【121カ月目の汚染水はいま】「風評被害でなく実害を招く」中通りからも海洋放出に反対の声「結論ありきじゃないか」
- 2021/04/10
- 16:47
原発事故後に大量発生している〝汚染水〟の海洋放出に「NO」と言っているのは浜通りの漁業者だけでは無い。東北新幹線が通る中通りでも反対の声があがっている。地元メディアでは連日「風評」の二文字が報じられているが、二本松市のコンビニ経営者は「薄めたって放射性物質はある。実害だ」と怒る。「結論ありき。時間延ばしを図って来ただけだろう」と怒る男性も。13日にも閣僚会議で海洋放出が正式決定されるとの報道が相次いでいるが、ギリギリまで抗議行動が展開される予定で、当事者無視の強行に県民の怒りはさらに高まりそうだ。

【「薄めても放射性物質ある」】
「まず『風評』という言葉が、これが違うんじゃないでしょうか。『実害』ですから。山にも畑にも、放射能はまだ実際に存在しています。今回も『汚染水を海に流したら風評が広まる』と言うけれど、放射性物質が含まれる水を海に流すのは事実でしょう。『風評』でも何でもありませんよ。なぜそれを『風評』なんて言ってしらばっくれているのか。おかしいと思います。『風評』じゃないです。放射性物質が含まれる水を流すんです。薄めたって放射性物質はあるんです」
二本松市針道でコンビニエンスストアを経営する服部浩幸さん=「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」(生業訴訟)原告団事務局長=は、そう語気を強めた。
政府の避難指示が出されなかった中通りでは、早くから「ここで生きていくしか無い」との声が多く聞かれた。避難したくても出来ない人が少なくなかった。いつしか被曝リスクは「風評被害」という言葉にかき消された。汚染や被曝リスクを口にすると、復興の足を引っ張るかのような言われ方をされる事もあった。実害に光が当たらず「風評」ばかりが叫ばれる構図は、汚染水の海洋放出問題でも同じだと服部さんは言う。
「日々の生活では、放射能ばかり気にしているわけにもいきません。個々人が判断してどこかで折り合いを付けながら、妥協点を探しながら生きていかなくちゃいけません。それが現実です。そのためには正確な情報、開かれた情報が不可欠です。綿密な調査を継続し、データを公表する。それがあって初めて判断出来ます。そもそも放射線というのは、浴びなければ浴びないに越した事は無いんです。微量であっても、浴びなくて済むのなら浴びない方が良いんです。汚染水だって同じです。海に流さなくて済むのなら1ベクレルでも流さない方が良いに決まってる。どうしても海に流さなければならないのなら、世界中の魚や微生物の許可を得てからやれと言いたいくらいですよ」

昨年10月にも政府が海洋放出決定を強行しそうになり、福島県庁まえでは抗議行動が展開された。県民が求めているのは先延ばしでは無く陸上保管の継続だ
【「住民投票なら反対多数」】
「例えば花見。桜の名所を記した地図に最新の放射線量を示せば、『ここは高いから、幼い子どもを連れていくのはやめておこうか』とか『このくらいだったら大丈夫かな』などと判断出来ます。それが本来のあるべき姿だと思います。でも、それが無いんです。そこが全部無視されてしまって、全て元通りになりましたというような…。逆に、こういう事を言うと『』風評加害者』のような言われ方すらされてしまう部分もありますよね」
そう語る服部さんも、経営者として忙しい毎日を送る。「浜通りの人たちはその辺りは切実だと思うんだけど、私のように中通りに住む人の関心は低いと思う。どこか他人事のようなところがあるんじゃないかな。話題に上る事も少ない。原発事故そのものがそういう感じだけどね」。汚染水が海洋放出された場合に直接的な影響を受ける浜通りとは、どうしても温度差があるという。
「私もコンビニを始めて丸3年になるんだけど、毎日の仕事に忙殺されていると、もうね、それで手一杯。仕事以外の事を考える余裕は無いな。テレビや新聞で見聞きしたとしても、より自分にとって重要な話題…消費税だとか感染症の支援策だとか、そっちに意識が行ってしまう。それはどこの家庭も同じだと思う。景気なんか良くなっていないし、感染症で追い打ちをかけられてる。その中でも何とか食って行かなくちゃならない。子どもを育てなきゃいけない。それに忙殺されるわけですよ」
一方で「もし住民投票で決めましょうという事になったら、反対が多数を占めると思います。そのくらいやっても良いと思いますけどね」とも。だがこれまで、そのような機運は高まらなかった。
「日本人が変わらなきゃいけない時期なんですよ」と服部さん。そもそも、汚染水は福島だけの問題では無い。福島県民だけが考えるべき問題では無いのだ。

