【114カ月目の汚染水はいま】「陸上保管を」「公聴会開いて」 市民団体がいわき市で意見交換会 エネ庁担当者「海に流しても影響小さい」「理解得るべく努力続ける」
- 2020/09/05
- 15:32
原発事故後に大量発生している〝汚染水〟の陸上保管を求めている市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」が3日午後、経産省資源エネルギー庁廃炉・汚染水対策官の木野正登参事官との意見交換会を福島県いわき市内で開いた。一般市民向け公聴会の開催や陸上保管を改めて訴えたが、〝汚染水〟の危険性やロンドン条約との整合性、情報公開など考え方に大きな隔たりがあった。2時間以上にわたって海洋放出をしないよう強く求めた市民に対する木野参事官の発言を振り返りながら考えたい。本当に海に流して良いのか。

【除去できぬ63核種】
A4判で31ページにわたるカラーの資料を用意した木野参事官。
この中で「燃料デブリを冷やした水など(汚染水)を処理して(処理水)敷地内のタンクにためている。2022年夏頃には満杯となる見込み」、「廃炉に不可欠な燃料デブリの取り出し、廃棄物の一時保管などのためには敷地内にこのままタンクを増やし続けることができない」と冒頭に説明。タンク貯蔵量は今年5月21日時点で約121万トンで、「原発敷地外に運んだり、敷地外にタンクを作ってためるには関係自治体や住民の理解が不可欠で相当な時間を要する」、「中間貯蔵施設用の土地を中間貯蔵以外の用途に使用することは難しい」などとして、「専門家会議が6年余り検討した結果、海洋放出と水蒸気放出の2つが現実的とされた。「中でも、海洋放出の方が放出設備の取扱いやモニタリングが比較的容易」、「IAEA(国際原子力機関)は、この検討結果を『科学的な分析に基づく』と評価している」とも記述している。
しかし、処理をした後でもトリチウム以外の放射性物質が含まれている事に言及するのは、資料の半分より後の19ページ目だけ。これについて、出席者が「70%が除去出来ていないという事をまず先に言うべきではないか。資料ではトリチウムの事ばかり書かれているが、タンク内にまだ7割の規制基準以上の放射性物質が残っているという事をまず書くべき。これでは『正しい情報』とは言えない」と指摘すると、木野参事官はこう答えた。
「資料の構成上、こうなってしまった。今後、処分をする際には1倍以上のものは二次処理をする。しっかり告示濃度1未満にしたうえで処分をするという事は約束している。順番はともかく、これからもしっかりと説明していきたい。関係者の理解を得るべく、引き続き努力を続ける」
処理後の汚染水には規制基準を超える放射性物質が63核種存在する事は確認出来ており、濃度は基準値の1倍から2万倍まで様々。総量は分からないという。しかし、議会や首長には「2万倍」ではなく「100倍以上」としか説明していないという。
早ければ今月中旬から、基準値の100倍を上回る「処理水」2000トンを再びALPSを通す「二次処理(再浄化)試験」を実施する予定で、早ければ年内にも分析結果を公表する見込みという。「100倍以上の水をまずは2000トン、もう一度ALPSを通す。ゼロにはならないとは思うが、告示濃度1以下に出来ると考えている。もちろん、結果は公表させていただく」




いわき市文化センターで開かれた意見交換会は2時間を超えた。主催した「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんは「汚染水を海に流さないで欲しい」と訴えた
【沖合投棄でなければ良い?】
資料では「タンクの全量」を「860兆ベクレル」と表現しているが、出席者が「東電は、最大で2069兆ベクレルを放出する可能性があると言っている」と指摘した。木野参事官は「建屋に残っているトリチウムもいずれタンクの中に溜まる可能性がある。そうすると最大2000兆ベクレルという事で、そこはわれわれも同じ認識。ただ、必ずしも2069兆ベクレル全てが海に出るかどうかはまだ分からない」と答えるにとどまった。
