【女川原発再稼働同意】「宮城県民の民意は巧妙に排除された」 県民投票運動けん引した多々良哲さんの怒り 署名に込められた女川町民の想いもないがしろに
- 2020/12/16
- 06:42
宮城県の村井嘉浩知事が11月11日に東北電力女川原発2号機再稼働への同意を表明して1カ月余。会見で「再稼働は必要だ」と明言した村井知事を「巧妙に民意を排除して独断で決めた」と怒りを込めて見つめていた人がいる。2年前、11万を超える署名を集めた「女川原発再稼働の是非をみんなで決める県民投票を実現する会(みんなで決める会)」の代表として奔走した多々良哲さん(62)=宮城県仙台市=。女川有権者の実に2割が賛同した「自分たちで決めたい」の想いもないがしろにした村井知事について改めて語ってもらった。

【女川の2割「自分で決めたい」】
「是非これを見てください」
そう言って多々良さんが差し出したのは、県民投票運動の報告集。2018年10月2日から12月2日までの2カ月間、「みんなで決めよう!」を合言葉に、県民投票条例の制定を求める署名運動を展開。多々良さんが代表として奔走した「女川原発再稼働の是非をみんなで決める県民投票を実現する会(みんなで決める会)」は、実に11万筆を超える署名を集めた。「再稼働の是非を自分たちで決めたい」という想いは法で定められた4万筆(宮城県内有権者の2%)を大きく上回った。中でも、有権者に占める市区町村別の署名率は地元・女川町が21・9%で断トツの1位だったのだ。
「法定署名ですから必ず直筆。家族であっても代筆など許されません。名前や住所だけでなく生年月日も明記し、押印も必要です。とてもハードルが高い署名集めだったんです。そういう厳しい制約を乗り越えて、女川の受任者はものすごく頑張りました。女川の署名は女川の受任者しか集めてはいけないんです。家族が揃っている時間帯に一軒一軒訪ねなくてはいけない。ものすごく厳しいんです。その中で、有権者の実に21・9%が署名してくれた。これはすごい事です」
「家族や親戚の誰かは電力関連の仕事をしている。あるいは電力関係者や原発労働者を相手に商売をしている。商売をしている人の多くが原発頼りなんです。しがらみが多い中で2割の人が署名をした。しかもわずか2カ月間で。一軒一軒足を運んで玄関口で話をすると、実は多くの人が原発再稼働に不安を抱いているという事ですね。原発そのものに反対する署名では無かったから書きやすかったというのは当然、あると思います。でも、少なくとも『再稼働にあたっては、自分たちの意見を聴いて欲しい』という部分では一致出来るという事ですよ。他に署名が多かったのはUPZ(女川原発から30km圏内)の市町村でした。普段はなかなか声をあげられないけれど、対面でじっくり話すと意思表明してくれるんです」


東北電力の「女川原子力PRセンター」ガイドブックの表紙には「いっしょに考えてみよう!」と書かれている。しかし、村井知事の再稼働同意は「宮城県民といっしょに考える」という過程を経たようには映らない
【「街なかで原発の話タブー」】
しかし、実際に女川駅周辺で話を聴くと、反応はさっぱりだった。
護岸で釣り糸を垂れていた男性は、それまで釣りの話題では饒舌だったのに、女川原発再稼働の話になった途端に「うーん」と言葉が少なくなった。「原発を動かして欲しい?それはどうだべなぁ。町民は分かれっからな、賛成派と反対派に」。男性の言葉はそれだけだった。
1歳半の子どもと散歩をしていた女性は「怖い部分もあるけれど、現実問題としては動かさざるを得ないのではないでしょうか」と話した。
「ここは原発立地自治体ですから、予算的な恩恵は受けているんでしょうね。里帰り出産でしばらく仙台に帰っていましたが、行政の子育て支援策は女川の方が充実しているように感じます」
この女性は福島第一原発の事故について「今も風評被害が続いている」と口にしたが、最後まで汚染や被曝リスクについては語らなかった。
飲食店主も国からの交付金を挙げながら「地域経済のためには仕方ないのではないか」と話した。海産物を扱っている店だったが「福島では(汚染水の)海洋放出でもめてるよね」と〝他人事〟のように口にしていた。なぜなのか。多々良さんはこう分析する。
「一軒一軒訪ねれば本音が掘り起こされます。だけど女川の街なかでその事が話題になるかと言ったら、絶対にそうはなりません。福島と同じでタブーです。原発と利害関係にある人が必ずいるからです。『原発に関する世間話は出来ない』という声を多く耳にします。構図は単純ではありません。複雑です」
「原発建設にあたっては、誘致する側と反対する側とで町が二分されました。最終的には漁協が漁業権を放棄し、原発を受け入れてしまった。町の経済が原発に頼っている以上、表立って『原発反対』とは言えない。言えないと思うけれど、一方でもろ手を挙げて賛成では無い。だから尚更、住民投票が必要なんですよね」

