【123カ月目の汚染水はいま】エネ庁官僚が「陸上保管はデブリ取り出しの邪魔」と一喝。「海洋放出方針は変えぬ」「2年間で理解していただく」とも~いわき市で意見交換会
- 2021/06/30
- 20:50
原発事故後に大量発生している「原発汚染水」の海洋放出方針に反対し、陸上保管の継続を求めている福島県の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」(織田千代、佐藤和良共同代表)が26日午後、いわき市内に資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の奥田修司室長を招き、意見交換会を行った。「合意形成プロセス」や「陸上保管」などを柱に話し合ったが、奥田室長は「陸上保管はデブリ取り出しの邪魔になる」などと一蹴した。挙げ句に「基本方針を変えるつもりはない」とも。東京五輪と同じ結論ありき、民意軽視の国の姿勢が表れていた。

【「県漁連との約束破ってない」】
主催者側がまず問題にしたのは「福島県漁業協同組合連合会(県漁連)との約束反故問題」だった。
東電は2015年8月、福島県漁連に対し『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします』と約束した。だが、県漁連は政府の海洋放出決定を「理解」などしていない。今月25日には海洋放出に断固反対する旨の特別決議を採択している。参加者は何度もこの点を質したが、奥田室長は「お約束を反故にしたつもりはございません」と繰り返した。
「われわれとしてはお約束を反故にしたつもりはございませんし、反故にしないような形をですね、これからとっていかなければいけない」
「えっと、あのー、われわれとしてはですね、えっとー、まあ、あのー、今申し上げた通りですね、これから2年間しっかりと理解を得る活動をですね続けていくということを申し上げておりますが、約束を反故にしたかのように受け取られていることについてはですね、お詫びを申し上げたいと思っていますし、そのことは様々なところで申し上げているところでございます」
奥田室長は一貫して「約束を反故にしたかのように受け取られている」と言い続けた。参加者からは驚きの声があがった。それでも奥田室長は、時おり語気を強めながら「約束を破っていない」と繰り返した。
「いやですから、約束を破ったんじゃないかというふうに受け取られていることについての謝罪をさせていただいている」
「ですから、さっき申し上げたように約束を破ったという認識はしてございません」
「われわれとしては約束を破っているということではなくて、約束を守るためにこれから努力を続けていかなければならないということで考えております」
参加者の一人が質問した。
「約束を守るために何をするんですか?」
奥田室長は答えた。
「みなさんの理解を得ていくということだと考えています」


意見交換会の冒頭、主催した「これ以上海を汚すな!市民会議」が要請書を提出した。海洋放出方針の撤回と陸上保管の継続などを求めている=いわき産業創造館
【「決定する主体は政府だ」】
昨年2月に公表された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(ALPS小委員会)の報告書には「政府には、地元を始めとした幅広い関係者の意見を丁寧に聞きながら………方針を決定することを期待するものである」と記載されている。果たして、幅広い関係者の意見を丁寧に聞いたのか。
三春町の大河原さきさんは「今年度も既に、県内20議会が海洋放出方針の撤回を求める意見書を採択しています。地元が反対していることを全く考慮せずに海洋放出方針が決定された」と指摘した。
奥田室長は合意形成のプロセスには触れず、「ご心配の声がたくさんあることは承知しておりますが、このALPS処理水の処分をしていかないとですね、やはり廃炉作業が進まなくなってしまうということでもございます。単に陸上保管をし続けるということだけでは、復興と廃炉は両立できないと思ってございます」と答えた。
大河原さんは納得できない。「地元の私たちの声をきちんと聞いていません。国が一方的に方針を決定して説明をする、それで合意形成になりますか?」と続けた。
