【パンデミックと東京五輪】「世論高まれば止められる」「コロナ禍での開催は異常」~第2回女性たちの抗議リレーで学者や医師らが「NO」
- 2021/06/11
- 17:19
来月に開会が迫った東京オリンピック・パラリンピック開催に反対する女性たちの抗議リレー「私たちが止めるしかない東京オリパラ」の第2回が8日夜、行われた。ジェンダー視点から五輪の問題を研究している学者や医師など12人がリモート参加。前回に続き「人々の命を脅かすのが五輪」、「『どうせ開催しちゃう』と考えるのは責任放棄」、「コロナ禍でのオリパラ開催は命と健康を尊重しない社会そのもの」などと五輪中止を訴えた。そのうち3人の言葉を、党首討論で57年前の思い出しか語れない為政者に贈りたい。次回配信は15日20時。

【「命を脅かすのが五輪」】
関西大学の井谷聡子准教授は、スポーツとジェンダーをテーマに研究している立場から、オリンピック問題について語った。井谷さんが五輪問題の深刻さに気付いたのが2010年にカナダ・バンクーバーで行われた冬季五輪だという。
「当時、私はトロント大学で勉強しておりましたが、カナダ政府が不当に占拠した土地で行われたのがバンクーバー冬季五輪なんです。当然、『先住民から盗んだ土地でオリンピックをするな』という反対運動が起こりました。リーダーの1人であるハリエット・ナハニーという女性が五輪会場とアルペン競技会場(ウイスラー)をつなぐ高速道路の建設に反対。環境や先住民の暮らしを破壊するということで、工事中の道路を封鎖して抗議しました。それを受けて逮捕され、環境の悪い牢屋で肺炎を患い、釈放されてすぐに72歳で亡くなりました。とても衝撃的でした。先住民がホストネーションとして初めて参加すると大々的に宣伝された五輪だったのに、実際には、その土地を大事にしていた人を殺してまで開催されたのがバンクーバー冬季五輪だったのです。五輪の虚構性がすごく身に沁みました」
弱者の権利が奪われたのはバンクーバーだけではない。
「2008年の北京五輪のときには、100万人を超える人々が強制的に立ち退かされたと報告されています。2012年ロンドン五輪では、イーストロンドンという移民の多い地域が開発されて立ち退きの対象になりました。2014年のソチ冬季五輪、ソチは100年前ロシアによって引き起こされたチェルケス人虐殺の地なんですが、そこでも先住民であるチェルケス人の抗議に反して強行されています。さらに2016年のリオ五輪では、何万人もの人々が立ち退かされたというのは皆さん、覚えていらっしゃると思います。特にファベーラと呼ばれる、奴隷制などの歴史のなかで代々貧しい、社会の深淵に追いやられた人たちががターゲットになりました。そして平昌。韓国も日本と並んでジェンダー平等がなかなか進まない国ですが、平昌のエリアは女性たちが代々土地を所有していて、農業で土地を通じて自分たちの力を持っていたエリアだったんです。ここでも五輪の開発で土地を奪われました」
「行く先々で開発業者と政府が結託して、人々を土地から無理矢理引きはがす。そこに居る権利を奪う、環境を破壊するということが繰り返されてきたんです。だから、人々の命を脅かすのが五輪だということがコロナ禍でようやく人々が気付いてくれたのかなと思います。こういう長い歴史があるんだということを覚えていただいて、東京大会の後も反五輪を皆さんに呼びかけたいと思っています」

作家で「反貧困ネットワーク」の世話人も務める雨宮処凜さんは、女性のホームレス化が進んでいると指摘したうえで「命や住まいを保障しないで路上に出しておいてオリンピックというのは通らないんじゃないか」と述べた
【繰り返される〝ゼロ答弁〟】
「東京に住んでいる生活者としてオリンピック中止を求めたいと考えています」
そう語り始めたのは法政大学の上西充子教授だ。
「2018年の『働き方改革』の時から国会審議をずっと見て来ました。『働き方改革』の国会審議の時は『長時間労働を是正します』というきれいな方だけを言って、一方で抱き合わせで労働時間の規制緩和をしようとしていました。そのことを野党に問われても、できるだけごまかして何も答えないようにしてきたんです。その後の『統計不正』の時も、意図的に統計に手を入れたんじゃないかと野党側が追及しても、答えないということを繰り返してきました。『桜を観る会』もそうでしたね。名簿を廃棄したとか…。政府が非を認めたくない時に、いろんな理屈をつけて答えないんですよ。何も答えないことによって物事をうやむやにしようとする、あるいは責任をあいまいにしようとするんです」