村井知事の再稼働同意表明を撤回するよう求める声明。「再稼働への同意は断じて『県民の総意』ではありません」と抗議している
【「同意の裏に東北電の思惑」】
女川原発再稼働への同意表明にあたり、宮城県の村井知事は11月11日に石巻市で開かれた記者会見で「民意」という言葉を何度も口にした。宮城県議会が2019年3月議会で県民投票条例案を否決した事、石巻市議会や女川町議会、宮城県議会が再稼働に賛成する請願を採択した事を指していると思われる。
しかし、11万を超える署名は「民意」では無かったのか?だとしたら何だったのだろうか?
多々良さんは「当日は、私も石巻に行きました。一番許せなかったのは、村井知事が『宮城県民の反対を押し切って独断で同意したのでは無い。県民の民意なんだ』という趣旨の発言をした事です。県民の民意を置き去りにして自分が決めたと言うのであれば、まだ筋は通りますが…」と怒りをあらわにした。
「村井知事は『宮城県民の民意がどこにあるかを国に伝えるのが私の役割』と言ったんです。しかし、実際になされたのは、巧妙な民意の排除でした。本気で県民の声を聴こうとする場面は全く無かった。それをやっちゃうと再稼働への道筋が破たんしてしまうからです。河北新報が実施した世論調査でも、県民の6割以上が再稼働に反対しているんです。8割が県民投票を実施して欲しいと答えている。それが『民意』じゃないですか。原発に対する考え方はともかく、一人一人の意見を出し合って決めようと考える人がほとんどだという事なんです。それなのに、村井知事は国策ありき、再稼働ありき。しかも、東北電力からは『安全対策工事の進捗から言って今年中に同意してください』と言われている。事前了解が無いと着手出来ない工事があるから年内にお願いしますって話です。だから、これだけ強引なやり方をしたと私は思います」
宮城県の2021年は選挙イヤー。7月に仙台市長選、10月には宮城県知事選が実施される。総選挙も必ずある。2月には国の「原子力総合防災訓練」が女川原発で行われる。県民は否が応にも女川原発再稼働問題と向き合う事となる。
多々良さんは言う。
「県民投票運動のテーマはもちろん原発再稼働なんだけど、一方で民主主義の問題でもありました。住民自治の問題。自己決定権の問題でした。宮城県の民主主義を高める、それがスローガンでした。来年の選挙では、民主主義が機能する事を期待しています」
(了)

【女川の2割「自分で決めたい」】
「是非これを見てください」
そう言って多々良さんが差し出したのは、県民投票運動の報告集。2018年10月2日から12月2日までの2カ月間、「みんなで決めよう!」を合言葉に、県民投票条例の制定を求める署名運動を展開。多々良さんが代表として奔走した「女川原発再稼働の是非をみんなで決める県民投票を実現する会(みんなで決める会)」は、実に11万筆を超える署名を集めた。「再稼働の是非を自分たちで決めたい」という想いは法で定められた4万筆(宮城県内有権者の2%)を大きく上回った。中でも、有権者に占める市区町村別の署名率は地元・女川町が21・9%で断トツの1位だったのだ。
「法定署名ですから必ず直筆。家族であっても代筆など許されません。名前や住所だけでなく生年月日も明記し、押印も必要です。とてもハードルが高い署名集めだったんです。そういう厳しい制約を乗り越えて、女川の受任者はものすごく頑張りました。女川の署名は女川の受任者しか集めてはいけないんです。家族が揃っている時間帯に一軒一軒訪ねなくてはいけない。ものすごく厳しいんです。その中で、有権者の実に21・9%が署名してくれた。これはすごい事です」
「家族や親戚の誰かは電力関連の仕事をしている。あるいは電力関係者や原発労働者を相手に商売をしている。商売をしている人の多くが原発頼りなんです。しがらみが多い中で2割の人が署名をした。しかもわずか2カ月間で。一軒一軒足を運んで玄関口で話をすると、実は多くの人が原発再稼働に不安を抱いているという事ですね。原発そのものに反対する署名では無かったから書きやすかったというのは当然、あると思います。でも、少なくとも『再稼働にあたっては、自分たちの意見を聴いて欲しい』という部分では一致出来るという事ですよ。他に署名が多かったのはUPZ(女川原発から30km圏内)の市町村でした。普段はなかなか声をあげられないけれど、対面でじっくり話すと意思表明してくれるんです」


