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【飯舘村長選挙】「子どもを戻して村の復興」か「放射線防護と奪われた人権の回復」か。現職と新人、公開討論会でスタンスの違い明白に

原発事故後初の村長選挙を2週間後に控えた飯舘村で2日午後、立候補を表明している2氏による公開討論会が開かれ、村民150人が集まった。原町青年会議所の主催。「村の復興」を重視し、来春の避難指示解除(帰還困難区域を除く)、再来年の村内学校再開を進めたい現職の菅野典雄氏(69)に対し、新人で村議の佐藤八郎氏(64)は「解除の白紙撤回、学校再開も村民の合意が得られるまで延期」を主張。あくまでも年1mSvを基準とし、原発事故で奪われた村民の基本的人権の回復を目指すと語った。放射線防護に関する両氏のスタンスと違いが明白になり、村民が「村の復興」と「命、人権」のどちらを選択するかが注目される。村長選挙は10月6日告示、16日投開票。


【来春解除か、白紙撤回か】
 5問用意された「○×問題」で、両者の違いは明確になった。
 2017年3月末での政府の避難指示解除の是非について、菅野氏は「〇」、佐藤氏は「×」を掲げた。
 「避難指示解除の時期が妥当かどうかの前に、来春の解除は村が勝ち取ったもの」と切り出した菅野氏。「条件が整うのを待って避難指示解除と言うけれど、『条件』は人それぞれ異なる。何年もとなると、村に帰りたい人まで帰れない。1人でも多くの人が村に帰れるようにするべきで、いつになったら村に帰れるのかという不安を村民に与えるべきではない」と語った。
 これに対し佐藤氏は、そもそも避難指示解除について「なぜ原発事故被害者である私たちではなく、国や村長が決めるのか」と疑問を投げかけた。その上で「何が何でも解除というのでは、国も村も責任を放棄している」とこれまでのプロセスを批判。「避難指示解除には村民の合意が必要。被害を受けた私たちが決める。まず来春の解除は白紙撤回するべきだ」と主張した。村民からは「戻りたいが、除染土壌の入ったフレコンバッグがたくさんあるから戻れない」、「今の状態では、とても子供は戻せない」などの意見が寄せられているという。
 村が決めた2018年4月からの村内学校再開に関しても、菅野氏は「〇」、佐藤氏が「×」で意見が異なった。
 菅野氏は、川俣町の仮設校舎に通う子どもたちが2011年度は原発事故前の70%程度は在籍していたが、年々減少して今年度は36%になっていると指摘。避難先の学校への転校が加速しているとした上で「これ以上遅れると村内で学校が再開できなくなる。出来るだけ早く帰って来ていただく環境を整えて、学校を再開することが村の復興につながる。2018年春の再開に向けて全力を注いでいる」と述べた。
 一方、佐藤氏は「誰と決めたのか知らないが、再開時期を発表してから保護者などの懇談会を開いている。保護者の同意はどうしたのか」と、これにも決定の過程を批判。「子どもは村の宝で大切な命。子どもにまで被曝させたくない。将来、病気を発症しても『原発事故との因果関係は無い』で片づけられてしまう。自己責任を取らされる方々(保護者)の合意を得られない限り、村内での学校再開は延期するべきだ」と語った。






「○×問題」では、避難指示解除と村内学校再開の時期に関して違いが鮮明になった。村民にとっては、これ以上分かりやすい選択基準は無いだろう=飯舘村交流センター「ふれ愛館」