「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)を挙げながら、「陸上からなら放出して良いというのは本末転倒。倫理的に正しい発想なのか」との声もあがった。同条約は「投棄」を「海洋において…故意に処分すること」と定義している。
木野参事官は「ALPS処理水も放射性物質を含んでいるので沖合で投棄すると国際条約違反になる。原子力施設はどうしても放射性物質が出来てしまう。それを基準値以下にきちんと薄めたうえで処分するというのが別の法律で決められている」と回答。さらに次のように述べた。
「(沖合では無く)陸からであっても、危険な物を流せば海を汚してしまう事になると思う。一方、事業活動上、出てしまうものがある。それを人間への影響が無い範囲、法律上の基準値以下にする事が大事なんだと思う。その基準は必ず守る。処分する際は必ず基準値以下になっている事を確認する。そこはお約束をする。基準値以上のものを処分する事は無い」
一方で「基準値以下のものであっても、沖合に持って行って投棄する事は条約違反になってしまう」、「沖合での投棄が禁じられているからといって『ALPS処理水は危険なものだ』という発想では無い」と理解に苦しむ発言も。
「リスクはもちろんゼロでは無いが、影響は極めて小さいものであるという正確な情報を発信する事、しっかりと国民の皆様に伝えていく事が風評の抑制につながり、福島のためになるとわれわれは考えている」
パブリックコメントの募集は期限が3回延長されたが、最終的に4011件の意見が寄せられたという。
「コロナ禍に乗じて汚染水の処分方法を決定するのはやめてもらいたい。必ずパブコメを政策決定に反映させていただきたい。県内59市町村での公聴会をぜひ積極的に開いていただきたい。私たち市民も関係者です」と出席者が訴えると、木野参事官は「パブコメは集計中で、発表の仕方も含めて検討する。いただいたご意見も含めて総合的に判断する。住民への説明会を今後、どのように行うかは本省とも相談しつつ決定したい」と明言を避けた。




経産省資源エネルギー庁廃炉・汚染水対策官の木野正登参事官が一つ一つの質問や意見に答えた。言葉はていねいだったが、一貫して「海に流しても問題無い」との基本姿勢。「影響は極めて小さいものであるという正確な情報を発信する事が風評の抑制につながり、福島のためになると考えている」とも述べた
【タンク無くせば復興?】
「これ以上海を汚すな!市民会議」は4月21日、環境中への放出に明確に反対する事などを求めた要請書を福島県の内堀雅雄知事に提出している。
共同代表の織田千代さんは会の冒頭、「国は自治体などに向けた意見を聴く会を開いておりますが、この福島であの事故を経験し、事故後の福島に生活している一般市民からの意見をぜひ聴いていただきたいと思いました」と会の趣旨を説明した。
「汚染水を溜めたタンクを目の前から無くせば事故前の生活に戻れると本当に納得し、故郷の復興が叶うと考えている人がどのくらいいるのでしょう。これまでの政府のやり方は先日、放射性廃棄物の最終処分地に名乗りを挙げた北海道寿都町の例のように、札束を目の前に積み上げるような、あからさまで強引なやり方だと感じます。〝復興〟という名でそのように話を進めようとするのは私にはまやかしにしか見えません」
「人がつくった基準値以下だからといって汚染水を海に流さないで欲しい。原発事故の拡大がこれからも続く事を意味する。事故の影響の歯止めが無くなる事だと私は思う。事故の影響がこれ以上広がらないような方向で努力して欲しい。原発事故で失ったものの一つは政府への信頼。そこを信じられれば皆で協力して前に進めると思う」
出席した女性からは、こんな声もあった。
「私は難しい事は分からないが海はずっとつながっている。なぜ陸から流すのが条約違反にならず、沖合なら違反なのか。そもそも基準値以下に出来るのか心配。汚染水には何がどれくらい含まれるのか。住民に分かるように伝えて欲しい。隠さず教えて欲しい。隠さないでください」
別の女性は「今日は、私たちの想いとずいぶん齟齬があると感じた。これを一つ一つ埋めない限り、理解してくれと言われても出来ない。ぜひとも県内での公聴会を開いていただきたい」と訴えた。
