【ふるさとを返せ 津島原発訴訟】「予見可能性も結果回避可能性も無い」国が最終弁論 1月に結審 来夏にも判決言い渡しか
- 2020/12/08
- 14:42
原発事故で帰還困難区域に指定された福島県双葉郡浪江町津島地区の住民たちが国や東電に原状回復と完全賠償を求めている「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の第32回口頭弁論が3日午前、福島地裁郡山支部303号法廷(佐々木健二裁判長)で行われた。国の指定代理人が最終弁論をし、改めて大津波の予見可能性や過酷事故の結果回避可能性について否定した。次回期日は2021年1月7日10時。原告側が最終弁論をして結審する。2015年9月の1次提訴から5年余。住み慣れたふるさとを汚され、奪われた津島の人々の訴えに対し、来年7月にも判決が言い渡される見通しだ。

【「規制権限不行使に違法性無い」】
「時間は40分と申し上げておりましたが、実際は50分ほどかかると思われます。出来る限りコンパクトにまとめてお話したいと思います」
国の指定代理人が、用意した「意見陳述要旨」を早口で読み上げた。モニターに「被告国の責任論の主張について」パワーポイントの資料を映し出しながら、他の原発事故関連訴訟と同様、国には大津波の予見可能性も過酷事故の結果回避可能性も無く、当時の規制権限不行使に違法性が無かった事を訴えた。
1992年の「伊方原発訴訟最高裁判決」を引用。「津波という自然災害による原子力災害の発生の予見可能性に関する裁判所の審理・判断は、①原子炉施設に関して用いられた安全性の審査又は判断の基準に不合理な点があるか否か②当該原子炉施設が当該基準に適合するとした規制機関の判断過程に看過し難い過誤・欠落があるか否か─の二段階審査によって判断されなければならない」と強調した。
そのうえで、「(本件原発事故は)規制権限の不行使の違法性が肯定されたこれまでの最高裁判決の事案と異なり、原告らが『(国が)規制権限を行使すべきであった』と主張する時期において、いまだ被害は発生しておらず、被害をもたらす原因も科学的に判明していなかった」と繰り返し主張した。
「本件津波により深刻な被害が発生したとしても、規制権限不行使の違法が直ちに肯定されるものではない」と結論付け、「科学的根拠の乏しい自然事象も含めてあらゆる事象を規制に摂り込むということになれば、かえって原子力工学その他の多様な科学技術の統合体である原子力発電所のシステム全体の安全性を低下させることにつながりかねない」とも述べた。


法廷に入れなかった原告は、勉強会で国の最終弁論について確認した
【「津波対策講じても事故防げぬ」】
文部科学省の地震調査研究推進本部(地震本部)が2002年7月に公表した「長期評価」については、「保安院は『長期評価の見解』が公表された直後の2002年8月に科学的根拠について調査したが、客観的かつ合理的根拠に裏付けられた知見であるとは認められなかった」、「2002年8月以降も、『長期評価の見解』に整合しない論文ばかりが公表され、客観的かつ合理的根拠を与えるような知見は公表されなかった」、「専門家が『成熟した知見とか、最大公約数的知見とは言い難いものだった』、『新たな知見として取り入れて、切迫性をもって対策を講じるべきとまでは考えていなかった』、『説得力のある見解とは考えられていなかった』などと評価していた」などと否定。過酷事故を招くほどの大津波は予見出来なかったと訴えた。
大津波を予見出来なかったのだから、過酷事故という結果を回避する事も出来なかった─。国の指定代理人は続ける。
「『長期評価の見解』をふまえた試算津波と本件津波はけた違いに規模が異なる」
「地震エネルギーは、試算津波の前提となる地震よりも11倍大きかった」
「試算津波と本件津波とで、方向も規模も全く異なった」
「試算津波に対する対策では、本件津波が東側から主要建屋がある敷地に遡上する事を防げない」
専門家が想定したよりも巨大な津波が襲いかかったのだから防げなくて当然だ、という理屈。そして、こうも述べた。
「仮に『長期評価の見解』を決定論に取り込んで津波対策を講じたとしても、事故前の知見によって導かれる結果回避措置では結果回避可能性が存在しない」
「防潮堤や防波堤などの存在を前提とせず、敷地内にちなみがそのまま侵入するのを容認した上で水密化の措置を講じる事は、事故前の科学技術水準からして技術的に未確立だった。実用段階には無かった」
長年にわたり、「絶対安全」と繰り返し強調しておきながら、いざ過酷事故が起きると「当時の科学的知見は未成熟だった」、「対策を講じても防げなかった」と言い逃れる。これが国策としての「原子力推進」の真の姿だった。


