【パンデミックと東京五輪】子どもたちの〝動員〟巡り揺れる福島市 「学校連携観戦中止を」と医師会 市教委は「学校長の判断」 県は「安全対策講じる」
- 2021/06/29
- 06:09
県営あづま球場で東京五輪の野球・ソフトボール開催が予定されている福島県福島市が、学校行事として子どもたちを観戦させる「学校連携観戦」を巡って揺れている。福島市医師会は「児童生徒の招待は行わない」よう求める意見書を提出。熱中症のリスクに感染症の懸念が加わり、県議会でも中止を求める声があがった。しかし、県オリパラ推進室は「できる限りの安全安心対策をします」として実施する構え。福島市教委は現時点での中止は決めておらず「最終的には学校長の判断」とするにとどまっている。

【「人が動くと感染増える」】
福島市医師会(岡野誠会長)が今月24日、東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長と内堀雅雄福島県知事宛てに提出した意見書には、学校連携観戦の中止が明確にうたわれていた。医師会が提示したのは次の3点だった。
①無観客で行うこと。仮に極力入場を制限するとしても、児童生徒の招待は行わないこと
②会場内での酒類の提供は行わないこと
③関連するイベントは中止または縮小すること
「無観客というのはもう、チケットの再抽選ということになっているので、あとは何人入れるのかというところなのでしょう。人が動くと感染者は増えます。五輪も、海外からのお客さんは福島に来ないにしても、国内のお客さんが来るとどうしても人の流れができてしまいます。そこに児童生徒が含まれてしまうと、やはり感染リスクが上がるということはわれわれも経験してきました。ですので医療現場の声としては、やはり(学校連携観戦は)避けてもらいたいということです」
医師会の山田準事務局長は、意見書の趣旨をそう説明する。
「県営あづま球場で野球・ソフトボールを行うと決まった時には、観客の熱中症対策をお願いしますという依頼は来ていました。今回もそういうことなのかなということで準備はしています。五輪そのものに反対するということではなくて、役割はきちんと果たしますよ、協力はさせてもらいますけれども、感染リスクを考えるとこういうことを検討してくださいというお願いなんです」
感染症の問題が無くても炎天下での感染には熱中症のリスクが伴う。ソフトボールの試合は7月21、22の両日、野球は28日に予定されているが、気象庁の過去30年のデータによると、7月21日の最高気温は29・4℃。28日は30・9度に達する。屋根の無いスタンドはさらに気温は上がると想定される。
そこに加えてパンデミック。
福島市では昨年12月に新規陽性者が急増。ひと月で294人が感染した。今年4、5の両月にも、新規陽性者数はそれぞれ100人を上回った。ここに来て再び増加傾向にあり、内堀知事は28日、「来月には、夏休みなどで、イベントや行事に参加する機会も増え、県内外で人流が増加することが予想されます」、「屋内外に関わらず、常に人との間隔を十分に確保するよう心掛けてください。また、お出かけされる場合には、事前に移動先の感染状況等を十分に確認し、感染が流行している地域への移動は控えてくださるようお願いします」などとするメッセージを発したほどだ。

福島市医師会が組織委などに提出した意見書。学校連携観戦の中止を求めている
【「辞退した学校かなりある」】
しかし、組織委も福島県も現段階では学校連携観戦を実施する計画は変えていない。では、誰が子どもたちをリスクから守るのか。福島市教委は「学校長の判断」との考えだ。
「今月24、25の両日、県オリパラ推進室が現地説明会をあづま球場で開き、うちの主事も参加しました。導線を分けるなど一定の感染対策は取られているという報告は受けています。それでもなお、やはり懸念は残りますので、保護者の意向を十分に確認したうえで最終的には学校長が判断するということになります」(学校教育課・鴫原理課長)
懸念は残るが、最終的な判断は学校長に委ねる。これが市教委の姿勢。
「持ち込めるのは750ミリリットルまでのペットボトル1本と聞いています。炎天下でマスクをして感染するというのは熱中症のリスクがかなりあると考えられます。そこが一番懸念しているところです」
