【原発避難者から住まいを奪うな】親族に〝追い出し訴訟〟突きつけるのが「支援」? 避難者団体は緊急連絡先や戸籍・住民票の無断使用も問題視~第23回福島県交渉
- 2021/05/19
- 21:25
福島県が昨年12月、国家公務員宿舎に入居している区域外避難者の親や兄弟などを訪問し〝避難者追い出し〟に協力するよう求めた「親族訪問問題」で、福島県と「ひだんれん」(原発事故被害者団体連絡会)の通算23回目の話し合いが今月12日に行われた。避難者側は県の親族を巻き込む手法や親族情報の入手手続きについて何度も質したものの、福島県側は「避難者支援の一環」と正当性を主張。今回も平行線に終わった。「ひだんれん」は6月県議会前に再度、話し合いの場を設けるよう求めたが、県側は「議会前は難しい」と難色を示している。

【福島県「避難者支援のため」】
「ひだんれん」幹事の村田弘さん(「避難の協同センター」世話人、南相馬市小高区から神奈川県に避難継続中)は何度も机を叩いて怒りをあらわにした。
福島県は昨年12月、国家公務員宿舎に入居している避難者本人に事前了解を得ることなく、避難者親族宛てに生活拠点課長名での文書を送り付けた。さらに親族宅を訪問。「御親族が自主的に転居されない場合は、訴訟など法的手段に移行せざるを得ません」と法的手段をちらつかせて〝追い出し〟への協力を求めている。
親族への文書送付や訪問には、避難当事者から提出された「緊急連絡先」のほか、住民票や戸籍の附票が使われた。17世帯に訪問、1世帯に電話をかけ、強力に否定的な回答をしたのは3世帯だったという。
前回1月の話し合いでも県のやり方に激しく抗議したが、今回も、福島県生活拠点課の担当者は「県として間違っていると思いつつ行うことは無い。適正だからこそ行っている」と繰り返すばかりだった。
「避難されている方本人の安定した新しい住まいの確保という目的のため。避難者本人以外の方のために緊急連絡先を使ったのでは無い」
「国家公務員宿舎に避難されて供与期間が終了した。今の状態というのは、ある意味『不法占拠状態』。その解決に向けて支援していくというのが、私が所属している生活拠点課のお仕事。避難されている方の緊急連絡先にどのような支援や協力ができるのか、支援なり協力するお考えがあるのかどうか。そこの意向を確認したということ」
村田さんは「しきりに『支援のため』とおっしゃっているが、送付文書の内容や訪問して親族と話した内容は『支援』では無い。『期限が来たから出なさい』、『退去するように親族から言ってもらえますか』が『支援』か?」と質した。だが、県側は「一時的な住まい、応急仮設住宅である国家公務員宿舎から安定的な住まいに向かうことにつながるから、広い意味での『支援』だろうと考えている」と答えるにとどまった。
なお「支援」について、広辞苑には「ささえ助けること。援助すること」と掲載されている。

今回もリモートで行われた福島県と避難者団体との話し合いだが、平行線のまま
【「親族への連絡慎重にすべき」】
「福島県からの報告では、避難者本人と連絡がつかなかったのは4世帯。他の避難世帯については、拒否するにせよ連絡がついている。安否が不明とか所在確認ができない場合に緊急連絡先への連絡というのは通常の行政対応としてあり得ると思うが、連絡がついている世帯については、避難者本人の承諾が無いところでの親族訪問はもっと慎重であるべきではないか。本人同意が必要ではないのか」
そう問うたのは、「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さん。「避難の特徴として、親族との関係が良くない場合がほとんどじゃないの。そういうことって考慮できないの?考慮しなかったの?親族との分断というのが原発避難者問題の中でずっと言われてきたじゃないの。そこに手を突っ込んだんでしょ、あなたたちは」と福島県側に迫った。
生活拠点課の担当者は「親族に話を聴く中で、お子さんとの関係が悪い、協力は難しかろうとなれば、そこは当然一歩引いた形での対応になる。お会いしなければ、それは分からない」と答えたが、日々「反貧困ネットワーク」の活動で、今日明日の生活に困っている人を助けている瀬戸さんは納得しなかった。
「生活保護の受給申請でも、親族に連絡する『扶養照会』が問題になって、厚労省が止めている。それだけ親と子の関係っていうのは昔と違って変わっていて、より慎重であるべき。会ってみなきゃ分からないとか、そういうことは僕はやっぱり違うと思う。そこはやってはいけないことだ」
話し合いでは、緊急連絡先の取り扱いや親族情報の入手手続きについても問題視された。
福島県側は「『災害救助法に定める応急仮設住宅の入居者の調査』を目的に、避難者親族の住民票や戸籍の附票について市町村から提供を受けた」と説明する。しかし、避難者本人はもちろん、親族にも個人情報取得の承諾は得ていない。村田さんや瀬戸さんは避難者や親族の同意を得る必要があるのではないかと何度も確認したが、福島県側は「戸籍抄本の交付請求は、ご本人の承諾が無いとできないものでは無い」、「法律や条例を守っている。適正に行っている」と繰り返した。

