【原発事故と国際人権法】日本政府が切り捨てて来た「国内避難民」の想いが一冊に 京都訴訟の原告団が冊子出版「国連勧告無視するな」
- 2021/08/02
- 19:15
原発事故後に福島県などから京都府内に避難した人々が国や東電を相手取って起こした「原発賠償京都訴訟」の原告団が冊子「国際社会から見た福島第一原発事故~国際人権法・国連勧告をめぐって私たちにできること」を出版した。「国内避難民」とも言える原発避難者が自ら国際人権法を軸に権利をまとめるのは珍しく、初版は完売。急きょ増刷したほど。折しも福島地裁では福島県による「国家公務員宿舎追い出し訴訟」が審理中で、避難者側の代理人弁護士は国際人権法の観点から主張を展開中。原発避難者政策に欠けているのは何かを考える〝教科書〟になりそうな一冊だ。

【「真逆の政策ばかり」】
冊子はA5判(A4判の半分の大きさ)60ページ。国際人権法や国連人権理事会の「普遍的定期的審査(UPR)」、2017年11月に4カ国から出された原発事故関連の勧告のほか、京都訴訟がこれまでにどのように国際人権法や国連勧告を活用してきたかについてもまとめられている。
最初のページには「この本を福島第一原発事故によるすべての被害者に捧ぐ」と書かれている。次のページには、国内避難民の人権に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんが寄稿した序文があり「国内避難民の権利を守るための取り組みが、すべての国内避難民にとって最も良い形で実現することを願っています」と綴られている。
6月に開かれたオンライン会見では、冊子作成の中心となった原告の女性が「私たちの声が国際社会とつながっていかれる、そういう冊子になって欲しい。多くの皆さんに読んでいただきたい」と語った。
女性は原発事故後に福島県から京都府に避難。2017年10月には、グリーンピースジャパンのサポートで、スイスのジュネーブに行き「普遍的定期的審査」に出席。「原発事故の責任を認め、避難者や住民に対して住宅支援、経済的支援、その他必要な支援を継続して提供すること」などを日本政府に勧告するとスピーチした。当日のスピーチ原稿も冊子に掲載されている。
「その年の11月に、4カ国からそれぞれ違う視点での勧告が出されました。日本政府は2018年3月、4つの勧告全ての実施に同意しました。にもかかわらず、『区域外避難者を含む支援の継続』(オーストリア)に対して、実際に日本政府が行ったのは住宅支援の打ち切り。『国内避難に関する指導原則を適用』(ポルトガル)するよう勧告されたにもかかわらず、政策は帰還ありき。『年間被曝線量限度の1ミリシーベルトに戻しなさい』(ドイツ)には、年20ミリシーベルトのまま。『医療の保障』(メキシコ)に関しても、県民健康調査の打ち切りが検討されている。真逆の政策が続けられているのです」
序文を寄稿した国内避難民に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんは2018年に訪日を要請したが、日本政府は応じていない。原告の女性は「セシリアさんは今年後半にも訪日したいと改めて要請しています。私たちも訪日が実現するよう、働きかけています」と話した。





冊子作成に奔走した原告の女性がオンライン会見で示した資料。女性は「日本政府は4カ国から出された勧告を無視しているばかりでなく、セシリアさんなど国連特別報告者の訪日要請にも応じていない」と指摘した
【「世直しするのは市民」】
オンライン会見には、イギリス在住でエセックス大学人権センターフェローで、冊子作成を提案した藤田早苗さんも参加。国連特別報告者に〝逆ギレ〟する日本政府を「筋違いだ」と批判した。
「都合の悪い勧告が出るたびに、日本政府は『事実誤認だ』など筋違いの反論をします。逆ギレをします。でも、国連特別報告者は世界からの公募を受け、人権理事会の慎重な審査を経て任命されます。私人として行動しているわけではありません。世界中の候補者のなかから公募で選ばれた、世界レベルの筋金入りの専門家。『王冠にのせる宝石』と言われるほど重要な役割を担っています。そういう人たちに『誤解している』などと言うことが筋違いなのです。国連憲章に根拠があるので、特別報告者を尊重し協力しないと国連憲章に反します。他国は勧告を受けても逆ギレせずに改善しています」
「国連特別報告者は、日本政府が公式に招待してくれないと訪日できません。日本政府は2011年3月1日以降、調査は原則として常時受け入れると表明していますが、NOとは言わないがいろいろな理由をつけて承諾しない。『居住の権利に関する特別報告者』も2017年8月に訪日する予定でしたが、内閣改造を理由にキャンセルされました。もし訪日が実現していたら、原発避難者の住宅問題も調査対象になっていたはずです」
藤田さんは「日本政府に勧告を無視させているのは誰か。私たちです。市民やメディア、野党です」と強調した。
「勧告を真剣に学んで使ってきましたか?国連が訪日してくれたら解決する、世直しに来てくれていると感じている人がけっこういるんです。全然そうではありません。みなさんが真剣に使うための材料をつくってきてくれているだけであって、全て私たちにかかっているのです。もう一度、政府に実施させて変えていくと決意する必要があります。弁護士も、裁判で国際人権法をもっと使う必要があります。自分には何ができるのか、何をしなければいけないのかを考えていただきたいと思います」
福島県が国家公務員宿舎に入居する避難者を追い出すべく起こした訴訟では、避難者側の代理人弁護士が国際人権法を使った主張を展開している。





