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【県民健康調査】「学校での甲状腺検査」終了への第一歩? 子どもや保護者から聴き取り調査実施へ 「廃止論」強める委員に対し地元委員は「継続」訴え

原発事故後、福島県が実施している「県民健康調査」の第40回検討委員会が15日午後、福島市内のホテルで開かれた。委員の一部に学校での集団甲状腺エコー検査への反対論が根強く、4月までに当事者たちの意見を聴く事になった。だが、完全非公開でメディアの取材も不可。人選も聴き取り役も人数も未定で、透明性や中立性への懸念は拭えない。学校現場からは「負担は大きいが継続するべき」との声も多数あがっており、聴き取りがどのように〝利用〟されるか注視している。なお、昨年6月30日までに「悪性ないし悪性疑い」と判定されたのは252人、そのうち手術を受けた人は203人だった。
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【人選も進行役も「未定」】
 決まったのは「とりあえずやってみよう」という事だけだった。
 はっきりしているのは「年度内(3月末まで)に甲状腺検査の対象者やその保護者から意見を聴く」という事だけ。委員会に示され、星北斗座長が押し切る形で〝了承〟された実施案では「今後の検討委員会における議論の参考とするため」に実施し、学校での甲状腺検査対象者の保護者や県内高校生など8人程度を選び、会議室などに招くかリモート形式で聴き取るとされている。人選する対象者は「なるべく『一般的な方』を想定してございます」(福島県県民健康調査課)という。
 星座長や各委員は「オブザーバー」として出席し、聴き取りの進行役は「中立性を担保するため、医学的知識を有し、甲状腺検査に直接かかわっていない人」を別途、これから選ぶ。委員会では具体的な名前は挙げられなかった。安部郁子委員(福島県臨床心理士会長)から「中学生は自分の意見を言えるので、ぜひ加えて欲しい」と提案があり、星座長も賛成した。
 「プライバシー保護」との理由から聴き取りは完全非公開。メディアにも実施日や場所などは知らされないという。聴き取った内容は次回の検討委に示される予定だが、議事録のように詳細な発言内容が提示されるのか、「発言要旨」のような形になるのかも分からない。
 発言者が不利益を被らないよう配慮するのは当然だが、聴き取りの透明性、恣意的な発言の切り取りを防ぐ意味でもメディアの取材は必要。しかし、県民健康調査課の菅野達也課長は取材に対し「取材を認めるなんてありえない」と一蹴した。
 この日の検討委には、昨年9月から12月に実施した学校関係者からの聴き取り結果が報告された。
 福島県県民健康調査課の職員が県内26校を訪問し、教頭や養護教諭などから学校での甲状腺検査についての考え方を聴き取ったほか、うち3校では実際の検査現場も視察したという。
 しかし、報告文書はA4判1枚(裏表)のみ。「全ての学校で受診しない方が受診者等に何か言われるような事例は把握していなかった」などと書かれているが、甲状腺検査の任意性や強制性について学校側がどう考えているかは伝わらない。当事者や保護者への聴き取りもこのような形で県職員がまとめて委員会に報告される可能性がある。

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内容が固まらないまま、見切り発車で実施される学校での甲状腺検査対象者や保護者への聴き取り。委員の中には学校での甲状腺検査に強く反対している委員がおり、今回の聴き取りが検査縮小に利用されるのではないかと懸念する声も多い

