【民の声新聞が見た2020年の福島】弱者に冷たい内堀県政、五輪準備の陰で原発避難者切り捨て 「汚染水海洋放出」に「伝承館」で〝復興〟? そして「丸10年」へ
- 2020/12/31
- 10:00
2020年も今日で終わり。震災・原発事故から9年が経った福島にも新型コロナウイルスの波が押し寄せた。批判の声が多い〝復興五輪〟は1年延期。一方で原発避難者の切り捨てはさらに進み、ハコもの復興ばかりが進んだ。原発事故後にたまり続ける汚染水問題は解決しないまま越年。原発事故を後世に伝えるための「伝承館」も〝復興〟に軸足を置いた中途半端な滑り出しとなった。今年書いた100本の記事から、2020年の福島を振り返りたい。次の「3・11」で丸10年。しかし、原発事故被害者に「区切り」など無い。課題が山積したまま、新しい年を迎える。

【課題あぶり出した水害】
2020年の福島取材は元日に始まった。
いわき市の「内郷コミュニティセンター」。暖冬だったとはいえ、寒さが身に染みる体育館で、70人のいわき市民が「10・12水害」(2019年台風19号水害)の被災者たちが新しい年を迎えた。
男性は言った。
「行政区長が『どんどん不動産業者に電話をかけて年内に(新しい住まいを)決めてください』って厳しい口調で言ってました。被災者の気持ちになっていないですよ。私たちは遊び呆けてここに居るわけではありません。住まいが確保出来ないから、昼間は働いたり自宅の片づけをしたりしながらここで寝泊まりしているんです。政治は本当に冷たい」
郡山市は昨年12月25日をもって市内の水害避難所を全て閉鎖した。被災者に「期限を決めた自立」を強要する姿勢は、原発避難者への仕打ちと全く同じだ。
「行き先が『決まった』んじゃありません。『決めた』んですよ。もう少しここに居たい、せめて正月三が日が明けるまでは避難所に居たいって言う人もいたけど、いつまでも甘えてばかりというわけにもいかないものね…。25日までしか居られないから、みんな不動産屋さんを巡って大急ぎでアパートを探したんですよ」
女性は自分に言い聞かせるように語っていた。
自宅が激しく損傷した被災者が国の「被災者生活再建支援金」を申請しても、書類提出から振込までに半年も要した人もいた。水害発生から7カ月以上が経過した5月末の段階で、まだ2割近くの人が支援金を得られていなかった。これでは「生活再建」どころでは無い。
水害は、放射性廃棄物に関する情報公開の課題も浮き彫りにした。
福島県本宮市の災害廃棄物は1月27日から3週間にわたって一部が新潟県五泉市に運ばれ燃やされたが、「木くず」や「稲わら」は県の自主基準100Bq/kgを上回った(最大で662・4Bq/kg)ため搬出を断念されていた。しかし、測定値は一切公表されず、県の情報公開制度で入手した文書で判明した。
別の災害廃棄物は原発事故後に環境省が設置した仮設焼却炉で焼却されたが、「焼却灰は全て8000Bq/kgを下回ったので指定廃棄物にはならない」として発生元自治体に返却されている。これも住民への公表は無し。震災・原発事故発生から間もなく丸10年を迎える福島は、依然として情報公開や透明性の点で大きく遅れている。






①2019年秋の「10・12水害」。被災者の一部は、避難所で2020年を迎えた
②〝復興〟をアピールする五輪開催に福島県内からも反対の声があがった。感染症を理由に1年延期したが、五輪どころでは無い
③「子ども脱被ばく裁判」の証人として3月、福島地裁で証言した山下俊一氏。当時の発言の誤りを一部認め、「誤解を招いたのであれば申し訳ない」などと述べた
④4月には〝アベノマスク疑惑〟が浮上。福島市内の会社が一部を受注したが、ほとんど実態の無い会社だった
⑤国や福島県による「原発避難いじめ」がさらに進んだ今年。福島県は〝避難者追い出し訴訟〟を福島地裁に起こした
⑥震災・原発事故で「復興公営住宅」に入居した被災者の一部が「収入超過」で家賃値上げの対象となっている事も判明。入居者からは反発と戸惑いの声があがった
【五輪延期と避難者切り捨て】
計画通りであれば、今年は3月26日に〝復興五輪〟の聖火リレーがJヴィレッジをスタート。7月には福島市で野球とソフトボールの試合が行われるはずだった。国も福島県も「原発事故から立ち直った姿」を国内外に発信する好機と捉えていたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、1年延期された。