「国や東電の責任を認める判決が言い渡される可能性は十分にある」と原告側弁護団。原告たちはそれとともに、原状回復請求も認められる事を心から願っている=郡山市立中央公民館金透分室
【東電は進行協議で最終弁論】
「国の損害賠償責任を肯定したこれまでの一審判決は、いずれも判断手法を誤った結果、誤った結論を導いていると評価する事が出来る」
国の指定代理人は、最後にこう述べて、国の言う「正しい手法での判断」を裁判所に求めた。
モニターには、「同種先行訴訟判決について」として、「前橋地裁判決」(2017年3月17日)以降、今年10月9日の東京地裁判決まで、刑事訴訟を含む15の判決について列挙した資料が映し出された。国の損害賠償責任や、被告東電の元役員の刑事責任を否定した8つの判決は赤字で表現されている。「8勝7敗で国が勝ち越している」と言いたいのだろう。しかも、国の責任を認めた7判決は「そもそもの判断手法が間違っていた」。こうして、加害当事者である国の最終弁論は終了した。
なお、もう一方の被告である東電は、法廷では無く非公開の進行協議で最終弁論。原告弁護団によると「被害者には既に最大限の補償をしている。年齢などによって賠償額に差がある場合は世帯内で充当すれば良い」という趣旨の話をしたという。弁護士の1人は「東電にもぜひ公開の場(法廷)で最終弁論をして欲しかった。原告の皆さんはきっと怒ったと思う」と話した。
次回1月7日の期日では、午前に津島地区をドローンで撮影したDVDが法廷で上映される。午後には原告が意見陳述し、原告側代理人弁護士が最終弁論を行い結審する。裁判所側は判決言い渡しの時期について「7月の終わり頃」と話しているという。
2015年9月29日の第1次提訴から5年余。ふるさとを一方的に汚され、帰還困難区域に指定され、今なお帰る事が出来ない津島の人々の闘いが間もなく、一区切りを迎える。原告たちは裁判所が国や東電の責任を認め、除染による原状回復を命じる判決を心待ちにしている。
(了)

【「規制権限不行使に違法性無い」】
「時間は40分と申し上げておりましたが、実際は50分ほどかかると思われます。出来る限りコンパクトにまとめてお話したいと思います」
国の指定代理人が、用意した「意見陳述要旨」を早口で読み上げた。モニターに「被告国の責任論の主張について」パワーポイントの資料を映し出しながら、他の原発事故関連訴訟と同様、国には大津波の予見可能性も過酷事故の結果回避可能性も無く、当時の規制権限不行使に違法性が無かった事を訴えた。
1992年の「伊方原発訴訟最高裁判決」を引用。「津波という自然災害による原子力災害の発生の予見可能性に関する裁判所の審理・判断は、①原子炉施設に関して用いられた安全性の審査又は判断の基準に不合理な点があるか否か②当該原子炉施設が当該基準に適合するとした規制機関の判断過程に看過し難い過誤・欠落があるか否か─の二段階審査によって判断されなければならない」と強調した。
そのうえで、「(本件原発事故は)規制権限の不行使の違法性が肯定されたこれまでの最高裁判決の事案と異なり、原告らが『(国が)規制権限を行使すべきであった』と主張する時期において、いまだ被害は発生しておらず、被害をもたらす原因も科学的に判明していなかった」と繰り返し主張した。
「本件津波により深刻な被害が発生したとしても、規制権限不行使の違法が直ちに肯定されるものではない」と結論付け、「科学的根拠の乏しい自然事象も含めてあらゆる事象を規制に摂り込むということになれば、かえって原子力工学その他の多様な科学技術の統合体である原子力発電所のシステム全体の安全性を低下させることにつながりかねない」とも述べた。


