【118カ月目の浪江町はいま】〝渡りに船〟のコロナ禍で「最後の校舎見学会」が中止 さっさと校舎解体進めたかった浪江町 卒業生からは落胆と憤りの声
- 2021/01/15
- 11:36
原発事故に伴う全町避難を強いられた福島県双葉郡浪江町の町立5校の校舎解体問題で、卒業生たちの求めで一度は実施が決まった最後の校舎見学会が結局、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に中止される事になった。解体費用を環境省が負担する事や解体後に防災コミュニティセンター建設が控えている事を理由に町は国に解体延期を求めない意向で、卒業生たちの願いは叶わない。原発事故から間もなく10年。町の消極姿勢に卒業生から憤りの声があがる中、今月26日から伝統ある校舎の解体工事が始まる。

【緊急事態宣言が決め手】
浪江町教育委員会によると、2011年3月の震災・原発事故以降、事実上の「廃校」状態にある町立5校(大堀、苅野、幾世橋、浪江の4小学校と浪江中学校)について、浪江小学校を除く4校の最後の校舎見学会を今月23~25日に苅野小と幾世橋小で、2月6~8日に大堀小と浪江中で実施する事を決定。12月23日には町のホームページで参加が呼びかけられていた。
しかし、ホームページでの告知に「新型コロナウイルス感染症の状況次第では見学会を中止する場合がある」とも書かれていたように、新しい年を迎えたところで感染症の問題が解決するはずは無い。今月8日から一都三県が緊急事態宣言下に入り、14日には大阪府など七府県も加わった。当初の予定通り、2月7日に解除出来るかどうかも見通せない。13日までに福島県内で確認された陽性者は1300人を超えている。
結局、町教委は見学会の中止を決定。12日付でホームページにも掲載した。「延期することはできませんのでご理解をお願いします」として、今月26日から解体工事が始まる事も伝えている。
「署名集めをなさっていた皆さんは『感染症の問題が終息してから学校見学会を実施して欲しい』とおっしゃっていたが、いつ終息するかが見えないので、そもそも終息を待って見学会を実施するのは難しいと考えていた。そこに緊急事態宣言が出た事で、往来を制限される人たちが出てくるなど実施は難しいと判断した」と町教委の担当者。
4校については順次、解体工事が進められるが、浪江小学校に関しては学校見学会を実施した上で校舎を解体する予定に変更は無いという。


(上)幾世橋小学校の一角に設置されている「二宮金次郎像」は取り壊し対象外。校舎の解体工事は26日から始まる
(下)「浪江町の各小中学校の解体を延期し、町民・卒業生にお別れの機会となる閉校式の開催を求める請願書」には4000筆近い賛同署名が集まったが、町側は一貫して解体工事の延期には消極的だった
【はじめから消極的だった町】
町教委の担当者は「日程を設定しなければいけないというよりも、限られた時間の中でやれる事はやった方が良いという事で見学会の日程を設定した。中止を見越して組んだわけでも何でも無い。あくまでも、卒業生のためにやってあげたいという意向だった。やった方が良いと考えていたが、やはり緊急事態宣言が大きい」と否定するが、そもそも、この時期に学校見学会を実施する事には無理があった。
賛同署名を呼びかけ、町議会に請願を提出した一人、門馬昌子さんは「真冬で寒さが厳しく、感染症の問題もある中で、この時期の学校見学会は難しいと思っていた」と話す。
町も請願を不採択にした町議会も、一貫して学校見学会の実施には消極的だった。
吉田数博町長は12月8日の町議会本会議で「町に暮らしている方々から『防災コミュニティセンターの設置を急いで欲しい』という声もたくさん出ています。(卒業生の)皆さんの想いは非常に理解しますが、解体を延期するという事は、その後の事業に影響を及ぼすという事で、なかなか難しいのです」と答弁。
請願審査を附託された文教・厚生常任委員会の渡邉泰彦委員長も「仮に校舎解体を延期するよう環境省に要請したら、防災コミュニティセンターの建設が1~2年延ばしになる。町の費用負担で解体するよう環境省から求められる可能性もある。そもそもが環境省から校舎解体を要請されたわけでも何でも無い。町から環境省に校舎解体をお願いした」と述べるなど、感染症の問題が落ち着くまで校舎解体を延期する事の難しさばかりが語られていた。
町教委は学校見学会の実施を決めたが、ある町議は「この時期にやっても卒業生は集まらないし、集まれない。町側もそれを承知で日程を組んだのではないか。議会に請願まで出されてしまったからやらざるを得なかったのだろう」と語っていた。


