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【ふるさとを返せ 津島原発訴訟】「ごく一部だけ除染されても戻れぬ」 アンケートが浮かび上がらせる避難住民の想い 「住宅再建」「賠償満足度」など東電主張と隔たりも

原発事故で帰還困難区域に指定された福島県双葉郡浪江町津島地区の住民約640人が国や東電に原状回復と完全賠償を求めている「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」。判決を7月に控え、立教大学の関礼子教授(環境社会学)による住民アンケートの結果が3月31日、福島県二本松市内で発表された。自然豊かな住み慣れた土地を原発事故で追われた住民たち。アンケート結果からは、津島の人々が地域全体の原状回復を求めている事、避難先で住まいを確保しても決して避難生活が終わったわけでは無い事が浮かび上がってくる。
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【「自然豊か」から「荒廃」へ】
 「あなたにとって津島はどういう場所でしたか」
 自由回答欄に記載された言葉を集計したところ、原発事故前の津島地区がいかに自然豊かな土地であったかが分かった。
 「320人のうち130人が『自然』という言葉を使いました。次いで『豊』、『山』、『住み』が多かったです。まさに『自然が豊か』。それが津島だったという事です。『山の幸』を得る事が出来る『住みやすい』場所であったという事です。他には『安心して暮らせるふるさと』という表現もありました。人間らしい暮らしが出来る場所だったという事が分かります」
 これが原発事故後になると一変。「自然」や「豊」という言葉は減り、逆に「荒」、「廃」、「無」、「ゴーストタウン」、「寂」、「動物」という表現が目立つようになった。
 「『山』と『住み』は変わらないか、あるいは増えました。これは何を意味するのか。実は全く逆の意味で使われています。原発事故前、『山』と言えば山菜、山の幸、農山村、山里という使われ方をしていました。それが原発事故後になると『山林と化している』、『山に戻ろうとしている』、『山に飲み込まれようとしている』という表現に変わってしまっています。『住み』という言葉も同じです。以前は『住みやすい場所』でした。『住み慣れた場所』でした。それが『住めない』、『人が住んでいない』、『動物が住む場所』という表現になった。真逆の使われ方をしているのです。事故後の津島を表す言葉として『地獄』とか『がっかり』という表現もありました。原発事故で奪われてしまったという事が明らかに分かります」
 すっかり荒廃してしまったふるさと。原発事故で避難するまで住んでいた自宅も多くが「荒廃している」と答え、「既に解体した」人もいる。関教授は「比較的良好な状態にある」と答えた人が48人いた点に着目している。
 「家は1年放置するだけでも荒廃します。その中で比較的良好な状態が保たれている家があるのは奇跡的だと思います。つまり、遠く離れた場所に新たに住まいを持って、同時に津島の自宅の手入れもしている。それをずっと繰り返して来たという事なのです」
 避難先からわが家に通いながら手入れを続ける。周囲は荒廃の一途。手入れをしたとて、いつ戻れるかも分からない。それがどれだけつらい事か。今回の調査が改めて教えてくれている。

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原発事故が起きるまでは「自然豊かな住みやすい場所」だった津島。原発事故後のふるさとを「荒廃したゴーストタウン」と表現せざるを得ない住民の哀しみはいかばかりか。それはごく一部だけを除染しても決して回復される事は無い(関礼子教授の発表資料より)

