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【原発避難者から住まいを奪うな】ここにも「自助」? 3団体が緊急提言も復興庁は実態調査拒否~独自アンケートで見えてきた「原発避難」「コロナ禍」の二重苦

復興庁の「NO」に菅政権の「自助」がにじみ出ていた。「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)、「『避難の権利』を求める全国避難者の会」、「避難の協同センター」の3団体が実施した緊急アンケート調査の結果を受け9月18日、復興庁に緊急提言を提出した。避難者の生活実態調査を行うよう求めたが復興庁は拒否。実態把握も支援も民間任せ、避難者の生活実態が把握されないまま原発事故から丸10年を迎えようとしている。3団体はアンケートに回答した人々を継続してフォローし、支援して行く方針。〝復興五輪〟強行の陰で切り捨ては着実に進んでいる。
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【「福島県の意思尊重」】
 「アンケート調査の結果は重く受け止めさせていただきます。一般論として申し上げますと、避難者の方々の実態調査につきましてはこれまで、福島県が復興支援員等を活用して相談対応を行う中で実態を把握して来たという経緯があったかと思います。今回新型コロナウイルスの感染拡大があってなかなか自分たちで訪問出来ないという実態がある事も今回、伺いました。災害公営住宅の見守りサービスですとか、孤立という問題に対しては訪問出来ないという面もあったと聞いております。福島県は電話やスカイプなどを活用した相談対応などをしていると聞いております。われわれもそういったものを活用しながら、見守り支援や相談対応を行って参りたい」
 復興庁被災者支援班の男性官僚は言葉遣いこそていねいだったものの、国による原発避難者生活実態調査には前向きな答えをしなかった。同席した福島瑞穂社民党党首(参院議員)が業を煮やして「実態調査をやって欲しい、というのはどうでしょうか。福島県内の避難者も大変だけれども、福島県外の避難者も大変なんですよね。実態調査はいかがでしょうか」と求めたが、言葉遣いがていねいなだけで、復興庁の基本姿勢は変わらなかった。
 「この場でなかなかお答えしにくい部分もあるんですけれども、実態調査といいますか、避難者の方々が抱える生活上の課題は様々あろうか思います。それをきちんと把握していくというのは、先生おっしゃるように本当に重要な事だと思います。これまで福島県が相談対応する中で逐一そういったものを把握して、それを施策に活かしていただいていると思う一方で、国が責任をもってやるべきではないかというご意見だったかと思います。これまで福島県とは住民に身近なところで支援をやっていただいて、国はそれを財政的にバックアップするというような…。引き続き、福島県の意思を尊重しながら生活支援に向けてわれわれも取り組んで参りたいと考えているところです」
 国としては実態調査をやらないが、福島県がやるなら支援する。しかし福島県もやらない。この繰り返し。当事者の生活実態を調べない空疎な〝避難者支援策〟が行われるという異常事態がこれからも続く。

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アンケートの結果を受けて復興庁に提出された緊急提言。復興庁の若手官僚(右)は頭を下げながら受け取ったが、取材に対しても「復興庁主体の実態調査? 正直に申し上げて、現時点では難しい」と否定した

【「施策検証の意味でも必要」】
 この日は政府交渉では無く緊急提言との位置付け。しかも若手官僚に想いをぶつける事の出来る時間は40分ほどしか無い。出席者たちは限られた時間で実態調査をした上での救済を求めた。当事者の生活実態を調べもせずに、苦しんでいる人々を救う事など出来ないからだ。実態調査をする事で、これまでの〝避難者支援策〟が適切だったか否かの検証も出来る。「避難の協同センター」世話人の熊本美彌子さん(福島県田村市から都内に避難継続中)は、次のように訴えた。
 「2017年3月末で区域外避難者の住宅無償提供が打ち切られた後、どのような実態になっているのか、私たち自身も分からないし、国も調査をなさらなかった。福島県が行ったのは意向調査であって、希望を聴いているというのが主眼だったんです。そういう事ではなくて、自分たちの施策がどういう影響をもたらしたのか、きちんと調査すべきだと思うんです。施策は避難者たちを救う事になったのかという点検をすべきだと思います。復興大臣が替わると『26の相談拠点全て巡りました』とおっしゃるが、対応は拠点によってバラバラ。委託されている団体の能力によっても対応が異なる。きちんと把握する必要が復興庁にはあると思います。ぜひ実態調査をやっていただきたい」
 「福島原発かながわ訴訟」原告団長の村田弘さん(南相馬市小高区から神奈川県横浜市に避難継続中)も「決定的に欠けているのが、避難者の生活状況がどうなっているのかという事。そういう調査は今まで1回もされていないですよ。その中で住宅無償提供が次々と打ち切られていった。今年の4月以降は帰還困難区域の住宅提供すら打ち切られているわけです。避難者がどこでどういう生活をしているのか、という事をきっちりととらえる必要が絶対にあると思います。しかも、間もなく10年ですから。次の事を考える意味でも、きちんとした調査をやろうと思えば出来るはずですから、生活実態に踏み込んだ調査を国としてやっていただきたい。よろしくお願いしたい」と求めたが、官僚たちは熱心にメモをとるばかり。終了後、復興庁被災者支援班の男性官僚は取材に対し、こう答えた。
 「復興庁が主体となって実態調査を行う? 正直に申し上げまして、現時点では難しいです」

