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【東日本大震災・原子力災害伝承館】〝語り部問題〟が浮き彫りにした「53億円のハリボテ」 本音話せぬ語り部、原発事故のホント伝えぬ福島県

「伝承館」が開館して間もなく10日。26日には菅義偉首相が来館したが、朝日新聞やテレビユー福島が報じた〝語り部問題〟は〝ハリボテ〟ぶりを浮き彫りにした。知事会見や県議会で〝口演規制〟に疑問の声が上がったものの、内堀雅雄知事は自身の見解を語らず、文化スポーツ局長も空疎な答弁に終始した。語り部の1人は「口演内容について直接、制限された事は無い」とながらも、「常に監視されているから言いたい事は話せない」と明かす。53億円もの巨費で建てられた「伝承館」。このままでは「何も伝えないのに無駄に立派な施設」で終わってしまう。
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【「生々しい話をしたい」】
 「ニュースになっている事は知っています。ただ私個人は直接、国や東電を批判するなと言われた事はありません。語り部研修の中でグループ分けをした時、どこかのグループでそういう話が出たようです」
 伝承館「語り部」の1人は、そう前置きした上で胸に秘めている想いを口にした。口演内容を直接、規制されていなくても、本当に伝えたい事は話せないという。 
 「そりゃ言いたい事はいっぱいありますよ。はっきり言って、国も県もやってる事はメチャクチャじゃないですか。近々、福島県外から被災地見学に来る団体があるのでバスガイドのような形でで案内する事になっています。その時は全部しゃべりますよ。3、4時間フルに使ってね。バスの中では話せるけれど伝承館ではしゃべれないのが現実なんです。そこは問題だと思いますよ」
 なぜ伝承館では率直に語れないのか。来館者に当事者の生々しい口演を聴いてもらい、帰って家族などに伝えてもらう。それも伝承館の大きな役割のはずだ。
 「それは、スタッフに常に監視されているからですよ。だから、初めから自分で抑えてしまっているんです。はっきり言って半分は我慢してますよ。いや、話せているのは言いたい事の3分の1くらいかな。全部なんか到底話せません。原発事故後のドロドロした生々しい話を本当は語りたいんですけどね」
 原発事故後の9年半を当事者が振り返れば当然、厳しい言葉になる。それは誹謗中傷とは違うだろう。
 「五輪なんかやってる場合じゃ無いけど、仮にやるとしてなんで聖火ランナーがあんな所を走るのよ。浪江に至っては水素工場だよ。馬鹿にしてるよ。そういう事を本当は言いたいんです。菅首相が先日、伝承館を訪れたけど、あの展示物を観たって何にもならないよ。そもそも、被曝リスクは心配無いってずっと言ってた人、新聞(福島民報)で連載してた人が何で伝承館の館長なんですか。自分を押し殺してるっていうのはそういう事ですよ」

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語り部の口演中、まるで〝監視〟しているかのように常に伝承館スタッフが語り部を見つめている。一方、館内で配布されているリーフレットでは、来館者に「口演の撮影及び録音、SNSへの投稿はお断りしております」と求めている

【「担当部局に確認して」】
 〝語り部問題〟は、朝日新聞が23日付社会面トップで「語り部が話す内容について、国や東電を含む『特定の団体』の批判をしないよう求めている」と報じた。地元テレビ局・テレビユー福島も今年の7月と8月に行われた語り部研修会のマニュアルを入手。24日に「語り部が話す内容について、『特定の団体、個人などへの批判、誹謗中傷』を含めないように求めていた」、「県の生涯学習課は、特定の団体に国や東電も含まれるとした」と報じた。
 これを受け、28日午前の知事会見では両社から質問が相次いだ。だが内堀知事はどの質問に対しても正面から答える事はせず、相変わらずの〝のらりくらり〟。特に朝日新聞記者とのやり取りは酷かった。事前に用意した答えを棒読みするだけ。全くかみ合っていなかった。
 朝日「伝承館と機構が作成した語り部のマニュアルで、特定の団体や個人への批判というものを禁じている。その理由を知事から教えてください」
 知事「伝承館におきましては、震災と原発事故の記録と教訓を後世に伝えていくために実物の資料や映像による展示に加えて実際に震災と原発事故を体験された語り部の皆さんによる口演を行う事としております。語り部による口演では語り部の方が自らの経験を通して災害の記憶やその時々の想いを伝えていただく事としております。語り部によって来館者の方」、特に震災・原発事故を経験しておられない若い世代の方や他県の方にもより身近に自分事として感じてもらうための取り組みであります」