原発避難者を国家公務員宿舎から追い出すことが「支援」なのか
【あくまで「第二の連絡先」】
「緊急連絡先」の扱いについて、不動産・住宅情報サイト「LIFELL HOME'S」は「電話番号の登録という意味合いが強いため、緊急連絡先に記載したからといって、連帯保証人のように本人に代わって家賃を立て替えるような責任は発生しません」、「場合によっては、本人が家賃を滞納した際に電話がかかってくることもありますが、それはあくまで『本人に連絡をとるため』であり、代わりに家賃を負担してほしいという主旨の電話ではありません」と記載している。
株式会社エイブルも、ホームページで「緊急連絡先はあくまで契約者と連絡が取れなくなった場合に連絡の取れる人を意味するだけで、家賃の支払い責任は負いません」と説明している。
「連帯保証人と緊急連絡先は似ているようで全く違います。連帯保証人は契約者と同じ債務を負いますので、家賃滞納の際に支払い義務が発生します。緊急連絡先はあくまで契約者と賃貸保証会社が連絡を取れなくなった場合に、連絡の取れる人の役割です。緊急連絡先であれば、家賃の支払い義務は発生しないということです」
では、どのような場合に「緊急連絡先」に記載された人に連絡するのか。「LIFELL HOME'S」では①緊急性が高い状況で、本人の折り返しを待っていられない時②本人に全く連絡がとれない場合─と2つのケースを例示している。
「緊急性が高い状況」とは、入居しているアパートなどで火災が起き、入居者に連絡がつかない場合。「地震発生時の安否確認や階下に水漏れを起こしているような場合などについても、緊急連絡先に連絡がいく可能性があります」。賃貸借契約の更新のタイミングで書類の返送がされていない場合や、建物一斉排水管清掃などの事務連絡、さらには近隣からの騒音などの苦情を受けての注意など「本人に全く連絡がとれない場合」にも緊急連絡先を頼ることがあるが、「緊急連絡先は、あくまで本人と連絡がとれない場合の『第二の連絡先』として必要」とされている。
入居者の追い出しや家賃支払いへの協力に使うなど論外なのだ。
(了)

【福島県「避難者支援のため」】
「ひだんれん」幹事の村田弘さん(「避難の協同センター」世話人、南相馬市小高区から神奈川県に避難継続中)は何度も机を叩いて怒りをあらわにした。
福島県は昨年12月、国家公務員宿舎に入居している避難者本人に事前了解を得ることなく、避難者親族宛てに生活拠点課長名での文書を送り付けた。さらに親族宅を訪問。「御親族が自主的に転居されない場合は、訴訟など法的手段に移行せざるを得ません」と法的手段をちらつかせて〝追い出し〟への協力を求めている。
親族への文書送付や訪問には、避難当事者から提出された「緊急連絡先」のほか、住民票や戸籍の附票が使われた。17世帯に訪問、1世帯に電話をかけ、強力に否定的な回答をしたのは3世帯だったという。
前回1月の話し合いでも県のやり方に激しく抗議したが、今回も、福島県生活拠点課の担当者は「県として間違っていると思いつつ行うことは無い。適正だからこそ行っている」と繰り返すばかりだった。
「避難されている方本人の安定した新しい住まいの確保という目的のため。避難者本人以外の方のために緊急連絡先を使ったのでは無い」
「国家公務員宿舎に避難されて供与期間が終了した。今の状態というのは、ある意味『不法占拠状態』。その解決に向けて支援していくというのが、私が所属している生活拠点課のお仕事。避難されている方の緊急連絡先にどのような支援や協力ができるのか、支援なり協力するお考えがあるのかどうか。そこの意向を確認したということ」
村田さんは「しきりに『支援のため』とおっしゃっているが、送付文書の内容や訪問して親族と話した内容は『支援』では無い。『期限が来たから出なさい』、『退去するように親族から言ってもらえますか』が『支援』か?」と質した。だが、県側は「一時的な住まい、応急仮設住宅である国家公務員宿舎から安定的な住まいに向かうことにつながるから、広い意味での『支援』だろうと考えている」と答えるにとどまった。
なお「支援」について、広辞苑には「ささえ助けること。援助すること」と掲載されている。

