【原発避難者から住まいを奪うな】国家公務員宿舎からの〝追い出し調停〟は3世帯 福島県議会議案 仮設住宅からの〝追い出し〟も
- 2021/09/17
- 11:46
福島県が国家公務員宿舎からの原発避難者〝追い出し〟を加速させている問題で、21日から始まる福島県議会議案の中身が判明。東京・東雲住宅から退去できていない3世帯に対し、調停を申し立てることが分かった。茨城県内の国家公務員宿舎から既に退去しているものの、家賃を支払っていない1世帯を相手取って調停申立て。福島市内に建設型仮設住宅に暮らしす避難指示区域からの避難者1世帯にも、明渡しを求めて調停を申し立てる意向だ。冷淡な〝追い出し〟加速に、避難当事者からは「追い出し訴訟を前提とした調停は許されない」と改めて怒りの声があがっている。

【「不調に終われば提訴」】
「東雲住宅」に入居している区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)を対象に、明渡しと家賃などの支払いを求めた調停申立ては議案第33号。3世帯が対象で、「相手方が使用貸付住宅を明け渡さず、使用料等についても未納となっているため」が申立ての理由。さらに「県は、調停において目的を達することができず、又は必要があると認めるときは、裁判所に訴えを提起することができる」とも記されている。
実際、現在係争中の「東雲住宅」4世帯については、同じように議会の承認を経て調停を東京簡裁に申し立てたものの不調に終わったとして、福島地裁に〝追い出し訴訟〟を起こしている。
議案第34号では、茨城県つくば市内の国家公務員宿舎から既に退去しているものの、家賃などが支払われていないとして1世帯を対象に調停を申し立てる内容。こちらも、訴訟を視野にいれた文言が付されている。
議案第35号は、避難指示区域から避難し、福島市内の建設型応急仮設住宅に今も住み続けているとして、1世帯の退去を求めて調停を申し立てる。福島県は大熊町と双葉町からの避難者に限って2023年3月末までの仮設住宅入居を認めており、2町以外からの避難者については、避難元が帰還困難区域であったとしても〝自立〟の名の下に退去を促している。
福島県生活拠点課の担当者は電話取材に対し「17日14時から記者クラブでのレクチャーが予定されているので、それ以前に議案の中身について答えることはできない」として回答を拒んだ。


国家公務員宿舎「東雲住宅」の明渡しを求める調停申し立ての議案。福島県議会は共産党を除いて〝オール知事与党〟のため、賛成多数で可決される見通し
【「公権力で追い出すな」】
「訴訟を前提にした調停は認めることができません。福島県が今やるべきは、避難者の苦境解消に取り組むことです。『個別事情に寄り添って』という約束を反故にすることは許されません。いかなる事情があろうとも、県民である原発被害者を福島県が公権力を使って住まいから追い出すことは断じてあってはならないことです」
避難当事者として、国や福島県との交渉など原発避難者の権利侵害と闘い続けている村田弘さん(福島県南相馬市小高区から神奈川県横浜市に避難継続中)はそう語る。「福島原発かながわ訴訟」の原告団長を務めるほか、「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)幹事として奔走しているだけに、福島県による避難者追い出し加速の流れには強く憤っている。
「原発事故被害者の場合はその前に自分に何の落ち度もなくこういう環境に追い込まれているという前提がある。一義的には国や福島県は避難者を保護しなければいけない。その義務を全く果たさず、一般のルールで期限が来たから出て行けというのは僕は絶対に認められません」
既に4世帯が調停→提訴という流れを経ているため、村田さんは今回の調停申立ても〝追い出し訴訟〟に向けたステップにすぎないとみている。
「話し合いの場に出て来ないから調停を申し立てる、話し合いをするんだと福島県は言っているが、本当には話し合う気があるのだろうか。調停が不調に終わったら訴訟を起こすと議案にもはっきり書いてある。完全に脅しですよ。福島県は当然、調停が不調に終わって訴訟を起こすことを見越しているでしょう。あくまで手続き論の話。いきなり提訴というわけにはいかないから。福島県には弁護士がついていて、避難者は素人。1人ずつ呼ばれて脅されたら、まともに対応できるはずがありません。過去の調停でも、同行した人が事情を説明しても不成立。結局は訴訟で追い出すための前提としか考えられない。そんなことを許すわけにはいかんのです」