大阪高裁での控訴審が続いている「原発賠償京都訴訟」。既に国際人権法に基づく準備書面を複数回提出している(田辺弁護士提供資料)
【範囲狭い「避難相当性」】
「原発賠償京都訴訟」は福島県や近隣県から京都府内に避難した区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)を中心に2013年9月に提訴。原告数は166人。2018年3月に京都地裁で判決が言い渡され、現在、大阪高裁で審理が続いている(次回弁論期日は9月30日)。
争点の一つである「避難の相当性」について、京都地裁判決では「本件事故時、中間指針追補の定める自主的避難等対象区域に居住」しており、かつ「平成24年4月1日までに避難した」もしくは「妊婦又は子どもの避難から2年以内に、その妊婦又は子どもと同居するため、その妊婦の配偶者又はその子どもの両親が避難した」場合に認定。
千葉県松戸市や茨城県北茨城市、栃木県大田原市など「自主的避難等対象区域」以外からの避難の相当性も認めた一方、宮城県仙台市、茨城県つくば市からの避難については相当性を認めなかった。
これについて、弁護団事務局長の田辺保雄弁護士は「避難の相当性の範囲が狭すぎるということに尽きる。原発事故によって避難した方々については、年1ミリシーベルトを超えていることによって避難の相当性を認めるべき」と指摘している。
田辺弁護士はオンライン会見で「国際社会からは、福島第一原発事故による避難者に対する施策については、『健康に対する権利』が侵害されているのではないかと繰り返し指摘されている」と語った。
「『健康に対する権利』が国際人権法上認められています。これは2013年に国連の特別報告者から報告書が出て、現在の国の政策は『健康に対する権利』を侵害しているのではないかと指摘しています。でも実際には、日本の裁判所では人権条約に基づく国際人権法はほとんど尊重されないのが実態です」
「避難の相当性が認められるのであれば、いわゆる〝自主的避難者〟であっても『国内避難民』という位置付けになります。政府は住宅の無償提供も既に打ち切っており、国際的には尊重されるべき『国内避難民に関する指導原則』にも反している可能性が高い。国内避難民についての国連特別報告者からの訪日要請についても、日本政府は全く応じる姿勢を見せていません」
冊子「国際社会から見た福島第一原発事故」は税込み770円。購入は申込みフォーム https://form1ssl.fc2.com/form/?id=ac97eaa86a93dfbdから。問い合わせは「原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会」の上野さん090(1907)9210まで。
(了)

【「真逆の政策ばかり」】
冊子はA5判(A4判の半分の大きさ)60ページ。国際人権法や国連人権理事会の「普遍的定期的審査(UPR)」、2017年11月に4カ国から出された原発事故関連の勧告のほか、京都訴訟がこれまでにどのように国際人権法や国連勧告を活用してきたかについてもまとめられている。
最初のページには「この本を福島第一原発事故によるすべての被害者に捧ぐ」と書かれている。次のページには、国内避難民の人権に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんが寄稿した序文があり「国内避難民の権利を守るための取り組みが、すべての国内避難民にとって最も良い形で実現することを願っています」と綴られている。
6月に開かれたオンライン会見では、冊子作成の中心となった原告の女性が「私たちの声が国際社会とつながっていかれる、そういう冊子になって欲しい。多くの皆さんに読んでいただきたい」と語った。
女性は原発事故後に福島県から京都府に避難。2017年10月には、グリーンピースジャパンのサポートで、スイスのジュネーブに行き「普遍的定期的審査」に出席。「原発事故の責任を認め、避難者や住民に対して住宅支援、経済的支援、その他必要な支援を継続して提供すること」などを日本政府に勧告するとスピーチした。当日のスピーチ原稿も冊子に掲載されている。
「その年の11月に、4カ国からそれぞれ違う視点での勧告が出されました。日本政府は2018年3月、4つの勧告全ての実施に同意しました。にもかかわらず、『区域外避難者を含む支援の継続』(オーストリア)に対して、実際に日本政府が行ったのは住宅支援の打ち切り。『国内避難に関する指導原則を適用』(ポルトガル)するよう勧告されたにもかかわらず、政策は帰還ありき。『年間被曝線量限度の1ミリシーベルトに戻しなさい』(ドイツ)には、年20ミリシーベルトのまま。『医療の保障』(メキシコ)に関しても、県民健康調査の打ち切りが検討されている。真逆の政策が続けられているのです」
序文を寄稿した国内避難民に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんは2018年に訪日を要請したが、日本政府は応じていない。原告の女性は「セシリアさんは今年後半にも訪日したいと改めて要請しています。私たちも訪日が実現するよう、働きかけています」と話した。





