興予算で首根っこをつかまれた吉田町長は海洋放出への反対を明言出来ない。町民は言う。「あれを海に流されたら全てが駄目になる」。暗い影を落とす汚染水問題から目を逸らしたまま、道の駅は〝華々しく〟開業した。

【「町の復興のシンボル」】
「道の駅なみえ」は浪江町役場の近く、浜通りを南北に走る国道6号線と国道114号線がぶつかる「知命寺交差点」の角地に建設された。敷地面積は約3万4000平方メートル。福島県内34番目の道の駅で、地場野菜や土産物などを売る物販コーナーやパン工房、請戸漁港で水揚げされたシラスなど魚介類を使った料理を提供するフードコートなどがある。定休日は水曜日。
町が配布した報道向け資料では「復興のシンボル施設」と表現されている。今回はあくまでも「プレオープン」。来年1月にも大堀相馬焼や日本酒を陳列する「地場産品販売施設」が完成する予定で、そこで「グランドオープン」となるという。「一般社団法人まちづくりなみえ」(理事長・佐藤良樹副町長)が指定管理会社となった。
9時40分から駐車場で行われたオープニングセレモニーで吉田数博町長は「東日本大震災から今日で3432日を迎えます。5年に及ぶ計画、準備、建設を経てついに、浪江町の復興のシンボルである待望の道の駅がオープンを迎えました。フードコートでは、請戸漁港で水揚げされた新鮮な魚介類をはじめとする、浪江産の野菜を含めたものを活用したメニュー。産地直売所では、浪江産の農産物や海産物のほかに、地元の特産品を販売致します」などとあいさつ。
町議会の佐々木恵寿議長も「ご存じの通り浪江町は、一部の地域を除き避難指示が解除され、3年以上が経過しておりますけれども、いまだに多くの方が町外避難をしている現状であります。様々な事情により避難生活が長く続き、町民同士のつながりが希薄になって行くなか、この道の駅なみえは全町民が望んだ施設であります。町外に避難する町民と町内に居住する町民をつなぐ場として、にぎわいをもたらす施設と議会としても大いに期待しています」と述べた。
セレモニーには吉田栄光県議や福島県相双建設事務所長、国交省磐城国道事務所長らが出席したが、赤羽一嘉国交大臣や内堀雅雄知事の姿は無かった。町役場の関係者は「今回はプレオープンだし、新型感染症の問題もあるのだろう」と語った。



1日に部分開業した「道の駅なみえ」では、請戸漁港で水揚げされた魚介類を販売。フードコートでは刺身定食なども食べられる。汚染水が海洋放出されれば大打撃を受ける事になるが、吉田町長はじめ、関係者の口は重い
【「汚染水流さないで!」】
〝目玉〟のひとつが、吉田町長も挙げたフードコート。「刺身定食」(1800円)はエビやマグロ、スズキ、タイ、サーモンなど請戸漁港で水揚げされた魚を中心とした刺身にご飯とみそ汁、茶わん蒸しがつく。オープン前日には、地元テレビ局が夕方のニュース番組内で生中継して紹介した。
一方、国は原発事故後に大量発生した〝汚染水〟の処分方法について、海に放出するのが現実的として公聴会を開催するなど地ならしを進めている。放射性物質を含む〝汚染水〟を海に流す事と、その海で漁獲された海産物を料理として振る舞う事は共存出来るのだろうか。浪江町の漁業関係者は取材に対し、次のように語った。
「あれをやられたら…汚染水の海洋放出をやられたら、ここはもう駄目ですね。9年かけて、せっかくここまで来たんです。それらが全て元に戻ってしまいます。台無しです。子どもがいる人は嫌でしょう。私も親ですから、汚染水を流されたら子どもに魚を食べさせるのは嫌ですよ。福島県外に避難して行った友人も、『汚染水なんか流されてしまったら大丈夫なのか?』と心配しています」
そして、怒りをぶつけるように、こうも話した。
「汚染水を海に流しても問題無いのなら、全国の海で流せば良いじゃないですか。それをなぜ、福島の海だけに流すんですか?福島でつくられた電気を使っていたのは東京の人たちですよね。私たちが契約しているのは東北電力ですよ。私たちは前を向くしか無いから必死に前を向いて歩いてきました。周囲でも『もう原発の事を言うな』という声が増えて、少しずつ当時の記憶が薄れてきて、それでようやくここまで来たんです。汚染水だけは絶対に駄目です」
「海に流さないで欲しいと書いて下さい。それだけはやめてくださいと。町長には、道の駅のオープニングセレモニーできっぱりと海洋放出反対を口にして欲しいですが…無理でしょうね。様々なしがらみで言えないでしょうね」
その言葉通り、吉田町長は海洋放出反対を明言出来ないのだった。



