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【119カ月目の新地町はいま】災害ごみ仮置き場に響く「五輪どころじゃない!」の叫び 10年目の大地震で聖火リレーコースも損傷

災害ごみの仮置き場に「五輪どころじゃない」の声が響いた─。13日夜の大地震で大きな被害が出ている福島県相馬郡新地町。2011年の震災・原発事故では町の5分の1が浸水し、100人以上の命が奪われた。そして10年後に再びの大地震。自宅の片づけは緒についたばかりで、オリンピックどころでは無いのは当然だ。「Jヴィレッジ」で聖火リレーが始まるまで30日を切ったが、町内の聖火リレーコースの一部が波打って通行止めになっている。今やるべきは空虚な祭典では無い。感染症と大地震で疲弊しきっている国民を救済する事だ。
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【「本当に五輪やんのかい?」】
 「あと3回くらい来ないと駄目。屋根の半分以上が駄目になっちゃったから。わが家はもう、廃屋。廃屋だよ…」
 JR常磐線・新地町駅前の災害廃棄物仮置き場は、朝から軽トラックやマイカーの長い列が出来ていた。広場の入り口で新地町民であることを確認し、再び車を走らせる。ガレキや屋根瓦、家電製品や家具など、分別ルールに従って「災害ごみ」を捨てていく。未曽有の被害をもたらした東日本大震災から丸10年。最大瞬間風速18メートルを超える強風の中、町民たちは祝日返上で自宅の片付けに追われていた。
 工務店を経営する70代男性は「俺らが生きている間は、もうあんな大きな揺れは来ないと思ってた」と苦笑した。発災以来、屋根の修理などの依頼が殺到し、自宅や事務所の片付けが出来ていなかったという。
 「今日、初めて自分の家のごみを捨てに来たんだ。事務所も自宅も全部壊れた。パソコンも全部駄目。60代だった10年前はまだやる気があったけど、70代になると駄目だな。気持ちがね。1カ月後に聖火リレー?ここの住民は皆『本当にオリンピックやんのかい?』って思ってるよ。何でこんな時にオリンピックなんて言ってるんだよって」
 50代女性は、10年前の震災で自宅が半壊した。
 「今回また壊れてしまいました。直して住める状態では無いので解体の方向で考えています。まさか自分が生きている間はもう無いかなと思ってたんですけど…。いやあ、オリンピックどころじゃないですよ。感染症もあるし、出来ないんじゃないかな」
 娘の運転する車に同乗していた高齢の女性は、「本当にオリンピックどころじゃないよね」と言うと泣き出しそうな表情になってしまった。
 「震災から10年でこんな事になって、神様が何か言ってるのかねえ」

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JR常磐線・新地駅前に設けられた災害ごみの仮置き場には、朝から軽トラックなどの長い列。屋根瓦や電化製品などが次々と運び込まれる。自宅の片づけは緒についたばかり。町民の誰もが「五輪・聖火リレーどころじゃない」と口にした

【「聖火リレー楽しみだけど…」】
 福島第一原発から約50キロメートル。宮城県に隣接する新地町では、3月26日午前に聖火リレーが予定されている。新地駅裏手の「観海堂公園」を午前10時11分に出発し、津波被害のあった区域につくられた「釣師防災緑地公園」まで約1・4キロメートルを走る。
 福島県が22日に交通規制計画などを公表した事もあり、町役場職員は「実施する方向で準備している」と話すが、「釣師防災緑地公園」の管理を委託されている会社の担当者は「まだ町からは具体的な話は何も来ていません」と語った。「昨年も聖火リレー直前に延期が決まりましたから、今年もギリギリまで調整が続くのではないでしょうか」
 公園内の建物などに大きな損傷は生じなかったが、聖火ランナーが走る予定の道路が揺れで波打ってしまい、通行止めになっている。ロープ越しに見えるアスファルトの歪みが、揺れの大きさを思い出させる。町内を少し歩くだけでも「五輪・聖火リレーどころじゃない」状況が良く分かる。
 「聖火リレーやって欲しいわよ。楽しみにしてるんだもの。でもね、皆それどころじゃないものね」
 売店の女性も、自宅が大きな被害を受けた。「屋根は応急処置はしたけど、業者がいつ来てくれるか分かりません。家の中はもうグチャグチャ。食器棚が倒れてガラスが飛び散りました。すぐ停電して、懐中電灯を探したけどそんな状態だからどこにしまったか分からない。結局、夜が明けるまでじっとしてました。10年経ったねえ、と話してた矢先にまた大地震が来るとはねえ」
 別の男性は、10年前の大津波はギリギリのところで被害を免れたという。
 「正直なところ、聖火リレーどころじゃないですよ。原発の水位も下がっていると言うじゃないですか。東電はきちんと発表しないから心配です。しかし、このタイミングで大地震が起こるなんて、なんだか神様が『お前ら(10年前を)忘れんなよ』って言ってるみたいだね」

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新地町での聖火リレーは2日目の3月26日午前に予定されている。津波で集落が壊滅した沿岸部につくられた「釣師防災緑地公園」をゴールに大地震・大津波からの〝復興〟をアピールする計画だが、公園内のコースは13日夜の大地震で歪んでしまい通行止めが続いている

【「原発の水位低下心配」】
 住宅街では、行政区長の男性がチラシを配っていた。「ボランティア募集!」、「災害支援に、皆さんのお力を貸してください」と書かれたチラシと町ボランティアセンターに提出するための「ボランティア依頼調査票」を高齢者世帯や母子父子家庭に届けているのだという。多くの人手が必要だが、感染症の問題があるためボランティアスタッフは町内在住者に限定されている。
 「家々が倒れているような状況では無いから外から見ただけでは屋根のブルーシートくらいしか分からないでしょう。でも室内は大変ですよ。俺もようやく仮置き場にごみを捨てて来たところ。これからだよ、災害ごみが出てくるのは。10年前、銀行から金を借りてリフォームしたのがまた壊れてしまった。いつまた大地震が来るか分からないし、年齢も年齢だから借金してまでリフォーム出来ないという人も少なくないんです」
 男性と立ち話をしていた女性は「やっとこさで片付けを始めました」と表情を崩した。
 「気持ちが滅入ってしまって、1週間全然やる気が起きなかったんです。片付けるなんて気分では無かった。お墓もめちゃくちゃで…」
 女性の話を聴きながら、行政区長の男性は怒りをぶつけるように吐き捨てた。
 「オリンピックどころじゃない?あたりめえだ。それどころじゃないよ!」
 廃炉作業中の福島第一原発では、溶け落ちた核燃料を冷却するための水が漏れ、水位が下がり続けている。
 「原発やばいな。東電はふざけてる。嘘ばっかりだし。10年前だって放射能が外部に出てない出てないって言ってて出てたじゃないか。原発から10km圏内の人には再び避難指示が出る可能性だって無いと言い切れないよ」
 なお、福島県オリンピック・パラリンピック推進室の担当者は取材に対し「予定通り粛々と準備を進めています」と話した。
 「昨年の今ごろは交通規制の看板も既に出していたので、今年は10日ぐらい遅れています。少しずつしわ寄せが来ている形です。聖火リレーをやっている場合なのか?そうですね…やるんです。いろいろなご意見があるのは分かっていますが…」
 新地町で飲食店を営む女性は「五輪・聖火リレーどころじゃないけど、やるんでしょうよ。IOCだっけ?そこがやるって言ってるんだからやるんじゃないの?でも興味無くなっちゃった。地震もあったし、感染症もあるし…」と言い放った。それでも〝復興アピール〟のための五輪・聖火リレーを強行するのだろうか。
 


(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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