同じことが今、五輪開催の是非に関しても繰り返されている。9日に行われた党首討論では、菅首相が1964年の前回東京五輪の思い出を延々と語る一方で、具体的なパンデミック対策には言及しなかった。
「感染が全く収束している状況ではないのに五輪をやろうとしていて大丈夫か、ということに対して答えないのは非常に危ないことだと思います。安心安全って繰り返すけれども、こうやりますから大丈夫ですということを詳しく言わない。本当にできるのか、大丈夫かと言っても一切答えません。(五輪強行で)感染が拡大するということは多くの専門家が懸念しています。それでもやろうとしている状況が危ないというふうに生活者一人一人が考えなければいけないと思うんです。菅首相はまだ有観客にこだわっています。児童生徒の観戦中止も決めていません」
では、どうしたら止められるか。上西さんは「世論だ」と強調した。
「世論の圧倒的多数が注目すると、入管法の改正が止まったりだとか、検察庁法の改正が止まったりというように止めざるを得なくなります。そういう世論を私たちがつくっていかないと、五輪後の感染爆発に対して私たち自身が責任を負えないですからね。責任を負えないからこそ、当事者として止めなきゃいけないと考えています。『どうせ開催しちゃうんだよね』、『だったら何を言ってもしょうがない』と考えるのは責任放棄だと思います。いろんな人が関わっていかないと、政府が国民の言う事を聞かないまま暴走するという状況は変わらないと思います」

9日の党首討論でも具体的なパンデミック対策について言及しなかった菅首相。上西さんは「感染が全く収束している状況ではないのに五輪をやろうとしていて大丈夫か、ということに対して答えないのは非常に危ないことだ」と強調した
【「今も原子力緊急事態宣言下」】
神奈川の勤務医・牛山元美さんは福島第一原発後の小児甲状腺ガン患者や家族を支援する活動を続けている。
「福島県内には、今も放射線量が高くて住むことができない『帰還困難区域』があります。3・11当日に発令された『原子力緊急事態宣言』はいまだに解除されていません。そんな日本でオリパラをやろうとしていること自体、アスリートや国民の命と健康を大切にしていないことの表れだと思います。当初は〝復興五輪〟というふれこみで、聖火ランナーを走らせるために原発周辺の高汚染地を被曝しながら清掃したり、放射線量がまだ高い地域に住民の帰還を強制するかのような動きもあります。五輪のために使われているお金や人材は本来、避難とか除染、廃炉に使われるべきなのです」
勤務する病院では、院内感染防止に苦労しているという。
「発熱者とそうでない患者を分けて診察することができません。そのくらい小さな病院なんです。病院の中に発熱者を一歩も入れないという原則をつくらなければなりませんでした。発熱した方は全て、屋外の駐輪場に設置したテントの中、またはご自身の自家用車に乗ったまま。窓越しに診察しています。もちろん聴診器も当てません。お話を聴くだけです。風上に私たちがいて、風下にいる患者さんを診るという感じです。具合の悪い患者さんをテントの中で待たせて、一般診療の合い間に呼ばれては防護服を着て手袋をして診察しています。臨床医としてはとても申し訳ないです」
ワクチンの効果や免疫力を弱める可能性があると言われる変異株。牛山さんは「特にインド株は非常に危うい」と指摘する。
「これから変異株がどれだけ拡がるかが、社会の予防対策を進めていくうえでの重要なポイント。それなのに大勢の人が集まるオリパラを予定するというのは、本当に正気の沙汰ではありません。いったいどうやったら『安全安心』に開催できるのか、教えて欲しいです」。神奈川県内の競技会場に小学生を無料で動員する計画を知り、「保育園児や小学生の感染が相次いでいますが、そんな時にワクチン接種の対象に全くなっていない児童をなぜ連れて行くのか、理解できません」と憤る。