そもそも、〝復興〟を世界にアピールする場としての五輪開催には、福島県内でも疑問や批判の声が絶えなかった。
原発事故で避難を強いられた浪江町民は「オリンピックも聖火リレーも国の〝コマーシャル〟なんだ。復興でもなんでも無い」と怒り、2月末と3月1日には、原発事故の被害者たちがJヴィレッジや県営あづま球場で「福島はオリンピックどごでねぇ」と声をあげた。放射能汚染の測定を続けている市民グループが日本外国特派員協会で記者会見を開き、「聖火リレーコースや周辺の放射能汚染は依然として解消されていない」と訴えた。
その陰で、原発事故被害者の切り捨てはさらに進んだ。
福島県は3月25日、国家公務員宿舎「東雲住宅」に入居する〝自主避難者〟4世帯に対し、退去と未払い家賃の支払いを求めて福島地裁に提訴。原発事故の被災県が避難県民を住まいから追い出すため裁判に打って出るという事態になった。
国家公務員宿舎に入居する〝自主避難者〟(区域外避難者、提訴された4世帯を除く)は、福島県から「損害金」名目で2倍の家賃を請求する事態が続いている。そしてとうとう、福島県は今月に入り、避難当事者の親族に文書を送り付けたうえに訪問し、「このまま退去せず家賃未払いが続くようなら訴訟を起こす事も考える」として、避難者追い出しに協力するよう求める行動に出た。まるでサラ金や闇金の借金取り立て。
震災後に建設された「復興公営住宅」に入居する75世帯が「公営住宅法」で定める「収入超過」と認定され、段階的な家賃値上げの対象となっている事も分かった。これが、「最後の1人まで寄り添う」と公言している内堀雅雄知事の真の意思だった。






①7月、校舎解体が決まっている浪江町立5校の〝最後の校舎見学会〟が開かれたが、コロナ禍で多くの卒業生が集まる事は出来なかった
②6期24年の〝独裁〟に終止符を打って勇退した飯舘村の菅野典雄前村長。8月には、汚染土壌の再利用について「(覆土無し栽培は)初めて聞いてびっくりしています。今の段階では当然、覆土をするべきです」と明かした
③双葉町に9月、オープンした「東日本大震災・原子力災害伝承館」。館長選考や展示内容に不満や批判の声が噴出した
④10月、汚染水の海洋放出決定を政府が強行するとの報道を受け、福島県庁前や福島駅前などで抗議行動が展開された
⑤浪江町立5校の卒業生たちが校舎解体延期とお別れ会の実施を町議会に請願。しかし、賛成少数で不採択となった
⑥12月、国家公務員宿舎に入居する〝自主避難者〟を追い出そうと、福島県は避難者親族に手紙を送ったうえで訪問。訴訟もチラつかせながら追い出しに協力するよう求めた
【汚染水など課題山積】
2021年に持ち越す課題は山積だ。
新型コロナウイルスの感染拡大の波は冬の訪れとともに福島にも襲いかかり、29日の時点で陽性者数は924人に上った。3月7日の1人目確認以降、県内陽性者数が200人に達するまでに半年を要したが、9月から12月の3カ月で700人以上の感染が確認された。特に福島市では大学や病院などでの集団感染が継続中。終息の見通しなど立てられない。
その状況下で、本当に東京五輪など出来るのか。独居の目立つ復興公営住宅では、避難者の孤独死が絶えない。浜通りではJR常磐線の駅周辺だけが〝ハコもの復興〟し、汚染や避難者は置き去りのまま。原発避難に感染症が追い打ちをかけている状態では、まずは命を守るのが先だ。〝復興〟をPRするための五輪に興じている場合では無い。
原発事故後にたまり続ける汚染水をどうするのか。
10月27日にも政府が海洋放出決定を強行するとの報道を受け、福島県内では改めて反対の声が噴出。福島県庁などで「基準値以下に薄めて海に流すと言いますが、放射性物質が無くなるわけではありません。しかも含まれているのはトリチウムだけではありません。63核種です。安易に海に流すのでは無く、きちんと陸上保管するべきです。原発事故が起きてしまった福島県の代表として、内堀知事には考えて動いていただきたいです」、「内堀知事が『海洋放出反対』を表明していません。県民を守る立場の知事ですから、『海に流しては駄目だ』とはっきりと言ってもらいたいです。肝心の親分が『NO』を言ってくれなかったら、県民を守らなかったら、誰が県民を守るんですか?」と怒りの声があがった。
9月には、双葉町に「東日本大震災・原子力災害伝承館」がオープンしたが、初代館長にはなんと、原発事故後に山下俊一氏とともに「被曝の影響は無い」と講演行脚した長崎大学の高村昇氏が就任した。
