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「終の棲家を返せ」。富岡町の男性の怒りと悔しさ。不眠、体重減。妻もストレスで卒倒。裁判長は旧保安院官僚の証人尋問に前向き~福島原発かながわ訴訟

「福島原発かながわ訴訟」の第17回口頭弁論が19日午後、横浜地裁101号法廷(相澤哲裁判長)で開かれ、福島県富岡町から神奈川県横浜市に避難中の男性(69)が、「終の棲家」を奪われた怒りや哀しみを意見陳述した。一方、原告弁護団が求める専門家証人尋問は、進行協議で相澤裁判長が「名倉繁樹さん(旧原子力安全・保安院)の話は聴いてみたい」と前向きな姿勢を示したという。早ければ年明けにも、津波対策のキーマンが証言台に立つ可能性が出てきた。裁判官による現地検証には国、東電ともに「不必要」とする意見書を提出した。次回期日は11月18日13時。


【警察官に促され川内村へ】
 手は震えていた。無理もない。静まり返る法廷。満席の傍聴席。国や東電の代理人の視線も刺さる。しかし時折、顔をあげ、声に抑揚をつけながら男性ははっきりと想いを口にした。「原発事故が起きる前の私たちの生活が取り戻せない以上、その精神的苦痛は計り知れない現実を、十分に理解して欲しい」。
 福岡県生まれの男性は、建設会社に入社して福島県に赴任。原発工事に従事し、福島県大熊町の寮に暮らし始めた。楢葉町出身の妻と結婚した後の1978年に富岡町に自宅を新築した。自然豊かな浜通りで得た幸せな空間。「終の棲家は富岡町にしたいと考えました」。自宅庭ではブルーベリーや梅を育て、実がなるとジャムにして食卓に並べた。横浜に嫁いだ長女も孫も、じいじのジャムを味わうのを楽しみにしてくれていた。「おじ~」。孫は、常磐線・富岡駅を降りると駆け寄ってきたものだ。大地震だけなら、今でも孫は「おじ~」と叫びながら駆け寄ってくれたはず。原発事故さえ無ければ。
 〝安全神話〟を信じていた。よもや原発から放射性物質が漏れ出すなど夢にも思わなかった。あの日、管理責任者として80人の作業員の安否確認に走った。広野町から浪江町まで奔走し、双葉町の事務所に戻ったのは3月12日の未明。自宅に戻ろうとする自分を呼び止めたのは、防護服に身を包んだ警察官だった。「原子力緊急事態宣言が発令された」。
 自宅に帰るはずが、誘導された先は川内村の避難所。「あいつは無事なのか」。必死の思いで避難所を巡った。3カ所目の避難所に妻はいた。合流。しかし毛布も無く、寒い廊下で震えながら雑魚寝。挙げ句にトイレが近く、容赦なく異臭が漂う。「でも、受け入れてくださった川内村の皆さんのご恩は忘れられません」。避難指示は無かったが、3月14日には避難所を後にした。向かった先は長女が嫁いだ横浜。高速道路は通れず、一般道で15時間以上を要した。長く苦しい避難生活の始まりだった。


福島県富岡町での穏やかな生活を原発事故で奪われた原告の男性。自宅は居住制限区域内。町は来春の避難指示解除を目指しているが、自宅敷地内はいまだに5μSv/hを超す汚染が続いている=横浜市中区