福島県は大熊町と双葉町を除く避難指示区域からの避難者に対しても、仮設住宅の提供を終了。今回、建設型仮設住宅に住み続けているとして、福島市内の1世帯とも調停の場で話し合う意向だ
【「時効迎えると回収できない」】
国家公務員宿舎から退去できていない原発避難者(28世帯)を巡っては、福島県はまず、2017年3月末で無償提供を終了。「激変緩和措置」として、2年間限定の「有償入居」(セーフティネット使用貸付)を認めたが、それも2019年3月末で終了している。「除染作業が進んだ」、「避難せず福島県内で暮らしている人の方が多い」が主な理由。
2017年4月以降の「セーフティネット使用貸付契約」を福島県と結ばずに入居を継続している4世帯に対し、県は調停を経て昨年3月に提訴。現在、福島地裁での審理が続いている。
一方、「セーフティネット使用貸付契約」を福島県と締結したものの2019年4月以降も退去できていない世帯には、「損害金」と称して家賃2倍相当の納付書を毎月、避難者に送り続けている。その額は、多い世帯で280万円に達するという。業を煮やした福島県は昨年12月、避難当事者の同意なく親族の現住所を調べて「退去や未払い家賃の支払い」に協力するよう求める文書を送りつけた。さらに親族宅まで訪問して「協力」を求めている。
法的手段を講じる理由について、福島県生活拠点課の担当者は「2017年4月以降、一度も家賃などを支払っていない方は来年4月で丸5年。時効を迎えてしまうと、福島県が立て替えた家賃を避難者から回収できなくなってしまう」と時効を理由に挙げている。
退去を促し続ける理由については「未退去の方を特別視するというのは難しい。区域外避難者への住宅無償提供が終わり、福島県が特別にあつらえた制度も2年間で終わっている。制度は終わっていて、100を超える世帯が自力で転居した。それなのに、未退去の方に個別の施策を講じるというのは理屈が合わなくなってしまう」と説明している。
議案は委員会に付託されて審議されるが、共産党以外の会派は全て〝知事与党〟のため、賛成多数で可決される見通し。今後も〝追い出し加速〟が想定されるが、村田さんは「仮に避難者側に小ずるい理由があったとしても、だとしても公権力を使って裁判で追い出すなんてことをやっちゃいかんのですよ。追い出し屋じゃないんだから」と語気を強める。
「国や福島県が本来やるべきは、住まいも含めて原発避難者をどうやって守るかということ。原発事故被害を10年くらいできれいにしちゃおうという考えが、そもそも間違いなんだ」
(了)

【「不調に終われば提訴」】
「東雲住宅」に入居している区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)を対象に、明渡しと家賃などの支払いを求めた調停申立ては議案第33号。3世帯が対象で、「相手方が使用貸付住宅を明け渡さず、使用料等についても未納となっているため」が申立ての理由。さらに「県は、調停において目的を達することができず、又は必要があると認めるときは、裁判所に訴えを提起することができる」とも記されている。
実際、現在係争中の「東雲住宅」4世帯については、同じように議会の承認を経て調停を東京簡裁に申し立てたものの不調に終わったとして、福島地裁に〝追い出し訴訟〟を起こしている。
議案第34号では、茨城県つくば市内の国家公務員宿舎から既に退去しているものの、家賃などが支払われていないとして1世帯を対象に調停を申し立てる内容。こちらも、訴訟を視野にいれた文言が付されている。
議案第35号は、避難指示区域から避難し、福島市内の建設型応急仮設住宅に今も住み続けているとして、1世帯の退去を求めて調停を申し立てる。福島県は大熊町と双葉町からの避難者に限って2023年3月末までの仮設住宅入居を認めており、2町以外からの避難者については、避難元が帰還困難区域であったとしても〝自立〟の名の下に退去を促している。
福島県生活拠点課の担当者は電話取材に対し「17日14時から記者クラブでのレクチャーが予定されているので、それ以前に議案の中身について答えることはできない」として回答を拒んだ。


