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【原発避難者から住まいを奪うな】「住宅提供打ち切りは国際人権条約違反」避難者側が準備書面で主張~〝東雲追い出し訴訟〟第6回口頭弁論

福島県が昨年3月、原発事故で〝自主避難〟した4世帯を相手取り、国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)の明け渡しと未納家賃の支払いを求めて提訴した問題で、うち1世帯に対する第6回口頭弁論が7月16日午後、福島地裁206号法廷(松川まゆみ裁判官)で行われた。被告(避難者)側代理人弁護士が第4準備書面を陳述。国際人権法の観点から「区域外避難者も国内避難民に相当する」、「そもそも住宅無償提供の打ち切りは社会権規約等の国際人権条約に違反して許されない」と主張した。次回期日は9月29日11時半。
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【「国内避難民に相当」】
 第4準備書面はA4判で10ページ。4部構成で、国際人権規約や国内避難民原則に基づき、被告となっている原発避難者の建物占有権は失われないと主張している。
 このなかで、代理人を務める平松真二郎弁護士は「被告のような『区域外避難者』も、『人為的災害』である本件原発事故によって避難することを余儀なくされた者(実質的には避難を強制された者)であって、国内避難民に相当する」と主張している。
 では「国内避難民」とは何か。1998年に国連人権委員会に提出された「国内強制移動に関する指導原則」では、次のように定義されている。
 「特に武力紛争、一般化した暴力の状況、人権侵害もしくは自然もしくは人為的災害の影響の結果として、またはこれらの影響を避けるため、自らの住居もしくは常居所地から逃れもしくは離れることを強いられまたは余儀なくされた者またはこれらの者の集団であって、国際的に承認された国境を越えていないもの」
 また、次のようにも記されている。
 「国内避難民は、十分平等に、自国において他の者が享受するものと同一の国際法および国内法上の権利および自由を享受する。国内避難民は、国内避難民であることを理由として、いかなる権利および自由の享受においても差別されてはならない」
 「国内避難民は、国家当局に対して保護および人道的援助を要請し、かつ、国家当局からこれらを受ける権利を有する。国内避難民は、そのような要請を行うことにより迫害されまたは処罰されてはならない」
 「すべての国内避難民は、移動の自由および居住選択の自由に対する権利を有する」
 「すべての国内避難民は、適切な生活水準に対する権利を有する」
 さらに、「管轄当局は、状況のいかんを問わず、かつ、差別することなく、少なくとも、国内避難民に対して次のものを与え、かつ、これらを安全に得ることを確保する」として「基本的な避難所および住宅」など4項目を挙げている。

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被告側(避難者側)代理人弁護士が提出した第4準備書面の一部。国際人権法の観点から「国内避難民」である避難者には国家公務員宿舎に住む権利があると主張している

【「権利の実現を後退」】
 準備書面ではさらに、区域外避難者への住宅無償提供が2017年3月末をもって打ち切られたことについて「社会権規約等の国際人権条約に違反して許されない」と批判。「現在においても本件建物等の占有権原を有していると解さなければならない」と結論付けている。
 政府が1979年に批准した「国際人権規約」は、「社会権規約」(国際人権A規約)、「自由権規約」(国際人権B規約)に分類される。このうち社会権規約第2条1項は、次のように規定している。
 「この規約の各締約国は、立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する」
 では、日本政府は原発事故に伴う区域外避難者について、立法措置を含めた行動をとってきただろうか。準備書面で被告側は「権利の実現を後退させた」と厳しく批判している。
 政府は災害救助法に基づき、応急仮設住宅(みなし仮設住宅)として区域外避難者にも住宅を無償提供した。混乱のなか避難先住宅をゆっくり選んでいる余裕などなく、避難者は空いている部屋にとりあえず腰を落ち着けた。いわき市から都内に避難したこの被告も同様だった。しかし2017年3月末、国は無償提供を終了。区域外避難者に「自立」を迫った。
 多くの避難当事者が福島県庁を訪れ、時には直訴状を携えて無償提供延長を求めたが、内堀雅雄知事は延長に向けて動こうとしなかった。
 準備書面は、被告の避難元であるいわき市が現在も「子ども被災者支援法」の「支援対象地域」に含まれていること、「放射性物質汚染対処特別措置法」の「汚染状況重点調査地域」に指定されていることを指摘。「『避難』を選択することが、現在でも十分に合理性を有していることを示している」としている。

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東京都江東区の国家公務員宿舎「東雲住宅」。所有者の財務省でなく福島県が原告となっていることも訴訟を分かりにくくしている

【「簡単な裁判じゃない」】
 法廷では、松川裁判官から「これで被告としては主張を尽くしたということでよろしいでしょうか?」、「(次回期日の)反論で、終わりで良いですか?」など、早期結審を匂わせるような発言があった。被告(避難者)側としては今後、財務省や福島県の担当者を証人尋問する意向を持っている。場合によっては避難者本人が出廷することもあり得る。とても主張を尽くしたと言える段階には無い。
 閉廷後、平松弁護士とともに避難者の代理人を務める山川幸生弁護士は「やることはいっぱいあるんだけど、裁判官がやたらと急いでいる。われわれの話を聴かないで審理を打ち切ろうとしている。今回の裁判はそんな簡単な裁判じゃありません。原発事故で避難した人に避難住宅として提供してきたものを取り上げるという裁判。それが本質ですから」と語った。
 「東雲住宅追い出し訴訟」は、国家公務員宿舎「東雲住宅」に入居している区域外避難者のうち、住宅の無償提供終了後に激変緩和措置として設けられた「セーフティネット契約」を結ばず、家賃を支払わず、転居にも応じていないとして2020年3月25日、福島県が4世帯を相手取って福島地裁に提訴(県議会に提出された議案では5世帯だったが、1世帯は転居)。①国家公務員宿舎(建物と駐車場)の明け渡し②2019年4月1日から退去時までの家賃支払い─を求めている。
 避難者側は東京地裁での審理を求めて移送を申し立てたが却下。昨年10月、今回の世帯についての第1回口頭弁論が行われた。別の1世帯は非公開での審理が続いている。また、2世帯については今年5月に第1回口頭弁論が行われ、その後審理が併合。今月6日に第2回口頭弁論が行われている。代理人が異なることもあり、審理が3つに分かれて進んでいる。



(了)
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