【県民健康調査】子どもの肺炎、母親のうつ…。「甲状腺ガン」だけじゃない原発事故の影響~「縮小」ではなく幅広い調査こそ必要
- 2016/09/15
- 08:54
原発事故後、甲状腺ガンの有無を調べている「県民健康調査」の第24回検討委員会が14日午後、福島市内で開かれた。6月30日現在、甲状腺ガンの手術を受けたのは計136人。検査方法の「縮小」に関しては、否定的な意見が相次いだ。一方、肺炎など感染症で子どもが入院していることも報告され、母親のうつ傾向も明らかになった。チェルノブイリ原発事故後、精神疾患が増えたとの指摘も。求められるのは健康調査の「縮小」ではなく「拡大」だ。他の疾患も含め、幅広い調査を展開することが、放射線被曝から子どもたちを守ることにつながる。
【「肺炎」、「RSウイルス感染症」で入院】
検討委で報告された資料によると、妊産婦に対するフォローアップ調査は2015年9月から今年5月にかけて福島県立医科大学が実施。2010年8月から2012年4月の間に出産し、2011年度に実施された「妊産婦に関する調査」に回答した7252人に対して調査票を郵送。35.2%にあたる2554人から回答を得た。
注目すべきは、質問項目(6)の「お子様はこれまでに入院を要した病気にかかったことがありますか?」。
「はい」と答えたのは24.7%にあたる632人。具体的には106の病名が挙げられたが、「肺炎」が最も多く162。次いで「RSウイルス感染症」101、「気管支炎」60、「けいれん」47、「ロタウイルス感染症」44、「胃腸炎」41、「気管支ぜんそく」41、「川崎病」32、「鼡径ヘルニア」13、「ノロウイルス胃腸炎」12、「アデノウイルス感染症」11、「気管支肺炎」11の順だった(複数回答あり)。疾患と放射線との関連について、福島県立医大は言及していない。
自身の心の状態に関する設問で「うつ状態」と判定された母親は、25.6%。2011年度の調査では27.1%だったため微減だった。質問項目(5)で「放射線の影響について不安なこと」として、あてはまるすべての項目にチェックを入れてもらったところ「子どもの健康」が最も多く79.5%。次いで「食品」、「偏見」、「水」、「子どもの外遊び」、「遺伝的な影響」の順だった。
自由記載欄には383人が想いを綴ったが、「胎児や子どもへの放射線の影響」を懸念する内容が最も多かった。本調査への賛否や甲状腺検査への要望もあったが、「外出や外遊びに対する放射線の影響」や「母親自身の精神的不調」を訴えるもの、「離乳食や食べ物への放射線の影響」を心配する内容も少なくなかった。
2012年度の調査回答者に対しても今後、同様のフォローアップ調査を実施するという。

母親への調査では、子どもの入院を要する疾患のトップは「肺炎」だった。原発事故の健康への影響は、甲状腺ガンだけでなく幅広く調べる必要がある(第24回県民健康調査検討委員会「資料4‐2」より)
【「白血病など他の疾患も検査を」】
検討委では、これまでに福島県庁や福島県立医大のコールセンターなどに寄せられた10万件を超える「県民の声」の一部も示された。
「原発事故後に生まれた子どもも甲状腺検査をして欲しい」、「福島県外で、いつでも甲状腺検査を受けられるようにして欲しい」という意見や「自分に非が無いのに(検査会場までの)交通費が自己負担なのはおかしい」、「関東も放射性物質が多く飛んでいるのだから、他の地域も甲状腺検査をするべき」などの声があった。「検討委の資料が分かりにくい」、「検討委を土日に開いて欲しい」という意見もあった。この日の会合を傍聴した女性は「仕事を休んで避難先の山形県から駆け付けた。平日の日中に委員会を開くのはやめて欲しい」と話した。
県民健康調査検討委員会の甲状腺検査評価部会が「甲状腺検査に関する中間取りまとめ」の中で「これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ないこと、事故当時 5 歳以下からの発見はないことなどから、放射線の影響とは考えにくい」と評価している事に関しては「放射線の影響を念頭に置いて検査をするべき」、「放射線の影響がない、という結論ありきだ」などの意見が寄せられた。
原発事故の健康への影響に関しては甲状腺ガンばかりが注目されているが「白血病や白内障など他の疾患についても検査するべきだ」との声も。妊産婦への調査では「入院を要する疾患」が問われたが、「全身の倦怠感」や「足の痛み」など病名のつかない症状がチェルノブイリ原発事故では確認されている。検討委を傍聴した広河隆一さん(月刊フォトジャーナリズム誌「DAYS JAPAN」発行人)は「甲状腺だけでなく幅広い調査が必要だ」と語った。検討委でも、清水一雄委員(金地病院名誉院長)が「うつ状態の方が多い。チェルノブイリ原発事故では明らかに精神疾患が多い」と述べ、心身両面での調査やケアの必要性を訴えた。