日本共産党福島県委員会などが復興庁福島復興局長宛てに提出した緊急申し入れ。「地上保管の継続」を求めている
【「しばらく住んでから決めろ」】
服部さんの経営するコンビニエンスストアからほど近い場所にある紅枝垂れ桜。「中島の地蔵桜」の命名者で、今年3月末まで「守る会」会長を務めていた鴫原敏郎さんは「汚染水を海に流すのは早くから決まっていて、先延ばししてきただけの話でしょ。結論ありきだよね。とんでもない話だと思うけど…」と怒りを口にした。
「俺が一番嫌なのはオリンピック。安倍晋三前首相が『原発はコントロールされてます』ってはっきり言ったんだよ。全世界に向かって時の首相が『アンダーコントロールだ』と言ったんだよ。それなのになんだべ、全然コントロールなんかされてねえべ。コントロールされているという事は、いつまでにどうするかスケジュールがきちんとあって、その通りに進んでいるという事でしょう。それなのに、10年経ってもまだ汚染水をどうするとかタンクがどうだとか、そんな話は無いと思うよ」
「汚染水を海に流したら漁業者の生業が成り立たなくなっちゃう」と話す鴫原さんは、国の進め方にも不満があるという。
「風評対策に取り組むと口では言っているけれど、『時間が経てば何とかなる』が本音なのではないか。せめて担当者が福島に来て、しばらくの間生活してみて、地元の人たちともたくさん話をして、それで決めなきゃ駄目だよ。単に東京で決めるんじゃなくてね。いろいろな会議を福島でやれば良いんですよ」
鴫原さんも「この辺りで汚染水問題に関心ある人は…100人のうち2人くらいだべな」と話したが、抵抗の動きも出始めている。
日本共産党福島県委員会などは9日午後、復興庁福島復興局長や内堀雅雄知事宛てに緊急申し入れを行い、地上保管の継続を求めた。海洋放出に反対し続けている市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」は11日午後、いわき市小名浜の「アクアマリンふくしま」近くで緊急スタンディングを行う事を決めた。福島県内の10代から30代の若者有志が集まる「DAPPE」(Democracy Action to Protect Peace and Equality=平和と平等を守る民主主義アクション)は12日18時から、福島駅東口で抗議行動を展開する予定。
(了)

【「薄めても放射性物質ある」】
「まず『風評』という言葉が、これが違うんじゃないでしょうか。『実害』ですから。山にも畑にも、放射能はまだ実際に存在しています。今回も『汚染水を海に流したら風評が広まる』と言うけれど、放射性物質が含まれる水を海に流すのは事実でしょう。『風評』でも何でもありませんよ。なぜそれを『風評』なんて言ってしらばっくれているのか。おかしいと思います。『風評』じゃないです。放射性物質が含まれる水を流すんです。薄めたって放射性物質はあるんです」
二本松市針道でコンビニエンスストアを経営する服部浩幸さん=「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」(生業訴訟)原告団事務局長=は、そう語気を強めた。
政府の避難指示が出されなかった中通りでは、早くから「ここで生きていくしか無い」との声が多く聞かれた。避難したくても出来ない人が少なくなかった。いつしか被曝リスクは「風評被害」という言葉にかき消された。汚染や被曝リスクを口にすると、復興の足を引っ張るかのような言われ方をされる事もあった。実害に光が当たらず「風評」ばかりが叫ばれる構図は、汚染水の海洋放出問題でも同じだと服部さんは言う。
「日々の生活では、放射能ばかり気にしているわけにもいきません。個々人が判断してどこかで折り合いを付けながら、妥協点を探しながら生きていかなくちゃいけません。それが現実です。そのためには正確な情報、開かれた情報が不可欠です。綿密な調査を継続し、データを公表する。それがあって初めて判断出来ます。そもそも放射線というのは、浴びなければ浴びないに越した事は無いんです。微量であっても、浴びなくて済むのなら浴びない方が良いんです。汚染水だって同じです。海に流さなくて済むのなら1ベクレルでも流さない方が良いに決まってる。どうしても海に流さなければならないのなら、世界中の魚や微生物の許可を得てからやれと言いたいくらいですよ」

