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【東日本大震災・原子力災害伝承館】〝現場主義〟言葉ばかりの平沢復興大臣「これは福島県のあれなんで」 展示内容の不満噴出も「それは福島県が御判断」

福島県双葉町に9月20日にオープンした「東日本大震災・原子力災害伝承館」と隣接する「双葉町産業交流センター」、ほんのわずかだけ供用開始された「福島県復興祈念公園」の合同開所式が7日午後、産業交流センター会議室で行われた。伝承館を巡っては開館以来、展示内容に対する厳しい声が後を絶たないが、式典に出席した平沢勝栄復興大臣は「これは福島県のあれ」「福島県の方で御判断」と突き放した。福島県も主体的に原発事故被害の実相を伝えようとせず、原発事故被災県の伝承館はまさに〝53億円のハリボテ〟。「現場主義」という言葉だけが漂流している。
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【国も加害当事者だが…】
 来賓たちの「視察」が終了した15時すぎ。伝承館1階で行われた〝ぶら下がり〟で、平沢大臣は「福島県が」「福島県が」を繰り返した。地元メディアの記者が誰一人として挙手しないなか、筆者は平沢大臣に「伝承館の展示内容に関しては『物足りない』という意見もあるが、大臣の率直な感想は?」と質問した。平沢大臣の答えは〝現場主義〟や〝福島に寄り添う〟とは大きくかけ離れた、実に突き放したものだった。
 「これは福島県のあれなんで、福島県の方でこれから展示物のやり方、内容等についてはこれからしっかり検討して行かれる事と思います」
 伝承館は確かに「福島県の施設」だ。県職員も10人以上出向している「福島イノベーション・コースト構想推進機構」が指定管理者となり運営している。その意味では「福島県のあれ」である事に違いないが、総工費約53億円は全額国費。それ以前に、原発事故に関しては国も東電と並んで加害当事者である。複数の訴訟で国の過失責任が認定されている。なぜ原発事故が防げなかったのか。「絶対に過酷事故は起こらない」と住民たちを騙し続けた末の原発事故で今なお、どれだけ苦しい想いを強いられているか。それらを主体的に語り継いでいく義務が国にはあるはずだ。
 だから、平沢大臣に改めて尋ねた。この展示内容で原発事故被害の実相が伝わると思うか、と。しかし、大臣の答えは全く変わらなかった。
 「それは福島県の方で御判断されるだろうと思いますけどね」
 〝復興五輪〟を頂点として住民不在のレールを敷いてきた国。しかし、都合が悪くなると後は地元に押し付ける。福島県もそれに反発などしない。原発事故後の構図が凝縮されているようだった。
 なお、平沢大臣は合同開所式で11月5日の「世界津波の日」に触れながら挨拶した中で「私も先日、菅総理とともに初めて伝承館を訪問させていただきまして、事故当時の様々な記録や県民の想いが詰まった展示等を拝見させていただきまして、息を飲む想いでございました」と述べている。
 その点についても〝ぶら下がり〟で質したが、平沢大臣は「『息を飲んだ』というのは、私は災害全体の中で津波で『息を飲んだ』という事です。あの時私はずいぶん、津波のところの跡、原発の跡、いろいろと見させていただいて、それであまりの災害のすさまじさに驚いて『息を飲んだ』という意味でございます。(展示物を観てでは無い?)違います。違います」と否定した。

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「合同開所式」に出席、福島県の内堀雅雄知事や双葉町の伊澤史朗町長らとテープカットした平沢勝栄復興大臣。伝承館の展示内容に関しては「これは福島県のあれなんで、福島県の方でこれから展示物のやり方、内容等についてはこれからしっかり検討して行かれる事と思います」と突き放した=福島県双葉郡双葉町中野

