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【原発避難者から住まいを奪うな】「新幹線や高速バスを利用しろ」 〝東雲住宅追い出し訴訟〟で東京地裁への移送申立に対する福島県の意見書を入手 「高額な旅費かからぬ」

福島県が今年3月、原発事故で政府の避難指示区域外から〝自主避難〟した4世帯を相手取り、入居を続ける国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)の明け渡しと未納家賃の支払いを求めて提訴した問題で、本紙は、4世帯が求めた東京地裁への移送に対する福島県の意見書(福島地裁に提出)を入手した。福島県側は「新幹線や高速バスがある」「不相当に高額な旅費がかかるというわけではない」などと主張。冷淡な言葉を並べて申し立ての却下を求めた。福島県の内堀雅雄知事は「原発事故被害者に寄り添う」と口にしているが、真の姿勢が如実に表れている。
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【「過大な負担とはいえない」】
 福島県情報公開条例に基づき今月2日付で開示されたのは、福島県が5月21日と10月14日に福島地方裁判所第一民事部に提出した「意見書」。被告となった避難者の個人名や裁判の事件番号、代理人弁護士の印影は黒塗りされた。
 5月に提出された意見書で県側は、次のような理由を挙げて移送申立の却下を求めている。
 「本件訴訟において建物の所在や被告の居住地によって争点が異なるわけでもないし、審理が複雑化するわけでもない。そのため、本件訴訟を福島地方裁判所で審理することが『訴訟の著しい遅滞』を招くような特別な事情があるとはいえない」
 「電話会議システムによる訴訟進行等を活用すれば、被告本人の福島地方裁判所での出頭回数を減らすことはできるし、被告本人が福島地方裁判所に出頭せざるを得ない場合があるとしても、不相当に高額な旅費がかかるというわけではない。被告が出頭による一定の経済的負担を負うとしても、それは一般の民事訴訟(金銭請求)の被告が負担しなければならない負担と特段変わるところはない」
 「被告居住地と福島地方裁判所の所在地との距離を考慮しても、新幹線や高速バス等の様々な交通手段を利用することができ、移動の身体的負担としては必ずしも被告にとって過大な負担とはいえない」
 「本件建物の使用収益権が適法に取得されたか否かは実体的な審理の中で主張立証のうえ判断されるものであり、管轄権の決定に当たって考慮すべき事項ではない」
 「原告は、訴訟物の一つとして不法行為に基づく損害賠償請求をかかげており、この請求に基づく管轄権が福島地方裁判所に生じることは明らかである」
 福島地裁は被告4人の移送申立を却下。仙台高裁まで争われたが、高裁も認めなかった。

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福島県が5月と10月、福島地裁に提出した意見書。「新幹線や高速バス等の様々な交通手段を利用することができ、移動の身体的負担としては必ずしも被告にとって過大な負担とはいえない」などと移送申立の却下を求めている

【「当事者間の衡平害さない」】
 却下を受け、被告4人のうち2人が代理人弁護士を立てて改めて移送を申し立てた。
 福島県が10月、福島地裁に提出した意見書も、5月とほぼ同じような理屈で申し立ての却下を求めている。
 「本件移送申立の前に申立人は民訴法17条(条文:第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる)に基づく移送申立を一度行ったが、当該移送申立は却下され、即時抗告も棄却された。その時点から事情の変化はなく(むしろ代理人が就いたことにより申立人の訴訟追行はしやすくなったともいえる)、民訴法17条に基づく移送をすべき理由は全くない」
 「申立人は、福島地裁に土地管轄があることを認めつつ、原告の損害賠償請求が従たる請求であるなどと主張するが、このことが民訴法17条に基づく移送申立の理由にどのようにつながるのかが不明である」
 「被告自身の出頭による負担については、電話会議システムによる訴訟進行等を活用すれば、被告本人の福島地方裁判所での出頭回数を減らすことはできるし、被告本人が福島地方裁判所に出頭せざるを得ない場面があるとしても、不相当に高額な旅費がかかるというわけではない。被告が出頭による一定の負担を負うとしても、それは一般の民事訴訟(金銭請求)の被告が負担しなければならない負担と特段変わるところはない。したがって、本県において、福島地方裁判所で審理することが『当事者間の衡平を著しく害する』ような特別の事情があるともいえない」
 東京駅から福島駅まで東北新幹線を利用すると、切符代は自由席でも往復1万7000円を超える。高速バスは確かに代金は安いが新型コロナウイルスの感染拡大で便数が大幅に減っており、福島県白河市の「さくら観光」に至っては運休が続いている。

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(上)「原発事故被害者に寄り添う」が口癖の福島県の内堀雅雄知事。しかし、実際には国家公務員宿舎から退去するよう訴訟を起こした。しかも、東京地裁で無く福島地裁に。まさに「血も涙も無い」仕打ちだ
(下)「ひだんれん」など避難者団体は福島県との交渉を続けているが、県は〝追い出し訴訟〟に踏み切った。「なぜ避難者が住んでいる東京地裁ではなく福島地裁に提訴したのか」との問いには、「訴訟費用は県の税金だ」と答えた

【「訴訟費用は県の税金」】
 国家公務員宿舎「東雲住宅」に入居した〝自主避難者〟(避難指示区域外からの避難者)を巡っては、「国家公務員宿舎セーフティネット使用貸付契約」を交わさず無償で入居を続けている4世帯に対し、福島県が3月25日、退去と家賃支払いを求める訴状を福島地裁に提出した。
 コロナ禍で弁論期日が延期し、被告となってしまった4世帯が東京地裁への移送を申し立てたため審理が止まっていたが、10月16日、1世帯の第1回口頭弁論が福島地裁で行われた。21日にも別の1世帯の第1回口頭弁論があったが、残りの2世帯については代理人弁護士が改めて東京地裁への移送を申し立てたため弁論期日が取り消されている。
 原発事故に伴う避難者などでつくる「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)や「『避難の権利』を求める全国避難者の会」は定期的に福島県との話し合いの場を設けており、今年7月の話し合いでは、避難者団体側から「なぜ避難者が住んでいる東京地裁ではなく福島地裁に提訴したのか」との質問が出た。団体側はもちろん、提訴そのものに反対し続けているが、仮に訴訟を起こすにしても東京地裁にするべきだと訴えてきた。
 しかし、福島県側は「訴訟費用は県の税金。被告の方々も県民だが、福島県内に居る方の考えも当然、意識しないといけない」と回答。原発事故の被災県が避難した県民を訴訟で追い出す事自体が異常事態だが、避難先の裁判所では無く福島地裁に提訴するという、血も涙も無い仕打ち。これが「原発事故被害者に寄り添う」と言い続けている内堀県政の真の姿だ。
 10月の話し合いでは、村田弘さん(福島原発かながわ訴訟原告団長、南相馬市小高区から神奈川県横浜市に避難継続中)が次のように怒りをぶつけた。
 「コロナ禍で多くの人が生きるか死ぬかという状況なのだから、司法に頼って原発避難者を追い出そうなんておかしいですよ」
 しかし、県側は「われわれが避難者との話し合いを打ち切って提訴したのでは無い。話し合いによる解決が難しいので提訴するしか無かった」と従来の回答を繰り返すばかり。「和解に応じる可能性もあり得る。申し出があればその後の支援にも応じるが、直接支援は難しい」とも。
 間もなく10度目の冬がやって来るが、今年の冬も原発避難者には厳しい冬となりそうだ。



(了)
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鈴木博喜

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