「感染症に関しても、導線を分けるとか対策を取るということですが、最終的にどうなるか分からない部分もあります。私たちが現地視察に行って確認したことについては各学校にお知らせして判断材料にしてもらいます」
一方、鴫原課長は情報不足も口にした。
「せっかくの機会ですので、何も無ければ観戦させてあげたいという想いはあります。ただ、現時点でもまだ、県から観戦の手引きなどが示されていないんです。そのなかで判断しなくてはならないのは、われわれとしても非常に苦しいです」
「24日の説明会で席割りや導線などを初めて知りました。感染対策がどうなるのか見えるまでは各学校にも説明責任があるので待っていたのですが、これ以上は待てません」
28日夕方には、福島市議会の共産党議員団が市としての学校連携観戦辞退を要請した。
古関明善教育長は「子どもたちの安全安心が当然、最優先されなければなりません。本市は学年ごとの学校行事に観戦を組み込んでオリパラ教育を推進して来ました。子どもたちにとっては良い機会だと考えていましたが状況が変わりました。学校行事ですので最終的には学校長の判断になりますが、保護者の声も確認し、この状況をふまえて判断して欲しいと考えています。現に辞退している学校もかなりあります」と話したが、市としての学校連携観戦中止に言及することは無かった。

日本共産党福島市議会議員団は28日、学校連携観戦を辞退するよう市教委に要請した。市教委は現段階では「学校長の判断」としている
【「キャンセル尊重する」】
福島県文化スポーツ局長は今月24日の県議会で「会場内外の移動において、一般の観客との動線を分けるとともに、引率者向けに行う現地確認の際に、感染症対策について十分に周知するなど、安全かつ安心して観戦いただけるようしっかりと取り組んでまいります」と答弁(共産党・吉田英策県議の代表質問)。学校連携観戦の実施に問題はないとの考えを示している。
では、子どもたちは球場で一般客と完全に切り離されるのか。県オリパラ推進室の小谷野繁樹主幹によると「一般の方と完全に触れ合うことは無いということではない」という。
「動線は一緒です。ただ、その中で学校さんの通行するレーンと一般の方が通行するレーンという形で区分する方法などを考えています。一部どうしても狭い場所があるので、そこには人を配置して学校さんがまとまって通行して一般の方には待っていただくとか、逆に学校さんには待っていただくとか。入り口については団体専用の入り口をつくっていただくよう組織委と調整しています。人手も使ってできる限り分けていくというイメージです。観客席ではエリア区分をしていますので、一般の方と混在するような形にはならないと今のところは考えています」
炎天下の球場内に持ち込めるのはペットボトル1本だけ。飲み干してしまったらどうするのか。「組織委が会場内に仮設の水飲み場を設置すると聞いています。そこで水の補充ができるように準備しているということです」。
そもそも、最大で3万人を収容できる県営あづま球場に実際には何人入場させるのかもはっきりしない。
「組織委が独自に決めていて、それが1万4300人。その中には仮設の設備など客席がつぶれてしまうようなものも含まれているので、実際の座席数は実は組織委は非公表にしています。今回『50%、1万人が上限』となっているんですが、50%というのが実際に何人なのか。座席がひとつもつぶれなければ7150席。学校連携観戦の子どもたちの分は50%の枠外と言われているので、そことは違う整理をしているのでしょう」
医師からも懸念の声があがっているのになぜ、学校連携観戦を実施しなければならないのか。
「子どもたちにとっては貴重な観戦機会です。五輪の意義など五輪教育を推進しようということで進めて来ていました。〝復興五輪〟ということで復興している姿、子どもたちの元気な姿を皆さんに感じていただけるというのもありました。とはいえ、子どもたちの観戦機会と現状の新型コロナウイルスに対する学校の考え方もありますので、枠組みは維持しつつも、学校さんにご判断いただいて、もしもキャンセルしたいということであれば尊重したいと考えています。球場でご覧いただく場合には、できる限りの安全安心対策をします」
福島市医師会から提出された意見書については「心配されている趣旨をわれわれはお聞きしていない」という。
