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【子ども脱被ばく裁判】2人の母が意見陳述。「なぜ危険性知らせなかった?」。孤立強いられ避難した息子への想い、帰還を促した安全流布への怒り

福島県内の子どもたちが安全な地域で教育を受ける権利の確認を求め、原発の爆発事故後、国や福島県などの無策によって無用な被曝を強いられたことへの損害賠償を求める「子ども脱被ばく裁判」の第7回口頭弁論が12日午後、福島県福島市の福島地裁203号法廷(金澤秀樹裁判長)で開かれた。ともに郡山市に住む2人の母親が意見陳述。予防原則どころか「安全」、「大丈夫」を流布した国や地元自治体によってわが子を被曝させてしまったことへの悔しさや怒りを述べた。次回期日は12月12日14時半。


【「地元産食べない者は非国民」】
 多くの保護者がそうであったように、Aさん(50)も学校再開の知らせにやむなく、原発事故から1カ月と経たないうちに避難先の会津地方から郡山市に戻った。息子の通う中学校の教師から、敷地内の空間線量が1.8μSv/hもあると知らされた。それでも強行された屋外での体育の授業。中には「受験に影響する」と、屋外授業への参加を〝強要〟しているともとれるような発言をする教師もいたという。
 2011年の秋には、学校給食に福島県内産の米を使うようになった。「食べたくない」と話す息子に毎朝、弁当を用意した。その中学校で弁当を持参したのは息子ただ1人だった。しかし、内部被曝を避けるという至極当然の行動が周囲には理解されない。「同級生だけでなく教師からもいじめられました。多数意見に同調しなければならない理由が私には分かりません」。Aさん自身も、罵声を浴びたことがある。「福島の敵は近くにいる。農家が一生懸命作った米を食べない者は非国民だ」。やがて息子は学校に通わなくなった。プロ野球選手を夢見る親友に「屋外での練習は危険だ。野球部はやめた方が良い」と忠告すると大喧嘩になってしまった。正しい考えや行動はしかし、孤立を招いた。国や行政が「ただちに影響ない」と繰り返していたからだ。
 「行政が正しい情報を住民に伝えずに、安全宣伝を垂れ流していた」。無用な被曝を強いた行政への怒り。2011年4月19日の文科省通知「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」で、年20mSv(空間線量、3.8μSv/h)までの屋外活動を認めた国への不信感。被曝から息子を守れなかった後悔。「正確な放射線量を知っていれば、会津よりもっと遠くに逃げたかもしれないし、郡山に戻って来なかったかもしれません」。
 中学卒業を機に、息子は単身、北海道札幌市に避難した。15歳の息子を送り出すつらさは忘れない。夫は言った。「もうここへは戻らないのか…。じゃあ、ここで家族3人で食事をするのは最後だな」。原発事故さえ無ければ、家族が引き裂かれることも無かった。幸い、今のところ息子の体調に問題は無いが、郡山での被曝がどれだけ影響するのか、不安は拭えない。2011年5月には、2日続けて大量の鼻血を出した。「私も原発事故後はだるさや眠気を感じるようになり、老眼が進み、抜け毛も増えました」。もちろん、被曝が原因だと断定することなど出来ない。しかし、国や行政が積極的に危険性を伝えていてくれたら、こうして不安を抱くことも避けられた。
 「今なお苦しみながら生活している私たちがいる現実を分かっていただきたい」。息子にも、他の子どもたちにも健康被害が出ないことを祈りつつ、Aさんは被曝を強いた国や行政の責任を訴えていく。


