フェンスの向こう側の〝復興五輪〟 通れない散歩道、座れないベンチ…規制と排除だらけの福島
- 2021/07/19
- 05:00
東京五輪の野球とソフトボールの試合が予定されている福島県福島市が物々しさを増している。試合会場の県営あづま球場周辺はフェンスで囲われ、多数の防犯カメラが監視。日課の散歩もままならない状態だ。一方、選手や関係者が宿泊するホテル周辺も厳戒態勢。公園もベンチも利用できず、選手の姿を覆い隠すようなフェンスが立ち並ぶ。そもそも〝復興五輪〟には否定的な声が多かったが、〝五輪ファースト〟でパンデミックに加えて市民生活まで制約されるとあって、規制と排除だらけの福島からは五輪開催を疑問視する声が聞えてくる。

【「テロ対策」のフェンス】
想像以上だった。とても〝平和の祭典〟が行われるとは思えないほど一帯が白いフェンスで覆われ、厳戒態勢が敷かれていた。
福島駅から西に約10km。車で約20分ほどの森の中に県営あづま球場はある。陸上競技場や総合体育館もあり、秋になるとライトアップされたイチョウ並木を楽しむ人でにぎわう。ここで21、22の両日にソフトボールの試合が、28日には野球の試合が予定されている。それで〝復興五輪〟というわけだ。郡山市やいわき市の球場も候補に挙がったが2017年3月、福島市に決まった。
ここには何度も足を運んでいるが、景色がすっかり変わっていた。目に入るのはフェンスだけではない。至る所に防犯カメラが設置されている。毎日、犬の散歩をしているという女性は「五輪をやるからって全部囲っているんですよね。向こうのほうまでずっとですよ。私らが中をのぞかないようにしているんですかね」と話した。女性の言う通り、歩いても歩いても刑務所のような高いフェンスが続いていた。
「ここから先は進入禁止です。かなり遠回りになりますが、ぐるっと迂回してください。あっちにもこっちにも防犯カメラがあるでしょ?テロ対策なんですよ。そういうことで申し訳ないんですけど8月13日まで規制は続きます」
男性警備員の言葉に従って、フェンス沿いに迂回した。とにかく関係者以外を球場に近づけたくないのだろう。立ち入り禁止の看板があちらこちらに置かれていて、さらに迂回しろとと命じてくる。ベンチでひと休みしていた女性は散歩が日課。しかし、五輪開催に伴う規制で散歩ルートが大幅に変わってしまったという。
「本当は山道を通るんだけど規制されているんです。五輪があるもんだから、あっちもこっちも行き止まり。しょうがないから、しばらくの間は同じ道を戻ってくるしかないわね。福島に五輪なんかを持って来なくて良いのよ。コロナ対策で大変な時に税金ばかり使って…。こんな時に五輪なんかやらなくて良いのにねえ」
女性は吐き捨てるように言った。





野球とソフトボールの試合が予定されている県営あづま球場。周辺は白いフェンスが設置され、関係者以外は球場に近づけない。不審者を警戒するように無数の防犯カメラが監視し、市民の散歩道も規制されて立ち入り禁止になっている。ドライバーも迂回を求められる=福島市佐原
【公園も使用禁止】
球場だけではない。選手や関係者が宿泊するホテルの周辺も厳戒態勢が敷かれている。
福島駅西口の「コラッセひろば」。市民が憩いの場として利用している公園で、園児たちが遊んだり、ベンチでくつろいだりできる空間だ。しかし、ここにも「おもてなしフェンス」が設置され、利用ができなくなっている。ベンチではホームレスの男性が身体を休めることもあったが、彼も当然のように〝排除〟された。
「これもテロ対策?そうですね。選手と一般の人を分けるため、侵入されないようためですね。新型コロナウイルスとは全然関係ありませんよ」
作業員の男性はそう話した。ひろばに隣接するホテルとコンビニエンスストア、コラッセを結ぶように仮設ゲートが設置された。選手はそこを通って移動するが、誰が歩いているのかは周囲からは全く見えない。コンビニエンスストア店内には道路側からも公園側からも入れるが、公園側から入店する場合にはフェンス沿いに迂回しなければならない。
店員の1人は恐縮しながら言った。
「五輪の選手が隣のホテルに泊まるんですよ。食事や打ち合わせはコラッセの中でするそうです。一般の方々と接しないようにしないといけないから、かなり厳しい。2週間くらいはこんな状態が続きますから、ある意味迷惑です。まだはっきりしていませんが選手が買い物に来るかもしれません。この辺りには店がありませんから。その時は一般のお客様と接しないようにしないといけないので、時間帯を決めてお店を閉め、貸切のような形にしないといけないかなと考えています。お客様にはご迷惑かけますけど…」
選手が食事をするという「コラッセふくしま」は、選手の移動にあわせてエレベーターなどの利用が制限される。館内の売店は「感染拡大防止の観点から」今月18日から29日まで休業。市民生活が制約されるなかで〝復興五輪〟が行われようとしている。





