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【東日本大震災・原子力災害伝承館】展示内容固まる 「原発PR看板」は実物でなく写真を展示 資料選定過程伏せたまま9月20日に開館

〝原発城下町〟を象徴する看板は、大型写真で展示される事になった。福島県生涯学習課は24日午前、県庁内の会議室で記者レクを行い、9月20日に開館するアーカイブ施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町大字中野高田、高村昇館長)の展示内容について説明した。館内を6つのゾーンに分け、これまでに収集した24万点の資料の中から約150点を常設展示するという。県はどの資料を展示するか選定委員会を開いて話し合ったが議論の内容は伏せたまま。果たして本当に原発事故の被害や教訓を後世に伝える施設になるのか。
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【屋外展示「これから協議」】
 「原子力明るい未来のエネルギー」
 国道6号線とJR常磐線・双葉駅をつなぐ道路に設置されていた原発PR標語の看板。標語を考案した大沼勇治さんは実物そのものの展示を求めていたが、叶わなかった。
 福島県生涯学習課の渡邉賢一課長によると、伝承館の展示は「プロローグ」、「災害の始まり」、「原子力発電所事故直後の対応」、「県民の想い」、「長期化する原子力災害の影響」、「復興への挑戦」の6つのゾーンに分けられるが、看板は「災害の始まり」の中の「事故前の暮らし」で写真展示される。
 「かなり大きな写真で、たて2・7メートル、よこ3・7メートルです。一方で、実物の展示という事で双葉町からも話がありましたが、実物は私も見ましたがかなり大きい。館内での展示は少し厳しいかなと思う。どういう展示が良いのか、屋外展示の可能性について詳細に検討して計画を練り、双葉町と協議したいと考えています」(渡邉課長)
 「収蔵庫での保存」という形で封印されてしまう可能性もあったため、2015年12月の撤去工事前から「撤去反対」「現場保存」を訴えてきた大沼さんは「(看板そのものの扱いは)はっきりしないままで、ある意味、死刑宣告が延びた心境です。『震災10年』を前に幕引きされてしまうと思っていたので、まだ、わずかな可能性が首の皮1枚で繋がっている感じです」とのコメントを寄せた。
 しかし、この看板は、伝承館が集めた24万点の資料には含まれていない(分解して県立博物館で保管中)。屋外展示の方法を模索・検討する時間は十分にあったはずだ。しかし、県はとりあえず写真展示をして看板そのものの展示はこれからじっくり協議をするという。
 今年3月の取材で、県生涯学習課の担当者は「展示スペースの問題や腐食防止処理に時間や費用がかかる事などがネックとなり、オープンと同時に常設展示するのは難しい」と答えているが、そもそも展示に消極的なのではないか。

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福島県生涯学習課が開いた記者レク。配布資料には、双葉町に設置されていた原発PR看板が大型写真で展示される事も盛り込まれた。24万点の資料のうち、150点を常設展示するという

【高村館長の発言「矛盾しない」】
 そもそも、初代館長に就任した高村昇氏は、内堀雅雄知事を表敬訪問した際の囲み取材で「伝承館の一番の主眼はですね、復興のプロセスというものを保存してそれを情報発信していく事じゃ無いかなというふうに考えております。この9年間ですね、福島県民が原発事故に向き合って、最初の時期は大きな混乱があってそれで復興を進めていく、地域を元に戻していく、戻っていく…。そういったプロセスを伝える。それを主眼としたものにしていければなと考えております」と答えている。だとすれば、原発とともに歩んできた歴史を積極的に展示したくないのもうなずける。渡邉課長はしかし、レクで何度も看板の重要性を口にした。
 「当時の資料として大切な物であるという認識はあります。開館にあわせて展示するのか開館後に展示するのか、いろいろ可能性はあると思いますが、あれだけの代物です。建物も6月に完成して(スペースなどに)制約もありますし、しっかり時間をかけて検討するべきという事で今に至っているのです」
 県生涯学習課はさらに、高村館長と県の考える伝承館のコンセプトには矛盾は無いとも強調した。
 「あくまで県としましては、災害の始まりから復興創生までを一連のものとしてご覧いただく。一連の流れをしかり伝えて〝自分事〟として捉えていただくという考え方です」と渡邉課長。同席した職員も「高村館長の発言は、情報発信についてのお答えだったと思うんですよ。県としてはしっかりと伝えていくので矛盾しないと考えています」と話した。
 伝承館では、29人の「語り部」を選考。毎日2~4人が常駐する。36人分の「証言」も上映されるが、既存の語り部団体などから募ったという。「国や県にとって耳の痛い発言だからといってカットする事は無い」と県生涯学習課。また、原発避難に関するコーナーも設けられるが、この「避難」には政府の避難指示が出されなかった区域からのいわゆる〝自主避難〟(区域外避難)も要素として含まれるという。

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JR常磐線・双葉駅から徒歩で30分ほどの場所に感染した「伝承館」。オープン初日にはセレモニーは行わず、日を改めて行う予定という。高村館長は「伝承館の一番の主眼はですね、復興のプロセスというものを保存してそれを情報発信していく事じゃ無いかな」と話しているだけに、「原発事故のリアル」をどれだけ伝えられるかに注目したい

【「議事録公開すると混乱招く」】
 どのような展示内容にするかについては、県は「資料選定検討委員会」を設置し、6人の委員の意見も聴きながら決めたとしている。しかし、委員名や発言内容は現時点で公開されていない。
 朝日新聞は25日付の福島版で「震災伝承館どう展示、議論非公開 議事録黒塗り」と報道。検討委が福島民報や福島民友の編集局長、日本原子力研究開発機構福島研究開発拠点副所長など6人で構成され、2018年10月から今年7月まで6回の委員会が開かれたと報じた。議事録の公開を求めたところ大部分が黒塗りにされたとして、記者レクでも当然、透明性を確保する意思に関する質問が出た。それに対し、渡邉課長は次のように答えた。
 「委員会を非公開にしたのは、資料に個人情報が含まれるという事。未確定の中で外部に公開する事によって誤解や混乱を招く恐れがある事。また、各委員の発言が明らかにされる事で誤解や混乱を招く恐れがある事が理由です。非公開にするという事については委員に話をし、同意をいただいています」
 行政が議事録を公開しない例は多々ある。本紙も2月10日号で【徹底した〝秘密主義〟のベールに包まれる聖火リレー。「ふくしま実行委」の議事録ほぼ全面黒塗り。背景に組織委の意向】と報じた。この時も、黒塗りにする理由は「東京2020オリンピック聖火リレーの県内実施詳細等の審議、検討又は協議に関する情報であって、検討段階の情報を開示することにより、率直な意見交換若しくは意思決定の中立性が損なわれるおそれ、又は、不当に県民等に誤解や混乱を与えるおそれがあるため」だった。「県民等に誤解や混乱を与えるおそれがある」は常套句なのだ。
 議事録は「開館後、すみやかに公開したい」と渡邉課長。果たして入館料600円に見合う充実した内容になっているのか。どのような意見が誰から出されて展示内容が決まったのか。全てがベールに包まれたまま、伝承館は9月20日にオープンする。



(了)
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鈴木博喜

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