「チェルノブイリ原発事故では明らかに精神疾患が多い」と語り、子育て中の母親のうつ傾向に着目した清水一雄委員=福島市・杉妻会館
【「今後も継続した調査が必要」】
今年6月30日現在、甲状腺検査で手術を受けたのは計136人。甲状腺検査の「縮小」を地元紙が報じたことや福島県小児科医会が「甲状腺検査が健康不安を生じさせている」などとして検査を見直すよう福島県に要望したことなどを受け、福島県医師会副会長でもある検討委の星北斗座長(星総合病院理事長)は委員から意見を聴取。「縮小」には否定的な意見が目立った。
清水一雄委員は「まだ5年半。これから、しっかりとした検査が必要となる。縮小の議論をするのは妥当ではない」。春日文子委員(国立環境研究所特任フェロー)も「5年10年と見て行かないと放射線の影響は判断できない。検討委として痛みを伴いながらも検査の必要性を県民に訴えていくべきだ」と語った。清水修二委員(福島大学特任教授)は「『必要ない手術か否か』など分からないと思う」と検査見直しに否定的。双葉郡医師会長の堀川章仁委員も「チェルノブイリ原発事故では5年後から甲状腺ガンが増えたことを踏まえて、今後も継続した調査が必要。他の疾患もある」と語った。
高村昇委員(長崎大学教授)は「福島とチェルノブイリにおける甲状腺ガンの発症パターンが異なる」と資料を配って説明。「一つの参考資料として提示した」と語ったが、チェルノブイリのデータが10年分なのに対し、福島のデータが5年分と単純比較できないことや、「むしろチェルノブイリの傾向からは、原発事故から15年経ってもガンが発症していることになる」などの指摘が委員から続出。「甲状腺通信」の中で高村委員が「放射線による被ばくの影響とは判断することはできません」と書いていることに関しても「論理的に矛盾がある。今後長く見て行かないと被曝の影響かどうか分からない、とするべきだ」などと厳しい意見があった。
星座長は、会合後の会見で「縮小とは一言も言っていない。見直しに着手したということではない。ここで結論を出すわけでは無いが、議論は避けるべきではない」と語ったが、取材陣からは「同意書から『検査を受けることをお勧めします』という文言が削除されたのはなぜか」、「自分に批判的なメディアの取材を拒否するのはおかしい」などと指摘が相次いだが、明確は回答は無かった。怒号も飛び交った会見は「会場の都合がある」と県職員が17時で打ち切った。
(了)
【「肺炎」、「RSウイルス感染症」で入院】
検討委で報告された資料によると、妊産婦に対するフォローアップ調査は2015年9月から今年5月にかけて福島県立医科大学が実施。2010年8月から2012年4月の間に出産し、2011年度に実施された「妊産婦に関する調査」に回答した7252人に対して調査票を郵送。35.2%にあたる2554人から回答を得た。
注目すべきは、質問項目(6)の「お子様はこれまでに入院を要した病気にかかったことがありますか?」。
「はい」と答えたのは24.7%にあたる632人。具体的には106の病名が挙げられたが、「肺炎」が最も多く162。次いで「RSウイルス感染症」101、「気管支炎」60、「けいれん」47、「ロタウイルス感染症」44、「胃腸炎」41、「気管支ぜんそく」41、「川崎病」32、「鼡径ヘルニア」13、「ノロウイルス胃腸炎」12、「アデノウイルス感染症」11、「気管支肺炎」11の順だった(複数回答あり)。疾患と放射線との関連について、福島県立医大は言及していない。
自身の心の状態に関する設問で「うつ状態」と判定された母親は、25.6%。2011年度の調査では27.1%だったため微減だった。質問項目(5)で「放射線の影響について不安なこと」として、あてはまるすべての項目にチェックを入れてもらったところ「子どもの健康」が最も多く79.5%。次いで「食品」、「偏見」、「水」、「子どもの外遊び」、「遺伝的な影響」の順だった。
自由記載欄には383人が想いを綴ったが、「胎児や子どもへの放射線の影響」を懸念する内容が最も多かった。本調査への賛否や甲状腺検査への要望もあったが、「外出や外遊びに対する放射線の影響」や「母親自身の精神的不調」を訴えるもの、「離乳食や食べ物への放射線の影響」を心配する内容も少なくなかった。
2012年度の調査回答者に対しても今後、同様のフォローアップ調査を実施するという。