昨年10月にも政府が海洋放出決定を強行しそうになり、福島県庁まえでは抗議行動が展開された。県民が求めているのは先延ばしでは無く陸上保管の継続だ
【「住民投票なら反対多数」】
「例えば花見。桜の名所を記した地図に最新の放射線量を示せば、『ここは高いから、幼い子どもを連れていくのはやめておこうか』とか『このくらいだったら大丈夫かな』などと判断出来ます。それが本来のあるべき姿だと思います。でも、それが無いんです。そこが全部無視されてしまって、全て元通りになりましたというような…。逆に、こういう事を言うと『』風評加害者』のような言われ方すらされてしまう部分もありますよね」
そう語る服部さんも、経営者として忙しい毎日を送る。「浜通りの人たちはその辺りは切実だと思うんだけど、私のように中通りに住む人の関心は低いと思う。どこか他人事のようなところがあるんじゃないかな。話題に上る事も少ない。原発事故そのものがそういう感じだけどね」。汚染水が海洋放出された場合に直接的な影響を受ける浜通りとは、どうしても温度差があるという。
「私もコンビニを始めて丸3年になるんだけど、毎日の仕事に忙殺されていると、もうね、それで手一杯。仕事以外の事を考える余裕は無いな。テレビや新聞で見聞きしたとしても、より自分にとって重要な話題…消費税だとか感染症の支援策だとか、そっちに意識が行ってしまう。それはどこの家庭も同じだと思う。景気なんか良くなっていないし、感染症で追い打ちをかけられてる。その中でも何とか食って行かなくちゃならない。子どもを育てなきゃいけない。それに忙殺されるわけですよ」
一方で「もし住民投票で決めましょうという事になったら、反対が多数を占めると思います。そのくらいやっても良いと思いますけどね」とも。だがこれまで、そのような機運は高まらなかった。
「日本人が変わらなきゃいけない時期なんですよ」と服部さん。そもそも、汚染水は福島だけの問題では無い。福島県民だけが考えるべき問題では無いのだ。

日本共産党福島県委員会などが復興庁福島復興局長宛てに提出した緊急申し入れ。「地上保管の継続」を求めている
【「しばらく住んでから決めろ」】
服部さんの経営するコンビニエンスストアからほど近い場所にある紅枝垂れ桜。「中島の地蔵桜」の命名者で、今年3月末まで「守る会」会長を務めていた鴫原敏郎さんは「汚染水を海に流すのは早くから決まっていて、先延ばししてきただけの話でしょ。結論ありきだよね。とんでもない話だと思うけど…」と怒りを口にした。
「俺が一番嫌なのはオリンピック。安倍晋三前首相が『原発はコントロールされてます』ってはっきり言ったんだよ。全世界に向かって時の首相が『アンダーコントロールだ』と言ったんだよ。それなのになんだべ、全然コントロールなんかされてねえべ。コントロールされているという事は、いつまでにどうするかスケジュールがきちんとあって、その通りに進んでいるという事でしょう。それなのに、10年経ってもまだ汚染水をどうするとかタンクがどうだとか、そんな話は無いと思うよ」
「汚染水を海に流したら漁業者の生業が成り立たなくなっちゃう」と話す鴫原さんは、国の進め方にも不満があるという。
「風評対策に取り組むと口では言っているけれど、『時間が経てば何とかなる』が本音なのではないか。せめて担当者が福島に来て、しばらくの間生活してみて、地元の人たちともたくさん話をして、それで決めなきゃ駄目だよ。単に東京で決めるんじゃなくてね。いろいろな会議を福島でやれば良いんですよ」
鴫原さんも「この辺りで汚染水問題に関心ある人は…100人のうち2人くらいだべな」と話したが、抵抗の動きも出始めている。
日本共産党福島県委員会などは9日午後、復興庁福島復興局長や内堀雅雄知事宛てに緊急申し入れを行い、地上保管の継続を求めた。海洋放出に反対し続けている市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」は11日午後、いわき市小名浜の「アクアマリンふくしま」近くで緊急スタンディングを行う事を決めた。福島県内の10代から30代の若者有志が集まる「DAPPE」(Democracy Action to Protect Peace and Equality=平和と平等を守る民主主義アクション)は12日18時から、福島駅東口で抗議行動を展開する予定。
(了)
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