「えっと、まー何て言うんですかね。んー、合意形成をどういう趣旨でおっしゃっているのかによるのかもしれませんが、われわれとしてはですね、決定する主体は政府だと思っています。われわれの責任で決定をしですね、実施していくことだと思います」
こう答えた奥田室長に、大河原さんは毅然と言った。
「決定権は国ではなく、被害を受けた当事者にあると思っています」
水藤周三さん(福島市)も「菅首相が4月7日、全漁連(全国漁業協同組合連合会)や福島県漁連の会長を呼びつけ『絶対反対』という声を聴いた。その6日後に海洋放出を決定。これが『幅広い関係者の意見を丁寧に聞く』ですか?」と質した。
奥田室長は「『呼びつけた』という言い方はどうか」としたうえで、こう答えた。
「(全漁連)岸会長をはじめ総意としては反対だと。まあ、決議もされていますので、そういったお話をいただいたと認識しております。そのうえで海洋放出方針を決定したということでございまして、あのー、その時に初めて反対を聞いてそれでも決定したということではなくて、反対されているという状況の中で、そういう意見を聞きながら決定をしたということ」
水藤さんが「音としては意見を丁寧に伺うけれども反映はさせない。そういう表明だと理解する」と返すと、奥田室長が「誰がそんなことを申し上げたんですか?いろいろなご意見をできるだけ反映しながら決定している。一網打尽に何も反映しないと言うのはやめてもらいたい」と強く反論した。


意見交換会に出席した資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の奥田修司室長。A4判24ページの資料を用意し「県漁連との約束を破ったという認識はない」、「陸上保管を続けるなら廃炉作業はあきらめないといけない」と繰り返した
【「健康影響ないと自信」】
「これ以上海を汚すな!市民会議」は、海洋放出ではなく陸上保管の継続を求めている。しかし、奥田室長はこれも「廃炉作業を進めていこうと考えるなかでは、そういったスペースはなくなってきている」と一蹴。東電が新設を表明した23基のタンク増設についても「増設ではない」と否定した。
「今回、海洋放出をするにあたってトリチウム以外の核種がまだ残っているタンクは二次処理をします。きちんと二次処理ができているのか計測しますが、濃度を均質にしたうえで水を取り出して測る。均質化するために、かくはん装置を設けたタンクをつくって、そこをサンプルのタンクとして使って水の分析をしないといけない。今ALPSの隣にあるエリアをそのタンクにあてようと考えております。そうすると、そのタンクを均質化する工事をするために、たまっている水を一時的にどこかに置いておかないといけないものですから、それをためるタンクとして同じ容量の3万トンくらいのタンクを23基新しくつくることになったのです」
参加者が「タンクをさらに増設してためることもできるのでは?」と質問すると、奥田室長は「ですから、廃炉を進めるということをあきらめればですね」と語気を強めた。廃炉作業の邪魔になるというのだ。
「廃炉の最終的な形は決まっていませんが、途中でやらなければいけないことは分かっています。1つの大きなポイントはデブリの取り出しです。原子炉建屋の中に880トンのデブリが残ったままでいるのは(地震や津波などの)リスクになりますので、安定的に管理をしたい。デブリは線量が高いのでロボットアームなんかを使って遠隔操作で取り出すことになります。するとメンテナンス設備や訓練設備、取り出したデブリを保管しておく場所を敷地内につくっていかないと進まない。廃炉全体が進んで行かないということになります。デブリの取り出しは可能か?可能だと思っています」
海洋放出による健康影響についても「地元の方々に悪影響…少なくとも健康上の悪影響があるのであればこの決定はできない。悪影響はないという自信があるから決定したわけです」と全否定した。
2時間を超える意見交換会の終了後、取材に応じた奥田室長は「ていねいな意見交換をやって海洋放出方針を決めたつもりではありますけど、まだまだ足りてなかったということ。2年間もう一回必死にやらなきゃいけないですね」と述べた。
「少なくとも、今の時点で基本方針を変えるつもりはないですし、理解していただくのが政府としての方針。廃炉を進めていかなければならないということも含めて解決策はこれしかないと思っている」、「心配することが間違っているとは思わないです。ただ、ゼロリスクじゃなければいけないということではないです」とも。