「コロナ禍でのオリパラ開催は命と健康を尊重しない社会そのもの。放射能や原発事故をアンダーコントロールできていると嘘をついて誘致したオリパラを、今度はウイルスをアンダーコントロールできないままにやろうとする政府は異常です。原発事故の時と同じように、恐らく何かの利権のために国民の命と健康が犠牲にされようとしているのでしょう。こんな社会は嫌だから変えたいんです」
(了)

【「命を脅かすのが五輪」】
関西大学の井谷聡子准教授は、スポーツとジェンダーをテーマに研究している立場から、オリンピック問題について語った。井谷さんが五輪問題の深刻さに気付いたのが2010年にカナダ・バンクーバーで行われた冬季五輪だという。
「当時、私はトロント大学で勉強しておりましたが、カナダ政府が不当に占拠した土地で行われたのがバンクーバー冬季五輪なんです。当然、『先住民から盗んだ土地でオリンピックをするな』という反対運動が起こりました。リーダーの1人であるハリエット・ナハニーという女性が五輪会場とアルペン競技会場(ウイスラー)をつなぐ高速道路の建設に反対。環境や先住民の暮らしを破壊するということで、工事中の道路を封鎖して抗議しました。それを受けて逮捕され、環境の悪い牢屋で肺炎を患い、釈放されてすぐに72歳で亡くなりました。とても衝撃的でした。先住民がホストネーションとして初めて参加すると大々的に宣伝された五輪だったのに、実際には、その土地を大事にしていた人を殺してまで開催されたのがバンクーバー冬季五輪だったのです。五輪の虚構性がすごく身に沁みました」
弱者の権利が奪われたのはバンクーバーだけではない。
「2008年の北京五輪のときには、100万人を超える人々が強制的に立ち退かされたと報告されています。2012年ロンドン五輪では、イーストロンドンという移民の多い地域が開発されて立ち退きの対象になりました。2014年のソチ冬季五輪、ソチは100年前ロシアによって引き起こされたチェルケス人虐殺の地なんですが、そこでも先住民であるチェルケス人の抗議に反して強行されています。さらに2016年のリオ五輪では、何万人もの人々が立ち退かされたというのは皆さん、覚えていらっしゃると思います。特にファベーラと呼ばれる、奴隷制などの歴史のなかで代々貧しい、社会の深淵に追いやられた人たちががターゲットになりました。そして平昌。韓国も日本と並んでジェンダー平等がなかなか進まない国ですが、平昌のエリアは女性たちが代々土地を所有していて、農業で土地を通じて自分たちの力を持っていたエリアだったんです。ここでも五輪の開発で土地を奪われました」
「行く先々で開発業者と政府が結託して、人々を土地から無理矢理引きはがす。そこに居る権利を奪う、環境を破壊するということが繰り返されてきたんです。だから、人々の命を脅かすのが五輪だということがコロナ禍でようやく人々が気付いてくれたのかなと思います。こういう長い歴史があるんだということを覚えていただいて、東京大会の後も反五輪を皆さんに呼びかけたいと思っています」

作家で「反貧困ネットワーク」の世話人も務める雨宮処凜さんは、女性のホームレス化が進んでいると指摘したうえで「命や住まいを保障しないで路上に出しておいてオリンピックというのは通らないんじゃないか」と述べた
【繰り返される〝ゼロ答弁〟】
「東京に住んでいる生活者としてオリンピック中止を求めたいと考えています」
そう語り始めたのは法政大学の上西充子教授だ。
「2018年の『働き方改革』の時から国会審議をずっと見て来ました。『働き方改革』の国会審議の時は『長時間労働を是正します』というきれいな方だけを言って、一方で抱き合わせで労働時間の規制緩和をしようとしていました。そのことを野党に問われても、できるだけごまかして何も答えないようにしてきたんです。その後の『統計不正』の時も、意図的に統計に手を入れたんじゃないかと野党側が追及しても、答えないということを繰り返してきました。『桜を観る会』もそうでしたね。名簿を廃棄したとか…。政府が非を認めたくない時に、いろんな理屈をつけて答えないんですよ。何も答えないことによって物事をうやむやにしようとする、あるいは責任をあいまいにしようとするんです」
同じことが今、五輪開催の是非に関しても繰り返されている。9日に行われた党首討論では、菅首相が1964年の前回東京五輪の思い出を延々と語る一方で、具体的なパンデミック対策には言及しなかった。