「道の駅なみえ」は吉田町長らのテープカットで午前10時にオープン。多くの人が列を作った。〝一番乗り〟は前夜22時から並んだという埼玉県の男性。一方、2016年10月から町役場横で営業を続けてきた仮設商店街「まち・なみ・まるしぇ」は、「役目を終えた」として終了した。一部営業を続ける店舗もあるが、来年3月までに順次、店を閉じる見込み
【復興交付金の呪縛】
「まあ、その事はね、ちょっと今の段階ではコメント出来かねるんですが、ただ、非常に悩ましい問題だと思っています」
道の駅の一角で、吉田町長は語った。請戸の魚を道の駅の〝売り〟にするのであれば、首長として海洋放出に明確に反対するべきではないのかと重ねて質問したが、吉田町長は「それは国が決める事。どういう処分方法になるのか注視している段階です」とかわした。
「立場上反対を言いにくい?それはちょっと、コメントを差し控えさせていただきたい。ただ、皆さんに喜んで食べていただけるよう守りたいという想いは強いです」
非常に歯切れの悪い発言に終始した吉田町長。今年2月には、「政府に対し、処理水に関する正確な情報の開示と、国民全体に対する丁寧な説明、そして改めて風評への対策を求めてまいります」などとするメッセージをホームページに掲載した。
町議会は3月議会で「福島第一原子力発電所構内に保管中のトリチウムを含む処理水の海洋放出に反対する決議」を可決。6月議会でも「トリチウム水の処分方法が新たな風評被害を生まないように対策強化を求める意見書」を可決している。しかし、吉田町長は海洋放出反対の姿勢を明確には打ち出していない。
ある町議は「大熊町や双葉町がはっきりと言わないように、浪江町も言えないんですよ。なぜかって?国から金をもらってるからですよ。今後の交付金やら何やらでね。国に首根っこをつかまれてしまっている?そういう事ですよ。それは皆さん分かってるでしょ」と話した。
2014年には、中間貯蔵施設の建設を巡り、当時の石原伸晃環境大臣が「最後は金目でしょ」と発言して後に謝罪したが、復興交付金をちらつかせて原発事故の被害自治体を黙らせる国のやり方は今なお続いている。その意味で、浪江町をはじめとする双葉郡は、まさに〝アンダーコントロール〟なのだった。
(了)

【「町の復興のシンボル」】
「道の駅なみえ」は浪江町役場の近く、浜通りを南北に走る国道6号線と国道114号線がぶつかる「知命寺交差点」の角地に建設された。敷地面積は約3万4000平方メートル。福島県内34番目の道の駅で、地場野菜や土産物などを売る物販コーナーやパン工房、請戸漁港で水揚げされたシラスなど魚介類を使った料理を提供するフードコートなどがある。定休日は水曜日。
町が配布した報道向け資料では「復興のシンボル施設」と表現されている。今回はあくまでも「プレオープン」。来年1月にも大堀相馬焼や日本酒を陳列する「地場産品販売施設」が完成する予定で、そこで「グランドオープン」となるという。「一般社団法人まちづくりなみえ」(理事長・佐藤良樹副町長)が指定管理会社となった。
9時40分から駐車場で行われたオープニングセレモニーで吉田数博町長は「東日本大震災から今日で3432日を迎えます。5年に及ぶ計画、準備、建設を経てついに、浪江町の復興のシンボルである待望の道の駅がオープンを迎えました。フードコートでは、請戸漁港で水揚げされた新鮮な魚介類をはじめとする、浪江産の野菜を含めたものを活用したメニュー。産地直売所では、浪江産の農産物や海産物のほかに、地元の特産品を販売致します」などとあいさつ。
町議会の佐々木恵寿議長も「ご存じの通り浪江町は、一部の地域を除き避難指示が解除され、3年以上が経過しておりますけれども、いまだに多くの方が町外避難をしている現状であります。様々な事情により避難生活が長く続き、町民同士のつながりが希薄になって行くなか、この道の駅なみえは全町民が望んだ施設であります。町外に避難する町民と町内に居住する町民をつなぐ場として、にぎわいをもたらす施設と議会としても大いに期待しています」と述べた。
セレモニーには吉田栄光県議や福島県相双建設事務所長、国交省磐城国道事務所長らが出席したが、赤羽一嘉国交大臣や内堀雅雄知事の姿は無かった。町役場の関係者は「今回はプレオープンだし、新型感染症の問題もあるのだろう」と語った。