選手が宿泊する福島駅西口のホテル周辺も厳戒態勢。選手の移動を隠すようにフェンスが設置され、公園も使用禁止。帰還困難区域で目にするようなバリケードまで設置されている。福島での試合が終わるまではベンチで身体を休めることもできない
【「中止するべき」の声も】
ホテルは大会組織委が今月29日まで丸ごと借り上げる。館内の居酒屋も臨時休業。アルバイト店員は「10日以上休みなので、給料が減っちゃいます」と苦笑した。関係者によると、警備員の食事スペースとして使われるという。
規制と排除だらけの福島市。そもそも、パンデミックが起こる前から〝復興五輪〟という位置付けに否定的な声も多かった。
「IOCのバッハ会長が福島に来るみたいですね。復興五輪?ざっくり言っちゃうと否定的です。私たち福島県民はもろ手を挙げて歓迎してないですよ。復興という名の下で、私たちの生活が少なからず蔑ろにされていますから。原発事故の被害と五輪は全く関係ない話ですからね」
浪江町津島地区はいまだに帰還困難区域に指定されたまま。時間が経つにつれて住み慣れた我が家は朽ちて行く。修繕したところで帰れる見通しなど立たない。〝仮住まい〟で避難生活を続ける男性が「原発事故と五輪は関係ない」と言うのも無理はない。福島市の片隅で野球やソフトボールの試合をしても、放射性物質の拡散の現実は伝わらない。
そこに加えてのパンデミック。選手が宿泊するホテルの出入り業者は「関係者のために無駄なお金を使っているようなもの。無観客にしてまで無理矢理開催する必要はないと思います。他にやるべきことがあると思いますよ」と話した。別の出入り業者も「ここまで来て、それでも開催する理由が分かりません。中止にするべきだと思います」と語った。
選手の姿を覆い隠すように設置されたフェンスは「福島市おもてなしフェンス」と名付けられている。福島県オリパラ推進室の担当者は「テロ対策だけじゃなくて『会場全体の安全対策』とご認識いただくのが良いと思います。テロだけのためではないです。細かい趣旨については答えられないので組織委に問い合わせて下さい」と答えるにとどまった。
(了)

【「テロ対策」のフェンス】
想像以上だった。とても〝平和の祭典〟が行われるとは思えないほど一帯が白いフェンスで覆われ、厳戒態勢が敷かれていた。
福島駅から西に約10km。車で約20分ほどの森の中に県営あづま球場はある。陸上競技場や総合体育館もあり、秋になるとライトアップされたイチョウ並木を楽しむ人でにぎわう。ここで21、22の両日にソフトボールの試合が、28日には野球の試合が予定されている。それで〝復興五輪〟というわけだ。郡山市やいわき市の球場も候補に挙がったが2017年3月、福島市に決まった。
ここには何度も足を運んでいるが、景色がすっかり変わっていた。目に入るのはフェンスだけではない。至る所に防犯カメラが設置されている。毎日、犬の散歩をしているという女性は「五輪をやるからって全部囲っているんですよね。向こうのほうまでずっとですよ。私らが中をのぞかないようにしているんですかね」と話した。女性の言う通り、歩いても歩いても刑務所のような高いフェンスが続いていた。
「ここから先は進入禁止です。かなり遠回りになりますが、ぐるっと迂回してください。あっちにもこっちにも防犯カメラがあるでしょ?テロ対策なんですよ。そういうことで申し訳ないんですけど8月13日まで規制は続きます」
男性警備員の言葉に従って、フェンス沿いに迂回した。とにかく関係者以外を球場に近づけたくないのだろう。立ち入り禁止の看板があちらこちらに置かれていて、さらに迂回しろとと命じてくる。ベンチでひと休みしていた女性は散歩が日課。しかし、五輪開催に伴う規制で散歩ルートが大幅に変わってしまったという。
「本当は山道を通るんだけど規制されているんです。五輪があるもんだから、あっちもこっちも行き止まり。しょうがないから、しばらくの間は同じ道を戻ってくるしかないわね。福島に五輪なんかを持って来なくて良いのよ。コロナ対策で大変な時に税金ばかり使って…。こんな時に五輪なんかやらなくて良いのにねえ」
女性は吐き捨てるように言った。