今回もリモートで行われた福島県と避難者団体との話し合いだが、平行線のまま
【「親族への連絡慎重にすべき」】
「福島県からの報告では、避難者本人と連絡がつかなかったのは4世帯。他の避難世帯については、拒否するにせよ連絡がついている。安否が不明とか所在確認ができない場合に緊急連絡先への連絡というのは通常の行政対応としてあり得ると思うが、連絡がついている世帯については、避難者本人の承諾が無いところでの親族訪問はもっと慎重であるべきではないか。本人同意が必要ではないのか」
そう問うたのは、「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さん。「避難の特徴として、親族との関係が良くない場合がほとんどじゃないの。そういうことって考慮できないの?考慮しなかったの?親族との分断というのが原発避難者問題の中でずっと言われてきたじゃないの。そこに手を突っ込んだんでしょ、あなたたちは」と福島県側に迫った。
生活拠点課の担当者は「親族に話を聴く中で、お子さんとの関係が悪い、協力は難しかろうとなれば、そこは当然一歩引いた形での対応になる。お会いしなければ、それは分からない」と答えたが、日々「反貧困ネットワーク」の活動で、今日明日の生活に困っている人を助けている瀬戸さんは納得しなかった。
「生活保護の受給申請でも、親族に連絡する『扶養照会』が問題になって、厚労省が止めている。それだけ親と子の関係っていうのは昔と違って変わっていて、より慎重であるべき。会ってみなきゃ分からないとか、そういうことは僕はやっぱり違うと思う。そこはやってはいけないことだ」
話し合いでは、緊急連絡先の取り扱いや親族情報の入手手続きについても問題視された。
福島県側は「『災害救助法に定める応急仮設住宅の入居者の調査』を目的に、避難者親族の住民票や戸籍の附票について市町村から提供を受けた」と説明する。しかし、避難者本人はもちろん、親族にも個人情報取得の承諾は得ていない。村田さんや瀬戸さんは避難者や親族の同意を得る必要があるのではないかと何度も確認したが、福島県側は「戸籍抄本の交付請求は、ご本人の承諾が無いとできないものでは無い」、「法律や条例を守っている。適正に行っている」と繰り返した。

原発避難者を国家公務員宿舎から追い出すことが「支援」なのか
【あくまで「第二の連絡先」】
「緊急連絡先」の扱いについて、不動産・住宅情報サイト「LIFELL HOME'S」は「電話番号の登録という意味合いが強いため、緊急連絡先に記載したからといって、連帯保証人のように本人に代わって家賃を立て替えるような責任は発生しません」、「場合によっては、本人が家賃を滞納した際に電話がかかってくることもありますが、それはあくまで『本人に連絡をとるため』であり、代わりに家賃を負担してほしいという主旨の電話ではありません」と記載している。
株式会社エイブルも、ホームページで「緊急連絡先はあくまで契約者と連絡が取れなくなった場合に連絡の取れる人を意味するだけで、家賃の支払い責任は負いません」と説明している。
「連帯保証人と緊急連絡先は似ているようで全く違います。連帯保証人は契約者と同じ債務を負いますので、家賃滞納の際に支払い義務が発生します。緊急連絡先はあくまで契約者と賃貸保証会社が連絡を取れなくなった場合に、連絡の取れる人の役割です。緊急連絡先であれば、家賃の支払い義務は発生しないということです」
では、どのような場合に「緊急連絡先」に記載された人に連絡するのか。「LIFELL HOME'S」では①緊急性が高い状況で、本人の折り返しを待っていられない時②本人に全く連絡がとれない場合─と2つのケースを例示している。
「緊急性が高い状況」とは、入居しているアパートなどで火災が起き、入居者に連絡がつかない場合。「地震発生時の安否確認や階下に水漏れを起こしているような場合などについても、緊急連絡先に連絡がいく可能性があります」。賃貸借契約の更新のタイミングで書類の返送がされていない場合や、建物一斉排水管清掃などの事務連絡、さらには近隣からの騒音などの苦情を受けての注意など「本人に全く連絡がとれない場合」にも緊急連絡先を頼ることがあるが、「緊急連絡先は、あくまで本人と連絡がとれない場合の『第二の連絡先』として必要」とされている。
入居者の追い出しや家賃支払いへの協力に使うなど論外なのだ。
(了)
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