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【黒い雨訴訟】「最高裁に上告するな」被爆二世と原発事故被害者が連名で国に申入れ 「放射線による健康被害という意味で同じ」と連帯

原告84人全員が勝訴した「黒い雨訴訟」で、広島の被爆二世と「ひだんれん」など原発事故被害者が19日、最高裁への上告を断念するよう連名で厚労省に申し入れた。広島高裁は今月14日、原告全員が「被爆者援護法」第1条3号の「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当すると認め、広島県や広島市に被爆者健康手帳などの交付を命じている。「放射線ヒバク」というむごい被害がきっかけだが、「被害を受ける側にとっては、放射線による健康被害という意味で全く一緒」と連帯した。
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【「国は正しい道を選択して」】
 「3歳で入市被爆した『2号被爆者』(原爆が投下されてから2週間以内に、爆心地から約2kmの区域内に立ち入った人)です。18歳で上京しましたが、本籍地は今でも広島市元柳町にあります。爆心地から400メートル、平和公園のなかです。当時の記憶はありませんが…」
 上田紘治さん(八王子平和・原爆資料館共同代表)は、厚労省の担当者を前に静かに語り始めた。
 「被告である広島県と広島市が、上告を断念して欲しいという趣旨の申し入れを厚労大臣にしましたね。私は本当にうれしいです。ぜひ県知事や市長の意向をくみとっていただき、被害の実相に照らして行政は対応していただきたい。県も市も上告しないで欲しいという意向を伝えているわけですから、それを重く受け止めて、これ以上…」
 判決を前に旅立った原告たちを想い、上田さんは涙声になっていた。
 「もう14人の原告が亡くなりました。昨年7月の広島地裁判決以降だけでも2人が亡くなっているんです。被爆者に残された時間は多くありません。被害の実相に照らして、ぜひ被爆者に光を当てて欲しい。本当に被害の実相に照らした正しい道を選択して欲しい。よろしくお願いします」
 福島第一原発の事故後、NHKへの手紙で「命を懸け「核兵器のない世界」を訴えてきたことが、一瞬に水泡に帰した思いです。原爆の核と原発の核との違いがありますが、放射性物質で人々が傷ついたことは同じです。被爆者の生きた道から何かをつかんでほしい。受け身では決して被災した方たちの望みは実現しないでしょう。要求を掲げ、国と事業者にひるむことなく突きつけてほしい」と綴った上田さん。厚労省の官僚に改めて頭を下げた。
 「もうすぐ8月6日ですよ。どうですか、2009年に当時の麻生太郎首相がそうしたように、政治決断しましょうよ。日本が核兵器廃絶のリーダーシップをとってみなさいよ。世界から尊敬されますよ。ぜひ8月6日、うれしい談話を発表して欲しいな」

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(上)厚労大臣宛てに提出された申し入れ書。最高裁に上告せず、判決を受け入れるよう求めている
(下)被爆二世の上田紘治さんは「被爆者に残された時間は少ない。被害の実相に照らした正しい道を選択して欲しい」と訴えた=衆議院第二議員会館