五輪が開催ありきであるように、原発汚染水も海洋放出ありき。奥田室長の役割は海洋放出に「理解」を示す住民を少しでも増やすことだ。ただ、「廃炉作業を進められなくても良いのか」と脅すような態度では、到底理解など得られまい。そもそも「基本方針を変えるつもりはない」と断言するのだから、単なる形だけの〝ガス抜き〟が続くことになってしまう。
(了)

【「県漁連との約束破ってない」】
主催者側がまず問題にしたのは「福島県漁業協同組合連合会(県漁連)との約束反故問題」だった。
東電は2015年8月、福島県漁連に対し『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします』と約束した。だが、県漁連は政府の海洋放出決定を「理解」などしていない。今月25日には海洋放出に断固反対する旨の特別決議を採択している。参加者は何度もこの点を質したが、奥田室長は「お約束を反故にしたつもりはございません」と繰り返した。
「われわれとしてはお約束を反故にしたつもりはございませんし、反故にしないような形をですね、これからとっていかなければいけない」
「えっと、あのー、われわれとしてはですね、えっとー、まあ、あのー、今申し上げた通りですね、これから2年間しっかりと理解を得る活動をですね続けていくということを申し上げておりますが、約束を反故にしたかのように受け取られていることについてはですね、お詫びを申し上げたいと思っていますし、そのことは様々なところで申し上げているところでございます」
奥田室長は一貫して「約束を反故にしたかのように受け取られている」と言い続けた。参加者からは驚きの声があがった。それでも奥田室長は、時おり語気を強めながら「約束を破っていない」と繰り返した。
「いやですから、約束を破ったんじゃないかというふうに受け取られていることについての謝罪をさせていただいている」
「ですから、さっき申し上げたように約束を破ったという認識はしてございません」
「われわれとしては約束を破っているということではなくて、約束を守るためにこれから努力を続けていかなければならないということで考えております」
参加者の一人が質問した。
「約束を守るために何をするんですか?」
奥田室長は答えた。
「みなさんの理解を得ていくということだと考えています」


意見交換会の冒頭、主催した「これ以上海を汚すな!市民会議」が要請書を提出した。海洋放出方針の撤回と陸上保管の継続などを求めている=いわき産業創造館
【「決定する主体は政府だ」】
昨年2月に公表された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(ALPS小委員会)の報告書には「政府には、地元を始めとした幅広い関係者の意見を丁寧に聞きながら………方針を決定することを期待するものである」と記載されている。果たして、幅広い関係者の意見を丁寧に聞いたのか。
三春町の大河原さきさんは「今年度も既に、県内20議会が海洋放出方針の撤回を求める意見書を採択しています。地元が反対していることを全く考慮せずに海洋放出方針が決定された」と指摘した。
奥田室長は合意形成のプロセスには触れず、「ご心配の声がたくさんあることは承知しておりますが、このALPS処理水の処分をしていかないとですね、やはり廃炉作業が進まなくなってしまうということでもございます。単に陸上保管をし続けるということだけでは、復興と廃炉は両立できないと思ってございます」と答えた。
大河原さんは納得できない。「地元の私たちの声をきちんと聞いていません。国が一方的に方針を決定して説明をする、それで合意形成になりますか?」と続けた。
「えっと、まー何て言うんですかね。んー、合意形成をどういう趣旨でおっしゃっているのかによるのかもしれませんが、われわれとしてはですね、決定する主体は政府だと思っています。われわれの責任で決定をしですね、実施していくことだと思います」
こう答えた奥田室長に、大河原さんは毅然と言った。
「決定権は国ではなく、被害を受けた当事者にあると思っています」
水藤周三さん(福島市)も「菅首相が4月7日、全漁連(全国漁業協同組合連合会)や福島県漁連の会長を呼びつけ『絶対反対』という声を聴いた。その6日後に海洋放出を決定。これが『幅広い関係者の意見を丁寧に聞く』ですか?」と質した。