無用な被曝をしいた国や行政への怒りを陳述したAさん。「国も行政も安全宣伝を垂れ流した」と語った=福島テルサ

【「ただちに影響ない」の威力】
 「原発」の知識など無かった。夫、4人の子どもたちと楽しく暮らしていたBさん(37)は、「内部被曝」という言葉もよく分からなかった。実家が農家。普段、野菜など買わずに済んでいた。「汚染した野菜をどれだけ食べてしまったか分かりません」と振り返る。 
 当初の動きは早かった。新潟に友人がいる。3月16日には子どもたちを連れて新潟へ逃げた。それでも後悔は尽きない。「郡山市内の汚染状況が酷かった時に子どもたちを長時間、屋外に出してしまった。新潟に行く際には、お世話になる友人のために畑で収穫した野菜をたくさん、車に積んでいき、皆で食べてしまった」。放射性ヨウ素、安定ヨウ素剤の存在すら知らなかった。しかしそれは、Bさんだけではなかった。
 いつまでも友人宅には居られない。新学期も始まる。10日ほどで郡山の自宅に戻った。登下校時にはマスクをさせた。しかし、登校させないという選択肢は無かった。テレビからは、政治家や「専門家」の言葉が繰り返し流れてきた。「ただちに健康に影響はありません」。法廷で、Bさんはこんな言葉で悔しさを口にした。
 「原発事故直後に高い放射線量が計測されたことを知っていたら、3月26日に郡山に戻って来なかったでしょうし、登校もさせませんでした。友人に遠慮し、深く考えないまま子どもを学校に行かせようと思い、郡山に戻って来てしまったことがとても悔しいです」
 郡山市教育委員会は、子どもたちの屋外活動を制限する「3時間ルール」を設けたが、2012年3月末で解除してしまった。「保護者の意見を聴くこともしなかった。3時間ルールを継続してくれていたら、子どもたちの被曝をもっと抑えることが出来たと思います」。郡山市教委学校管理課の幹部が当時、本誌の取材に対し「あまり後ろ向きにとらえないで欲しい」と笑いながら何度も口にしていたことを思い出す。国や行政は、子どもたちを被曝から守るために全力を注いだのか。「安全」、「大丈夫」ばかり流布した責任は問われないのか。Bさんは怒る。「母親であれば、一滴たりとも子どもに放射能を浴びせたくはありません。避けることが出来るのなら、死に物狂いで出来る限りのことをします。それが母親です。国や福島県は、いったいどこを見て、何を考えていたのか反省してください」。
 弁護団の1人、古川健三弁護士は訴える。「情報がきちんと伝わっていれば、安全な土地に逃げるなり食べ物に気を付けるなり出来た。汚染の酷い土地に逃げてしまった原告もいる。国や行政の情報隠ぺいによる被害との因果関係は明らかだ。だからこそ、当時の行動に対する賠償を求めている」。それはBさんも同じ想いだ。
 「私たちは無用な被曝をさせられました。放射性物質が大変危険なものであるという情報を、なぜ正しい言葉を使って伝えてくれなかったのでしょうか」


抽選にはならなかったが、傍聴席はほぼ満席になった。原告の1人は「世論の後押しが必要。本当にありがたい」と頭を下げた=福島地方裁判所

【「土壌汚染」避ける被告側】
 この日の口頭弁論で、弁護団(井戸謙一団長)は3通の準備書面や11通の原告陳述書を提出。5人の弁護士が国や行政の情報隠ぺいによって原告らが被曝を強いられたこと、安定ヨウ素剤を服用出来た原告がいないこと、学校再開が避難や避難継続を阻んだこと、行政の責任で子どもたちを安全な場所へ避難させるべきだったこと、福島県のアドバイザーに就任した山下俊一氏が「窓を開けても洗濯物を屋外に干しても問題ない」、「福島は安全だ」などと優しい語り口で繰り返し発言したことで子どもたちが無用な被曝を強いられたことなどについて意見を述べた。
 低線量被曝について陳述した井戸弁護士は、2011年12月22日に国の「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」(WG報告書)が公表され、100mSv以下での被曝線量での発ガンリスクは他の要因に隠れてしまうほど小さいとしているが、その後に世界各地で低線量被曝に関する疫学調査が行われたと指摘。日本も資金提供している調査(核施設の労働者が対象)でも、累積被曝線量が1mSv増えるごとに白血病による死亡リスクが約4倍高まるとの結論に達しているという。他の医療被曝に関する疫学調査などもWG報告書には反映されておらず「不合理性は明らか」と井戸弁護士は主張した。
 弁護団は空間線量だけでなく土壌汚染にも着目。「放射線管理区域の基準である1平方メートルあたり4万ベクレルを超える個所がまだある」と主張しているが、国は「もはや年1mSvを下回っている」と反論するばかりで「ベクレルで論じたら危険性がはっきりしてしまうので、シーベルトで片づけようとしている」(崔信義弁護士)。光前幸一弁護士も「ベクレルでやるべきだ」と語るが、井戸弁護士によると「国は土壌汚染には触れない。反論は無きに等しい」という。甲状腺検査に関しても「のう胞や結節が見つからなかったとしても、それは被曝量が少なかったという裏付けにはならない」と主張する。
 国や自治体は、原発事故当時の詳細な行動記録や原告各自の被曝線量の提示を求めているが、崔弁護士は「当時、どれだけ被曝したかなんて分かるはずがない」と反論。古川弁護士も「詳細な被曝状況を全く把握させなかったのに、被曝線量を言ってみろと迫るのは不誠実な態度だ」と怒る。当時の情報提供に関しても、被告側は「そもそも情報提供義務など無い。仮にあったとしても、それを実行しなかったことで子どもたちがどれだけ被曝し、被害を被ったのか」と開き直っているという。
 井戸弁護士は改めて訴える。「どんなに低線量であっても被曝しない方が良い。無用な被曝をさせられた事に対する慰謝料を求めるのは当然だ」。
 次回期日は12月12日。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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