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【福島原発かながわ訴訟】富岡町から避難した男性が9年半の苦しみを陳述「国や東電は責任認めろ」 弁護士は被曝リスクや「避難の相当性」を主張~控訴審第3回口頭弁論

福島第一原発の事故で神奈川県内に避難した人々が国と東電を相手取って起こした「福島原発かながわ訴訟」(村田弘原告団長)の控訴審。第3回口頭弁論が2日午後、東京高裁101号法廷(白石哲裁判長)で行われた。福島県双葉郡富岡町から神奈川県内に一家で避難した男性が意見陳述。一審原告の代理人弁護士は、低線量被曝の健康影響について改めて陳述し、避難指示の有無にかかわらず避難の相当性があると主張した。次回期日は12月4日14時。白石裁判長が今月で定年退官するため、次回期日から新しい裁判長の下で審理される。
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【穏やかな生活が一変】
 「もうすぐ原発事故から10年が経ちます。しかし今、世間の話題は新型コロナウイルス一色で、このまま原発事故について忘れ去られてしまうのではないかという心配があります」
 裁判長に促されて、男性は法廷のど真ん中に座った。一礼し、静かな口調で用意した原稿を読み始めた。傍聴席の最前列では、妻が夫の背中を見守っていた。妻も2017年1月、横浜地裁で意見陳述をしている。
 2011年3月11日の大地震と大津波、そして原発事故。当時、妻と子ども3人の計5人で双葉郡富岡町で暮らしていた。転勤で富岡町に移住し、1991年には広い一戸建てのマイホームを購入した。
 2004年に神奈川県平塚市にある事業所に異動したため葉山町の実家から通勤。金曜日の夜に車で富岡町に帰り、日曜日の夜に再び葉山町に向かうという生活をしていた。お盆休みや正月休みなどではずっと富岡町で過ごし、子ども会や子どものサッカー部保護者会などの役員も務めた。自然豊かな富岡町。近所の農家から新鮮な野菜や果物をもらう事も多かった。それが一変したのが原発事故だった。
 葉山町の実家に避難したが、それまで1人暮らしだった母親は突然の6人暮らしに疲弊した。しばらくして5人は転居したが、神奈川では富岡町の自宅のような広い間取りは借りられない。富岡町では健康そのものだった妻は、ストレスが原因で複数の病気を発症。通院と服薬を続ける事になった。「医師によると、この薬は一生、飲み続けなければいけないそうです」。
 住み慣れた富岡町を追われて9年超。移住した翌年に新築したわが家は、やむなく解体した。「戻りたいけど戻れる状況に無い」。まさに苦渋の決断だった。早く神奈川で落ち着きたいと考えているが、そこには大きな壁が立ちはだかっているのだった。

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①富岡町から神奈川県に避難した男性が意見陳述。「これ以上争わずに出来るだけ速やかに避難慰謝料を支払ってもらいたい」と訴えた。東電は自ら「3つの誓い」を掲げながら反故にしている
②③④〝復興五輪〟にあわせて全線開通したJR常磐線。夜ノ森駅も再開され〝復興〟の象徴とされているが、避難指示が解除されたのは駅周辺のごく一部だけ。至る所にバリケードが設置されているのが現実だ(2020年3月撮影)