母親への調査では、子どもの入院を要する疾患のトップは「肺炎」だった。原発事故の健康への影響は、甲状腺ガンだけでなく幅広く調べる必要がある(第24回県民健康調査検討委員会「資料4‐2」より)
【「白血病など他の疾患も検査を」】
検討委では、これまでに福島県庁や福島県立医大のコールセンターなどに寄せられた10万件を超える「県民の声」の一部も示された。
「原発事故後に生まれた子どもも甲状腺検査をして欲しい」、「福島県外で、いつでも甲状腺検査を受けられるようにして欲しい」という意見や「自分に非が無いのに(検査会場までの)交通費が自己負担なのはおかしい」、「関東も放射性物質が多く飛んでいるのだから、他の地域も甲状腺検査をするべき」などの声があった。「検討委の資料が分かりにくい」、「検討委を土日に開いて欲しい」という意見もあった。この日の会合を傍聴した女性は「仕事を休んで避難先の山形県から駆け付けた。平日の日中に委員会を開くのはやめて欲しい」と話した。
県民健康調査検討委員会の甲状腺検査評価部会が「甲状腺検査に関する中間取りまとめ」の中で「これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ないこと、事故当時 5 歳以下からの発見はないことなどから、放射線の影響とは考えにくい」と評価している事に関しては「放射線の影響を念頭に置いて検査をするべき」、「放射線の影響がない、という結論ありきだ」などの意見が寄せられた。
原発事故の健康への影響に関しては甲状腺ガンばかりが注目されているが「白血病や白内障など他の疾患についても検査するべきだ」との声も。妊産婦への調査では「入院を要する疾患」が問われたが、「全身の倦怠感」や「足の痛み」など病名のつかない症状がチェルノブイリ原発事故では確認されている。検討委を傍聴した広河隆一さん(月刊フォトジャーナリズム誌「DAYS JAPAN」発行人)は「甲状腺だけでなく幅広い調査が必要だ」と語った。検討委でも、清水一雄委員(金地病院名誉院長)が「うつ状態の方が多い。チェルノブイリ原発事故では明らかに精神疾患が多い」と述べ、心身両面での調査やケアの必要性を訴えた。

「チェルノブイリ原発事故では明らかに精神疾患が多い」と語り、子育て中の母親のうつ傾向に着目した清水一雄委員=福島市・杉妻会館
【「今後も継続した調査が必要」】
今年6月30日現在、甲状腺検査で手術を受けたのは計136人。甲状腺検査の「縮小」を地元紙が報じたことや福島県小児科医会が「甲状腺検査が健康不安を生じさせている」などとして検査を見直すよう福島県に要望したことなどを受け、福島県医師会副会長でもある検討委の星北斗座長(星総合病院理事長)は委員から意見を聴取。「縮小」には否定的な意見が目立った。
清水一雄委員は「まだ5年半。これから、しっかりとした検査が必要となる。縮小の議論をするのは妥当ではない」。春日文子委員(国立環境研究所特任フェロー)も「5年10年と見て行かないと放射線の影響は判断できない。検討委として痛みを伴いながらも検査の必要性を県民に訴えていくべきだ」と語った。清水修二委員(福島大学特任教授)は「『必要ない手術か否か』など分からないと思う」と検査見直しに否定的。双葉郡医師会長の堀川章仁委員も「チェルノブイリ原発事故では5年後から甲状腺ガンが増えたことを踏まえて、今後も継続した調査が必要。他の疾患もある」と語った。
高村昇委員(長崎大学教授)は「福島とチェルノブイリにおける甲状腺ガンの発症パターンが異なる」と資料を配って説明。「一つの参考資料として提示した」と語ったが、チェルノブイリのデータが10年分なのに対し、福島のデータが5年分と単純比較できないことや、「むしろチェルノブイリの傾向からは、原発事故から15年経ってもガンが発症していることになる」などの指摘が委員から続出。「甲状腺通信」の中で高村委員が「放射線による被ばくの影響とは判断することはできません」と書いていることに関しても「論理的に矛盾がある。今後長く見て行かないと被曝の影響かどうか分からない、とするべきだ」などと厳しい意見があった。
星座長は、会合後の会見で「縮小とは一言も言っていない。見直しに着手したということではない。ここで結論を出すわけでは無いが、議論は避けるべきではない」と語ったが、取材陣からは「同意書から『検査を受けることをお勧めします』という文言が削除されたのはなぜか」、「自分に批判的なメディアの取材を拒否するのはおかしい」などと指摘が相次いだが、明確は回答は無かった。怒号も飛び交った会見は「会場の都合がある」と県職員が17時で打ち切った。
(了)
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