2時間を超える意見交換会は、次の言葉で締めくくられた。
「今日は私たちの口からは、一言も『風評被害』という言葉が出なかった。それは風評被害だとは全く思っていないから。全て実害だと考えているから。その事をきちんと考えて欲しい」
(了)

【除去できぬ63核種】
A4判で31ページにわたるカラーの資料を用意した木野参事官。
この中で「燃料デブリを冷やした水など(汚染水)を処理して(処理水)敷地内のタンクにためている。2022年夏頃には満杯となる見込み」、「廃炉に不可欠な燃料デブリの取り出し、廃棄物の一時保管などのためには敷地内にこのままタンクを増やし続けることができない」と冒頭に説明。タンク貯蔵量は今年5月21日時点で約121万トンで、「原発敷地外に運んだり、敷地外にタンクを作ってためるには関係自治体や住民の理解が不可欠で相当な時間を要する」、「中間貯蔵施設用の土地を中間貯蔵以外の用途に使用することは難しい」などとして、「専門家会議が6年余り検討した結果、海洋放出と水蒸気放出の2つが現実的とされた。「中でも、海洋放出の方が放出設備の取扱いやモニタリングが比較的容易」、「IAEA(国際原子力機関)は、この検討結果を『科学的な分析に基づく』と評価している」とも記述している。
しかし、処理をした後でもトリチウム以外の放射性物質が含まれている事に言及するのは、資料の半分より後の19ページ目だけ。これについて、出席者が「70%が除去出来ていないという事をまず先に言うべきではないか。資料ではトリチウムの事ばかり書かれているが、タンク内にまだ7割の規制基準以上の放射性物質が残っているという事をまず書くべき。これでは『正しい情報』とは言えない」と指摘すると、木野参事官はこう答えた。
「資料の構成上、こうなってしまった。今後、処分をする際には1倍以上のものは二次処理をする。しっかり告示濃度1未満にしたうえで処分をするという事は約束している。順番はともかく、これからもしっかりと説明していきたい。関係者の理解を得るべく、引き続き努力を続ける」
処理後の汚染水には規制基準を超える放射性物質が63核種存在する事は確認出来ており、濃度は基準値の1倍から2万倍まで様々。総量は分からないという。しかし、議会や首長には「2万倍」ではなく「100倍以上」としか説明していないという。
早ければ今月中旬から、基準値の100倍を上回る「処理水」2000トンを再びALPSを通す「二次処理(再浄化)試験」を実施する予定で、早ければ年内にも分析結果を公表する見込みという。「100倍以上の水をまずは2000トン、もう一度ALPSを通す。ゼロにはならないとは思うが、告示濃度1以下に出来ると考えている。もちろん、結果は公表させていただく」




いわき市文化センターで開かれた意見交換会は2時間を超えた。主催した「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんは「汚染水を海に流さないで欲しい」と訴えた
【沖合投棄でなければ良い?】
資料では「タンクの全量」を「860兆ベクレル」と表現しているが、出席者が「東電は、最大で2069兆ベクレルを放出する可能性があると言っている」と指摘した。木野参事官は「建屋に残っているトリチウムもいずれタンクの中に溜まる可能性がある。そうすると最大2000兆ベクレルという事で、そこはわれわれも同じ認識。ただ、必ずしも2069兆ベクレル全てが海に出るかどうかはまだ分からない」と答えるにとどまった。
「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)を挙げながら、「陸上からなら放出して良いというのは本末転倒。倫理的に正しい発想なのか」との声もあがった。同条約は「投棄」を「海洋において…故意に処分すること」と定義している。
木野参事官は「ALPS処理水も放射性物質を含んでいるので沖合で投棄すると国際条約違反になる。原子力施設はどうしても放射性物質が出来てしまう。それを基準値以下にきちんと薄めたうえで処分するというのが別の法律で決められている」と回答。さらに次のように述べた。