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今回だけでは無い。避難当事者たちは何年にもわたって避難者の生活実態調査を国の責任で行うよう求めて来た。ここまでくると、国は実態調査を「やらない」のではなく「やりたくない」のだろう

【「今こそアウトリーチを」】
 3団体は5月末から8月末まで、インターネット上での緊急アンケートを実施。有効回答数は95と決して多くなかったが、支援打ち切りと新型コロナウイルスの二重苦にあえぐ避難者の一端が見えた(調査結果のPDFファイルはこちら)。
 復興庁への提言提出後に開かれた記者会見で、「避難の協同センター」事務局長・瀬戸大作さんは「問題なのは、避難する前後での収入減と支出増の関係です。以前の新潟県の調査で言うと、月平均で収入が10万円減少していて、支出は2万6000円増えているという傾向があります。家賃の支払いが苦しくなった避難者もいます。収入に占める家賃負担の比率は低くて40%くらい。50%を超える人もいました。一般的に30%を超えると〝限界ベース〟と呼ばれますから、明らかに比率が高いという傾向が出てしまっています。家賃補助打ち切りが追い打ちをかけた事が自由回答欄への記述からも分かります。国や福島県の〝避難者支援〟は本当に正しかったのでしょうか」と語った。
 自由回答欄には「相談相手がいない」との記述もあった。村田さんは「これは本当に悲鳴そのものだ」と語る。会見で瀬戸さんは行政が困っている人に積極的に手を差し伸べる「アウトリーチ」の重要性を口にした。
 「離婚などで家族関係が壊れると相談相手がいなくなります。SOSを受けて僕らが電話をすると、まず言われるのが『こういう話を久しぶりに出来て良かった』という事です。具体的な要望についてはあまり語られません。『話を聴いてくれる人がいてうれしかったです』、『また電話して良いですか』と。だから、アウトリーチをやって欲しいんです。アウトリーチをする中で、何度か会話をする中から本当の苦境が分かってくるんです」
 瀬戸さんは「アンケートでは表面的な事しか分からなくて、やり取りの中で分かってきます。戸別訪問を早期に再開して欲しいです。確かに感染症のリスクはあります。でも、苦しんでいる人がこれだけいるなかで、誰かが行かなきゃ実態が分からない。僕らだって炊き出しをやって初めて分かるんです。戸別訪問をやめたら避難者が孤立するのは当たり前じゃないですか」とも訴えた。
 3団体は今後、アンケートに回答を寄せた人に改めてメールを送り、その後の状況を追跡していく。アンケートへの回答が少ないのは「アンケートで窮状を訴えたって何もしてくれないじゃないか」という不信感やあきらめもあるという。3団体が連携してフォローする事でそういう想いを払拭する狙いもある。
 なぜ国も福島県も実態調査に応じないのか。村田さんはこう分析している。
 「原発避難者の実態が分かってしまったら救済しなければならなくなってしまうからではないか。実際はどうなのか調べちゃうと支援策と生活実態との差が歴然としてしまうからやらないのでしょう」
 復興大臣は就任するたびに「現場主義」を口にする。しかし、実態調査はやらない。本当の「現場」は避難者一人一人の日々の生活にある。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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