奥田室長は「『呼びつけた』という言い方はどうか」としたうえで、こう答えた。
「(全漁連)岸会長をはじめ総意としては反対だと。まあ、決議もされていますので、そういったお話をいただいたと認識しております。そのうえで海洋放出方針を決定したということでございまして、あのー、その時に初めて反対を聞いてそれでも決定したということではなくて、反対されているという状況の中で、そういう意見を聞きながら決定をしたということ」
水藤さんが「音としては意見を丁寧に伺うけれども反映はさせない。そういう表明だと理解する」と返すと、奥田室長が「誰がそんなことを申し上げたんですか?いろいろなご意見をできるだけ反映しながら決定している。一網打尽に何も反映しないと言うのはやめてもらいたい」と強く反論した。


意見交換会に出席した資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の奥田修司室長。A4判24ページの資料を用意し「県漁連との約束を破ったという認識はない」、「陸上保管を続けるなら廃炉作業はあきらめないといけない」と繰り返した
【「健康影響ないと自信」】
「これ以上海を汚すな!市民会議」は、海洋放出ではなく陸上保管の継続を求めている。しかし、奥田室長はこれも「廃炉作業を進めていこうと考えるなかでは、そういったスペースはなくなってきている」と一蹴。東電が新設を表明した23基のタンク増設についても「増設ではない」と否定した。
「今回、海洋放出をするにあたってトリチウム以外の核種がまだ残っているタンクは二次処理をします。きちんと二次処理ができているのか計測しますが、濃度を均質にしたうえで水を取り出して測る。均質化するために、かくはん装置を設けたタンクをつくって、そこをサンプルのタンクとして使って水の分析をしないといけない。今ALPSの隣にあるエリアをそのタンクにあてようと考えております。そうすると、そのタンクを均質化する工事をするために、たまっている水を一時的にどこかに置いておかないといけないものですから、それをためるタンクとして同じ容量の3万トンくらいのタンクを23基新しくつくることになったのです」
参加者が「タンクをさらに増設してためることもできるのでは?」と質問すると、奥田室長は「ですから、廃炉を進めるということをあきらめればですね」と語気を強めた。廃炉作業の邪魔になるというのだ。
「廃炉の最終的な形は決まっていませんが、途中でやらなければいけないことは分かっています。1つの大きなポイントはデブリの取り出しです。原子炉建屋の中に880トンのデブリが残ったままでいるのは(地震や津波などの)リスクになりますので、安定的に管理をしたい。デブリは線量が高いのでロボットアームなんかを使って遠隔操作で取り出すことになります。するとメンテナンス設備や訓練設備、取り出したデブリを保管しておく場所を敷地内につくっていかないと進まない。廃炉全体が進んで行かないということになります。デブリの取り出しは可能か?可能だと思っています」
海洋放出による健康影響についても「地元の方々に悪影響…少なくとも健康上の悪影響があるのであればこの決定はできない。悪影響はないという自信があるから決定したわけです」と全否定した。
2時間を超える意見交換会の終了後、取材に応じた奥田室長は「ていねいな意見交換をやって海洋放出方針を決めたつもりではありますけど、まだまだ足りてなかったということ。2年間もう一回必死にやらなきゃいけないですね」と述べた。
「少なくとも、今の時点で基本方針を変えるつもりはないですし、理解していただくのが政府としての方針。廃炉を進めていかなければならないということも含めて解決策はこれしかないと思っている」、「心配することが間違っているとは思わないです。ただ、ゼロリスクじゃなければいけないということではないです」とも。
五輪が開催ありきであるように、原発汚染水も海洋放出ありき。奥田室長の役割は海洋放出に「理解」を示す住民を少しでも増やすことだ。ただ、「廃炉作業を進められなくても良いのか」と脅すような態度では、到底理解など得られまい。そもそも「基本方針を変えるつもりはない」と断言するのだから、単なる形だけの〝ガス抜き〟が続くことになってしまう。
(了)
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