法廷に入れなかった原告は、勉強会で国の最終弁論について確認した
【「津波対策講じても事故防げぬ」】
文部科学省の地震調査研究推進本部(地震本部)が2002年7月に公表した「長期評価」については、「保安院は『長期評価の見解』が公表された直後の2002年8月に科学的根拠について調査したが、客観的かつ合理的根拠に裏付けられた知見であるとは認められなかった」、「2002年8月以降も、『長期評価の見解』に整合しない論文ばかりが公表され、客観的かつ合理的根拠を与えるような知見は公表されなかった」、「専門家が『成熟した知見とか、最大公約数的知見とは言い難いものだった』、『新たな知見として取り入れて、切迫性をもって対策を講じるべきとまでは考えていなかった』、『説得力のある見解とは考えられていなかった』などと評価していた」などと否定。過酷事故を招くほどの大津波は予見出来なかったと訴えた。
大津波を予見出来なかったのだから、過酷事故という結果を回避する事も出来なかった─。国の指定代理人は続ける。
「『長期評価の見解』をふまえた試算津波と本件津波はけた違いに規模が異なる」
「地震エネルギーは、試算津波の前提となる地震よりも11倍大きかった」
「試算津波と本件津波とで、方向も規模も全く異なった」
「試算津波に対する対策では、本件津波が東側から主要建屋がある敷地に遡上する事を防げない」
専門家が想定したよりも巨大な津波が襲いかかったのだから防げなくて当然だ、という理屈。そして、こうも述べた。
「仮に『長期評価の見解』を決定論に取り込んで津波対策を講じたとしても、事故前の知見によって導かれる結果回避措置では結果回避可能性が存在しない」
「防潮堤や防波堤などの存在を前提とせず、敷地内にちなみがそのまま侵入するのを容認した上で水密化の措置を講じる事は、事故前の科学技術水準からして技術的に未確立だった。実用段階には無かった」
長年にわたり、「絶対安全」と繰り返し強調しておきながら、いざ過酷事故が起きると「当時の科学的知見は未成熟だった」、「対策を講じても防げなかった」と言い逃れる。これが国策としての「原子力推進」の真の姿だった。


「国や東電の責任を認める判決が言い渡される可能性は十分にある」と原告側弁護団。原告たちはそれとともに、原状回復請求も認められる事を心から願っている=郡山市立中央公民館金透分室
【東電は進行協議で最終弁論】
「国の損害賠償責任を肯定したこれまでの一審判決は、いずれも判断手法を誤った結果、誤った結論を導いていると評価する事が出来る」
国の指定代理人は、最後にこう述べて、国の言う「正しい手法での判断」を裁判所に求めた。
モニターには、「同種先行訴訟判決について」として、「前橋地裁判決」(2017年3月17日)以降、今年10月9日の東京地裁判決まで、刑事訴訟を含む15の判決について列挙した資料が映し出された。国の損害賠償責任や、被告東電の元役員の刑事責任を否定した8つの判決は赤字で表現されている。「8勝7敗で国が勝ち越している」と言いたいのだろう。しかも、国の責任を認めた7判決は「そもそもの判断手法が間違っていた」。こうして、加害当事者である国の最終弁論は終了した。
なお、もう一方の被告である東電は、法廷では無く非公開の進行協議で最終弁論。原告弁護団によると「被害者には既に最大限の補償をしている。年齢などによって賠償額に差がある場合は世帯内で充当すれば良い」という趣旨の話をしたという。弁護士の1人は「東電にもぜひ公開の場(法廷)で最終弁論をして欲しかった。原告の皆さんはきっと怒ったと思う」と話した。
次回1月7日の期日では、午前に津島地区をドローンで撮影したDVDが法廷で上映される。午後には原告が意見陳述し、原告側代理人弁護士が最終弁論を行い結審する。裁判所側は判決言い渡しの時期について「7月の終わり頃」と話しているという。
2015年9月29日の第1次提訴から5年余。ふるさとを一方的に汚され、帰還困難区域に指定され、今なお帰る事が出来ない津島の人々の闘いが間もなく、一区切りを迎える。原告たちは裁判所が国や東電の責任を認め、除染による原状回復を命じる判決を心待ちにしている。
(了)
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