「(沖合では無く)陸からであっても、危険な物を流せば海を汚してしまう事になると思う。一方、事業活動上、出てしまうものがある。それを人間への影響が無い範囲、法律上の基準値以下にする事が大事なんだと思う。その基準は必ず守る。処分する際は必ず基準値以下になっている事を確認する。そこはお約束をする。基準値以上のものを処分する事は無い」
一方で「基準値以下のものであっても、沖合に持って行って投棄する事は条約違反になってしまう」、「沖合での投棄が禁じられているからといって『ALPS処理水は危険なものだ』という発想では無い」と理解に苦しむ発言も。
「リスクはもちろんゼロでは無いが、影響は極めて小さいものであるという正確な情報を発信する事、しっかりと国民の皆様に伝えていく事が風評の抑制につながり、福島のためになるとわれわれは考えている」
パブリックコメントの募集は期限が3回延長されたが、最終的に4011件の意見が寄せられたという。
「コロナ禍に乗じて汚染水の処分方法を決定するのはやめてもらいたい。必ずパブコメを政策決定に反映させていただきたい。県内59市町村での公聴会をぜひ積極的に開いていただきたい。私たち市民も関係者です」と出席者が訴えると、木野参事官は「パブコメは集計中で、発表の仕方も含めて検討する。いただいたご意見も含めて総合的に判断する。住民への説明会を今後、どのように行うかは本省とも相談しつつ決定したい」と明言を避けた。




経産省資源エネルギー庁廃炉・汚染水対策官の木野正登参事官が一つ一つの質問や意見に答えた。言葉はていねいだったが、一貫して「海に流しても問題無い」との基本姿勢。「影響は極めて小さいものであるという正確な情報を発信する事が風評の抑制につながり、福島のためになると考えている」とも述べた
【タンク無くせば復興?】
「これ以上海を汚すな!市民会議」は4月21日、環境中への放出に明確に反対する事などを求めた要請書を福島県の内堀雅雄知事に提出している。
共同代表の織田千代さんは会の冒頭、「国は自治体などに向けた意見を聴く会を開いておりますが、この福島であの事故を経験し、事故後の福島に生活している一般市民からの意見をぜひ聴いていただきたいと思いました」と会の趣旨を説明した。
「汚染水を溜めたタンクを目の前から無くせば事故前の生活に戻れると本当に納得し、故郷の復興が叶うと考えている人がどのくらいいるのでしょう。これまでの政府のやり方は先日、放射性廃棄物の最終処分地に名乗りを挙げた北海道寿都町の例のように、札束を目の前に積み上げるような、あからさまで強引なやり方だと感じます。〝復興〟という名でそのように話を進めようとするのは私にはまやかしにしか見えません」
「人がつくった基準値以下だからといって汚染水を海に流さないで欲しい。原発事故の拡大がこれからも続く事を意味する。事故の影響の歯止めが無くなる事だと私は思う。事故の影響がこれ以上広がらないような方向で努力して欲しい。原発事故で失ったものの一つは政府への信頼。そこを信じられれば皆で協力して前に進めると思う」
出席した女性からは、こんな声もあった。
「私は難しい事は分からないが海はずっとつながっている。なぜ陸から流すのが条約違反にならず、沖合なら違反なのか。そもそも基準値以下に出来るのか心配。汚染水には何がどれくらい含まれるのか。住民に分かるように伝えて欲しい。隠さず教えて欲しい。隠さないでください」
別の女性は「今日は、私たちの想いとずいぶん齟齬があると感じた。これを一つ一つ埋めない限り、理解してくれと言われても出来ない。ぜひとも県内での公聴会を開いていただきたい」と訴えた。
2時間を超える意見交換会は、次の言葉で締めくくられた。
「今日は私たちの口からは、一言も『風評被害』という言葉が出なかった。それは風評被害だとは全く思っていないから。全て実害だと考えているから。その事をきちんと考えて欲しい」
(了)
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