「感染が全く収束している状況ではないのに五輪をやろうとしていて大丈夫か、ということに対して答えないのは非常に危ないことだと思います。安心安全って繰り返すけれども、こうやりますから大丈夫ですということを詳しく言わない。本当にできるのか、大丈夫かと言っても一切答えません。(五輪強行で)感染が拡大するということは多くの専門家が懸念しています。それでもやろうとしている状況が危ないというふうに生活者一人一人が考えなければいけないと思うんです。菅首相はまだ有観客にこだわっています。児童生徒の観戦中止も決めていません」
では、どうしたら止められるか。上西さんは「世論だ」と強調した。
「世論の圧倒的多数が注目すると、入管法の改正が止まったりだとか、検察庁法の改正が止まったりというように止めざるを得なくなります。そういう世論を私たちがつくっていかないと、五輪後の感染爆発に対して私たち自身が責任を負えないですからね。責任を負えないからこそ、当事者として止めなきゃいけないと考えています。『どうせ開催しちゃうんだよね』、『だったら何を言ってもしょうがない』と考えるのは責任放棄だと思います。いろんな人が関わっていかないと、政府が国民の言う事を聞かないまま暴走するという状況は変わらないと思います」

9日の党首討論でも具体的なパンデミック対策について言及しなかった菅首相。上西さんは「感染が全く収束している状況ではないのに五輪をやろうとしていて大丈夫か、ということに対して答えないのは非常に危ないことだ」と強調した
【「今も原子力緊急事態宣言下」】
神奈川の勤務医・牛山元美さんは福島第一原発後の小児甲状腺ガン患者や家族を支援する活動を続けている。
「福島県内には、今も放射線量が高くて住むことができない『帰還困難区域』があります。3・11当日に発令された『原子力緊急事態宣言』はいまだに解除されていません。そんな日本でオリパラをやろうとしていること自体、アスリートや国民の命と健康を大切にしていないことの表れだと思います。当初は〝復興五輪〟というふれこみで、聖火ランナーを走らせるために原発周辺の高汚染地を被曝しながら清掃したり、放射線量がまだ高い地域に住民の帰還を強制するかのような動きもあります。五輪のために使われているお金や人材は本来、避難とか除染、廃炉に使われるべきなのです」
勤務する病院では、院内感染防止に苦労しているという。
「発熱者とそうでない患者を分けて診察することができません。そのくらい小さな病院なんです。病院の中に発熱者を一歩も入れないという原則をつくらなければなりませんでした。発熱した方は全て、屋外の駐輪場に設置したテントの中、またはご自身の自家用車に乗ったまま。窓越しに診察しています。もちろん聴診器も当てません。お話を聴くだけです。風上に私たちがいて、風下にいる患者さんを診るという感じです。具合の悪い患者さんをテントの中で待たせて、一般診療の合い間に呼ばれては防護服を着て手袋をして診察しています。臨床医としてはとても申し訳ないです」
ワクチンの効果や免疫力を弱める可能性があると言われる変異株。牛山さんは「特にインド株は非常に危うい」と指摘する。
「これから変異株がどれだけ拡がるかが、社会の予防対策を進めていくうえでの重要なポイント。それなのに大勢の人が集まるオリパラを予定するというのは、本当に正気の沙汰ではありません。いったいどうやったら『安全安心』に開催できるのか、教えて欲しいです」。神奈川県内の競技会場に小学生を無料で動員する計画を知り、「保育園児や小学生の感染が相次いでいますが、そんな時にワクチン接種の対象に全くなっていない児童をなぜ連れて行くのか、理解できません」と憤る。
「コロナ禍でのオリパラ開催は命と健康を尊重しない社会そのもの。放射能や原発事故をアンダーコントロールできていると嘘をついて誘致したオリパラを、今度はウイルスをアンダーコントロールできないままにやろうとする政府は異常です。原発事故の時と同じように、恐らく何かの利権のために国民の命と健康が犠牲にされようとしているのでしょう。こんな社会は嫌だから変えたいんです」
(了)
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