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【飯舘村長選挙】さながら〝総決起集会〟の村制60周年式典。菅野村長への審判は3週間後。子育て世代には「どうせ聴く耳持たぬ」とあきらめムードも

村長選挙を3週間後(10月16日)に控えた25日午前、原発事故による全村民避難中の福島県飯舘村で村制60周年を記念する式典「いいたて60祭」が開かれた。放射性物質による汚染で政府の避難指示が継続中の村内に関西からお笑い芸人を呼び、送迎バスを7台用意して仮設住宅から村民を集めての記念式典。さながら村長選挙に向けた総決起集会の様相だった。「復興」の二文字が飛び交い、中学生の合唱に涙を流した菅野村長は、2017年3月末の避難指示解除(帰還困難区域を除く)を足掛かりに住民帰還促進に邁進する。子育て世代にしらけムードが広がる中、インターネットを活用して投票を呼び掛ける動きも出てきた。村の将来を占う村長選挙は10月6日に告示される。


【来賓は村長の〝大応援団〟】
 これが現職の強みなのか。地元メディアの記者ですら「まるで選挙運動ですね」と呆れたように話した。記念式典が終わり、会場を後にする村民たち一人一人に、菅野典雄村長は頭を下げ「良い式典だったでしょ」、「一緒に頑張りましょう」と声をかけた。村民たちも「立派な公民館が出来ましたね」と応じる。〝村の還暦〟を祝う全面広告が掲載された地元紙2紙が無料で配られ、昼食まで用意された。
 式典は国や県、自民党の〝大応援団〟が集結した格好になった。内堀雅雄福島県知事(鈴木正晃副知事が代理出席)のほか、避難指示解除に関する住民説明会では住民たちから怒りをぶつけられた原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長や復興庁の木幡浩福島復興局長(飯舘村出身)らが来賓として招かれ、村長を持ち上げて見せた。亀岡偉民衆院議員や太田光秋福島県議(いずれも自民党)も祝辞を述べた。両者は、前日に開設された菅野村長の選挙事務所(川俣町)に、村長選挙で応援する旨の「為書き」を贈っている。これでは、来場者した村民が「村長はすっかり変わってしまった」と嘆くのも無理はない。
 3歳になる息子を連れて参加した40代の母親は「原発事故前は、もっと村民に寄り添う村長だった」と語る。避難先の福島市内に新居を建てたこともあり、避難指示が解除されても村に戻る意思は無い。「投票するつもりです。この辺で村長が変わっても良いのではないでしょうか」。
 60代の男性は「村長はハード面の整備ばかりに取り組んでいるから、あまり評価していない」と話した。式典会場の「ふれ愛館」は、旧公民館を取り壊し、約8億5000万円かけて新築した交流センター。屋内外に約1400万円で購入した彫像が並ぶ。20代の女性は「立派過ぎて村に似合わない」と思わず苦笑した。だが、ハコものをいくら建てても放射線防護にはつながらない。実際、建物のすぐ裏の土手で手元の線量計は1μSv/hを超えた。式典のあいさつでは「(南相馬市との)合併問題、放射能と、良くやって来れた」、「少しずつではあるが、復興は進んでいる」と〝自画自賛〟して見せた菅野村長だが、これが、原発事故から66カ月目の村の現実なのだ。




(上)イベント終了後、玄関で村民一人一人に頭を下げて見送った菅野典雄村長。地元メディアの記者ですら「まるで選挙運動のようだ」とつぶやいたほどだった
(下)菅野村長は24日に川俣町で事務所開き。さっそく、福島県選出の自民党国会議員からの「為書き」が貼られた