【荒れ放題、5μSv/h超のわが家】
 娘や孫と一緒とはいえ、慣れない横浜での避難生活。5年半で体重は10kg落ちた。熟睡できず、それまで健康診断で異常など無かったのに、内臓疾患も抱えるようになった。妻も横浜に避難した2カ月後の2011年5月、早朝に失神してあごを5針縫う大けが。1年後にも失神するほどストレスは深刻だった。逆流性食道炎も発症、現在も通院治療を続けている。「妻の体調が心配で遠出は出来なくなりました」。
 コミュニティをも破壊した原発事故。募る孤立感。以前は定年退職後の雇用も約束されていたが、それも叶わない。年齢や健康不安から横浜での就職活動もままならない。働きたくても働けない悔しさ。「町が配ったタブレットで観るライブカメラの映像だけが心の拠り所です」。それでも、同じく神奈川県内に避難した人々とNPO法人を介して語り合い、慰め合えるようになった。少しずつ得られた充実感。昨夏には、避難者を中心に「かながわ東北ふるさとつなぐ会」が発足。会長を務めている。
 「居住制限区域」にあるわが家は荒れ放題。一時帰宅すると小動物の糞尿の悪臭が鼻をつく。今春には、窓ガラスが割られて空き巣被害に遭ったが、何が盗まれたのか確認すら出来ないほど。富岡町は来春の避難指示解除を目指しているが、どうやって帰還しろと言うのか。
 そもそも汚染など解消されていない。環境省の測定で、自宅敷地内に5μSv/hを超えるホットスポットが見つかった(高さ1センチ)。平均でも0.78μSv/hという高さだが、先ごろ環境省から送られてきた「追加除染報告書」の文面に、改めて怒りが込み上げてきた。「年内をめどに…最新の知見を踏まえた技法を取り入れ、可能な限り線量率低減を目標に工事をしたい」。来春の避難指示解除が取り沙汰されているのに今さら「最新の知見」か。「可能な限りの低減」とはどういう事だ…。「空間線量だけの評価で良いのでしょうか」と男性。「健康への影響が心配です。土壌や水道水の汚染に関しても、科学的に納得できる説明を求めたい。放射線管理区域並みの地域に、子どもたちは戻るでしょうか。高齢者ばかりの町になってしまうのではないでしょうか」。国は年20mSv以下なら安全と言うが、不安は尽きない。
 還暦を過ぎてから訪れた激動の避難生活。長女宅に早々と避難したため、つい最近まで「避難者」としてカウントされていなかった。横浜市の高齢者向けサービスを利用しようとしても「住民票の移転が必要」と一蹴された。遠出と言えば荒れ放題のわが家への一時帰宅。涙があふれる。原発の「安全神話」の崩壊を、こんな形で実感させられるとは。
 男性は言う。「元の故郷を、終の棲家を返してください」。


横浜地裁には多くの支援者が駆け付け、74席の傍聴席は満席。約30人が抽選で傍聴できないほどだった。次回期日から専門家の証人尋問が行われる予定だ

【「CTスキャンでガン20%増」】
 この日の口頭弁論では多くの準備書面、原告59世帯分の陳述書などが原告側弁護団から提出され、3人の弁護士が「大津波到来の予見可能性」、「ふるさと喪失」、「低線量被曝の健康への影響」について意見を述べた。十分に予見し得た大津波到来への対策を怠ったことで原発事故を招き、住民から住まいや故郷を奪った。被曝リスクも強いている─という論法だ。
 5月の口頭弁論で、100mSv以下の被曝リスクについて「他の要因による発がんの影響に隠れてしまうほど小さい」と過小評価している国の「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(WG)報告書」を「もはや科学的価値が無い」と批判した小賀坂徹弁護士は、オーストラリアでの医療被曝に関する最新の疫学研究などを追加主張した。
 論文によると、1回平均4.5mSvのCTスキャンを受けた人(約68万人)の発ガン率は、受けなかった人(約1025万人)より20%多かったという。検査回数と発ガン率の増加は比例していた。論文は「CTスキャンは明確な臨床適用がある場合にのみ限定して実施されるべきだ」と結論づけられており、小賀坂弁護士は「国は広島・長崎での調査のみに依拠し、最新の研究を無視している。年20mSvであっても健康影響を否定出来ないのは明らか。原発事故後の区域外避難者(いわゆる自主避難者)の避難行動の合理性は十分に裏付けられている」と述べた。これに対し、被告東電の代理人は「原告らの主張は低線量被曝を理由とする避難行動の合理性を基礎づけるものではない」と書面で反論している。
 原告らは専門家の証人尋問と裁判官による自宅などの現地検証を求めている。弁護団によると、閉廷後の進行協議の場で相澤裁判長が「名倉繁樹さん(旧原子力安全・保安院の原子力発電安全審査課審査官)の話は聴いてみたい」と前向きな姿勢を示したという。黒澤知弘弁護士は「裁判長は非常に前向きで、早ければ来年1月にも役人を法廷に呼び出すことが出来そうだ。大きな収穫を得られる可能性が出てきた」と語る。筒井哲郎氏(元技術者、シンクタンク「原子力市民委員会」)も含めた証人採否の最終決定は、10月28日に予定されている非公開の審尋で決まる。
 現地検証については、国、東電ともに「必要性は認められない。写真やビデオテープ等で立証が十分に可能」とする意見書を提出しており、裁判所の結論は出されていない。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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