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【南相馬訴訟】「20mSvで指定解除するな」~被曝から家族守ろうとして事故に遭った夫。妻は訴える「勧奨地点解除されても汚染は消えぬ。撤回を」

空間線量が年20mSvを下回ったことを理由に「特定避難勧奨地点」の指定を一方的に解除したのは違法だとして、福島県南相馬市の住民808人が国を相手取って起こした民事訴訟の第5回口頭弁論が28日午後、東京地裁103号法廷で開かれた。キンモクセイ香る初秋の南相馬だが、勧奨地点が解除された後も汚染でキノコやマツタケなど「山の幸」は口に出来ない。そして帰らぬ夫…。法廷では2人の原告が被曝リスクへの不安や厳しい避難生活、放射線管理区域に相当する深刻な土壌汚染について訴えた。次回期日は2017年1月19日。


【線量下げようと伐採、そして…】
 許せない。許せるはずがない。夫の命を軽視した東電。「ご主人の死と原発事故に関連性はありません」。たった1本の電話で済まされた。東電の結論は「賠償金0円」。書類を提出した後、何をどう審査したのか。過程も決定理由も全く分からない。
 林マキ子さん(67)の夫・幸一さんはしかし、間違いなく原発事故に〝殺された〟のだった。「原発事故が無ければ木を伐る必要も無かった。私は絶対に許さない」。
 2012年2月1日。少しでも放射線量を下げようと、南相馬市原町区大谷の自宅周辺の木を伐った。妻が持たせてくれたおにぎりを食べながら一服していると、1本だけ残っていることに気付いた。午後には血圧の薬をもらいに病院に行かなければならない。「病院に行く前に伐っちまうか」。立ち上がり、再び作業に取り掛かった幸一さんの首に、伐ったばかりの木が落ちてきた。重機に激しく打ち付けられた幸一さんは、そのまま帰らぬ人となった。享年65。あまりにも早すぎる死だった。マキ子さんは思う。「1本くらい残っていても良かったのにね」。4年が過ぎ、ようやく少し笑って振り返られるようになった。「立ち直るまでには、かなり時間がかかりました」。
 当然、東電に賠償金を請求した。暮れも押し迫ってきた12月に、電話で申請却下を告げられた。「せめて書類ぐらい出すべきだ」とマキ子さん。お金じゃない。原発事故のせいで夫が亡くなった事を東電に認めさせたかった。特定避難勧奨地点に指定された自宅は、2011年6月の南相馬市職員の測定で3.4μSv/h。それは玄関先と庭先だけの話で、実際にはさらに高い数値も測定されていた。「原発事故が無ければ…」とマキ子さんが考えるのも当然だ。しかし、東電はそれを完全否定した。


原告の抱く被曝リスクへの不安や厳しい避難生活について法廷で訴えた林マキ子さん。夫の幸一さんは少しでも放射線量を下げようと自宅で伐採作業中に事故に遭い亡くなった。「原発事故が無ければ死ぬことは無かった」。

【「指定解除で帰還を強いられる」】
 夫の保険金は、残っていた住宅ローンの繰り上げ返済に消えた。特定避難勧奨地点に指定されたことで2015年3月までは家族1人あたり月に10万円が支給されたが「年金を加えて何とかやりくりしていた」。夫を亡くし、息子と孫と3人での仮設住宅暮らし。孫の学校の関係で相馬市から南相馬市の仮設住宅に移ったが、いずれ退去を迫られる。そもそも自宅は、指定解除後の2015年4月の段階で地表真上で10μSv/h、空間線量でも1.8~2.0μSv/hという高い数値が示された。自宅裏も7μSv/h。汚染があるからこそ、夫は「家族のために少しでも放射線量を下げたい」と願って事故に遭ったし、孫を戻すわけにもいかない。「特定避難勧奨地点の解除を撤回してもらいたいです」。
 林さんの陳述は、この日提出された原告21人分の陳述書や準備書面「高い放射線量による健康不安と帰還の強要」を補完する形で行われた。準備書面には、解除後も避難を続ける理由や解除により帰還を余儀なくされた原告たちの生々しい声が詰まっている。
 「福島に帰れないのは、子どもたちの生活環境を変えたくないという思いと、放射線によって次の世代の子達にまで何らかの健康被害が生じるかもしれないという強い不安からです」
 「除染をしていても家の敷地内でも放射線量の高いところもあります。周りの山などの放射線量は高く、風が吹けば家の近くの放射線量が高くなってしまいます」
 地域が放射能に汚染されなければ享受できた山の幸も奪われた。避難生活では全て金を出して買わなければならない。「野菜などを外から買ってこなければならず、我が家も含め費用がかさんでいます」。そして「国の指定解除イコール安全宣言」という周囲の誤解と「それなのになぜ帰らないんだ」という有形無形の圧力。「避難を継続している世帯に対し、いつまで避難しているんだという声も聞こえてきます」。耐えかねて、汚染の続く自宅に戻らざるを得なかった原告もいる。
 林さんは法廷で訴えた。
 「陳述書や準備書面をよくご覧になっていただき、私たちの持つ強い不安や、指定解除によって戻らざるを得なくなる状況について分かっていただきたい」


原告たちは、この日も早朝に南相馬市を出発。バスで東京地裁に駆け付けた。金銭的にも肉体的にも厳しい闘いが続く

【96%の土壌で4万Bq/㎡超】
 「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」の共同代表でもある原告の小澤洋一さんは、準備書面「推定年間被ばく線量及び土壌汚染状況について」の補足説明として、実際に行った空間線量と土壌汚染密度の測定を基に特定避難勧奨地点解除の不当性を訴えた。
  同プロジェクトは2015年4月から約7カ月間、原告たちが原発事故当時住んでいた自宅の空間線量率を測った。国は勧奨地点の指定にあたって玄関先と庭先しか測らなかったが、小澤さんたちは生活圏内を屋内外で網羅的に測定。1日のうち8時間を屋外で、16時間を屋内で過ごすことを前提として原告たちの推定年間被曝線量を推計した。その結果、95.61%の世帯で一般公衆の被曝限度である年1mSvを上回った。年5mSvに達した住宅も。しかも、この数値には通学路や土手、農地などの汚染は反映されていない。さらに勧奨地点の指定を受けていない住居でも同様の試算を行ったが「ほとんど差異が無く、非指定世帯でも年3.35mSvを超えたところがあった」(小澤さん)。
 土壌汚染密度に関しても、96%で放射線管理区域の基準となる1平方メートルあたり4万ベクレルを上回ったという。小澤さんは言う。「本来、放射線管理区域では飲食や睡眠が禁じられるなど厳しい制約がある。国は土壌が汚染されていることの説明すらしないまま、原告にそういう場所への帰還を促している」。
 この日の口頭弁論では、原子力被災者生活支援チームの松井拓郎支援調整官や原子力災害現地対策本部の紺野貴史次長ら、内閣府の官僚も被告席に座った。閉廷後、「陳述書はしっかりと読ませていただく」と語った役人たちに原告の想いは届いたか。福田健治弁護士をはじめ弁護団は今後も、専門家の意見書を提出するなどして年20mSvを基準とする特定避難勧奨地点解除の違法性を訴えていく。次回期日は2017年1月19日15時半(11月中に進行協議)。
 (提出された準備書面などはこちら→http://minamisouma.blogspot.jp/p/blog-page_89.html



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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