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【原発避難者から住まいを奪うな】家賃2倍請求に訴訟、親族訪問、今度は提訴を見据えた調停…ヤクザまがいの手法でじわじわと追い詰める福島県

福島県が国家公務員宿舎からの原発避難者〝追い出し〟を加速させている問題で、避難当事者からは「ここまでやるのか」、「死ねと言われているようだ」などと驚きの声があがっている。内堀雅雄知事は「避難者一人一人に寄り添う」と公言してはばからないが、実際には昨年3月に4世帯を提訴。さらに別の世帯についても、訴訟の前段となる「調停」を申し立てるべく、9月県議会に議案を提出する方針だ(前号参照)。原発事故の被災県が避難した県民を裁判で追い出すという異常事態は止まるどころか、あの手この手でさらに避難当事者を追い詰めている。
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【実態なき「寄り添う」】
 気づけば午後6時。職員の退庁時刻をとっくに過ぎていた。
 福島県庁5階にある避難地域復興局生活拠点課。〝追い出し訴訟〟提訴を見据えた「調停」議案の提出に至った理由を、取材に応じた担当者は「寄り添いたいが、とにかく話し合いに応じてもらえない」などと順を追って話した。時計を気にすることもなく、対応そのものはていねいだった。しかし、話を聞けば聞くほど、私の頭には県知事が常日頃口にしている言葉が浮かんだ。いけないと思いつつ、とうとう最後に伝えずにはいられなかった。
 「内堀雅雄知事には、もう二度と『避難者一人一人に寄り添う』などという言葉を使わないでいただきたい」
 原発避難者に寄り添うと言いながら、区域外避難者に対する住宅無償提供を打ち切ったのは2017年3月末。原発事故発生から6年が過ぎ「災害救助法で言うところの『応急救護』の時期は過ぎた」が福島県側の理屈だった。
 2年後の2019年3月末に激変緩和策も含めて全ての住宅支援策が終了すると、今度は国家公務員宿舎から退去できない避難者に、「損害金」と称して2倍家賃の請求を始めた。並行して、2017年4月から2年間の有償入居(セーフティネット使用貸付契約)の締結もせず家賃なども支払っていないとして、都内の国家公務員宿舎「東雲住宅」で暮らす避難者5世帯(後に1世帯が転居)の調停を東京簡裁に申し立て。不調に終わると2020年3月25日、新型コロナウイルスと五輪延期の混乱に乗じるように〝追い出し訴訟〟を福島地裁に起こした(4世帯について係争中)。
 そして今回、2倍請求の続く国家公務員宿舎入居世帯の一部(具体的な世帯数は明らかにしていない)について、〝追い出し訴訟〟の前段となる「調停」を東京簡裁に申し立てるべく、9月県議会に議案を提出する。既に退去したものの、家賃未払いの世帯についても「県が立て替えて財務省に支払っている以上、回収できなければ職務怠慢になってしまう」として調停の対象となる。不調に終われば当然、訴訟だ。これが「避難者に寄り添う県政」なのか。ある非自民県議は「県のやり方がはじめから杓子定規だった。県民の立場に立つなどという考えはなかったと思う」と語った。

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年内最後の記者会見で、その年を表す「漢字」を示すのが恒例となっている福島県の内堀雅雄知事。2017年は「共」、2018年は「進」を選んだが、実際の施策は原発避難者との共生ではなく、住まいからの追い出しを進めたことだった