 朝日「すみません。マニュアルで特定の団体や個人への批判を禁じている理由をお聞かせください」
 知事「マニュアルの個別の内容については担当部局に確認をしていただければと思います」

 朝日「担当部局に確認したところ、国や東京電力を含む特定の団体への批判を禁じているとおっしゃいました。その理由を教えてくださいというふうに…」
 知事「いま申し上げた通り、また担当部局の方でていねいにご説明をさせていただきます」

 朝日「では知事は、語り部が東京電力や国を批判する事は大丈夫、OKだとお考えですか?」
 知事「語り部についてはいま、伝承館において口演をしていただいております。したがって、そこでですね、どういった対応で行うか。またそれぞれご相談しながら今の方向性となっているところと考えております」

 朝日「マニュアルを改定するべき、見直すべきというお考えは知事にはございますか」
 知事「また詳細な内容は個別の部局に確認をしていただければと思います。また語り部さんからそういったお話があるのであれば、担当部局の方でていねいに伺ってまいります」

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定例会見で〝語り部問題〟に関する質問が相次いだ福島県の内堀知事。だが、今回も正面から答えようとせず、全くかみ合わない答えに終始した。県議会でも、野地誠文化スポーツ局長が不誠実な答弁を繰り返すばかりだった

【「マニュアル見直さない」】
 テレビユー福島の記者も「被害を語るという点からすれば、ある程度の批判もあり得るのではないかと思います。また、震災の教訓を伝承するという観点から、このようなマニュアルの対応というのは適切とお考えでしょうか。知事の考えをお聞かせください」と質した。しかし、ここでも内堀知事の答えは中身が無かった。受け止めるだけだった。
 「ただいま、そういったお考え、しっかりと受け止めさせていただきます。また、先ほども質疑の中でありましたが、語り部の方自身がどういったお気持ちを持っておられるのか。そういった事も伺いながら、どういった形で今後、語り部の皆さんに取り組んで頂けるのかという事をあわせて検討していきたいと思います」
 29日午後の福島県議会では、宮本しづえ県議(日本共産党福島県議会議員団)が一般質問の中で取り上げた。
 「伝承館の最大の役割は、県も国会事故調査委員会も人災とした原発事故の実相と教訓を余さず伝えることです………語り部が震災や原発事故の経験を率直に伝えられるようにすべきと思いますが、県の考えを伺います」
 これには内堀知事は答弁せず、知事の言う「担当部局」である企画調整部文化スポーツ局の野地誠局長が答弁。宮本県議が再々質問までして「マニュアルを撤回するべきだ」と質したが「マニュアルは一般的、常識的な範囲内で提示した」、「時々の想いを率直に語っていただくようていねいにお話ししたい」と繰り返すばかり。マニュアルの是非や見直しには一切触れない不誠実な答弁だった。
 〝原発事故のホント〟を伝えない伝承館。本音を語れない語り部。これでは「53億円のハリボテ」だ。それでも、先の語り部は辞めずに続けるという。伝えたいのだ。
 「伝承館には納得していない。納得してないけれども…。でも語り部を辞めてしまったら…私たち原発事故被害者の無念さが全く伝わらなくなってしまうから」
 原発事故被害を後世に伝えたい語り部にこんな苦悩を抱かせている事自体、伝承館が本来の役割を果たしていない証左と言えよう。なお、文化スポーツ局生涯学習課の渡邉賢一課長は取材に対し「マニュアルを見直すという話は聞いていない」と答えた。



(了)

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鈴木博喜

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