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【原発避難者から住まいを奪うな】「国家公務員宿舎から出て行け」 福島県が9月県議会に調停議案提出へ 事故から10年余で〝追い出し〟加速

原発事故で福島県内の避難指示区域外から避難した区域外避難者のうち、住宅提供終了後も東京や神奈川、埼玉の国家公務員宿舎から退去できずにいる県民に対する〝追い出し調停〟議案が9月県議会(9月21日開会)に提出されることになった。対象世帯数は不明。福島県は未退去28世帯全ての退去を目標に掲げており、調停が不調に終われば明け渡し訴訟に転じて追い出す構え。国家公務員宿舎に入居した区域外避難者を巡っては、東京・東雲住宅東京都の4世帯が既に福島地裁に提訴されており、原発被災県が訴訟で県民を追い出すという異例の事態がさらに加速する。
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【「対象世帯数言えぬ」】
 調停申し立ての対象となっているのは、2017年3月31日で区域外避難者への住宅無償提供が打ち切られた後、激変緩和策として2年間限定での有償入居(セーフティネット使用貸付契約)が終了した後も転居できずに入居を続けている世帯。福島県生活拠点課によると、既に明け渡しと未納家賃の支払いなどを求めて福島県から提訴されている4世帯以外に、東京や神奈川、埼玉の国家公務員宿舎には28世帯が入居。そのうち、2022年に福島県が財務省に立て替えている家賃を避難者に請求できる権利を失う(5年の時効を迎える)世帯について、調停を申し立てるという。
 27日朝から行われた「政調会」(県当局が部局ごとに会派を巡り、議案の概要を説明する)で、避難地域復興局長が「戸別訪問などを通じて住まいの確保に向けた支援を行ってまいりましたが、再三の連絡にも応じていただけず、供与終了から4年以上が経過しても、明渡しに応じていただけないことや、未納となっている使用料等の時効が到来することから、明渡し等を求めて調停の申し立てを行うことを検討している」と説明した。
 共産党は、宮本しづえ県議や神山悦子県議が調停申し立ての対象となり得る世帯数などを質問したが、大野竜一生活拠点課長は「現段階では議案として提出することを検討している段階でございまして、具体的な中身については控えさせていただきたい」と回答を拒否。現在、国家公務員宿舎に入居している世帯は28世帯だと明らかにしたものの、そのうち何世帯が調停申し立ての対象として検討されているかについては語らなかった。
 県民連合では、古市三久県議がやはり対象世帯数を質したが同様の理由で回答を拒否した。
 9月県議会には、国家公務員宿舎に入居する避難者だけでなく建設型仮設住宅からの退去に応じていないとして、やはり調停を申し立てる旨の議案も提出される。こちらは避難元市町村名こそ明かさなかったものの、大野課長は「対象世帯は2世帯」と語った。

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政調会の配布資料。提訴を見越した原発避難者〝追い出し調停〟議案が9月県議会に提出される

【「人道的に許せない」】
 大野課長は「今いらっしゃる方につきまして、引き続き住宅確保に向けて支援している。相談会や都営住宅などの情報提供、いろいろ通知などを差し上げて、話し合いを進めようとしているところでございまして、即訴訟対象とかっていうお話ではございません。まずは引き続き支援をしてまいりたいと考えております」、「なかには話し合いに応じていただけない方もいらっしゃいますが、通知を差し上げたり住宅相談会の案内を差し上げたり、都営住宅の募集物件をご連絡差し上げたりと、話し合いを続けているところでございます」とギリギリまで調停回避を模索すると強調した。
 一方で基本的に国家公務員宿舎というのはお借りしているものでございますので、それはお返しいただく。そう考えてございます」とも。県議を前に、未退去世帯を何としても国家公務員宿舎から転居させるという〝決意表明〟をした格好だ。
 これに対し、宮本県議は「財務省は良いですよと言っているのに、何で県が出て行けと言っているのか。そういうことをこのコロナ禍の時期にあえて県がやらなくちゃいけないのか。調停を申し立てるということは、その先に訴訟を見越しているということですよ。こういうやり方に、福島県の原発避難者に対する姿勢がもろに示されている。避難者に寄り添うと言いながらやっぱり寄り添っていないじゃないの。そういう姿勢が問われているのに人道的に許せないと思います。こういう姿勢そのものを改めるべきだと思います」と批判。
 神山県議も「本当に冷たい福島県の姿勢が問われている。10年経ってもう避難者はいませんよというメッセージを送りたいのかと思うくらい。実際には入居している人は行き先が見つからないとかいろいろな事情があって、最後に残った人たちでしょう。住まいは人権なんです。原発事故を起こしたのは国でもあるし、県は避難者の側に寄り添うというのが本来だと思います。そこが問われている」と翻意を促した。

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宮本県議(共産党、上)や古市県議(県民連合、下)は調停申し立ての対象となり得る世帯数などを質したが、生活拠点課長は「現在も話し合いを継続中。具体的な世帯数につきましては控えさせていただきたい」として答えなかった

【どこ行った「寄り添う」】
 改めて取材に応じた生活拠点課の担当者は「当事者と話し合うための期間が必要。来年4月に時効を迎える方は、9月議会で承認してもらわなければ調停で話し合う時間すらつくれない。2017年4月以降、一度も家賃などを支払っていない方は来年4月で丸5年。福島県としては避難者に家賃などを請求できなくなってしまう。それは職員としては、ある意味職務怠慢。まずは話し合いのテーブルについてもらうことを大いに期待している」と語った。
 まずは退去を促す話し合いの場について欲しいとの考えから、福島簡裁ではなく東京簡裁に申し立てる見通し。調停が不調に終われば、係争中の4世帯同様に県側は今度は福島地裁への提訴を視野に入れている。
 2年間の激変緩和策が終了した2019年4月以降は「損害金」名目で2倍家賃が毎月請求されているが、多い世帯で280万円に達するという。
 県は退去と未払い家賃の支払いを促すため、昨年12月には親族に「協力」を求める文書を送付。福島県内に住む親族宅を訪問し、法的措置をチラつかせながら「協力」を迫った。さらに今年6月には入居者に対し7月16日までに転居しないと「訴訟など法的手段に移行せざるを得ません」と〝最後通告〟までしている。そこには「避難の権利」も「住む権利」も無い。生活拠点課の担当者も「われわれの業務の目標は、安定した住まいに転居していただくこと。とにかく話し合いの場に出てきてほしい。それで1世帯でも2世帯でも、自発的に安定した住まいに移っていただければありがたい」と言い切る。
 内堀雅雄知事は常日頃、「避難者一人一人に寄り添う」と公言している。しかし、生活拠点課の担当者は、知事の言葉の裏側にある冷淡な本音を明かした。
 「未退去の方を特別視するというのは福島県としては難しい。区域外避難者への住宅無償提供が終わり、福島県が特別にあつらえた制度も2年間で終わっているのです。生活保護世帯と比べると困窮していなくて未退去。制度は終わっていて、100を超える世帯が自力で転居した。それなのに、未退去の方に個別の施策を講じるというのは理屈が合わなくなってしまう。あえて言えば公平性。残っている方々だけに焦点を当てるわけにはいかない。行政は全体を見なければならない。この方たちだけに特別な制度を設けることは難しいのです」
 9月県議会は9月21日から10月7日まで開かれる予定。「ひだんれん」など支援団体は今後の対応を協議している。



(了)
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鈴木博喜

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