fc2ブログ

記事一覧

【中通りに生きる会・損害賠償請求訴訟】「被曝の恐怖や不安は合理的」 仙台高裁も東電に賠償命じる 中通り住民に光明も、損害認定は「2011年12月末まで」で「30万円」

「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)の男女52人(福島県福島市や郡山市など)が、原発事故で精神的損害を被ったとして東電に計約1億円の支払いを求めた損害賠償請求訴訟の控訴審判決が26日午後、仙台高等裁判所101号法廷で言い渡され、小林久起裁判長は東電の控訴を棄却。一審福島地裁とほぼ同額の計1185万8000円(約17万円減)の支払いを命じた。判決は、一審原告たちの放射線被曝への「恐怖や不安」を全面的に認め、控訴人東電の主張を一蹴。東電の事故対応を厳しく断罪したが、一方で控除前慰謝料は一人30万円にとどまり、賠償すべき期間も2011年12月31日までしか認めなかった。
2021012706535877a.jpg

【「『漠然とした不安感』でない」】
 まさに東電の〝完敗〟だった。
 判決で小林裁判長は、「東京電力福島第一原子力発電所からほど近い福島県中通りの自主的避難等対象区域に居住していた原告らが、安全であるはずの原子炉が炉心溶融を起こして原子力発電所が爆発し、突然大量の放射性物質が放出され、居住地域の環境放射能が急激に上昇するという未曽有の大事故に直面したことからすれば、事故当初の十分な情報がない中で、放射線被曝に対する強い恐怖や不安を抱くことはやむを得ないものと考えられ、本件事故によって原告らがこのような強い恐怖や不安という精神的苦痛を受けたことは、民法709条にいう法律上保護される利益の侵害にあたり、原子炉を運転していた原子力事業者である控訴人が原賠法3条1項に基づき損害賠償すべき原子力損害(原賠法2条2項)にあたる」と判断。
 「原審同様、本件事故の日である平成23年(2011年)3月11日から同年12月31日までの期間に被った精神的苦痛について、社会生活上の受忍限度を超えて法律上保護される利益が侵害されたものと評価し、上記期間中の生活費の増加費用が生じたことを斟酌(しんしゃく)した上で、30万円の慰謝料の損害を認めるのが相当である」として、東電に支払いを命じた。
 実際には、30万円からADRによる和解などで既に支払われた賠償金が差し引かれる(控除)が、仙台高裁も基本的には一審福島地裁の考え方を踏襲し、控除額を4万円もしくは8万円と認定。ただ、4人の原告に関しては、「ADR和解において、生活費増額費用として一人あたり4万円の損害賠償を支払う合意をした」として、さらに4万円を控除するのが相当だとした。
 「全く予期しない未曽有の大事故」という表現を繰り返し使い、「本件事故後4カ月間の外部被曝の積算線量が、従来放射線量の限度とされていた年間1mSvをも超える被曝をした住民も相当多数に上った」、「原告らは、従来の一般的想定をはるかに超える放射能に現に曝されたといえる」として、放射線被曝に対する恐怖や不安は「控訴人(東電)が主張する『漠然とした不安感』というような軽いものではない」と認めた。

20210127065600dad.jpg
精神的苦痛を全面的に認めた判決に原告たちは喜びを語った。陳述書を書くところから始まった法廷闘争は涙と怒りと悔しさの連続。東電側からずっと被曝への不安感を否定され愚弄され続けて来ただけに「ようやく報われた」との想いが募った=福島県福島市の「ウィズ・もとまち」

【「合理的根拠に基づく不安」】
 控訴人・東電は「平成23年4月22日頃には〝社会的情勢の変化と時間の経過〟による法律上保護される利益に当たるような不安は解消されていた」、「本件事故発生当初の時期に放出された放射性物質に起因する放射線の作用による精神的苦痛が平成23年4月22日頃以降に残存しても、受忍限度を超えて法律上保護される利益を侵害したとはいえない」などと反論。一審・福島地裁での審理でも住民たちの精神的苦痛を全否定して来たが、仙台高裁の小林裁判長はこれら東電の主張を一蹴。それにとどまらず、政府や東電の事故対応を厳しく断罪した。
 小林裁判長は時折、東電の代理人弁護士に目をやりながら、次のように述べた。
 「未曽有の大事故に際し、これによる放射線被曝の危険性について、原子力発電所を設置していた控訴人(東電)からも政府からも、事故直後、地域住民に対し、的確かつ具体的な情報提供がされたとは必ずしもいえない」
 「既に2号機の炉心溶融が進んでいた前夜(2011年3月14日夜)の段階でも、控訴人や政府から翌朝に起こる2号機からの大量の放射性物質の放出による放射能被曝の危険性について、十分な情報が提供されていた形跡はない」
 「控訴人は、事故の当事者であるにもかかわらず、本件事故後2カ月以上たった平成23年(2011年)5月15日になるまで。炉心溶融の事実すら認めなかった」
 そして、「低線量被曝の影響については、専門家の間でさえ多様な意見が存在している」として「自主的避難等対象区域の住民であった原告らが被った放射線被曝の被害は…極めて重大かつ深刻なもの」、「それが一般社会生活上の受忍限度の範囲内のものであったとは到底評価できない」と認定。避難指示が出されなかった中通りの住民たちの不安感について、次のように述べている。
 「原告らは、このような実際の放射線被曝の経験の下に、本件事故による放射線被害の実情や危険についての十分な情報が提供されないまま、また、低線量被曝の健康影響の危険性について多様な見解がある中で、本件事故によって放出された大量の放射性物質による放射線被曝がもたらす生命や身体への安全安心への影響について、具体的な恐怖や不安を持つに至ったことは、優に認められる。このような放射線被曝の恐怖や不安は、一般人を基準として考えても合理的な根拠に基づくものであると評価することができる」