【双葉町長「良い施設だ」】
 伝承館を交流人口増加の起爆剤にしたい双葉町。伊澤史朗町長は〝ぶら下がり〟で「私としては、広島や長崎とは違った原子力災害の姿をいろいろな方に知って頂く良い施設だなと思っております」と述べた上で、筆者の質問に次のように答えた。
 「展示内容に関して私自身も直接、いろいろな話を伺っております。期待外れだったという方、非常に勉強になったという方、賛否両論あるのは聞いております。展示物を定期的に変化させる事によって、来館していただく方に『あ、こういう部分もあったんだ』と考えてもらえるような取り組みを今後、試行錯誤しながらやっていただければと思います」
 別の場面では、いまだに現物展示が実現していない「原発PR看板」について 「こちらとしても『ぜひ展示してください』という事で県と交渉はしてます。われわれのイメージしているのは屋外でという事でお願いしてるんですけど、県からのハッキリとした回答はまだです」と話した伊澤町長だったが、公の場では「良い施設」と評価した。展示内容について本当はどのように考えているのか。町役場の職員がこう代弁した。
 「展示内容は、『復興へのあゆみ』に移るのがちょっと早いなという気がしますね。現状はまだ、その手前ですから。それは町長も繰り返し言っていますよ。津波の映像ひとつ取っても途中で終わってしまったりするので、もっと迫真ある展示内容で来館者に知ってもらいたいというのは繰り返し言っています。その一つが大沼勇治さんの考案した標語を掲げた看板ですね。町としても現物の設置を県に求めています。伝承館については様々な意見がありますが、双葉町などの現状について多様な立場、多様な視点でものを言ってもらうのが重要だと考えています」
 一方、福島県の内堀雅雄知事は県議会で、伝承館の展示内容について「未曽有の複合災害の記録と教訓を国や世代を超えて継承し、復興に向かう福島の今を発信する大切な役割を果たして参ります」、「震災前の地域の状況において原発と共存していた事や地震・津波・原発事故の状況、その後の避難の状況など複合災害に関する実物資料をはじめ、県民の皆さんが経験された避難生活や生活環境の激変を当時の写真や記録映像などにより分かりやすく展示しているところであります」と答弁するにとどまっている。

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「風評払拭」や「震災・原発事故からの復興」に軸足を置いている伝承館。来館者が感想を綴るためのノートには、展示内容に関して厳しい意見も多く書かれている

【語り部も展示内容を疑問視】
 平沢大臣は開所式の挨拶で「東京電力福島第一原子力発電所の事故は地域の多くの方々の日常の暮らしを一変させたわけでございます。皆さんはいつ、元の生活に戻れるのか。先が見通せない中で、今なお大勢の方が避難生活を余儀なくされているわけですけれども、私どもからすれば本当に残念でそして、申し訳ない気持ちでいっぱいでございます」、「避難指示が解除されず現在でもなおふるさとに帰る事が出来ない方々に大変な御苦労をおかけしている事を改めて認識しているところでございます。これからも『現場主義』の下、被災者に寄り添いながら復興の加速化のため全力を尽くして行く所存でございます」とも述べた。式典に先立ち、大熊町の吉田淳町長宅を訪れたという。
 「本日は、双葉町で双葉駅周辺を視察しまして、大熊町で下野上地区および大川原町地区を視察致しました。大熊町では、特定復興再生拠点区域外にある吉田町長さんの自宅も拝見させていただきました。町長さんのお宅は外から見るとしっかりしている家に見えましたけど、中は荒れ放題でございました。イノシシなんかが入って来て、家の中をかき回しているようでございました。ちなみに今日、吉田町長さんところに行きましたら、家の前の道路でかなり大柄のイノシシとぶつかりまして。昼間も出てくるわけですから、大変だなという感を強くしました」
 しかし、伝承館は平沢大臣の言う「生活が一変」や「大変だな」は伝わらない。語り部ですら「生々しさが足りなくて、これではせっかく学生さんたちが来てくれても伝わらないよね」と話す。自宅が帰還困難区域にある浪江町民は「私たちの想いが汲み取られていないようだから、わざわざ足を運ぶところじゃない」と怒りを口にした。
 しかし、国は「あとは福島県がやれ」と言い、福島県は福島県で主体的に原発事故被害の実相を伝えようと動かない。伝承館のスタッフは「ざっと見て、今のところ来館者の3割ほどが学生さんの教育旅行」と話したが、この展示内容で本当に原発事故を次世代に語り継ぐ事が出来るのか。これが復興大臣の言う〝現場主義〟なのか。華々しい開所式の裏の真の姿を見せつけられたようだった。



(了)
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鈴木博喜

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