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【原発事故と国内避難民】「国連特別報告者の訪日調査受け入れて」 原発避難者たちが外務省に要望書提出

国内避難民の人権に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんから出された訪日調査要請を日本政府が3年にわたって事実上拒んでいる問題で、ダマリーさんが「国内避難民」と認定した原発避難者たちが16日夕、訪日実現に向け速やかに受け入れを表明するよう求める要望書を外務省に提出した。原発事故から10年余。住宅の無償提供打ち切りなど避難者切り捨てが進むなか、ダマリーさんの訪日調査は原発避難者の権利侵害を世界に発信する絶好の機会となる。任期満了が迫り時間がないが、外務省は「関係省庁と調整中」と繰り返すばかりだった。
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【「任期満了が迫っている」】
 ダマリーさんは2018年8月30日に日本政府に訪日を要請。その後2020年1月と2021年6月にも念押しや督促を意味する「リマインダー」を出しているが政府の受け入れが必要で、3年経った今も実現には至っていない。
 茂木敏充外務大臣宛ての要望書はA4判6ページ。「国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査の要請について、速やかに受入の意思表明をした上、年内の訪日日程を確定してください」と求めている。
 「原発賠償京都訴訟」や「子ども脱被ばく裁判」の代理人を務める田辺保雄弁護士と原発避難者4人が外務省を訪れ、人権人道課の宮川光國課長補佐に手渡した。
 趣旨に賛同する国際環境NGO「グリーンピース・ジャパン」や国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」、「3・11甲状腺がん子ども基金」、「高木学校」、「避難の協同センター」、「会津放射能情報センター」、「関西よつ葉連絡会」など82団体が提出団体に名を連ねた。そのなかには、田辺弁護士ら6人の弁護士有志も含まれる。
 要望書は「日本国内の状況が『国内避難に関する指導原則』の趣旨に反する可能性がある」、「訪日要請が三度にわたっている」、「日本政府は国連特別報告者の訪日要請を受け入れるとの立場を表明している」、「訪日調査の必要性が高い」などと指摘。次のような表現で政府の〝決断〟を促している。
 「国連人権理事会の『普遍的・定期的レビュー制度(UPR)』の勧告をフォローアップすることに同意した後も、いわゆる自主的避難者に対する住宅無償提供打ち切りについて見直しが行われていない」
 「ダマリーさんは任期満了が来年中に迫っており、報告書作成のための期間を考慮すると年内、遅くとも来年早々の訪日調査が必要となる」
 「ハンセン病患者らへの差別撤廃に関する特別報告者が、コロナ禍でも来日し、外務政務官らと会談していることなどに鑑みると、二重基準を疑われないよう、特別報告者に対して訪日調査を実現するために協力の姿勢を示すことが求められている」
 なお、メディアの同行取材は外務省に拒否された。

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国内避難民の人権に関する国連特別報告者ダマリーさんは再三にわたって訪日調査を求めているが、日本政府は応じていない

【「外務省は丸投げするな」】
 提出後、原発避難者たちは参議院議員会館で記者会見。福島県から京都府に避難した女性は「外務省は他の省庁に働きかけるだけで自分たちが決めるんじゃないと言っていました。外交って戦争を止める力もあるくらい重要なものなのに、丸投げしてまとめるだけとは…。3年間も何をやっていたのか」と外務省への怒りを口にした。
 「原発避難者を公権力が裁判で訴えてでも追い出すという現実を海外の目でしっかり見ていただいて必要な勧告を日本政府に対してしてもらいたい」と話したのは、村田弘さん(南相馬市小高区から神奈川県に避難継続中)。
 「全国に避難した人たちがこの10年間、どんな目に遭って来たか。その最たるものが住宅支援の打ち切り。命に関わる問題を政府は10年間ほったらかしにしてきた。原発避難者は棄てられた、棄民されたのです。国策として進めてきた原発が事故を起こして、それで生じた避難者たちを避難民として認めない、必要な手当てをしない、ということがまかり通っていることは本当に許せない」
 福島市から都内に避難した二瓶和子さんも「衣食住のなかでも基盤は『住』だと思います。住まいが安定的になってこそ前を向ける」と強調した。
 田辺弁護士は「ダマリーさんの任期満了が迫る中、黙って見ているわけにはいかないという気持ちがあり、要望行動に至った」と説明したうえで、宮川課長補佐とのやり取りを振り返った。
 「外務省はこれまでに3回、非公式にダマリーさんと接触したとのことでした。1回目の接触は2018年8月からほどなく、2回目はニューヨーク。3回目は今年7月にジュネーブで意見交換したとのこと。でも、外務省がイニシアチブをとるのではなくて、まるで単なる窓口、メッセンジャーかのような言い方でした。訪日調査の対象となる復興庁や内閣府の復興支援チームが責任をもって対応する、と」
 今後の取り組みについては「外務省だけでなく復興庁や内閣府にも国会議員から働きかけてもらう必要がある」と話した。

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記者会見を開いた田辺弁護士(左)ら。原発避難者の女性は「ダマリーさんから訪日要請が出された2018年8月から3年間も外務省は何をやっていたのか」と怒りを口にした=参議院議員会館

【「省庁間の調整つかない」】
 外務省に17日午後、電話取材した。
 人権人道課の宮川課長補佐は「メインは復興庁と内閣府ですが、外務省も主体性ある省庁の1つです。単なる窓口でも、ただ単に右から左に流すというわけでもありません」と答えた。
 「ダマリーさんの任期が本当に6月で満了するのか確認できていない。もしかしたら秋かもしれない」と宮川課長補佐。国連特別報告者の訪日そのものについては「もちろん拒んでいません。全ての特別手続きに対して、日程調整さえつけばいつでも来てくださいという政府方針(スタンディング・インビテーション)があるので、拒否というのは原理的にあり得ない」と強調する。
 しかし、現実には3年経ってもダマリーさんの訪日は実現していない。何が障壁となっているのか。宮川課長補佐は「調整」を何度も口にした。
 「障壁というよりも、国内省庁の調整がつかないということ。様々な要件を満たさなかった。複数の特別報告者から要請を受けていて、外交日程とか様々な関係省庁の受け入れ態勢とかを考慮して判断していくなかで調整がつかなかったと申し上げるしかない。来秋までに訪日が実現する可能性?それも関係省庁との調整ができるかどうか次第です。今まさに調整中ですので、その結果次第ということ」
 3年経っても「調整中」。そんなに難しいのか。
 「一般論として、外国の要人が来られるときには政府として相当の準備が必要です。国連関係に限らず、二国間の様々な要人の往来も頻繁にありますので、外交日程を調整するというのは、それなりに大変なんです。関係省庁全体の日程調整や国会日程などを絡めると、『調整』というのはなかなか難しい」
 一方で、非公式ながらダマリーさんとは3回も接触している。
 「少なくとも3回は非公式に会っています。立ち話のようなものを含めればもっとあるのかもしれませんが、きちんとお話をしたのは少なくとも3回。ご本人と対面しました。ジュネーブでは、日本の国連ジュネーブ代表部の者が会っています。具体的にどの日程で来られたいとか、どういうところを訪問されたいとか、何度かお会いして意見交換しています。公には申し上げませんが、ダマリーさんの希望は把握しています。当然、復興庁や内閣府などと情報共有して、あとは調整さえつけば訪日に至る。そこが簡単ではないのですが…」
 提出された要望書は「御意見として承って政府部内で共有する」という。



(了)
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鈴木博喜

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