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【原発避難者から住まいを奪うな】追い出すためなら戸籍や住民票も駆使する福島県 「親族訪問」事前予告の必要性すら認めない姿勢に批判噴出 法的裏付けにも疑問の声

福島県が昨年12月、国家公務員宿舎に入居している区域外避難者の親や兄弟などを訪問し〝避難者追い出し〟に協力するよう求めた「親族訪問問題」で、県の姿勢や手法に批判が噴出している。避難者自身に事前予告無く「緊急連絡先」を使用したばかりか、戸籍や住民票を取得して親族の住所を調べていたためだ。今月22日にリモート形式で行われた避難者団体と福島県との交渉では参加者から怒りの声が続出。弁護士からは法的裏付けへの疑問の声もあがっているが、福島県側は「家族間で助け合うのは自然な事」と言い放つなど、話し合いは平行線に終わった。
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【「社会通念に反しているんですか?」】
 「戸籍や住民票を取得した事例もある。それ以外の方法はとっていない」
 北海道からリモート参加した中手聖一さん(「『避難の権利』を求める全国避難者の会」共同代表、福島県福島市から避難)が「親族住所の把握に利用した『緊急連絡先など』の『など』とは何か」と質したのに対し、福島県生活拠点課の担当者はようやく口を開いた。
 では、戸籍や住民票まで駆使して追跡し、親族の住所を突き止めた法的根拠は何か。村田弘さん(「避難の協同センター」世話人、南相馬市小高区から神奈川県に避難継続中)が「何に基づいて訪問したのか。法的根拠、具体的な法律名や条例であれば条例名を明確にして欲しい」と何度も迫ったが、福島県側は質問に正面から答えず、木で鼻をくくった回答に終始した。
 「今回の親族訪問は支援、協力に関する親族の考えを確認するためで、われわれは調査の一環ととらえている。『(家賃などの)お金を支払って欲しい』という言葉は使っていない。金銭的な支援が可能かどうか、そういうお考えがあるかどうかを聴き取った」
 「避難者本人との話し合いだけでは解決が難しいのではないかと考えた。これまでは極力、親族への連絡は控えていた」
 「訪問して具体的に話を聴かないと、家庭の事情は分からない」
 「親族に会って考えを聴いたのは、国家公務員宿舎に入居している避難者に限った話。全く関係ないところで緊急連絡先を使っているとは考えていない。入居している避難者の退去に協力出来るか否かの確認が社会通念に反しているのでしょうか?」
 全くかみ合わないやり取りが続いた挙げ句、福島県側は次のような言葉で法的根拠の明示を拒んだ。
 「法律の条文の番号を言えというようなお話なのでしょうか?」
 「どんな法律を根拠に調べたのか申し上げなければいけないんでしょうか?」
 業を煮やした瀬戸大作さん(「避難の協同センター」事務局長)が「百歩譲って親族を訪問するにしても、事前に避難者本人に知らせる必要があるだろう。生活保護など福祉行政の現場では本人確認、本人了解が大前提だ。原発避難者は様々な事情を抱えている。親族の同意を得られないまま避難しているケースもあり、配慮するべきだった」と県側の姿勢を批判したが、生活拠点課の担当者はこうかわした。
 「われわれの調査は生活保護とは異なる。行政上、必要があると考えたわけで適正執行だ」

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新型コロナウイルスの感染拡大の影響でリモート形式で行われた話し合い。福島県側は具体的な言及を避け、木で鼻をくくった回答に終始した

