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【絵本作家と原発事故】「浜通りの現実を知って欲しい」 〝原発事故後の福島〟を描き続ける鈴木邦弘さん 「私は絵描き。自分なりの手段で伝えたい」

原発事故後の福島県浜通りをアクリル画で描き続けている絵本作家がいる。埼玉県在住の鈴木邦弘さん(47)。原発事故による汚染と避難で人の姿が無くなった双葉郡を中心に、美しい自然とのコントラストを交えながら現状を伝えている。 「原発事故被災地を描くのは怖い」と話す鈴木さんは、「非日常が日常になってしまったような空間をそのまま受け入れてはいけない」と自分を奮い立たせて筆を取る。11月30日まで埼玉県草加市内で開かれた個展での絵本朗読を中心に、鈴木さんの想いを届けたい。
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【「これ以上、壊さないで」】
 「2015年3月に初めて福島に行きました。軽い気持ちで行きましたが、その時に目にした光景が衝撃的で、それから通うようになりました。運転免許証を持っていないので、電車で行き、駅からは歩くというスタイルです。これまでに250kmくらい歩きました。僕は絵描きですから、自分の目で見たものを自分なりの手段で伝えたいと思い続けています」
 そう自己紹介した鈴木さんは、自身の絵本や詩集を朗読した。今年8月に自費出版した『紅』。2019年4月に富岡町の夜ノ森地区を訪れた際に感じたものを絵と文章にした作品だ。

 「都合の良い言葉を並べて演出しても、そこかしこに廃墟は立ち並ぶ」

 「美しき花とフレコンバッグのコントラストは、より一層虚しさを呼び覚ます」

 「里に鎮座する七福神は、目に見えない無主物にさらされながら何を想い、時を過ごして来ただろう」

 「無主物は見えないから、無主物は匂いがしないから」

 「人のいなくなった町。音の無い町。朽ちていく町。さら地にされる町。ここは地獄か天国か。山も、川も、草も、木も。ただ町なかに人だけがいない」

 「人の心を分かつ核発電所は壊れた後も吐き続け、いつまでも終わる事無く切り刻むのか。もう、これ以上、壊さないで」

 「夜ノ森の桜を見ようと、福島県内外から多くの花見客が訪れていました。でも、その脇では、帰還困難区域の住民がバリケード越しに自宅を指差していたり、ジャーナリストがしかめっ面で写真を撮影していたりしていました。笑顔の人とそうでない人とのコントラストが激しくて、いろいろな感情が渦巻いているすごい空間でした。その時の複雑な想いをどうやって作品に表そうかと考えた時に、空を真っ赤に染めようと考えました。『紅』は自分の感情を直接、ぶつけたような作品です」

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福島県浜通りを描き続けている鈴木さん。30日は個展会場で絵本を朗読。作品一つ一つについて解説しながら、浜通りの現状を語った=埼玉県草加市の「カフェ&ギャラリーのんの」

【「被災地を描くのは怖い」】
 鈴木さんは1973年、栃木県今市市(現在の日光市)生まれ。埼玉県で育ち、現在はさいたま市に妻と暮らしている。新潟県の長岡造形大学を卒業後、イラストレーターになった。2015年から福島県に通い始め、3年前から本格的に作品を描き続けている。
 2018年に描いた作品を集めた『楽園』は、浪江町を歩きながら目にした光景が原点だという。
  「『ここは地上の楽園だ』と思いました。周囲のきれいな緑や抜けるような青空が広がっていました。生活音が無いので虫の音なども良く聴こえました。でも、すごく美しいのですが、それは放射能が目に見えないからなんですよね。もし、放射能に色がついていたら、僕が地上の楽園だと思った美しい風景は、血まみれのように真っ赤に染まってしまうんです。美しいだけにそれが非常に切なくて。いろいろな皮肉を込めて『楽園』というタイトルにしました」
 「原発事故被災地を描くのは怖い」とも。当事者でも無い人間が被災地にやって来て、目にした事、耳にした事をアクリル画として描く。訪れた時の想いを文章にして添える。それによって傷付く人もいるだろう。反発を招くかもしれない。その点では筆者も同じだ。
 「例えば、『人なんて、この土地にはいらないのかもしれない』と書きました。元々、ここは人が住んでいた場所です。(原発事故による避難で)人がいなくなった事で、地上の楽園のような世界がうまれた。すごく皮肉だなと思って文章にしました。でも、それはもしかしたら、とても失礼な表現かもしれません。だから書くのが怖かったです」
 しかし、絵本を手にした双葉郡の人々が背中を押してくれたという。
 「僕は『ただ大切なふるさととしてそこにあればいい』とも書きましたが、『その通りだ。〝復興〟の名の下にいろいろ壊して新たに造るくらいなら、帰れない場所でも良いからそのまま残しておいて欲しい』と言われました。被災地を描くのはすごく怖い事で、今なお避難している当事者の方がいるわけですし、亡くなった方もいます。当事者の方に見てもらうのは勇気が要ったのですが、あのような言葉をもらえて救われた気持ちでした」

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鈴木さんの作品の一部。被災地の現実を描く事は「怖い」側面もあるが、鈴木さんは「「私は絵描き。これからも自分なりの手段で伝えて行きたい」と話す

【事故被害覆い隠す伝承館】
 JR双葉駅近くに設置されていた原発PR標語看板「原子力明るい未来のエネルギー」をモチーフにした作品もある。
 「小学生の頃に標語を考えた大沼勇治さんは友人です。彼は『撤去せず〝負の遺産〟として現場保存して欲しい』と署名運動もしましたが撤去されてしまいました」
 今年9月には、双葉町内に「東日本大震災・原子力災害伝承館」がオープンしたが、現物展示は叶わず、写真だけが展示されている。「写真の脇に『(現物は)きちんと施設で保管してあります』と書いてあります。確かに文字盤は会津の県立博物館に保管されていますが、それ以外の支柱などは町役場の脇の空き地にブルーシートに包まれて野ざらしになっています。伝承館は嘘ばっかりです」
 伝承館は原発事故被害を覆い隠すための施設ではないか、と鈴木さんは語る。
 「何も伝承館に行かなくても、周囲には原発事故の影響を感じ取れる場所はたくさんあります。伝承館だけを訪れて帰る。そうすれば原発事故被害はカモフラージュ出来ます。そういう施設ではないかと感じました」
 来年2月には、旬報社から新しい絵本を出版する。架空の「おじさん」が浜通りを歩く。そのおじさんを見つめる「柴犬」。「いぬとでんき」という仮題がつけられた絵本では、福島第一原発でつくられた電気が埼玉県を含む首都圏に送られてきていた事などを犬の視点で描いている。さいたまスーパーアリーナには双葉町から1000人以上の人々が避難した。埼玉県在住の「おじさん」は、一緒に避難してきた犬を引き取り、浜通りに想いを馳せていく。
 「おじさん」はやがて、浜通りに足を運ぶようになる。「犬」は時には留守番をし、時には車に同乗した。「犬」は初めて目にするイノシシやサルに驚き、人のいなくなった町を走り回る。「帰還困難区域」の入り口で注意喚起している看板の脇で、「犬」は何ともいえない複雑な表情で佇む………。
 鈴木さんは言う。
 「僕が当事者では無いから複雑な感情がわくのかもしれません。でも、そういう感情は忘れないようにしたいです。非日常が日常になってしまったような空間をそのまま受け入れてはいけないと思います。何かがおかしいという想いは持ち続けなければいけないと思いました。万人に受け入れられる作品ではありませんが、多くの人にこういう現実を知ってもらえたら良いなと思っています」



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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