202101270828105ae.jpg
仙台高裁の小林裁判長は判決で原告たちの放射線被曝への恐怖や不安を全面的に認め、東電に賠償金の支払いを命じたが、なぜ2011年12月31日までの損害しか認めないのか、なぜ慰謝料額が30万円なのかについては明言を避けている

【「なぜ2011年12月31日まで?」】
 課題も残った。
 原告代理人の野村吉太郎弁護士が「判決であそこまで踏み込むとは予想以上だった。原告の精神的苦痛に正面から向き合って、ていねいに認定してくれた。裁判長の気持ちは伝わった」と評価するように、中通りの住民に寄り添った判決だった。法定で判決を聴いた原告の一人、植木律子さんも「判決を聴きながら涙が止まらなかった。今までの事が走馬灯のように思い出された」と目を真っ赤にして語り、別の原告も「裁判を通じ、東電には傷に塩を塗られて来たので、判決には感動した。ようやく報われたという想い」と喜んだ。
 だが、仙台高裁も一審判決同様、法律上保護される利益が侵害された期間を「2011年12月31日まで」としか認めなかった。
 小林裁判長は、「自主的避難等対象区域における放射線の作用の影響に鑑みると、中間指針追補が認めた包括慰謝料の対象期間の終期である平成23年4月22日以降は、受忍限度を超えて法律上保護される利益の侵害が生じたとはいえない」とする控訴人東電の主張は一蹴。「本件事故からわずか約40日後にすぎない平成23年4月22日において、低線量被曝が健康に悪影響を与えないという見解が自主的避難等対象区域の住民に何の疑問もなく受け入れられ、放射能に対する恐怖や不安が解消したと考えることは妥当ではない」と認めたものの、「低線量被曝が健康に与える影響について十分な情報が与えられ、更に、事故が収束し、安心して生活するに足りる環境が整」えば住民たちの恐怖や不安が解消されるとも述べている。
 そして「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」が公表されたのが2011年12月22日である事、それに先立つ同年12月16日には当時の野田佳彦首相が「低温停止状態」を宣言。同26日に国の原子力災害対策本部が「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を公表した事「等を考慮し」、「少なくとも平成23年12月31日までは、十分な社会的情勢の変化と時間の経過があったとはいえないと考えるのが相当である」と結論付けているが、年が明けたからといって住民たちの「具体的な恐怖や不安」がいきなり払拭されるはずも無い。
 野村弁護士は報告集会で「司法の限界なのだろうか…。本当は違うと思っているし、原告の皆さんと想いは同じ」と語ったが、原告の間にも釈然としない気持ちは残った。
 また、なぜ放射線被曝への「具体的な恐怖や不安」に対する慰謝料が30万円なのか。福島地裁判決でも根拠は示されなかったが、野村弁護士が「ブラックボックス」と表現するように今回も不明。判決の中で「慰謝料額の基準を30万円とすることについて」として「(2011年12月31日までの)生活費の」増加費用が生じたことを斟酌(しんしゃく)した上で」が唯一、根拠らしき箇所だが、これとて30万円の算出根拠としては乏しい。
 一審同様、原告たちはこれ以上の争いを望んでいない。だから控訴もしなかった(東電のみ控訴)。東電が最高裁に上告せず、このまま判決が確定する事を求めている



(了)
スポンサーサイト



プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
https://www.facebook.com/taminokoe/


福島取材への御支援をお願い致します。

・auじぶん銀行 あいいろ支店 普通2460943 鈴木博喜
 (銀行コード0039 支店番号106)

・ゆうちょ銀行 普通 店番098 口座番号0537346

最新記事

最新コメント

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
40位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
16位
アクセスランキングを見る>>

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
40位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
16位
アクセスランキングを見る>>