【村長主導か、村民合議か】
 つまり、両者の違いは「村の〝復興〟を優先するか、放射線防護を優先するか」。そして「国や村が主導するか、村民の合意の下で進めるか」。
 他の設問では「除染範囲の拡大と継続」、「東電による補償の継続」、「医療費無償化の継続」に関しても問われたが、「徹底して除染してもらわなければならないが『除染をしないと村に帰れない』という点は×だ」と言う菅野氏に対し、佐藤氏は「年1mSvを目指さなければならない。除染の進め方について独立したチェック機関が必要だ」と回答。賠償に関しても「賠償請求は当然の権利だ。これまでの国や東電との交渉で財物賠償などを勝ち取ってきたが、一律賠償はそう簡単ではない。」(菅野氏)、「原発事故で奪われた基本的人権(幸福追求権)が回復するまでは加害者に責任がある。これまでの賠償が村民のためになったのか、十分に検証する」(佐藤氏)。
 健康管理と医療費に関しては、菅野氏が「複数の専門家から『放射線の健康への影響は極めて小さい』という声が出ている。長期の医療費無償化は国民の合意が得られないのではないか。今でさえ、いろいろと言われている」と述べた一方、佐藤氏は「5年を過ぎたこれからが健康への影響が重要になる。他の公害事件を参考に、これまでのやり方を検証する」と語った。5問のうち3問で菅野氏は〇と×を両方掲げた。
 村民の意見に耳を傾けない村長の〝独善ぶり〟に対する村民の不満は根強い。ある村民は「バリバリの〝村長派〟ですら、今回は投票しないと言っている」と語る。村内学校再開問題でも、村が一方的に来春の再開を決定。PTAや中学生自身からも猛反発に遭い、1年間だけ延期した経緯がある。この日の公開討論会でも、佐藤氏は「新聞・テレビ発表ありき、には私はしない。時期尚早という想いを押し切って避難指示解除が決められた」と批判。これに対し、菅野氏は「2017年3月31日の解除はベストではないと分かっているが、ベターな選択だ。村に全員戻れ、と強制的に言う気はありません」と反論した。
 佐藤氏は言う。「本当の住民自治とは何か。今やるべきことは情報公開と、村民の協議による合意。憲法の保障する基本的人権を尊重することだ」。菅野氏は「5年間の経験と人脈を使っていく。村民と一緒にやっていくことは大事だが、村民自身が自分で考え、汗を流すことも必要だ」と語った。






(上)最後は握手で締めくくった2氏。公開討論会では放射線防護に対する考え方の違いが明白になった
(中)2018年春の学校再開に向け、除染が急ピッチで進められている飯舘中学校。学校再開時期についても重要な争点の1つだ
(下)投開票日は16日。子育て世代にはあきらめムードも広がっており、投票率の低下が懸念される

【帰還のメリットか、被曝リスクか】
 用意された200席に対し、来場した村民は150人。ほとんどがお年寄りで「動員だ」との指摘もある。菅野氏と共に村民の帰還を推進する大谷友孝村議会議長や太田光秋福島県議県議(自民党)の姿も。そもそも避難指示が継続中の村内での公開討論会には抵抗が根強く、「どうせ村長は意見を聴かない」というあきらめムードも手伝って、子育て世代の姿は無かった。「討論会の開催が、きちんと村民に伝わっていない」という声もある。
 村民は全国25都道府県に分散避難している上に、仮設住宅へ入居しているのはわずか14%。選挙期間中に、立候補者の主張を村民が聴く機会はほとんど無いと言って良い。原発事故後初の村長選挙だけに、最多3690人が暮らす福島市などでの公開討論会の開催が必要だが、残念ながら今回が〝最初で最後〟となりそうだ。主催者によると、この日の討論会の動画は編集せずインターネットにアップされるという(http://e-mirasen.jp/governor/fukushima/)。
 「村に帰還するメリットはいっぱいある」と語った菅野氏。「狭い仮設住宅で生活するよりも間違いなくストレス解消になり、健康維持につながる。村民が戻れば新たな村づくりも可能だ。飯舘牛や花、野菜で村を売って来たのに、ほとんど駄目になってしまった。本当に残念だが『駄目、駄目』ばかり言っていてもしょうがない」と訴える。一方、放射能汚染を重視する佐藤氏は「村民には、戻りたいけど戻れない事情がある。除染が出来ているのはわずか15%で、85%を占める森林は手つかず。雨や雪のたびに放射性物質が山から移動するのが実態だ。営農再開も、当面はハウスや施設内がベターなのかなと思う」と話す。
 避難指示解除と村内学校再開で〝復興〟を前向きに進めるか。
 被曝リスクを直視して、村民の合議の下でゆるやかな村の再興を目指すか。
 現職優位がささやかれる中、村長選挙は6日に告示される。若い世代の投票率がカギとなる。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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