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【117カ月目の浪江町はいま】「環境省に校舎解体延期求めない」吉田町長が議会で答弁 「跡地利用計画に影響」とも 傍聴した卒業生「町は冷たい」

町の答えは「NO」だった。原発事故で母校の休校を強いられた福島県双葉郡浪江町立学校の卒業生たちが校舎解体の延期とお別れ会の開催を町に求めている問題で、浪江町の吉田数博町長は8日午後、町議会本会議で「解体延期は難しい」との姿勢を改めて示した。卒業生たちは、町議会に「浪江町の各小中学校の解体を延期し、町民・卒業生にお別れの機会となる閉校式の開催を求める請願書」を提出しているが、「避難所としての跡地利用計画に影響を及ぼす」と吉田町長。傍聴した卒業生たちは町長の答弁に肩を落とした。馬場績町議の一般質問への答弁。
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【「跡地利用計画がある」】
 「冷たいですよね。心が無い…」
 本会議を傍聴した三原由起子さん(1995年浪江中学校卒業)は、残念そうに語った。
 校舎を解体するな、などとは誰も言っていない。せめて感染症の問題が落ち着くまで、多くの卒業生が校舎に集まってお別れ会を開ける時まで解体工事を延期して欲しい。解体を待ってくれるよう環境省に頼んで欲しい。たったそれだけの願いが届かない。この日の吉田町長の答弁は、時に「気持ちは分かる」と言いながら、しかし完全に「NO」を突きつけていた。
 最初に答弁したのは、教育委員会事務局の教育次長補佐だった。
 「教育委員会と致しましては、学校施設の解体延期は難しいと考えておりますが、当初より検討しておりました閉校式につきましては、新型コロナウイルス感染症の状況を注視しながら開催に向け検討を行っております。以上です」
 たった、それだけだった。馬場町議は「町長、教育長は呼びかけ人たちの想いにどう応えるのか」と質したのだが答えなかった。再質問をすると、ようやく吉田町長が答弁に立った。
 「学校解体について名指しで説明しろという事ですので、説明させていただきます」。そう前置きした吉田町長は、校舎解体を延期出来ない理由を「跡地利用が決まっているため」と説明した。
 「解体後の跡地利用計画がございます。今まで学校として利用する傍ら、避難場所としても利用して来ました。現在、どの学校も電気や水道が通っておりません。それに伴ってトイレが使えない。避難所として利用出来ない状況なのです。町に暮らしている方々から『防災コミュニティセンターの設置を急いで欲しい』という声もたくさん出ています。(卒業生の)皆さんの想いは非常に理解しますが、解体を延期するという事は、その後の事業に影響を及ぼすという事で、なかなか難しいのです」

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一般質問で「校舎解体の延期を環境省に要望して欲しい」と質した馬場績町議。請願提出後も増え続ける署名は3915筆に達しているという。「町民の願いを正面から受け止めて行動するべきだ」と吉田町長に迫ったが、答弁は「NO」だった

【「閉校式はやる予定」】
 馬場町議は時に語気を強めながら再々質問に立った。言葉は尽くしているが、町側の「解体延期不可」の姿勢は変わらない。結論ありきの答弁に、馬場町議はこう訴えた。
 「町長ね、学校跡地の再利用計画がある? だから解体は延期出来ない? 卒業生たちの想いに応えるのが行政でしょ。町長、跡地利用があるから延期出来ないと言うんだったらば、跡地利用を延期したら良いじゃないですか。心の拠り所である学校で、皆で集まって最後のお別れ会をしたいんだ。今までの思い出もいっぱい詰まってる。これが学校が解体される事によって、あるいは自分の人生から無くなるかもしれない。だから、皆が参加出来るお別れ会を開催出来るように解体を延期して欲しいという要望なんですよ。町民の心に寄り添う気持ちがあるならば、町民から言われるまでも無く、町長は環境省に(校舎解体延期を)求めるべきです。町民の心を訴えるべきです」
 しかし、吉田町長の答弁は変わらなかった。今度は感染症の問題を挙げながら、そして「想いは分かる」と言いながら、跡地利用計画を理由に校舎解体の延期を拒んだ。
 「先ほどお答えした通りと考えております。ただ、皆様方の想いは分かりますので、その中でどういった妥協点を見出すかという事に尽きます。ただ残念なのは、コロナ禍の終息が見通せない状況の中で、いつまでもこの問題を続けていく事は難しい。だから先ほど申し上げたように苦渋の選択をせざるを得ない。この事もご理解いただきたい。繰り返しになりますが、ここに住んでいる方が避難所の設置を要望されている実態もございます。皆様方の想いも理解出来ますので、そこの中での妥協点と言いますか、閉校式は開催する予定で検討を進めておりますので、御理解を賜るしか方法は無いものと考えております」
 閉校式については、笠井淳一教育長が「当初より検討を進めてきた。期日については、閉校となる4月1日との関連から検討している」とだけ答弁。内容についても「(呼びかけ人たちと)連絡を取り合いながら進めて行きたい。皆様のご意見を取り入れながら進める」と明言を避けた。

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7月に行われた〝最後の校舎見学会〟には延べ2600人の町民が参加したが、コロナ禍で参加出来ない卒業生も多かった。当日の寄せ書きには「学校を浪江文化博物館に!」という言葉もあったが、町は既に安藤ハザマと契約済み。年明けにも順次、解体工事が始まる見通しだ

【「なぜ延期要望出来ぬ」】
 馬場町議は「町は3月18日、環境省に校舎解体を申請。解体工事は放射性物質汚染対策特措法に基づく環境省直轄工事となり、10月7日には安藤ハザマと工事契約を結びました。感染症の問題が落ち着くまで校舎解体を延期するよう国に要望して欲しいという素朴な願いに、われわれ議会も町も教育委員会も理解を示す事が必要ではないでしょうか」と再三にわたって訴えた。
 「請願を提出した後も賛同署名は集まり、3915筆になったそうです。1カ月足らずの間に署名の輪が広がったのは、『学校は心の拠り所』、『ふるさとの思い出が詰まった学校でお別れ会をやりたい。それまで校舎解体を延期して欲しい』という素朴な願いが大きな共感を呼んだのだと思います」
 傍聴席では、門馬昌子さんら請願の呼びかけ人たちが当局の答弁に聴き入っていた。だが、吉田町長宛ての要望書を提出した後も町の姿勢は変わらず、静岡県から駆け付けた堀川文夫さん(1970年浪江中学校卒業)は閉会後、「私たちの想いを汲み取って町政に活かすのが町長の役割のはず。それなのに『環境省に校舎解体の延期を要請する』という答弁すら出来ず、ガッカリです。浪江町の復興は心の復興にかかっているのに…」と感想を寄せた。
 一般質問では、呼びかけ人の1人で、歌人である三原さんの短歌も紹介された。
 「三日という 期限ありきの見学会 われら学び舎 ともに寂しむ」
 卒業生たちの素朴な願いを吉田町長は一蹴した。原発事故の加害当事者である国が、費用ねん出を餌に校舎解体の主導権を握る不条理。ネックになるのは本当に感染症の問題や跡地利用計画なのだろうか。請願をどうするか。今度は町議会の姿勢が問われる。



(了)
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鈴木博喜

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