【「訴訟に加われない人もいる」】
 アンケートでは、東電の法廷での主張が津島の人々の想いと大きくかい離している事も浮き彫りになった。
 例えば住まい。東電の代理人弁護士は「事故後、賠償金を活用して住居を確保するなどして平穏な生活を取り戻した避難者」について「避難生活の継続によって、平穏な生活利益が侵害される事によって発生する損害については、新たに発生していない」と主張している。
 「東電は『新たな住宅を手に入れればそれで避難は終わりだ』と言います。そこで『避難生活が落ち着いたのはいつ頃ですか』と尋ねました。一番多かったのが『自宅を購入、新築したとき』でした(約44%)。なんだ東電の言う通りじゃないか。住宅再建をすれば避難は終わりなんじゃないか。そういう解釈も一方では出来ます。ただ他方で、避難初期段階の状況があまりにも過酷だった事も影響しているのではないかと思います。見通しが不安定な避難生活を経て、ようやく自分の住まいを得てホッとしたという感覚も含まれているでしょう。実際、『まだ落ち着いたとは言えない』と答えた人がかなりいるのです(約36%)。家を建てたとしても『仮の生活』という人もいます。新たに住宅を買う事が出来ない人もいるでしょう。生活が苦しくなる人だっているでしょう。東電は、そういうところに全く想像力が及んでいないのです。皆さんにとっては悔しい話だと思います」
 集団訴訟に参加している住民が多くない事と賠償に満足している事はイコールなのか。関教授はその点も尋ねている。
 「津島訴訟は(原告数が)多いですが、避難指示区域全体で見るとほんのわずかだと東電は言います。『賠償に満足しているからだろう』と言います。裁判に加わっていないのだからほとんどの人は賠償に満足している、という理屈です。では、原発ADRにも裁判にも加わっていないと答えた48人(約14%)は本当に満足しているのでしょうか。母数が少ないので統計処理する事は出来ませんが、満足していると回答した人は4人にすぎません。「思わない」が6割近くでした。原発ADRしかやっていない人が全員満足しているとしても15%程度です。何も言わないから満足している、という言い方で被害を切り捨てるのは無理があるのではないでしょうか」
 「身体が不自由でやりたくても出来ない」と答えた人もいた。関教授は「今日明日の生活で精一杯の人もいるのです」と強調する。

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アンケート結果を発表した立教大学の関礼子教授。「『住宅再建をすれば避難は終わり』では無い」と強調した=福島県男女共生センター

【「津島の都合で無い復興計画」】
 津島地区では「特定復興再生拠点区域」の整備が始まっている。除染などを経て再来年(2023年)3月にも区域の避難指示解除を目指す計画だが、区域に指定されているのは国道114号線周辺の約153ヘクタール。津島地区全体から見ると、わずか1・6%にすぎない。だから、「特定復興再生拠点区域の指定で復興が前進した」と答えた人がわずか3・8%、「いいえ」が44・3%だったのも無理はない。
 「なぜ復興が前進していると感じないのか。ここでも自由回答欄の言葉で捉えてみました。すると『戻』、『住』、『生活』と、『全』、『一部』が多くありました。一緒に全部やるという計画では無いので、すぐに住めない、戻れない、生活出来ないという事なのです。津島の人々の家や土地に対する考え方を理解している計画とは思えないのです。津島の都合では無い復興のあり方がどんどん進んでいるのです」
 居住促進ゾーンでの居住希望についても、「いいえ」が約71%を占めた。「拠点区域だけ除染されても生活できないから」、「除染していない周囲からの再汚染が心配だから」を理由として挙げた人が多かった。「『住みたいか住みたくないかと尋ねる前に全員で住めるようにして欲しい』という当然の意見もありました」。
 では、戻らない人が多いのなら除染しなくても良いのか。6割近くの人が『戻らないとしても除染は必要』と答えた。関教授は「除染の問題は帰還とセットで考えられていますが、本来別のものであるべきです」と語る。
 アンケート調査は昨年8月に実施された。調査の狙いについて、関教授は「津島地区の被害は皆さんから見ると一目瞭然です。しかし、ある人には見えていないし、被害を見ようとしない人もいます。見たくない人、見ようとしない人にもどうにかして被害を見える化出来ないかと考えました」と説明した。
 行政区長会が協力し、津島地区で暮らしていた全451世帯にアンケート用紙を配布した。「1通しか届けないと男性の世帯主が回答する事が多く、回答者の属性が偏ってしまう。出来るだけ多くの方々に答えていただきたい」と、2通ずつ届けた。うち1通は、家族の中で出来るだけ若い人に回答してもらえるよう依頼したという。
 有効回答は341通で、回収率は37~40%。「一人暮らし世帯は2通届けても1通しか戻って来ません。行政区長会でも把握できていない住所もあり、そこには届ける事が出来ませんでした。その意味で、あくまでみなしの回収率です」と関教授。回答者のうち約6割が男性、約4割が女性。年齢別では60代や70代が最も多く、次いで80代、50代の順だった。



(了)
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鈴木博喜

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