冊子作成に奔走した原告の女性がオンライン会見で示した資料。女性は「日本政府は4カ国から出された勧告を無視しているばかりでなく、セシリアさんなど国連特別報告者の訪日要請にも応じていない」と指摘した
【「世直しするのは市民」】
オンライン会見には、イギリス在住でエセックス大学人権センターフェローで、冊子作成を提案した藤田早苗さんも参加。国連特別報告者に〝逆ギレ〟する日本政府を「筋違いだ」と批判した。
「都合の悪い勧告が出るたびに、日本政府は『事実誤認だ』など筋違いの反論をします。逆ギレをします。でも、国連特別報告者は世界からの公募を受け、人権理事会の慎重な審査を経て任命されます。私人として行動しているわけではありません。世界中の候補者のなかから公募で選ばれた、世界レベルの筋金入りの専門家。『王冠にのせる宝石』と言われるほど重要な役割を担っています。そういう人たちに『誤解している』などと言うことが筋違いなのです。国連憲章に根拠があるので、特別報告者を尊重し協力しないと国連憲章に反します。他国は勧告を受けても逆ギレせずに改善しています」
「国連特別報告者は、日本政府が公式に招待してくれないと訪日できません。日本政府は2011年3月1日以降、調査は原則として常時受け入れると表明していますが、NOとは言わないがいろいろな理由をつけて承諾しない。『居住の権利に関する特別報告者』も2017年8月に訪日する予定でしたが、内閣改造を理由にキャンセルされました。もし訪日が実現していたら、原発避難者の住宅問題も調査対象になっていたはずです」
藤田さんは「日本政府に勧告を無視させているのは誰か。私たちです。市民やメディア、野党です」と強調した。
「勧告を真剣に学んで使ってきましたか?国連が訪日してくれたら解決する、世直しに来てくれていると感じている人がけっこういるんです。全然そうではありません。みなさんが真剣に使うための材料をつくってきてくれているだけであって、全て私たちにかかっているのです。もう一度、政府に実施させて変えていくと決意する必要があります。弁護士も、裁判で国際人権法をもっと使う必要があります。自分には何ができるのか、何をしなければいけないのかを考えていただきたいと思います」
福島県が国家公務員宿舎に入居する避難者を追い出すべく起こした訴訟では、避難者側の代理人弁護士が国際人権法を使った主張を展開している。





大阪高裁での控訴審が続いている「原発賠償京都訴訟」。既に国際人権法に基づく準備書面を複数回提出している(田辺弁護士提供資料)
【範囲狭い「避難相当性」】
「原発賠償京都訴訟」は福島県や近隣県から京都府内に避難した区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)を中心に2013年9月に提訴。原告数は166人。2018年3月に京都地裁で判決が言い渡され、現在、大阪高裁で審理が続いている(次回弁論期日は9月30日)。
争点の一つである「避難の相当性」について、京都地裁判決では「本件事故時、中間指針追補の定める自主的避難等対象区域に居住」しており、かつ「平成24年4月1日までに避難した」もしくは「妊婦又は子どもの避難から2年以内に、その妊婦又は子どもと同居するため、その妊婦の配偶者又はその子どもの両親が避難した」場合に認定。
千葉県松戸市や茨城県北茨城市、栃木県大田原市など「自主的避難等対象区域」以外からの避難の相当性も認めた一方、宮城県仙台市、茨城県つくば市からの避難については相当性を認めなかった。
これについて、弁護団事務局長の田辺保雄弁護士は「避難の相当性の範囲が狭すぎるということに尽きる。原発事故によって避難した方々については、年1ミリシーベルトを超えていることによって避難の相当性を認めるべき」と指摘している。
田辺弁護士はオンライン会見で「国際社会からは、福島第一原発事故による避難者に対する施策については、『健康に対する権利』が侵害されているのではないかと繰り返し指摘されている」と語った。
「『健康に対する権利』が国際人権法上認められています。これは2013年に国連の特別報告者から報告書が出て、現在の国の政策は『健康に対する権利』を侵害しているのではないかと指摘しています。でも実際には、日本の裁判所では人権条約に基づく国際人権法はほとんど尊重されないのが実態です」
「避難の相当性が認められるのであれば、いわゆる〝自主的避難者〟であっても『国内避難民』という位置付けになります。政府は住宅の無償提供も既に打ち切っており、国際的には尊重されるべき『国内避難民に関する指導原則』にも反している可能性が高い。国内避難民についての国連特別報告者からの訪日要請についても、日本政府は全く応じる姿勢を見せていません」
冊子「国際社会から見た福島第一原発事故」は税込み770円。購入は申込みフォーム https://form1ssl.fc2.com/form/?id=ac97eaa86a93dfbdから。問い合わせは「原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会」の上野さん090(1907)9210まで。
(了)
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