【「家族は助け合うのが自然」】
 福島県が2020年12月14日付で避難者親族31世帯に送付した生活拠点課長名の文書「国家公務員宿舎に入居されている御親族に関する御協力について(依頼)」には、次のように書かれている。
 「御親族が自主的に転居されない場合は、訴訟など法的手段に移行せざるを得ませんので、御承知願います」
 村田さんは「送付した文書には『法的手段』という言葉が使われている。これは『調査』などでは無い。『脅し』や『圧力』以外の何物でも無いじゃないか」と激しい口調で批判。「親族に送り付けた文書で言われている『法的手段』とは具体的に何を指しているのか」と質したが、ここでも生活拠点課の担当者は明答しなかった。
 「ここで具体的中身をお答えするのは難しい。今後、福島県が慎重に検討する事であって、この場で申し上げる事では無い。いつまでに法的手段を講じるか?それについても申し上げられない。そもそも、避難者親族を脅すためにその表現を入れたわけでは無い」
 熊本美彌子さん(「避難の協同センター」世話人、田村市から都内に避難継続中)は「避難当事者たちは緊急連絡先などの目的外使用だと怒っている。親族が家賃を支払うなんて契約は結んでいないではないか」と詰め寄ったが、福島県側の答えは驚くべきものだった。
 「困っている人がいれば家族同士、助けるのは普通の事ではないでしょうか」
 この点について、生活拠点課の担当者は後日、電話取材に対して次のように〝補足〟した。
 「リモート話し合いでも『家族間で助け合うのが自然な事だ』という言い回しをしたはずだが、夫婦間とか親子間とかきょうだい間とか、家族の中での扶助、助け合いは民法の中に一定程度、義務としての規定がある。そこが今回の親族訪問のベースになっている。ただ、親族が何が出来て何が出来ないのかは確認しないと分からない。だから確認する必要があると判断した。その確認行為が違法であると認識すればやらない」
 「法的手段」という表現を盛り込んだ事については「そのフレーズがあるか無いかで受け止め方は大きく違うし、話し合いのきっかけに大きく影響すると思う」として、福島県側から見た事態打開の突破口にしたい狙いがあったと述べた。

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改めて内堀雅雄知事宛てに提出された抗議文。「人権と尊厳を傷つける行為」と批判している

【法的根拠明示しない県】
 「子ども脱被ばく裁判」の弁護団長で、区域外避難者の住宅問題にも取り組んでいる井戸謙一弁護士は「福島県が法的根拠を明らかにしているわけではないので、あくまで推測にすぎないが」と前置きしたうえで、次のように指摘している。
 「法的根拠は恐らく、災害対策基本法90条の3(市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者の援護を総合的かつ効率的に実施するため必要があると認めるときは、被災者の援護を実施するための基礎とする「被災者台帳」を作成することができる)でしょう。被災者台帳の作成のために被災者の氏名、住所等を把握する必要があり、市町村長はそのために情報提供を求める事が出来ます。必要があればその情報を他の自治体にも提供出来るという規定に基づいて情報収集したのではないかと思います。しかし、被災者台帳は被災者を救助するために作成、利用するのであって、被災者の居宅を奪うために使うものではありません」
 これに対し、生活拠点課の担当者は「災害対策基本法?んー」と肯定も否定もしていない。
 「緊急連絡先に記載された親族と今回、訪問した親族が異なる避難者もいる。どういう調査をして住所を把握したかについては、具体的な細かい部分は控えさせていただく。法的に許されているのか?避難されている方への支援というのがわれわれの役割。調べる権限が行政にあるのか?親族に連絡しなければならない場面というのがある。その時に、調査をして連絡先を把握するというのが認められている。ただ、不必要な個人情報を一生懸命に集めているわけでは無い。電話番号は分からない」
 終了後、中手さんは「呆れてしまった。福島県はどちらを向いているのか、誰に寄り添っているのか」と話した。瀬戸さんは「原発事故後10年間に及ぶ避難者の苦悩を考えた時に、福島県は一番やってはいけない事をやってしまったなと思う。貧困問題の現場でも家族が援助する、家族から言ってもらう、という事が問題になっている」と厳しく批判した。
 「『県議会対応などで多忙』などとなかなか話し合いに応じてもらえないし、毎回1時間だけ。その一方で彼らは、避難者への圧力を強めている。民主主義のあり方も含めて、福島県民と福島県との関係性については、しっかりとわれわれの側から見直しをさせていく必要がある。これでは『交渉』になっていない」
 話し合いの場での姿勢について、生活拠点課の担当者は参加した避難当事者や支援者の振る舞いを理由に挙げた。
 「あれを画面越しに見せられたら、温和な方でも頭に血が上るのではないでしょうか」
 そこには、なぜ瀬戸さんや村田さんたちが声を荒げたかへの想像力が欠如している。



(了)
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鈴木博喜

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