【自宅解体も売れぬ土地】
 「私たちは今後も神奈川県に住み続けるつもりですが、住民票はまだ富岡町にあります。自宅を解体した後の土地が処分出来ないからです」
 建物は壊す事が出来るが、土地は解体出来ない。売るしか無い。しかし「線量が高いため一戸建ての住宅を建てるには敬遠され、かといってアパートを新築するほど広い土地では無いので買ってもらえない状況です」。土地が売れないまま住民票を移してしまえば、今度は固定資産税の減免措置が受けられなくなってしまう。
 自分たちの意思で移住したのならともかく、原発事故で避難を強いられわが家まで奪われたのになぜ、残った土地の固定資産税を課せられるのは理不尽だ。しかし、土地を手放したいけど手放せない。新しい土地で落ち着きたいのに落ち着けない。まさに〝宙ぶらりん〟の状態を強いられている。男性は閉廷後、こうも語った。
 「土地の値段なんて全然つかないです。値がつくも何も、誰も相手をしてくれません。自宅を解体してくれた業者に『タダで良いから土地を持って行って』って頼んでみたけど、『要らない』って言われてしまいました」
 福島県の「放射能測定マップ」によると、「王塚第一なかよし広場」に設置されたリアルタイム線量測定システム(福島第一原発から南南西に約8km)の数値は、右肩下がりとはいえ0・32μSv/h前後。原子力規制委員会が公表しているデータでは、神奈川県内で最も高い「横浜市・神奈川県立岸根高等学校」でも空間線量は0・045μSv/hだから、依然として10倍近い汚染が続いている。しかも、公表されるのは空間線量ばかりで、土壌汚染の詳細な測定結果は分からない。これが「着実に復興が進んでいる」とされる富岡町の現実だった。しかし、国も東電も横浜地裁が命じた避難慰謝料の支払いを拒み、争いを続けている。
 法廷で、男性はこう言って陳述を締めくくった。
 「私たちの請求が満額認められたわけではありませんが、最低限の賠償については、これ以上争わずに出来るだけ速やかに支払ってもらいたいです。長引けば長引くほど私たちの苦痛は続き、つらさが増していきます。一刻も早く責任を認めてこの訴訟を終わらせ、私たち避難者を少しでも楽にして欲しいと強く思います」

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原告代理人の小賀坂徹弁護士が「低線量被曝の健康影響」について、パワーポイントの資料を使って意見陳述。「子どもの命を守るための原告たちの避難の選択に関しては、十分な合理性がある」と主張した

【「避難、人として当たり前」】
 法廷では、一審原告ら代理人の小賀坂徹弁護士が「低線量被曝の健康影響」について、パワーポイントの資料を使って改めて意見陳述した。主張の柱は2つ。①避難指示が出されていない区域からの避難の相当性②避難指示の有無に関わらず避難継続の相当性。
 小賀坂弁護士は一審横浜地裁判決について「『放射線医学や疫学研究上の専門的知見は直接的な基準とならないと解すべき』とし、全てを社会通念に委ねてしまっている事が、本件被害を正確に捉えられていない重要な一因がここにある」と指摘。「まずは放射線の健康影響に関する科学的知見の到達点を整理し、その上に立って避難等の相当性が判断されなければならない」と述べた。
 一審では、原告全世帯の避難元の空間線量だけでなく土壌汚染も測って証拠として提出した。ほぼ全ての避難元自宅で放射線管理区域の基準値(1平方メートルあたり4万ベクレル)をはるかに上回る土壌汚染が確認されている。
 小賀坂弁護士は「避難の相当性や避難継続の相当性を判断するにあたっては、一時期の被曝線量では無く、避難せずに生涯そこに住み続けて生活した場合の累積被曝線量を考えなければいけない」と累積被曝線量の重要性についても言及。 
 「原告たちが避難元の居住地で50年間生活すると仮定した場合の累積被曝線量は、空間線量のみで計算した最も低い場合でも、概ね50ミリシーベルトに達した。広島、長崎の原爆被爆者の疫学調査からは、50ミリシーベルトの被爆では0・5%の割合でガンによる過剰死亡が起きるという事が分かっており、ここから少なく見積もっても(原告たちが避難せずに居住し続ければ)200人に1人の割合でガンで亡くなる事になる。原告たちは、自分の子どもを『200人のうちの1人』にしないために避難を選択した。これは極めて合理的な、人として当たり前の判断だ」
 健康リスクのある場所に子どもたちをとどめて良いのか。将来、後悔しないか…。原告たちは葛藤し、苦悩し、やはり子どもの命を守らなければならないと動いた。
 「わずかでも過剰被曝をした場合に放射線の健康影響は避けられないという『LNTモデル』の科学的合理性は明らか。しかも、原告たちは50~70ミリシーベルト、そういう線量での被曝影響を考慮して避難している。それが科学的知見を前提とした社会通念に照らして妥当だったかどうか。この事に関してはもう、議論の余地は無い。子どもの命を守るために、わが子を『200人に1人』にしないための原告たちの避難の選択に関しては、十分な合理性があると考えます」




(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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