いったんは実施が決まった見学会だが、結局は新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令を受けて中止が決まった
【】
門馬さんは「校舎を解体した跡地に防災コミュニティセンターを建てると言うが、解体工事と建設工事は同時に並行して出来るはず。そうやって考えれば解体工事を5月や6月に延期する事も可能だろう。私たちの意見など聴く気は初めから無かった。悔しい限りです」と悔しさを口にした。
式典のみの閉校式は3月下旬に開催される予定。少しでも卒業生たちの想いを反映した中身になるようにしたいという。佐藤良樹副町長は卒業生たちに「閉校式を含め、今後については皆さんと協議して進めて行きたい」と語っていたが、門馬さんは「今のところ何の連絡もありません」と不信感を募らせる。
別の卒業生も「請願を議会が不採択として校舎解体延期が叶わず、新型コロナウイルスの影響で見学会も中止になってしまったのはとても残念です」と話す。
生まれ育った町、住み慣れた町を原発事故で追われ、母校まで失う人々が校舎解体の延期を求める事がそんなに理不尽な事なのか。浪江小、浪江中の卒業生で、現在は静岡県在住の堀川文夫さんは、学校見学会が行われた昨年7月、自身のフェイスブックにこう投稿した。
「ふるさと浪江の小学校、中学校が(請戸小学校を除いて)すべて解体されることが決まった。最後の見学会がこの7月23日~25日に開かれるそうだが、コロナ禍真っ只中にお別れをしたくても行けないではないか。約150年の歴史ある学校をそんな簡単に解体されては浪江町の先人たちに申し訳なく思うばかりでなく、卒業生の私には許しがたい暴挙と思える。せめてすべての小学校中学校でそれぞれお別れの会をコロナが落ち着いた頃を見計らって計画するのが町の役割ではないのか。各小学校・中学校の卒業生の皆さん、声を上げて町を動かしませんか」
ハコものばかりの〝復興〟が進められる中、伝統ある学校が壊される。
浪江の5校は、原発事故被害の実相を象徴している。
(了)

【緊急事態宣言が決め手】
浪江町教育委員会によると、2011年3月の震災・原発事故以降、事実上の「廃校」状態にある町立5校(大堀、苅野、幾世橋、浪江の4小学校と浪江中学校)について、浪江小学校を除く4校の最後の校舎見学会を今月23~25日に苅野小と幾世橋小で、2月6~8日に大堀小と浪江中で実施する事を決定。12月23日には町のホームページで参加が呼びかけられていた。
しかし、ホームページでの告知に「新型コロナウイルス感染症の状況次第では見学会を中止する場合がある」とも書かれていたように、新しい年を迎えたところで感染症の問題が解決するはずは無い。今月8日から一都三県が緊急事態宣言下に入り、14日には大阪府など七府県も加わった。当初の予定通り、2月7日に解除出来るかどうかも見通せない。13日までに福島県内で確認された陽性者は1300人を超えている。
結局、町教委は見学会の中止を決定。12日付でホームページにも掲載した。「延期することはできませんのでご理解をお願いします」として、今月26日から解体工事が始まる事も伝えている。
「署名集めをなさっていた皆さんは『感染症の問題が終息してから学校見学会を実施して欲しい』とおっしゃっていたが、いつ終息するかが見えないので、そもそも終息を待って見学会を実施するのは難しいと考えていた。そこに緊急事態宣言が出た事で、往来を制限される人たちが出てくるなど実施は難しいと判断した」と町教委の担当者。
4校については順次、解体工事が進められるが、浪江小学校に関しては学校見学会を実施した上で校舎を解体する予定に変更は無いという。