「子どもたちと一般の方をできる限り分けられるように対応して、少しでも安全安心にご覧いただけるようにという方針を打ち出しているので、そこを医師会さんがどう評価なさるか、どう判断されるのかですね。そこは全然お話を伺っていません」
(了)

【「人が動くと感染増える」】
福島市医師会(岡野誠会長)が今月24日、東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長と内堀雅雄福島県知事宛てに提出した意見書には、学校連携観戦の中止が明確にうたわれていた。医師会が提示したのは次の3点だった。
①無観客で行うこと。仮に極力入場を制限するとしても、児童生徒の招待は行わないこと
②会場内での酒類の提供は行わないこと
③関連するイベントは中止または縮小すること
「無観客というのはもう、チケットの再抽選ということになっているので、あとは何人入れるのかというところなのでしょう。人が動くと感染者は増えます。五輪も、海外からのお客さんは福島に来ないにしても、国内のお客さんが来るとどうしても人の流れができてしまいます。そこに児童生徒が含まれてしまうと、やはり感染リスクが上がるということはわれわれも経験してきました。ですので医療現場の声としては、やはり(学校連携観戦は)避けてもらいたいということです」
医師会の山田準事務局長は、意見書の趣旨をそう説明する。
「県営あづま球場で野球・ソフトボールを行うと決まった時には、観客の熱中症対策をお願いしますという依頼は来ていました。今回もそういうことなのかなということで準備はしています。五輪そのものに反対するということではなくて、役割はきちんと果たしますよ、協力はさせてもらいますけれども、感染リスクを考えるとこういうことを検討してくださいというお願いなんです」
感染症の問題が無くても炎天下での感染には熱中症のリスクが伴う。ソフトボールの試合は7月21、22の両日、野球は28日に予定されているが、気象庁の過去30年のデータによると、7月21日の最高気温は29・4℃。28日は30・9度に達する。屋根の無いスタンドはさらに気温は上がると想定される。
そこに加えてパンデミック。
福島市では昨年12月に新規陽性者が急増。ひと月で294人が感染した。今年4、5の両月にも、新規陽性者数はそれぞれ100人を上回った。ここに来て再び増加傾向にあり、内堀知事は28日、「来月には、夏休みなどで、イベントや行事に参加する機会も増え、県内外で人流が増加することが予想されます」、「屋内外に関わらず、常に人との間隔を十分に確保するよう心掛けてください。また、お出かけされる場合には、事前に移動先の感染状況等を十分に確認し、感染が流行している地域への移動は控えてくださるようお願いします」などとするメッセージを発したほどだ。

福島市医師会が組織委などに提出した意見書。学校連携観戦の中止を求めている
【「辞退した学校かなりある」】
しかし、組織委も福島県も現段階では学校連携観戦を実施する計画は変えていない。では、誰が子どもたちをリスクから守るのか。福島市教委は「学校長の判断」との考えだ。
「今月24、25の両日、県オリパラ推進室が現地説明会をあづま球場で開き、うちの主事も参加しました。導線を分けるなど一定の感染対策は取られているという報告は受けています。それでもなお、やはり懸念は残りますので、保護者の意向を十分に確認したうえで最終的には学校長が判断するということになります」(学校教育課・鴫原理課長)
懸念は残るが、最終的な判断は学校長に委ねる。これが市教委の姿勢。
「持ち込めるのは750ミリリットルまでのペットボトル1本と聞いています。炎天下でマスクをして感染するというのは熱中症のリスクがかなりあると考えられます。そこが一番懸念しているところです」
「感染症に関しても、導線を分けるとか対策を取るということですが、最終的にどうなるか分からない部分もあります。私たちが現地視察に行って確認したことについては各学校にお知らせして判断材料にしてもらいます」
一方、鴫原課長は情報不足も口にした。
「せっかくの機会ですので、何も無ければ観戦させてあげたいという想いはあります。ただ、現時点でもまだ、県から観戦の手引きなどが示されていないんです。そのなかで判断しなくてはならないのは、われわれとしても非常に苦しいです」
