【福島市長選2021】議場は現職の個人演説会場? 福島市議会で共産以外の全会派が〝ヨイショ質問〟の異常事態
- 2021/09/14
- 18:02
11月21日投開票の福島市長選挙を巡り、7~9日に行われた福島市議会の一般質問で共産党を除く全会派の議員が木幡浩市長に最大級のエールを送る〝ヨイショ質問〟を連発。共産党市議だけでなく、保守系市議からも疑問の声があがっている。市議らが「見事なまでのかじ取りをスピーディになさってこられた」などと持ち上げれば、木幡市長も「次の4年間も市政を担当させていただきたい」と〝出馬宣言〟。4年間の「実績」を公約ごとに列挙してみせた。さながら個人演説会の様相で、慣れ合いが過ぎる議会に「選挙が不公平になる」との指摘もある。

【持ち時間の半分ヨイショ】
9月定例会議には、13人の市議が一般質問に立ったが、佐原真紀(ふくしま市民21)、後藤善次(公明党)、羽田房男(耀ふくしま)、鈴木正実(真結の会)、白川敏明(真政会)の5人の市議が、次期市長選挙への立候補意思を確認したほか、4年間の総括と次の4年間の方向性について木幡市長に質した。
なかでも、佐原市議は持ち時間の60分のうち約半分の時間を〝現職ヨイショ〟に費やし、4年前の選挙で木幡市長が掲げた5つの「公約」を挙げながら「2017年11月19日投開票の福島市長選において、新人候補者ながら4万5372票の支持を受け、見事、県都福島市長に当選を果たされました」、「多くの皆様から信頼が得られているのではないか」、「市民の生命財産や健康を守る取り組みも積極的に推進されている」などと絶賛。
木幡市長も「ただいまは佐原議員から熱いエールをいただき、大変光栄に存じます」と応じ、公約項目ごとに自身の実績や成果を1つ1つ答弁してみせた。最初の答弁で「次の4年間も市政を担当させていただき、全身全霊を傾けて、市民の皆様とともにコロナを越えて希望の未来をつくって参りたい」と〝出馬宣言〟すると、議場の男性市議から「よしっ」、「がんばれ」と野太い声の野次が飛んだほどだった。
佐原市議によると、当初は木幡市政に関する質問は予定していなかったが、質問順を決める抽選で同じ会派の同僚議員より自身が先に登壇することが決まったため、この質問をすることになったという。「書き上げた原稿を会派の先輩議員がチェックしてくださるのですが、いろいろと書き足されて、あれだけの分量になりました。確かに時間配分は多かったかもしれません」と佐原市議。
一方で「さすがに持ち上げ過ぎではないかと思うような箇所はカットしてもらいました」とも。「出馬するべき」、「当選を祈る」という趣旨の表現には難色を示したという。

福島市の木幡浩市長。3日間にわたって市議会本会議で4年間の実績と次の4年間への抱負を語りに語った
【「選挙でのご健闘をご祈念」】
現職市長に最大級の賛辞を送ったのは佐原市議だけではない。
後藤市議は「本人がお話しにくい部分もあるでしょう」と2人の副市長を指名する形で「市職員の皆さんとチームワークをとるうえでのリーダーシップ」について質問。
紺野喜代志副市長が「〝木幡イズム〟を体現し、市政をけん引してこられた」と答弁すれば、もう1人の山本克也副市長も呼応するように「市政の各面において市長が先頭に立ち、国や県をはじめ外部とのネットワークを強化、有効活用し、多様な連携を深めてまいりました」と評価してみせた。
羽田市議に至っては「4年2カ月前になりますが、2017年7月7日。粕谷悦功議員、白川敏明議員、わが会派の梅津一匡議員、沢井和宏議員、そして私5名が代表致しまして復興局を訪れまして、当時の復興庁福島復興局長木幡浩氏に福島市長選挙出馬の要請を行うために有志12名の連名の要請文を手渡しました。『大変光栄だが今は福島復興局長の重責を担い、福島復興に全力で取り組んでいる。よく考えて結論を出したい』という前向きなコメントをいただきました。ま、スピードが速いわけで3週間後、7月28日福島県庁で記者会見がされ、立候補を表明されました」などと、当時の小林香市長に批判的な議員有志で出馬要請をしたときの〝思い出話〟まで披露する始末。
〝ヨイショ質問〟の連続に、ある自民党系市議は「民主主義や議会と首長のあり方という点で違和感を抱かれてもしかたないと思う。共産党を除く全会派が質問して…。ちょっとやり過ぎですよ。違和感を持つ方が多々おいでになるだろうなと当然考えます」と話した。
「ご指摘の通り、二元代表制のなかで、あまりにも続投待望論というか、そういう質問のあり方というのは目に余るな、と思いました。ここまであからさまだと…。議会はそういう場ではないはず。現職市長にエールを送っちゃ駄目でしょ、議場では」
しかし、その市議と同じ会派の白川市議も、一般質問のなかで最大級のエールを木幡市長に送っている。
「様々な諸課題を抱えた福島市政を担当され、今日まで見事なまでのかじ取りをスピーディになさってこられた」
「就任されてから停滞感がなくなったというか、活気が出てきたというか、市役所が大きく変わった」
「会派一同、11月の市長選挙でのご健闘をご祈念申し上げ、エールを送らせていただきます」