高村館長は開館前、伝承館の主眼は「復興のあゆみを発信する事が主眼だ」と明言。その言葉通り、開館後に福島県内外から展示内容への不満や批判が噴出した。
福島県内外の裁判所では、今なお原発事故被害者たちの訴訟が続いている。国も東電も自らの責任を認めず、「これ以上の賠償は不要」との姿勢を貫いている。原発事故被害は終わっていない。今年も「3・11」が過ぎても、追い続けたい。
(了)

【課題あぶり出した水害】
2020年の福島取材は元日に始まった。
いわき市の「内郷コミュニティセンター」。暖冬だったとはいえ、寒さが身に染みる体育館で、70人のいわき市民が「10・12水害」(2019年台風19号水害)の被災者たちが新しい年を迎えた。
男性は言った。
「行政区長が『どんどん不動産業者に電話をかけて年内に(新しい住まいを)決めてください』って厳しい口調で言ってました。被災者の気持ちになっていないですよ。私たちは遊び呆けてここに居るわけではありません。住まいが確保出来ないから、昼間は働いたり自宅の片づけをしたりしながらここで寝泊まりしているんです。政治は本当に冷たい」
郡山市は昨年12月25日をもって市内の水害避難所を全て閉鎖した。被災者に「期限を決めた自立」を強要する姿勢は、原発避難者への仕打ちと全く同じだ。
「行き先が『決まった』んじゃありません。『決めた』んですよ。もう少しここに居たい、せめて正月三が日が明けるまでは避難所に居たいって言う人もいたけど、いつまでも甘えてばかりというわけにもいかないものね…。25日までしか居られないから、みんな不動産屋さんを巡って大急ぎでアパートを探したんですよ」
女性は自分に言い聞かせるように語っていた。
自宅が激しく損傷した被災者が国の「被災者生活再建支援金」を申請しても、書類提出から振込までに半年も要した人もいた。水害発生から7カ月以上が経過した5月末の段階で、まだ2割近くの人が支援金を得られていなかった。これでは「生活再建」どころでは無い。
水害は、放射性廃棄物に関する情報公開の課題も浮き彫りにした。
福島県本宮市の災害廃棄物は1月27日から3週間にわたって一部が新潟県五泉市に運ばれ燃やされたが、「木くず」や「稲わら」は県の自主基準100Bq/kgを上回った(最大で662・4Bq/kg)ため搬出を断念されていた。しかし、測定値は一切公表されず、県の情報公開制度で入手した文書で判明した。
別の災害廃棄物は原発事故後に環境省が設置した仮設焼却炉で焼却されたが、「焼却灰は全て8000Bq/kgを下回ったので指定廃棄物にはならない」として発生元自治体に返却されている。これも住民への公表は無し。震災・原発事故発生から間もなく丸10年を迎える福島は、依然として情報公開や透明性の点で大きく遅れている。






①2019年秋の「10・12水害」。被災者の一部は、避難所で2020年を迎えた
②〝復興〟をアピールする五輪開催に福島県内からも反対の声があがった。感染症を理由に1年延期したが、五輪どころでは無い
③「子ども脱被ばく裁判」の証人として3月、福島地裁で証言した山下俊一氏。当時の発言の誤りを一部認め、「誤解を招いたのであれば申し訳ない」などと述べた
④4月には〝アベノマスク疑惑〟が浮上。福島市内の会社が一部を受注したが、ほとんど実態の無い会社だった
⑤国や福島県による「原発避難いじめ」がさらに進んだ今年。福島県は〝避難者追い出し訴訟〟を福島地裁に起こした
⑥震災・原発事故で「復興公営住宅」に入居した被災者の一部が「収入超過」で家賃値上げの対象となっている事も判明。入居者からは反発と戸惑いの声があがった
【五輪延期と避難者切り捨て】
計画通りであれば、今年は3月26日に〝復興五輪〟の聖火リレーがJヴィレッジをスタート。7月には福島市で野球とソフトボールの試合が行われるはずだった。国も福島県も「原発事故から立ち直った姿」を国内外に発信する好機と捉えていたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、1年延期された。
そもそも、〝復興〟を世界にアピールする場としての五輪開催には、福島県内でも疑問や批判の声が絶えなかった。
原発事故で避難を強いられた浪江町民は「オリンピックも聖火リレーも国の〝コマーシャル〟なんだ。復興でもなんでも無い」と怒り、2月末と3月1日には、原発事故の被害者たちがJヴィレッジや県営あづま球場で「福島はオリンピックどごでねぇ」と声をあげた。放射能汚染の測定を続けている市民グループが日本外国特派員協会で記者会見を開き、「聖火リレーコースや周辺の放射能汚染は依然として解消されていない」と訴えた。