「24日の説明会で席割りや導線などを初めて知りました。感染対策がどうなるのか見えるまでは各学校にも説明責任があるので待っていたのですが、これ以上は待てません」
28日夕方には、福島市議会の共産党議員団が市としての学校連携観戦辞退を要請した。
古関明善教育長は「子どもたちの安全安心が当然、最優先されなければなりません。本市は学年ごとの学校行事に観戦を組み込んでオリパラ教育を推進して来ました。子どもたちにとっては良い機会だと考えていましたが状況が変わりました。学校行事ですので最終的には学校長の判断になりますが、保護者の声も確認し、この状況をふまえて判断して欲しいと考えています。現に辞退している学校もかなりあります」と話したが、市としての学校連携観戦中止に言及することは無かった。

日本共産党福島市議会議員団は28日、学校連携観戦を辞退するよう市教委に要請した。市教委は現段階では「学校長の判断」としている
【「キャンセル尊重する」】
福島県文化スポーツ局長は今月24日の県議会で「会場内外の移動において、一般の観客との動線を分けるとともに、引率者向けに行う現地確認の際に、感染症対策について十分に周知するなど、安全かつ安心して観戦いただけるようしっかりと取り組んでまいります」と答弁(共産党・吉田英策県議の代表質問)。学校連携観戦の実施に問題はないとの考えを示している。
では、子どもたちは球場で一般客と完全に切り離されるのか。県オリパラ推進室の小谷野繁樹主幹によると「一般の方と完全に触れ合うことは無いということではない」という。
「動線は一緒です。ただ、その中で学校さんの通行するレーンと一般の方が通行するレーンという形で区分する方法などを考えています。一部どうしても狭い場所があるので、そこには人を配置して学校さんがまとまって通行して一般の方には待っていただくとか、逆に学校さんには待っていただくとか。入り口については団体専用の入り口をつくっていただくよう組織委と調整しています。人手も使ってできる限り分けていくというイメージです。観客席ではエリア区分をしていますので、一般の方と混在するような形にはならないと今のところは考えています」
炎天下の球場内に持ち込めるのはペットボトル1本だけ。飲み干してしまったらどうするのか。「組織委が会場内に仮設の水飲み場を設置すると聞いています。そこで水の補充ができるように準備しているということです」。
そもそも、最大で3万人を収容できる県営あづま球場に実際には何人入場させるのかもはっきりしない。
「組織委が独自に決めていて、それが1万4300人。その中には仮設の設備など客席がつぶれてしまうようなものも含まれているので、実際の座席数は実は組織委は非公表にしています。今回『50%、1万人が上限』となっているんですが、50%というのが実際に何人なのか。座席がひとつもつぶれなければ7150席。学校連携観戦の子どもたちの分は50%の枠外と言われているので、そことは違う整理をしているのでしょう」
医師からも懸念の声があがっているのになぜ、学校連携観戦を実施しなければならないのか。
「子どもたちにとっては貴重な観戦機会です。五輪の意義など五輪教育を推進しようということで進めて来ていました。〝復興五輪〟ということで復興している姿、子どもたちの元気な姿を皆さんに感じていただけるというのもありました。とはいえ、子どもたちの観戦機会と現状の新型コロナウイルスに対する学校の考え方もありますので、枠組みは維持しつつも、学校さんにご判断いただいて、もしもキャンセルしたいということであれば尊重したいと考えています。球場でご覧いただく場合には、できる限りの安全安心対策をします」
福島市医師会から提出された意見書については「心配されている趣旨をわれわれはお聞きしていない」という。
「子どもたちと一般の方をできる限り分けられるように対応して、少しでも安全安心にご覧いただけるようにという方針を打ち出しているので、そこを医師会さんがどう評価なさるか、どう判断されるのかですね。そこは全然お話を伺っていません」
(了)
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