(上)幾世橋小学校の一角に設置されている「二宮金次郎像」は取り壊し対象外。校舎の解体工事は26日から始まる
(下)「浪江町の各小中学校の解体を延期し、町民・卒業生にお別れの機会となる閉校式の開催を求める請願書」には4000筆近い賛同署名が集まったが、町側は一貫して解体工事の延期には消極的だった
【はじめから消極的だった町】
町教委の担当者は「日程を設定しなければいけないというよりも、限られた時間の中でやれる事はやった方が良いという事で見学会の日程を設定した。中止を見越して組んだわけでも何でも無い。あくまでも、卒業生のためにやってあげたいという意向だった。やった方が良いと考えていたが、やはり緊急事態宣言が大きい」と否定するが、そもそも、この時期に学校見学会を実施する事には無理があった。
賛同署名を呼びかけ、町議会に請願を提出した一人、門馬昌子さんは「真冬で寒さが厳しく、感染症の問題もある中で、この時期の学校見学会は難しいと思っていた」と話す。
町も請願を不採択にした町議会も、一貫して学校見学会の実施には消極的だった。
吉田数博町長は12月8日の町議会本会議で「町に暮らしている方々から『防災コミュニティセンターの設置を急いで欲しい』という声もたくさん出ています。(卒業生の)皆さんの想いは非常に理解しますが、解体を延期するという事は、その後の事業に影響を及ぼすという事で、なかなか難しいのです」と答弁。
請願審査を附託された文教・厚生常任委員会の渡邉泰彦委員長も「仮に校舎解体を延期するよう環境省に要請したら、防災コミュニティセンターの建設が1~2年延ばしになる。町の費用負担で解体するよう環境省から求められる可能性もある。そもそもが環境省から校舎解体を要請されたわけでも何でも無い。町から環境省に校舎解体をお願いした」と述べるなど、感染症の問題が落ち着くまで校舎解体を延期する事の難しさばかりが語られていた。
町教委は学校見学会の実施を決めたが、ある町議は「この時期にやっても卒業生は集まらないし、集まれない。町側もそれを承知で日程を組んだのではないか。議会に請願まで出されてしまったからやらざるを得なかったのだろう」と語っていた。


いったんは実施が決まった見学会だが、結局は新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令を受けて中止が決まった
【】
門馬さんは「校舎を解体した跡地に防災コミュニティセンターを建てると言うが、解体工事と建設工事は同時に並行して出来るはず。そうやって考えれば解体工事を5月や6月に延期する事も可能だろう。私たちの意見など聴く気は初めから無かった。悔しい限りです」と悔しさを口にした。
式典のみの閉校式は3月下旬に開催される予定。少しでも卒業生たちの想いを反映した中身になるようにしたいという。佐藤良樹副町長は卒業生たちに「閉校式を含め、今後については皆さんと協議して進めて行きたい」と語っていたが、門馬さんは「今のところ何の連絡もありません」と不信感を募らせる。
別の卒業生も「請願を議会が不採択として校舎解体延期が叶わず、新型コロナウイルスの影響で見学会も中止になってしまったのはとても残念です」と話す。
生まれ育った町、住み慣れた町を原発事故で追われ、母校まで失う人々が校舎解体の延期を求める事がそんなに理不尽な事なのか。浪江小、浪江中の卒業生で、現在は静岡県在住の堀川文夫さんは、学校見学会が行われた昨年7月、自身のフェイスブックにこう投稿した。
「ふるさと浪江の小学校、中学校が(請戸小学校を除いて)すべて解体されることが決まった。最後の見学会がこの7月23日~25日に開かれるそうだが、コロナ禍真っ只中にお別れをしたくても行けないではないか。約150年の歴史ある学校をそんな簡単に解体されては浪江町の先人たちに申し訳なく思うばかりでなく、卒業生の私には許しがたい暴挙と思える。せめてすべての小学校中学校でそれぞれお別れの会をコロナが落ち着いた頃を見計らって計画するのが町の役割ではないのか。各小学校・中学校の卒業生の皆さん、声を上げて町を動かしませんか」
ハコものばかりの〝復興〟が進められる中、伝統ある学校が壊される。
浪江の5校は、原発事故被害の実相を象徴している。
(了)
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