【「被爆影響否定できぬ」】
 申し入れ書を読み上げた森川聖詩さん(神奈川県川崎市在住)は、日本被団協傘下の「神奈川県原爆被災者の会 二世三世支部」に在籍する被爆二世。上田さんとともに「伊方原発広島裁判」(運転差止訴訟)の原告でもある。
 「父が当時のNHK広島中央放送局の局内で被爆しました。爆心地から1km地点という極めて近距離です」
 森川さんは「長年の被爆者行政のなかで、放射能被害について軽視されているものが2つある」と話した。
 「1つは内部被曝。もう1つは遺伝的影響です。厚労省も放射線影響研究所(放影研)もずっと遺伝的影響の調査だけをし続けています。しかも『結論を出すためには、さらに数十年の追跡調査を要する』と。これは、私たちを研究材料としか考えていないと言っているのと同じなんです。都合の良いように科学的知見を持ち出して研究だけをすると国民は誤解しますよ。死んだ後で『やっぱり放射線の影響がありました』と言われても、命はひとつしかありません」
 森川さんは昨年3月、広島地裁で開かれた「伊方原発広島裁判」の口頭弁論で、こう述べている。
 「直接被爆していない私も乳児の頃から体が弱く、原因不明の高熱で2回ほど死線をさまよった、と母から聞いております。物心がついてからも抵抗力や免疫力が弱く、小さなかすり傷などでも直りにくく、放っておくと必ず化膿します。胃腸も弱くて疲れやすく、小学校の夏休みの思い出は、ただひたすら家で寝ていた記憶ばかりが残っています。60を過ぎた今でもこのような体質は変わりません」
 この日も「こんなものをいつも持ち歩いていなければいけないんですよ」と薬を見せた。
 「これは私だけではありません。妊娠9カ月で死産した女性もいます。ご自身の命も危なかった。こういう話はたくさんあるんです。否定しきれないんですよ。そういう点を考えても是非、上告なさらずに、民主国家としてあるべき姿としてすぐさま『被爆者』と認め、適正な措置を講じてくださることを改めてお願い致します。よろしくお願い致します」

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(上)村田弘さん(福島原発かながわ訴訟原告団長)は「原爆も原発事故も放射線による健康被害という意味で全く一緒」と語り、国に上告断念を求めた
(下)福島原発刑事訴訟支援団事務局長の地脇美和さんも「上告断念が原発事故被害者の希望にもなる」と訴えた

【線引き通りでない被害】
 原発事故で福島県南相馬市小高区から神奈川県横浜市に避難継続中の村田弘さん(福島原発かながわ訴訟原告団長)は「なぜ私たちが広島の方々と一緒に申し入れをしているか。原爆と原発はコインの裏表の関係。被害を受ける側にとっては、放射線による健康被害という意味で全く一緒なんです。片方は戦争、片方は核の平和利用という、どちらも国策。まさに一体の問題だと考えています」と話した。
 「原発事故の被害者として、10年以上にわたって私たちが見て来た国の姿勢は、ともかく被害を見えなくしよう、無かった事にしようと動いているとしか思えません。早くやり方を改めていただかないと、広島や長崎の方々が70年以上にわたって苦しみを味わって来たことをもう一度繰り返すことになる。線引きの問題もそうです。避難指示が出されなかった区域からの避難者への住宅支援は早々と打ち切られました。放射性物質は線引きの通りに降り注いでいるわけではありません。原爆も原発も同じです。一刻も早く上告断念を表明していただきたい」
 地脇美和さん(福島原発刑事訴訟支援団事務局長)は「原発事故の被害を過小評価する、隠蔽する、嘘をつく、基準値が恣意的に変えられる…。被爆者の方々に対する酷い扱いが変えられることなくずっと続いてきて、それが原発事故後に再現されたのですね。どうしたら被害者たちを抑え込めるのか、補償せずに済むのかを国は学んできて、それが私たちに対する施策にも引き継がれた」と国に怒りをぶつけた。
 「人を、命を、人権を大切にする国なんだと私たちも思いたい。希望を持ってここで暮らしていくことができるよう、国として上告を断念していただきたい。原発事故被害者の希望にもなります」
 申し入れは、「原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)」と「伊方原発広島裁判原告団」のほか、「福島原発事故被害救済九州訴訟原告団」、「原発賠償関西訴訟原告団」、「『避難の権利』を求める全国避難者の会」、「原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会」、「福島原発かながわ訴訟原告団・支援する会」の計7団体が連名で行った。
 文書を受け取った厚労省・原子爆弾被爆者援護対策室の香川直樹室長補佐は「田村憲久大臣は判決の内容をしっかりと精査しており、今後の対応について各省庁などと協議中。本日の申し入れ書も上の者に報告をさせていただいて、対応を検討させていただきたい」と答えるにとどまった。



(了)
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