福島市議会の傍聴に訪れた市民に配布されている「市議会のしおり」。市議会と市長の関係について「お互いに尊重し、けん制と調和により、公正な行政を確保し、市民の意思を尊重した、より良い市政の実現を目指しています」と書かれている
【行政監視どころか慣れ合い】
任期満了が迫った現職に対し、議会が次期選挙への立候補意思を質すこと自体は珍しくない。郡山市議会でも昨年12月の本会議で、廣田耕一市議(新政会)が「次の4年間も挑戦すべきであり、出馬を表明すべき」と迫り、品川萬里市長が「来年4月の市長選挙に出馬することを強く決意するに至りました」と応じている。
しかし、全会派が露骨に応援質問を繰り広げる事態に、共産党市議の1人は「まさか全会派がやるとは思わなかった。これまで経験してきたなかで、こんなことはなかった。たいていは、1人が立候補の意思を確認して終わり」と呆れたように語った。
「議会はチェック機能を果たさなければいけない立場。課題についても是非質問するべきだが200%の賛辞だった。これでは市長選挙も不公平になってしまう」
別の自民党系市議も「出馬の意思を確認するくらいなら良いけれど、今までの実績を並び立てるというのはヨイショし過ぎ。大事な一般質問の時間を使ってやるのは、はっきり言って変だなと思う。もう少し冷静に…。個人的には私も違和感があります」と首をかしげた。
一方、佐原市議と同じ会派の市議は「現職がどういう実績をアピールしているのか知りたい市民もいる。ありかなと思う」と〝問題なし〟との考えを示した。
「市民の前で、市議会が現職についてどう考えているのかより分かりやすくなる。この会派は市長に対して否定的だなとか、この会派は市長寄りなんだなと、次の市議選の判断材料にもなると思う」
「全国都道府県議会議長会」で議事調査部長を務めた野村稔氏は、著書「地方議会の底力」(ぎょうせい)のなかで「議会の監視力が低下して最も喜ぶのは執行機関である」と指摘している。
千葉県市川市職員の野村憲一氏も「いちばんやさしい地方議会の本」(学陽書房)で「議会には、住民の視点から、執行機関の仕事ぶりをチェックして、問題と思う点があればそれを指摘したり、解決のための考え方をただしたりすることが、その役割として求められている」と、議会の行政監視機能について解説している。
行政監視どころか慣れ合いの福島市議会。
木幡市長は〝自画自賛答弁〟のなかで「これまでの積極的な事業推進の影響に加えて、新型コロナの影響による税収減、さらなる高齢化等に伴う扶助費の増、大型施設の整備や施設改修等により財政運営は厳しくなって参ります。基金の一層の取り崩しも予想されます」と市財政の厳しさにも言及したが、この点を質す市議はいなかった。
(了)

【持ち時間の半分ヨイショ】
9月定例会議には、13人の市議が一般質問に立ったが、佐原真紀(ふくしま市民21)、後藤善次(公明党)、羽田房男(耀ふくしま)、鈴木正実(真結の会)、白川敏明(真政会)の5人の市議が、次期市長選挙への立候補意思を確認したほか、4年間の総括と次の4年間の方向性について木幡市長に質した。
なかでも、佐原市議は持ち時間の60分のうち約半分の時間を〝現職ヨイショ〟に費やし、4年前の選挙で木幡市長が掲げた5つの「公約」を挙げながら「2017年11月19日投開票の福島市長選において、新人候補者ながら4万5372票の支持を受け、見事、県都福島市長に当選を果たされました」、「多くの皆様から信頼が得られているのではないか」、「市民の生命財産や健康を守る取り組みも積極的に推進されている」などと絶賛。
木幡市長も「ただいまは佐原議員から熱いエールをいただき、大変光栄に存じます」と応じ、公約項目ごとに自身の実績や成果を1つ1つ答弁してみせた。最初の答弁で「次の4年間も市政を担当させていただき、全身全霊を傾けて、市民の皆様とともにコロナを越えて希望の未来をつくって参りたい」と〝出馬宣言〟すると、議場の男性市議から「よしっ」、「がんばれ」と野太い声の野次が飛んだほどだった。
佐原市議によると、当初は木幡市政に関する質問は予定していなかったが、質問順を決める抽選で同じ会派の同僚議員より自身が先に登壇することが決まったため、この質問をすることになったという。「書き上げた原稿を会派の先輩議員がチェックしてくださるのですが、いろいろと書き足されて、あれだけの分量になりました。確かに時間配分は多かったかもしれません」と佐原市議。
一方で「さすがに持ち上げ過ぎではないかと思うような箇所はカットしてもらいました」とも。「出馬するべき」、「当選を祈る」という趣旨の表現には難色を示したという。