その陰で、原発事故被害者の切り捨てはさらに進んだ。
福島県は3月25日、国家公務員宿舎「東雲住宅」に入居する〝自主避難者〟4世帯に対し、退去と未払い家賃の支払いを求めて福島地裁に提訴。原発事故の被災県が避難県民を住まいから追い出すため裁判に打って出るという事態になった。
国家公務員宿舎に入居する〝自主避難者〟(区域外避難者、提訴された4世帯を除く)は、福島県から「損害金」名目で2倍の家賃を請求する事態が続いている。そしてとうとう、福島県は今月に入り、避難当事者の親族に文書を送り付けたうえに訪問し、「このまま退去せず家賃未払いが続くようなら訴訟を起こす事も考える」として、避難者追い出しに協力するよう求める行動に出た。まるでサラ金や闇金の借金取り立て。
震災後に建設された「復興公営住宅」に入居する75世帯が「公営住宅法」で定める「収入超過」と認定され、段階的な家賃値上げの対象となっている事も分かった。これが、「最後の1人まで寄り添う」と公言している内堀雅雄知事の真の意思だった。






①7月、校舎解体が決まっている浪江町立5校の〝最後の校舎見学会〟が開かれたが、コロナ禍で多くの卒業生が集まる事は出来なかった
②6期24年の〝独裁〟に終止符を打って勇退した飯舘村の菅野典雄前村長。8月には、汚染土壌の再利用について「(覆土無し栽培は)初めて聞いてびっくりしています。今の段階では当然、覆土をするべきです」と明かした
③双葉町に9月、オープンした「東日本大震災・原子力災害伝承館」。館長選考や展示内容に不満や批判の声が噴出した
④10月、汚染水の海洋放出決定を政府が強行するとの報道を受け、福島県庁前や福島駅前などで抗議行動が展開された
⑤浪江町立5校の卒業生たちが校舎解体延期とお別れ会の実施を町議会に請願。しかし、賛成少数で不採択となった
⑥12月、国家公務員宿舎に入居する〝自主避難者〟を追い出そうと、福島県は避難者親族に手紙を送ったうえで訪問。訴訟もチラつかせながら追い出しに協力するよう求めた
【汚染水など課題山積】
2021年に持ち越す課題は山積だ。
新型コロナウイルスの感染拡大の波は冬の訪れとともに福島にも襲いかかり、29日の時点で陽性者数は924人に上った。3月7日の1人目確認以降、県内陽性者数が200人に達するまでに半年を要したが、9月から12月の3カ月で700人以上の感染が確認された。特に福島市では大学や病院などでの集団感染が継続中。終息の見通しなど立てられない。
その状況下で、本当に東京五輪など出来るのか。独居の目立つ復興公営住宅では、避難者の孤独死が絶えない。浜通りではJR常磐線の駅周辺だけが〝ハコもの復興〟し、汚染や避難者は置き去りのまま。原発避難に感染症が追い打ちをかけている状態では、まずは命を守るのが先だ。〝復興〟をPRするための五輪に興じている場合では無い。
原発事故後にたまり続ける汚染水をどうするのか。
10月27日にも政府が海洋放出決定を強行するとの報道を受け、福島県内では改めて反対の声が噴出。福島県庁などで「基準値以下に薄めて海に流すと言いますが、放射性物質が無くなるわけではありません。しかも含まれているのはトリチウムだけではありません。63核種です。安易に海に流すのでは無く、きちんと陸上保管するべきです。原発事故が起きてしまった福島県の代表として、内堀知事には考えて動いていただきたいです」、「内堀知事が『海洋放出反対』を表明していません。県民を守る立場の知事ですから、『海に流しては駄目だ』とはっきりと言ってもらいたいです。肝心の親分が『NO』を言ってくれなかったら、県民を守らなかったら、誰が県民を守るんですか?」と怒りの声があがった。
9月には、双葉町に「東日本大震災・原子力災害伝承館」がオープンしたが、初代館長にはなんと、原発事故後に山下俊一氏とともに「被曝の影響は無い」と講演行脚した長崎大学の高村昇氏が就任した。
高村館長は開館前、伝承館の主眼は「復興のあゆみを発信する事が主眼だ」と明言。その言葉通り、開館後に福島県内外から展示内容への不満や批判が噴出した。
福島県内外の裁判所では、今なお原発事故被害者たちの訴訟が続いている。国も東電も自らの責任を認めず、「これ以上の賠償は不要」との姿勢を貫いている。原発事故被害は終わっていない。今年も「3・11」が過ぎても、追い続けたい。
(了)
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