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【124カ月目の浪江町はいま】これが〝復興五輪〟で語られない帰還困難区域の現実だ 津島地区住民が語る「津島愛」と10年目の〝中途半端除染〟

五輪期間中だからこそ、現状を見せてもらいたかった。〝復興五輪〟などという美辞麗句の空虚さを肌で感じたかった。そこで24日、福島県二本松市での避難生活を続ける柴田明範さん(55)に、いまだ帰還困難区域に指定されている津島地区を改めて案内してもらった。3時間ほどの滞在で、ふるさと津島、ふるさと赤宇木への想い、道路から20メートル範囲しかやらない〝中途半端除染〟への怒りを口にした柴田さん。そこは、戻りたくても戻れない荒廃した土地。行く先々に、〝復興五輪〟では伝わらない原発事故被害の現実があった。
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【10年経ても3・76μSv/h】
 道路脇に黒いフレコンバッグがいくつも並べられていた。
 浪江町津島赤宇木小沼地区。袋の表面には、白い文字で「7/23」、「3・76μSv/h」などと書かれている。周辺には重機。新国立競技場で空虚な祭典の開会式を行うべく準備が進められていた頃、ここでは「20メートル除染」と呼ばれる範囲限定の除染作業が行われていたのだった。これが、原発事故からもうすぐ10年半になろうとしている津島の現実だった。
 フレコンバッグを前に、柴田さんはつぶやいた。
 「2013年9月に五輪招致が決まったとき、誰もが言ってたよね。五輪の前にやるべきことがあるだろうって。原発事故からまだ2年半だよ。俺のような当事者は、パンデミックが起こる前からおかしくないかって言ってたんだ。たまたま今はパンデミックがあるから批判の声が大きくなってるけど…。でも見てごらん、これが帰還困難区域の現実だよ。政府も福島県も消したい、見せたくない、なかったことにしたい。それが〝復興五輪〟なんだよ」
 津島地区では現在、除染作業や家屋解体が進められている。旧「つしま活性化センター」を中心とする約153ヘクタールを「町特定復興再生拠点区域」として整備し、2023年3月末を目標に避難指示を解除。2028年には室原地区、末森地区と合わせた計661ヘクタールに1500人が生活することを目指す計画だ。しかし、仮に153ヘクタールが整備されたとしても、津島地区全体のわずか1・6%にすぎない。98・4%は拠点外。そこで突如として浮上したのが復興再生拠点区域外での「20メートル除染」だった。幹線道路から20メートルの範囲を除染する。だから、川俣町方面から国道114号線を車で走ると、きれいに整えられた土地が多いことに気付く。何も知らない人が見れば復興が着実に進んでいるように映る。しかし、それは大いなる誤解であることを柴田さんの自宅が教えてくれた。

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赤宇木地区にある柴田さんの自宅はバリケードの向こう側。復興再生拠点区域外にあるため「20メートル除染」の対象になったが、除染範囲は町道から20メートルの範囲だけ。自宅はさらに奥にあるから被曝リスクの低減にならない。そもそも復興再生拠点区域は津島地区全体のわずか1・6%にすぎない