福島市の木幡浩市長。3日間にわたって市議会本会議で4年間の実績と次の4年間への抱負を語りに語った
【「選挙でのご健闘をご祈念」】
現職市長に最大級の賛辞を送ったのは佐原市議だけではない。
後藤市議は「本人がお話しにくい部分もあるでしょう」と2人の副市長を指名する形で「市職員の皆さんとチームワークをとるうえでのリーダーシップ」について質問。
紺野喜代志副市長が「〝木幡イズム〟を体現し、市政をけん引してこられた」と答弁すれば、もう1人の山本克也副市長も呼応するように「市政の各面において市長が先頭に立ち、国や県をはじめ外部とのネットワークを強化、有効活用し、多様な連携を深めてまいりました」と評価してみせた。
羽田市議に至っては「4年2カ月前になりますが、2017年7月7日。粕谷悦功議員、白川敏明議員、わが会派の梅津一匡議員、沢井和宏議員、そして私5名が代表致しまして復興局を訪れまして、当時の復興庁福島復興局長木幡浩氏に福島市長選挙出馬の要請を行うために有志12名の連名の要請文を手渡しました。『大変光栄だが今は福島復興局長の重責を担い、福島復興に全力で取り組んでいる。よく考えて結論を出したい』という前向きなコメントをいただきました。ま、スピードが速いわけで3週間後、7月28日福島県庁で記者会見がされ、立候補を表明されました」などと、当時の小林香市長に批判的な議員有志で出馬要請をしたときの〝思い出話〟まで披露する始末。
〝ヨイショ質問〟の連続に、ある自民党系市議は「民主主義や議会と首長のあり方という点で違和感を抱かれてもしかたないと思う。共産党を除く全会派が質問して…。ちょっとやり過ぎですよ。違和感を持つ方が多々おいでになるだろうなと当然考えます」と話した。
「ご指摘の通り、二元代表制のなかで、あまりにも続投待望論というか、そういう質問のあり方というのは目に余るな、と思いました。ここまであからさまだと…。議会はそういう場ではないはず。現職市長にエールを送っちゃ駄目でしょ、議場では」
しかし、その市議と同じ会派の白川市議も、一般質問のなかで最大級のエールを木幡市長に送っている。
「様々な諸課題を抱えた福島市政を担当され、今日まで見事なまでのかじ取りをスピーディになさってこられた」
「就任されてから停滞感がなくなったというか、活気が出てきたというか、市役所が大きく変わった」
「会派一同、11月の市長選挙でのご健闘をご祈念申し上げ、エールを送らせていただきます」

福島市議会の傍聴に訪れた市民に配布されている「市議会のしおり」。市議会と市長の関係について「お互いに尊重し、けん制と調和により、公正な行政を確保し、市民の意思を尊重した、より良い市政の実現を目指しています」と書かれている
【行政監視どころか慣れ合い】
任期満了が迫った現職に対し、議会が次期選挙への立候補意思を質すこと自体は珍しくない。郡山市議会でも昨年12月の本会議で、廣田耕一市議(新政会)が「次の4年間も挑戦すべきであり、出馬を表明すべき」と迫り、品川萬里市長が「来年4月の市長選挙に出馬することを強く決意するに至りました」と応じている。
しかし、全会派が露骨に応援質問を繰り広げる事態に、共産党市議の1人は「まさか全会派がやるとは思わなかった。これまで経験してきたなかで、こんなことはなかった。たいていは、1人が立候補の意思を確認して終わり」と呆れたように語った。
「議会はチェック機能を果たさなければいけない立場。課題についても是非質問するべきだが200%の賛辞だった。これでは市長選挙も不公平になってしまう」
別の自民党系市議も「出馬の意思を確認するくらいなら良いけれど、今までの実績を並び立てるというのはヨイショし過ぎ。大事な一般質問の時間を使ってやるのは、はっきり言って変だなと思う。もう少し冷静に…。個人的には私も違和感があります」と首をかしげた。
一方、佐原市議と同じ会派の市議は「現職がどういう実績をアピールしているのか知りたい市民もいる。ありかなと思う」と〝問題なし〟との考えを示した。
「市民の前で、市議会が現職についてどう考えているのかより分かりやすくなる。この会派は市長に対して否定的だなとか、この会派は市長寄りなんだなと、次の市議選の判断材料にもなると思う」
「全国都道府県議会議長会」で議事調査部長を務めた野村稔氏は、著書「地方議会の底力」(ぎょうせい)のなかで「議会の監視力が低下して最も喜ぶのは執行機関である」と指摘している。
千葉県市川市職員の野村憲一氏も「いちばんやさしい地方議会の本」(学陽書房)で「議会には、住民の視点から、執行機関の仕事ぶりをチェックして、問題と思う点があればそれを指摘したり、解決のための考え方をただしたりすることが、その役割として求められている」と、議会の行政監視機能について解説している。
行政監視どころか慣れ合いの福島市議会。
木幡市長は〝自画自賛答弁〟のなかで「これまでの積極的な事業推進の影響に加えて、新型コロナの影響による税収減、さらなる高齢化等に伴う扶助費の増、大型施設の整備や施設改修等により財政運営は厳しくなって参ります。基金の一層の取り崩しも予想されます」と市財政の厳しさにも言及したが、この点を質す市議はいなかった。
(了)
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