国家公務員宿舎「東雲住宅」の明渡しを求める調停申し立ての議案。福島県議会は共産党を除いて〝オール知事与党〟のため、賛成多数で可決される見通し
【「公権力で追い出すな」】
「訴訟を前提にした調停は認めることができません。福島県が今やるべきは、避難者の苦境解消に取り組むことです。『個別事情に寄り添って』という約束を反故にすることは許されません。いかなる事情があろうとも、県民である原発被害者を福島県が公権力を使って住まいから追い出すことは断じてあってはならないことです」
避難当事者として、国や福島県との交渉など原発避難者の権利侵害と闘い続けている村田弘さん(福島県南相馬市小高区から神奈川県横浜市に避難継続中)はそう語る。「福島原発かながわ訴訟」の原告団長を務めるほか、「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)幹事として奔走しているだけに、福島県による避難者追い出し加速の流れには強く憤っている。
「原発事故被害者の場合はその前に自分に何の落ち度もなくこういう環境に追い込まれているという前提がある。一義的には国や福島県は避難者を保護しなければいけない。その義務を全く果たさず、一般のルールで期限が来たから出て行けというのは僕は絶対に認められません」
既に4世帯が調停→提訴という流れを経ているため、村田さんは今回の調停申立ても〝追い出し訴訟〟に向けたステップにすぎないとみている。
「話し合いの場に出て来ないから調停を申し立てる、話し合いをするんだと福島県は言っているが、本当には話し合う気があるのだろうか。調停が不調に終わったら訴訟を起こすと議案にもはっきり書いてある。完全に脅しですよ。福島県は当然、調停が不調に終わって訴訟を起こすことを見越しているでしょう。あくまで手続き論の話。いきなり提訴というわけにはいかないから。福島県には弁護士がついていて、避難者は素人。1人ずつ呼ばれて脅されたら、まともに対応できるはずがありません。過去の調停でも、同行した人が事情を説明しても不成立。結局は訴訟で追い出すための前提としか考えられない。そんなことを許すわけにはいかんのです」

福島県は大熊町と双葉町を除く避難指示区域からの避難者に対しても、仮設住宅の提供を終了。今回、建設型仮設住宅に住み続けているとして、福島市内の1世帯とも調停の場で話し合う意向だ
【「時効迎えると回収できない」】
国家公務員宿舎から退去できていない原発避難者(28世帯)を巡っては、福島県はまず、2017年3月末で無償提供を終了。「激変緩和措置」として、2年間限定の「有償入居」(セーフティネット使用貸付)を認めたが、それも2019年3月末で終了している。「除染作業が進んだ」、「避難せず福島県内で暮らしている人の方が多い」が主な理由。
2017年4月以降の「セーフティネット使用貸付契約」を福島県と結ばずに入居を継続している4世帯に対し、県は調停を経て昨年3月に提訴。現在、福島地裁での審理が続いている。
一方、「セーフティネット使用貸付契約」を福島県と締結したものの2019年4月以降も退去できていない世帯には、「損害金」と称して家賃2倍相当の納付書を毎月、避難者に送り続けている。その額は、多い世帯で280万円に達するという。業を煮やした福島県は昨年12月、避難当事者の同意なく親族の現住所を調べて「退去や未払い家賃の支払い」に協力するよう求める文書を送りつけた。さらに親族宅まで訪問して「協力」を求めている。
法的手段を講じる理由について、福島県生活拠点課の担当者は「2017年4月以降、一度も家賃などを支払っていない方は来年4月で丸5年。時効を迎えてしまうと、福島県が立て替えた家賃を避難者から回収できなくなってしまう」と時効を理由に挙げている。
退去を促し続ける理由については「未退去の方を特別視するというのは難しい。区域外避難者への住宅無償提供が終わり、福島県が特別にあつらえた制度も2年間で終わっている。制度は終わっていて、100を超える世帯が自力で転居した。それなのに、未退去の方に個別の施策を講じるというのは理屈が合わなくなってしまう」と説明している。
議案は委員会に付託されて審議されるが、共産党以外の会派は全て〝知事与党〟のため、賛成多数で可決される見通し。今後も〝追い出し加速〟が想定されるが、村田さんは「仮に避難者側に小ずるい理由があったとしても、だとしても公権力を使って裁判で追い出すなんてことをやっちゃいかんのですよ。追い出し屋じゃないんだから」と語気を強める。
「国や福島県が本来やるべきは、住まいも含めて原発避難者をどうやって守るかということ。原発事故被害を10年くらいできれいにしちゃおうという考えが、そもそも間違いなんだ」
(了)
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