【「やっぱりわが家は津島」】
 赤宇木地区の一角にある柴田さんの自宅。国道114号線から自宅に向かう町道にはバリケードが設置されており、係員に解錠してもらえないと家主ですら入れない。既に女性係員が待機していて、人数を確認した後に解錠した。
 「いつまでこうやって解錠してもらわないと自分の家に入れないのかって?俺が生きている間は無理なんじゃないかな。でも2020年代中に希望者は帰れるようするって自民党は言ってたね。あと8年で本当にできるのかね…」
 バリケードが開くと、柴田さんは係員に頭を下げて車を進ませた。ルームミラーには、再び施錠する係員の姿が映っていた。
 町道の途中で右折し、ゆるやかな坂道を上る。アスファルトと土の道の境が起点となり、20メートル範囲の除染が行われる。雑草が伸びた道を300メートルほど進むと住まいが見えた。1989年に建てられた立派な〝城〟には、2011年3月以降、誰も住んでいない。玄関の前で車を下りると、手元の線量計は1・3μSv/hを上回った。自然減衰で下がったとはいえ、まだ高い。それでもわが家を前に柴田さんの表情が一気になごんだ。
 「ここに来ると気持ちがすっきりするね。やっぱりわが家はここなんだよね」
 玄関先から町道は見えない。はるか下方だ。
 「自宅に向かう入り口だけを除染したって意味がないよ。周囲の山はやらないんだから。書類には道路を通る人の被曝低減って書いてあるけど、道路に帰ってくるわけじゃないからね。家に帰って来るんだから。こんなことやって喜ぶのは誰?ゼネコンでしょ?こんなことに金をかけるんだったら、被害者救済に充てて欲しいよね。何でゼネコンばかり…。国のやることはすごいよ。感心しちゃうよ」
 柴田さんは靴のまま室内に入った。天井にはクモの巣。壁には2011年3月のカレンダー。時計は14時46分で止まっていた。再び外に出て、柴田さんは言った。
 「町道を右折してすぐのところにブルーベリーが植わっているんだ。老後はそれを育てるのが楽しみだった。除染業者に聞いたら『全部刈り取りますよ』って軽く言われたよ」
 大切なブルーベリーを根こそぎ刈り取っても、はるか奥の自宅は汚染が低減されない。周囲の山林も手つかず。それは妻の実家も同じだった。

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下冷田地区にある妻の実家では既に「20メートル除染」が始まっており、リンドウ栽培のための支柱が抜かれた。自宅はさらに奥にあり、手元の線量計は1・7μSv/hを上回った。復興再生拠点区域内で除染が行われている牛の舌地区や津島中学校でも手元の線量計は0・4~0・6μSv/h。あと8年で希望者が1人残らず帰還することなどできるのだろうか

【住民票は今も浪江町】
 「帰還困難区域が全面解除されたら、少しは復興が実感できるかな。でも、本当の意味での復興はできないと思うよ。人が戻らないから。震災前の状態に戻ることはないと思う。だって生活が伴わない。仕事がない。現役世代が戻っても生きていかれない。残念だけど、津島の未来は暗い…」
 スクリーニング場での手続きを終えた柴田さんは、ハンドルを握りながら言った。
 一方で、こうも口にした。
 「住民票は浪江にあります。まだ移していません。いずれは二本松市に移さないといけないとは考えているけど…。今の段階で住民票を移さない理由?それは…やっぱり…津島の人なんだよね。俺は赤宇木の人なんだ。赤宇木の人なんだよ」
 ふるさとを想い、複雑な感情が入り乱れる。それは2人の娘も同じ。一昨年、一度だけ津島を訪れたが車から下りなかったという。
 「娘2人は津島を封印しているね。過去としてフタをして整理しているね。あーこんなになっちゃったんだって。庭も雑草だらけ。部屋は見なくて良いって。もういいよって。想像するだけでも嫌だって。当時は中3と小6。良い思い出のままフタをしている。汚れた状態を見たってハッピーにならないもんね。そういう気持ちは東電の人たちには理解できないと思うな」
 柴田さんは避難する時、余震で壊れないように買ったばかりの地デジテレビを台から下ろした。すぐに戻って来られると考えていたからだ。あれから10年。長期にわたる避難生活は、自宅を再建する気力も体力も奪った。原発事故さえなければ、今年も津島の夏を過ごしていたはずだった。大好きな早朝ソフトボールを楽しんでいたはずだった。根っからの野球好き。でも、五輪の開会式は観なかった。福島市でソフトボールや野球の試合を少しだけやったって、ふるさとの復興とは全く関係ない。〝復興五輪〟と「20メートル除染」。心は虚しさと怒りでいっぱいだった。
 柴田さんは言う。
「どうせ戻って来ないでしょ、じゃないんだよ。帰って暮らす事ができないんだよ。今までずっと放置されていて、もう暮らせないんだよ。あんなに汚したのは誰ですか?国と東京電力ですよ。放射能汚染が酷いから帰れないって、それはあんたたちがやったろって、そう言いたいよ」



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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