1日に部分開業した「道の駅なみえ」では、請戸漁港で水揚げされた魚介類を販売。フードコートでは刺身定食なども食べられる。汚染水が海洋放出されれば大打撃を受ける事になるが、吉田町長はじめ、関係者の口は重い
【「汚染水流さないで!」】
〝目玉〟のひとつが、吉田町長も挙げたフードコート。「刺身定食」(1800円)はエビやマグロ、スズキ、タイ、サーモンなど請戸漁港で水揚げされた魚を中心とした刺身にご飯とみそ汁、茶わん蒸しがつく。オープン前日には、地元テレビ局が夕方のニュース番組内で生中継して紹介した。
一方、国は原発事故後に大量発生した〝汚染水〟の処分方法について、海に放出するのが現実的として公聴会を開催するなど地ならしを進めている。放射性物質を含む〝汚染水〟を海に流す事と、その海で漁獲された海産物を料理として振る舞う事は共存出来るのだろうか。浪江町の漁業関係者は取材に対し、次のように語った。
「あれをやられたら…汚染水の海洋放出をやられたら、ここはもう駄目ですね。9年かけて、せっかくここまで来たんです。それらが全て元に戻ってしまいます。台無しです。子どもがいる人は嫌でしょう。私も親ですから、汚染水を流されたら子どもに魚を食べさせるのは嫌ですよ。福島県外に避難して行った友人も、『汚染水なんか流されてしまったら大丈夫なのか?』と心配しています」
そして、怒りをぶつけるように、こうも話した。
「汚染水を海に流しても問題無いのなら、全国の海で流せば良いじゃないですか。それをなぜ、福島の海だけに流すんですか?福島でつくられた電気を使っていたのは東京の人たちですよね。私たちが契約しているのは東北電力ですよ。私たちは前を向くしか無いから必死に前を向いて歩いてきました。周囲でも『もう原発の事を言うな』という声が増えて、少しずつ当時の記憶が薄れてきて、それでようやくここまで来たんです。汚染水だけは絶対に駄目です」
「海に流さないで欲しいと書いて下さい。それだけはやめてくださいと。町長には、道の駅のオープニングセレモニーできっぱりと海洋放出反対を口にして欲しいですが…無理でしょうね。様々なしがらみで言えないでしょうね」
その言葉通り、吉田町長は海洋放出反対を明言出来ないのだった。



「道の駅なみえ」は吉田町長らのテープカットで午前10時にオープン。多くの人が列を作った。〝一番乗り〟は前夜22時から並んだという埼玉県の男性。一方、2016年10月から町役場横で営業を続けてきた仮設商店街「まち・なみ・まるしぇ」は、「役目を終えた」として終了した。一部営業を続ける店舗もあるが、来年3月までに順次、店を閉じる見込み
【復興交付金の呪縛】
「まあ、その事はね、ちょっと今の段階ではコメント出来かねるんですが、ただ、非常に悩ましい問題だと思っています」
道の駅の一角で、吉田町長は語った。請戸の魚を道の駅の〝売り〟にするのであれば、首長として海洋放出に明確に反対するべきではないのかと重ねて質問したが、吉田町長は「それは国が決める事。どういう処分方法になるのか注視している段階です」とかわした。
「立場上反対を言いにくい?それはちょっと、コメントを差し控えさせていただきたい。ただ、皆さんに喜んで食べていただけるよう守りたいという想いは強いです」
非常に歯切れの悪い発言に終始した吉田町長。今年2月には、「政府に対し、処理水に関する正確な情報の開示と、国民全体に対する丁寧な説明、そして改めて風評への対策を求めてまいります」などとするメッセージをホームページに掲載した。
町議会は3月議会で「福島第一原子力発電所構内に保管中のトリチウムを含む処理水の海洋放出に反対する決議」を可決。6月議会でも「トリチウム水の処分方法が新たな風評被害を生まないように対策強化を求める意見書」を可決している。しかし、吉田町長は海洋放出反対の姿勢を明確には打ち出していない。
ある町議は「大熊町や双葉町がはっきりと言わないように、浪江町も言えないんですよ。なぜかって?国から金をもらってるからですよ。今後の交付金やら何やらでね。国に首根っこをつかまれてしまっている?そういう事ですよ。それは皆さん分かってるでしょ」と話した。
2014年には、中間貯蔵施設の建設を巡り、当時の石原伸晃環境大臣が「最後は金目でしょ」と発言して後に謝罪したが、復興交付金をちらつかせて原発事故の被害自治体を黙らせる国のやり方は今なお続いている。その意味で、浪江町をはじめとする双葉郡は、まさに〝アンダーコントロール〟なのだった。
(了)
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