【「やめてはいけない」】
 なぜ当事者や保護者の意見を聴き取る事になったのか。「学校での甲状腺検査は任意性が担保されていない」などを理由に反対する委員がいるからだ。
 この日の検討委でも、津金昌一郎委員( 国立がん研究センター社会と健康研究センター長)が何度も反対意見を口にした。
 「授業中とか学校行事中とかに(甲状腺検査が)行われているという事で、これを受けないというのは相当強い意思が無いとなかなか出来ないなと思いました。それから(学校関係者の)受け止めのところで、検査を受けやすいとか検査は当たり前という回答がありますが、基本的に保護者とか学校関係者は福島県や県立医大がやっている事なので甲状腺検査は県民の健康の見守りのために有用な検査であって、それによって不利益を受ける事は無いという事が前提になっていると考えます。しかしながら、検査による利益は陰性であった場合に安心を得られるという事を除いては、多くの人が期待している甲状腺ガンの早期発見により死亡などを避ける事が出来るという利益はほとんど無くて、特に甲状腺ガンと診断された人たちには重大な不利益をもたらすものと私は考えています。したがって、少なくとも集団での甲状腺検査は望ましいものでは無いと考えています。私の考えが間違っていたら本当にうれしいですが、私と同じように考えている科学者は世界中にたくさんいると思います。甲状腺検査が本当に県民の健康の見守りになっているのか。本当に県民のために、幸せのために役に立っているのか、真剣に議論するべきだとつくづく思いました」
 これに対し、地元の富田哲委員(福島大学行政政策学類教授)は「私のようなじじぃはあきらめておりますけれど、福島県民のほとんどは健康に対する不安を抱えているというのは間違いありません。甲状腺検査が確実に県民の不安の解消になっていると私は思います。その不安が置き去りにされているのではないか。(検査体制が)縮小方向に行くというのは危険な考え方ではないか」と反論。
 安部委員も「甲状腺検査を縮小する、もしくは無くしてしまう事には反対の立場をとらせていただきたい。学校の先生方と話をする機会があるが、学校での甲状腺検査に対して『大変だなあ』と言葉では言うのですが、非常に大事だと言う認識をみんな持っておりまして、不登校のお子さんに対する検査の働きかけも一生懸命やっています。やめてはいけない。ぜひとも継続をお願いしたいです」と述べた。津金委員は「不利益を受けている子どもたちがいないのであれば、私も(学校での)検査に賛成です」と発言した。

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(上)新型コロナウイルスの感染拡大を受けてリモート形式で行われた40回目の県民健康調査検討委員会
(下)富田哲委員(上段中)は「(検査体制が)縮小方向に行くというのは危険な考え方」と検査継続を訴えた=ホテル「ザ・セレクトン福島」

【「現場負担減らし継続を」】
 千葉由美さん(いわき市在住)は「当事者への聴き取りが、原発が建てられた時のように、また事故後、ICRPのダイアローグでのまとめのように『当事者が望んでいる』という使われ方がされませんようにと思いました」と語った。
 千葉さんたちNPO法人「はっぴーあいらんど☆ネットワーク」は12月17日、福島県に対し「学校における甲状腺エコー検査継続を求める要望書」を提出した。要望書には県内学校の教職員から寄せられた次のような意見も添えられた。
 「甲状腺検査は必要です。本当に必要な事なら、多少業務が増えてもやむを得ないと考えます。学校を通して検査しなければ受診率が下がり、意味のある検査にならないのではないでしょうか」(富岡町、中学校)
 「ぜひ継続して欲しいです。子どもの健康を守るため。保護者の安心感を得るためにも」(いわき市、高校)
 「子どもの甲状腺検査は必要です。継続をお願いします。ただし人員を確保し、教職員の負担が無いよう重ねて願います」(福島市、中学校)
 「検査自体は当然としても、学校現場に負担を残す形は避けていただきたい」(福島市、支援学校)
 「原発事故による健康被害の有無をしっかりと確認するためにも、ぜひ継続してください。子どもの未来をきちんと保障してください」(須賀川市、中学校)
 星座長は年度内に実施が予定されている聴き取りについて、この日の会合の中で「恣意的に選んで何かを言うものでは無いが、どこまで行ってもそう言われる。誹り(そしり)を受ける覚悟はあるし、誹りは排除しない」などと発言し、結論ありきの聴き取りでは無い事、この結果をもって何か方向性を打ち出すものでは無い事を強調したが、千葉さんは、聴き取りが学校での甲状腺検査終了への第一歩なのではないかと警戒感を強めている。
 「学校検査をやめないでくださいという私たちの切なる声は、いとも簡単に葬られてしまいました。私たちが集めた声は、星座長が求める声では無かったという事ですね。聴き取りの対象者は『一般的な方』とのことですが、私たちはその一般人に混ぜてもらえないということなのでしょうか。結局、求める声、答えて欲しい回答があるという事ですよね」



(了)
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鈴木博喜

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