【「後ろ向きな話で事が進むのか?」】
 菅野典雄村長は1996年に初当選し、現在5期目。前回2012年の村長選挙は原発事故後の混乱もあり、無投票当選だった。今回は、今のところ現職のほか共産党系村会議員の佐藤八郎氏が立候補を予定しており、菅野村長は原発事故後、初めて村民に信を問うことになる。6月13日の村議会では「解放されたい、楽になりたいという気持ちも無くは無い」と言いながらも「熟慮に熟慮を重ねた結果、六たび、手を挙げさせていただくことになった」と出馬表明している。
 しかし村長自身は、原発事故後の5年半を選挙で〝総括〟される事には否定的だ。「今は全身全霊で取り組むだけ。避難のさせ方や避難指示解除の仕方、除染のやり方、賠償の進め方など、私への評価は後世の人がするべきものだ。ましてや自分で評価することなど出来ない」と、式典後の取材で語った。「今度の選挙は私への評価ということになるのでしょうか? 私はもっと先の事を考えています。先人の努力が今、評価されているように、20年、30年先に語られるものでしょう」。
 原発事故後、村民の避難に消極的だった菅野村長はいま、住民の帰還に躍起になっている。避難指示解除と同時に村内学校を再開させようとしてPTAから猛反発を受けた経緯もある(学校再開は1年間だけ延期)。先の母親だけでなく、特に子育て世代の村民には「村長が村民の言葉に耳を傾けなくなった」という想いが強い。「長時間、滞在するわけでは無いから」と幼いわが子を連れて参加した保護者の多くが、取材に対し「村長選挙には関心無い」と答えたが、避難先での新しい生活が定着したことに加え「どうせ何を言っても村長は聴かないというあきらめがある。人は怒りが過ぎると無関心になるものです」と、ある父親は分析した。被曝リスク回避より住み慣れた村で余生を送りたいお年寄りと、村政への関心を失ってしまった子育て世代が菅野村長の「帰還促進策」を支える。
 式典で、村民に向かって「いくら愚痴や文句を言っても何ら解決しない」と呼びかけた菅野村長は、地元メディアのインタビューで見せた満面の笑みから一転、ぶ然とした表情で私にこう言った。
 「あなたに言う話ではないけれど、『困った、困った』と後ろ向きな話で事が進むんですか?」
 村長選挙向けのパンフレットでは「経験と人脈が復興を確かなものへ」とアピールされている。子どもたちを汚染された村に戻すことこそ「前向きな復興」ととらえる菅野村長の政治姿勢は、選挙で是非を問われるべきだ。




(上)会場となった「ふれ愛館」裏には川が流れている。土手で手元の線量計は1μSv/hを超えた
(下)汚染地で開かれた記念式典には中学生も参加。合唱「ふるさと」に菅野村長は涙を流した

【ネット活用し投票呼びかけ】
 あきらめムードの村民の声を少しでも吸い上げようと、インターネット上にサイトが開設されている。「飯舘村長選挙への投票を呼びかける村民の会」(http://iitate-senkyo.info/)。「投票しましょう!私たち、そして子どもたちの将来のために!」と呼びかけるのは元村役場職員で行政書士の横山秀人さん(46)。2人の立候補予定者への公開質問状と回答を掲載しているほか、村民が匿名で自由に投稿出来る「私が村長になったら!」も設けた。
 「村民は言いたいことがたくさんあるが、伝える手段が無い。分散避難中のため候補者から直接、話を聴く機会が少ないまま選挙戦に突入してしまう」と主宰者の横山さん。仮設住宅に入居していればミニ集会などの場もあるが、既に自宅を新築したり民間借り上げ住宅で暮らしている村民は特に情報が不足してしまう。また、7月10日の参院選挙では村の投票率は49.23%にとどまり、特に30代以下が15~35%と低調だったことから若い世代の関心を高め、投票を促す狙いもある。
 「私が村長になったら!」には、これまでに9人の投稿があった。40代の男性は「汚染土が目の前からなくなり、作物を作ることができ、牛もいる。そんな飯舘村になってから、その時の村の人口、学校方針にあった幼小中学校をつくります」と、学校の2018年再開に否定的だ。50代男性は「毎時0.114μSvになるまでは帰村を認めない」と書き込んだ。30代女性も「飯舘村の線量が下がるまでは、今までの仮設校舎で現状維持での学びの場を確保する」との意見を寄せた。
 放射線に関するものだけでなく「村民が問題提起し、咀嚼し、決議し、行政が執行する、議員は監視するという仕組みを作る」(60代男性)という提案もある。共通するのは、現在の菅野村政とは真逆の内容ばかりということ。情報公開一つとっても村は消極的。村議会の議事録を村のホームページで公開しておらず、閲覧を希望する村民は村役場まで足を運ばなければならない。しかし、改善を求める意見をぶつける場が無いという。「国にも村にも村民の声を受け止める窓口が無い事が問題だ」と横山さんは語る。
 菅野村長が初当選した時も含め、過去5回の村長選挙のうち3回は無投票当選。2004年選挙の投票率は90.09%だったが、今回は大幅な低下が予想される。式典会場では「どうせ菅野村長が勝つんでしょ」という声もあった。自身も2児の父親である横山さんは「放り投げては駄目。無関心ほど怖いものは無い」と投票を呼び掛ける。
 飯舘村長選挙は10月6日告示。16日投開票(7時~18時)。選挙期間中は仮設住宅に巡回型の期日前投票所が設けられる。



(了)
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鈴木博喜

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