東北電力の「女川原子力PRセンター」ガイドブックの表紙には「いっしょに考えてみよう!」と書かれている。しかし、村井知事の再稼働同意は「宮城県民といっしょに考える」という過程を経たようには映らない
【「街なかで原発の話タブー」】
しかし、実際に女川駅周辺で話を聴くと、反応はさっぱりだった。
護岸で釣り糸を垂れていた男性は、それまで釣りの話題では饒舌だったのに、女川原発再稼働の話になった途端に「うーん」と言葉が少なくなった。「原発を動かして欲しい?それはどうだべなぁ。町民は分かれっからな、賛成派と反対派に」。男性の言葉はそれだけだった。
1歳半の子どもと散歩をしていた女性は「怖い部分もあるけれど、現実問題としては動かさざるを得ないのではないでしょうか」と話した。
「ここは原発立地自治体ですから、予算的な恩恵は受けているんでしょうね。里帰り出産でしばらく仙台に帰っていましたが、行政の子育て支援策は女川の方が充実しているように感じます」
この女性は福島第一原発の事故について「今も風評被害が続いている」と口にしたが、最後まで汚染や被曝リスクについては語らなかった。
飲食店主も国からの交付金を挙げながら「地域経済のためには仕方ないのではないか」と話した。海産物を扱っている店だったが「福島では(汚染水の)海洋放出でもめてるよね」と〝他人事〟のように口にしていた。なぜなのか。多々良さんはこう分析する。
「一軒一軒訪ねれば本音が掘り起こされます。だけど女川の街なかでその事が話題になるかと言ったら、絶対にそうはなりません。福島と同じでタブーです。原発と利害関係にある人が必ずいるからです。『原発に関する世間話は出来ない』という声を多く耳にします。構図は単純ではありません。複雑です」
「原発建設にあたっては、誘致する側と反対する側とで町が二分されました。最終的には漁協が漁業権を放棄し、原発を受け入れてしまった。町の経済が原発に頼っている以上、表立って『原発反対』とは言えない。言えないと思うけれど、一方でもろ手を挙げて賛成では無い。だから尚更、住民投票が必要なんですよね」

村井知事の再稼働同意表明を撤回するよう求める声明。「再稼働への同意は断じて『県民の総意』ではありません」と抗議している
【「同意の裏に東北電の思惑」】
女川原発再稼働への同意表明にあたり、宮城県の村井知事は11月11日に石巻市で開かれた記者会見で「民意」という言葉を何度も口にした。宮城県議会が2019年3月議会で県民投票条例案を否決した事、石巻市議会や女川町議会、宮城県議会が再稼働に賛成する請願を採択した事を指していると思われる。
しかし、11万を超える署名は「民意」では無かったのか?だとしたら何だったのだろうか?
多々良さんは「当日は、私も石巻に行きました。一番許せなかったのは、村井知事が『宮城県民の反対を押し切って独断で同意したのでは無い。県民の民意なんだ』という趣旨の発言をした事です。県民の民意を置き去りにして自分が決めたと言うのであれば、まだ筋は通りますが…」と怒りをあらわにした。
「村井知事は『宮城県民の民意がどこにあるかを国に伝えるのが私の役割』と言ったんです。しかし、実際になされたのは、巧妙な民意の排除でした。本気で県民の声を聴こうとする場面は全く無かった。それをやっちゃうと再稼働への道筋が破たんしてしまうからです。河北新報が実施した世論調査でも、県民の6割以上が再稼働に反対しているんです。8割が県民投票を実施して欲しいと答えている。それが『民意』じゃないですか。原発に対する考え方はともかく、一人一人の意見を出し合って決めようと考える人がほとんどだという事なんです。それなのに、村井知事は国策ありき、再稼働ありき。しかも、東北電力からは『安全対策工事の進捗から言って今年中に同意してください』と言われている。事前了解が無いと着手出来ない工事があるから年内にお願いしますって話です。だから、これだけ強引なやり方をしたと私は思います」
宮城県の2021年は選挙イヤー。7月に仙台市長選、10月には宮城県知事選が実施される。総選挙も必ずある。2月には国の「原子力総合防災訓練」が女川原発で行われる。県民は否が応にも女川原発再稼働問題と向き合う事となる。
多々良さんは言う。
「県民投票運動のテーマはもちろん原発再稼働なんだけど、一方で民主主義の問題でもありました。住民自治の問題。自己決定権の問題でした。宮城県の民主主義を高める、それがスローガンでした。来年の選挙では、民主主義が機能する事を期待しています」
(了)
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