野球とソフトボールの試合が予定されている県営あづま球場。周辺は白いフェンスが設置され、関係者以外は球場に近づけない。不審者を警戒するように無数の防犯カメラが監視し、市民の散歩道も規制されて立ち入り禁止になっている。ドライバーも迂回を求められる=福島市佐原
【公園も使用禁止】
球場だけではない。選手や関係者が宿泊するホテルの周辺も厳戒態勢が敷かれている。
福島駅西口の「コラッセひろば」。市民が憩いの場として利用している公園で、園児たちが遊んだり、ベンチでくつろいだりできる空間だ。しかし、ここにも「おもてなしフェンス」が設置され、利用ができなくなっている。ベンチではホームレスの男性が身体を休めることもあったが、彼も当然のように〝排除〟された。
「これもテロ対策?そうですね。選手と一般の人を分けるため、侵入されないようためですね。新型コロナウイルスとは全然関係ありませんよ」
作業員の男性はそう話した。ひろばに隣接するホテルとコンビニエンスストア、コラッセを結ぶように仮設ゲートが設置された。選手はそこを通って移動するが、誰が歩いているのかは周囲からは全く見えない。コンビニエンスストア店内には道路側からも公園側からも入れるが、公園側から入店する場合にはフェンス沿いに迂回しなければならない。
店員の1人は恐縮しながら言った。
「五輪の選手が隣のホテルに泊まるんですよ。食事や打ち合わせはコラッセの中でするそうです。一般の方々と接しないようにしないといけないから、かなり厳しい。2週間くらいはこんな状態が続きますから、ある意味迷惑です。まだはっきりしていませんが選手が買い物に来るかもしれません。この辺りには店がありませんから。その時は一般のお客様と接しないようにしないといけないので、時間帯を決めてお店を閉め、貸切のような形にしないといけないかなと考えています。お客様にはご迷惑かけますけど…」
選手が食事をするという「コラッセふくしま」は、選手の移動にあわせてエレベーターなどの利用が制限される。館内の売店は「感染拡大防止の観点から」今月18日から29日まで休業。市民生活が制約されるなかで〝復興五輪〟が行われようとしている。





選手が宿泊する福島駅西口のホテル周辺も厳戒態勢。選手の移動を隠すようにフェンスが設置され、公園も使用禁止。帰還困難区域で目にするようなバリケードまで設置されている。福島での試合が終わるまではベンチで身体を休めることもできない
【「中止するべき」の声も】
ホテルは大会組織委が今月29日まで丸ごと借り上げる。館内の居酒屋も臨時休業。アルバイト店員は「10日以上休みなので、給料が減っちゃいます」と苦笑した。関係者によると、警備員の食事スペースとして使われるという。
規制と排除だらけの福島市。そもそも、パンデミックが起こる前から〝復興五輪〟という位置付けに否定的な声も多かった。
「IOCのバッハ会長が福島に来るみたいですね。復興五輪?ざっくり言っちゃうと否定的です。私たち福島県民はもろ手を挙げて歓迎してないですよ。復興という名の下で、私たちの生活が少なからず蔑ろにされていますから。原発事故の被害と五輪は全く関係ない話ですからね」
浪江町津島地区はいまだに帰還困難区域に指定されたまま。時間が経つにつれて住み慣れた我が家は朽ちて行く。修繕したところで帰れる見通しなど立たない。〝仮住まい〟で避難生活を続ける男性が「原発事故と五輪は関係ない」と言うのも無理はない。福島市の片隅で野球やソフトボールの試合をしても、放射性物質の拡散の現実は伝わらない。
そこに加えてのパンデミック。選手が宿泊するホテルの出入り業者は「関係者のために無駄なお金を使っているようなもの。無観客にしてまで無理矢理開催する必要はないと思います。他にやるべきことがあると思いますよ」と話した。別の出入り業者も「ここまで来て、それでも開催する理由が分かりません。中止にするべきだと思います」と語った。
選手の姿を覆い隠すように設置されたフェンスは「福島市おもてなしフェンス」と名付けられている。福島県オリパラ推進室の担当者は「テロ対策だけじゃなくて『会場全体の安全対策』とご認識いただくのが良いと思います。テロだけのためではないです。細かい趣旨については答えられないので組織委に問い合わせて下さい」と答えるにとどまった。
(了)
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