【「死が何度もよぎる」】
 7月19日午後、衆議院第2議員会館で開かれた「原発事故避難者への二倍請求と追い出し強要を許さない緊急院内集会」で、2つのビデオメッセージが流された。福島県から退去圧力をかけられている国家公務員宿舎の入居者が心境を語った。
 「6月中旬に、福島県から『7月16日までに退去して欲しい』という文書と今後の住まいの確保に関するアンケートが届いた。そのなかに現在の職業と職場の連絡先を記入する欄がありました。実家を訪問して親に恫喝めいたことを言ったということを聴いていましたので、職場の情報を書いてしまうと同じように職場に電話をしたり押しかけたりする恐れがあると考えました。空欄で出しました」
 男性は非正規で働きながら少しずつ転居費用を蓄えているという。
 「いつ雇用契約を打ち切られるか分かりません。前の仕事は3年で切られました。都営住宅に入れれば良いなと思っていますが、60歳未満の単身者では申し込めない。応募する資格がないのです。転居先探しに難儀している状況です」
 女性の当事者は「福島県知事は避難者一人一人に寄り添うと言っていますが、私の話は全く聴いてくれませんでした」と怒りを口にした。
 「福島県職員にお会いした時に、今の給料ではやっと1人生きていかれるくらいなので、退去は無理だということを伝えました。でも、異動で担当者が変わると『自分は聞いていない』と言われ、最初から改めて説明したこともありました。今まで何度もアンケートには答えています。現状を何度も書いて訴えて来ました。福島県の住宅相談会にも行きました。しかし不動産業者を紹介するだけ。何とか住める物件はないかと自力でも探しましたが、日々の生活で精一杯なのに、転居資金をためるなんて無理なのです。転居しないのはわがままなのでしょうか…。もうお前は死ねと言われているような気がして、死ぬことが何度も頭をよぎったこともあります」
 昨年12月には、本人の同意なく親族に〝追い出し〟への協力を求める文書を送りつけ、親族宅訪問までしている。貧困に陥った人々の救済に日々、奔走している瀬戸大作さん(「避難の協同センター」事務局長)は「避難者に『死ねと言うのか』とまで言わせる福島県の訪問と発言については、きちんと抗議をして謝罪を要求したい」と怒りをこめて語った。

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福島県生活拠点課が6月、国家公務員宿舎から退去できずにいる避難者宛てに送りつけた文書。ここで言う「訴訟など法的手段」の第一弾が今回、検討されている調停申し立てとみられる

【実家訪れ「わがままだ」】
 「実家に書留で文書を送り、実家に押しかけたのです。『損害金がたまっている。分割でも良いから支払って欲しい。払ってくれないと私たちは給料をもらえない。出て行かないなら裁判を起こす。茨城や埼玉から1時間かけて都心に通勤している人もいるのだから、職場が近いからと転居しないのはわがままだ。近くで家を探したいのなら7万円くらいであるでしょ』というようなことを言っていたと後で聞きました」
 避難者の女性がビデオメッセージのなかで明かした親族宅訪問の様子は、まるでヤクザの手法だ。集会に北海道からオンライン参加した中手聖一さん(「避難の権利」を求める全国避難者の会共同代表)は「ここまでやるのか。今どきサラ金でもやらないのに…」と驚きを隠さなかった。
 避難当事者の先頭に立って政府や福島県との交渉を続けている村田弘さん(「ひだんれん」幹事)の言葉も怒りに満ちていた。
 「福島県は昨年12月『お宅のお子さんは家賃を滞納した挙げ句出て行かない』と。『法的手段に訴えざるを得ないので協力してください』というような考えられない書面を送ったうえで、さらに家庭訪問をして『なんとかしろ』と迫った。親族に圧力をかけてまで追い出そうと。常軌を逸しているということで撤回を陳謝を求めてきましたが、県の姿勢は全く変わらない。それどころか、6月に再び、退去できない世帯に対して書面を送っているんです。『7月16日を退去期限とする。それまでに家賃2倍相当を支払え。従わなければ法的手段に移行する』という〝最後通告〟です」
 「今残っている方々は転居したくてもできない状態にあるんだから、生活実態を調べて、それ相応の手を打ってくれということを何度も何度もずっと県と交渉して来ました。でも、福島県は一切耳を貸さない。ともかく追い出すんだという姿勢に徹しているわけです。コロナ禍で大変苦しい状況が続いているなかで、司法の力を借りてまで追い出そうとしている。法律的にも人道上も許せるものではありません。理不尽さを正さなきゃならん」



(了)
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鈴木博喜

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